動詞
接する (せっする)
- (自動詞) 〔人に〕会う。応対する。
- 1926年、小川未明「事実と感想」[1]
- 学生の時分、暑中休暇に田舎へ帰って、百姓に接したときは、全くそこに都会から独立した生活があったように感じられたものです。
- 1944年、久生十蘭「金狼」[2]
- しまいには、言うことがなくなって黙ってしまう。すると、いままで温顔をもって接していた司法主任は、急に眼をいからせ、顔じゅうを口にして、なめるな、この女と、大喝するのだった。
- 1948年、太宰治「桜桃」[3]
- いや、家庭に在る時ばかりでなく、私は人に接する時でも、心がどんなにつらくても、からだがどんなに苦しくても、ほとんど必死で、楽しい雰囲気を創る事に努力する。
- (自動詞) (「~に接する」の形で)〔物事や出来事を〕見たり、聞いたり、読んだり、感じたりして知る。知覚する。
- 1944年、太宰治「散華」[4]
- けれども、私がまだ三田君のその新しい作品に接しないうちに、三田君は大学を卒業してすぐに出征してしまったのである。
- 1952年、豊島与志雄「窓にさす影」[5]
- 祖母の死から、私は心身に直接の打撃を受けた。嘗て姉が病死したことがあるが、まだ私は幼く、大して深い感銘は受けなかった。祖母の死に接しては、身にも心にも、大きな穴があいた感じだった。
- 1955年、中谷宇吉郎「知られざるアメリカ」[6]
- 二年くらいの経験では、もちろん足りないが、それでも、以前の二回の旅行ではわからなかった、いろいろなアメリカの姿に接することが出来た。
- (自動詞) 〔物体が〕隙間なく隣り合う。触れ合う。
- 1938年、豊島与志雄「幻覚記」[7]
- 田舎では、人は殆んど散歩ということを知らない。日常生活が既に自然の中に営まれていて、戸外の大気に接する必要もないし、外に出ても、珍しい物はないのである。
- 1952年、中谷宇吉郎「塩の風趣」[8]
- できあがった料理に、塩をふりかけてすぐ食べるのであるから、塩の粉の一部は、まだ溶けきらないで、粒子のままでいる。それで塩は固体のままで、直接に舌に接するわけである。
- 1952年、火野葦平「花と龍」[9]
- たぎりたつ波に翻弄されて、岸につながれた多くの船は、舷を接し、もみあい、ぶっつかる。ギギイ、バリバリと、船体が分解してしまいそうな音が、あっちこっちで起る。
- (自動詞) 〔ある場所が他の場所に対して〕目立った空間を挟まずに、すぐ近くに存在する。
- 1912年、ハンス・ランド、森鴎外訳「冬の王」[10]
- 下宿には大きい庭があって、それがすぐに海に接している。カツテガツトの波が岸を打っている。
- 1939年、山本周五郎「水中の怪人」[11]
- 水圧工業会社の社長、鹿島銀造の家は京橋明石町の工場に接して建てられている。――二人が帰ったとき、朝の早い社長はもう工場附属の研究所へ出ていたので、文吾は良子を寝るようにすすめておいて一人で研究所の方へいった。
- 1942年、佐藤垢石「桑の虫と小伜」[12]
- 私の故郷の家の、うしろの方に森に囲まれた古沼がある。西側は、欅や椋、榎などの大樹が生い茂り、北側は、濃い竹林が掩いかぶさっている。東側は厚い桑園に続いていて、南側だけが、わずかに野道に接しているが、一人で釣っているには、薄気味が悪過ぎる。
- (他動詞) 近づける。
- 1935-37年、吉川英治「新編忠臣蔵」[13]
- 吉良家へ、挨拶に行く事について、安井と藤井の二人は、ややしばらく、家老部屋を閉じこめていた。ややしばらく、中で、膝を接して永々と、熟議をしていたが、やがて、そこを出て来ると、[…]
- 1963年、梅崎春生「狂い凧」[14]
- 栄介は幸太郎と体を接して乗るのは、イヤなのだろう。自分で扉をあけて、老人の手助けするというやり方ではなく、押し込むようにして、乗車させた。
- 1994年、富田倫生「パソコン創世記」[15]
- 研鑽学校で過ごす二週間の半分は、参画した人々と肩を並べての労働であり、期間中の食事は彼らと席を接して食堂でとる。いわばこの二週間は、革命への体験的参加といえようか。
- (自動詞, 幾何学) 〔直線を含む曲線が他の曲線と〕ともにある1点を通り、なおかつその1点で同じ接線を共有する。接点を持つ。
- 2014年、桂ゆかり「熱電研究のための第一原理計算入門」[16]
- 一般に、E-k 曲線が放物線に合わない場合は、E = EF において E-k 曲線に接する放物線が、その自由電子近似に対応する。
活用
さらに見る 意味, 語形 ...
各活用形の基礎的な結合例
意味 | 語形 | 結合 |
否定 |
接しない |
未然形 + ない |
否定 |
接せず |
未然形 + ず |
自発・受身 可能・尊敬 |
接される |
未然形 + れる |
丁寧 |
接します |
連用形 + ます |
過去・完了・状態 |
接した |
連用形 + た |
言い切り |
接する |
終止形のみ |
名詞化 |
接すること |
連体形 + こと |
仮定条件 |
接すれば |
仮定形 + ば |
命令 |
接せよ 接しろ |
命令形のみ |
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桂 ゆかり, 熱電研究のための第一原理計算入門, 日本熱電学会誌, 2014-2015, 11 巻, 1 号, p. 18-25, 公開日 2022/02/14, Online ISSN 2436-5068, Print ISSN 1349-4279, https://doi.org/10.50972/thermoelectrics.11.1_18, https://www.jstage.jst.go.jp/article/thermoelectrics/11/1/11_18/_article/-char/ja CC BY 4.0で公開