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欧州の著作権に関連する訴訟事件などの一覧 ウィキペディアから
欧州の著作権法に関する判例一覧 (おうしゅうのちょさくけんほうはんれいいちらん) では、欧州連合 (EU) ないし欧州経済領域 (EEA) 加盟国、欧州評議会 (CoE) 加盟国、およびEUを離脱したイギリスの著作権を巡る訴訟事件、および行政による制裁措置を扱う。事件は多数存在するが、法学者や著作権に精通する弁護士などの識者が言及したものに絞って本項では取り上げ、事件名の右に特筆性を示す出典を付記する。
一般的に著作権に関する訴訟は欧州各国の国内著作権法に基づき、国内裁判所で取り扱われる (例: フランス著作権法に基づき、フランス破毀院ないし下級審で審理)。しかし欧州における著作権訴訟の一部は、国際司法裁判所である欧州司法裁判所 (CJEU) や欧州人権裁判所 (ECtHR) に持ち込まれることがある。本項では国内レベルの判例、および欧州レベルの国際判例の両方を取り扱う。
欧州司法裁判所 (CJEU) は、欧州連合 (EU) が制定したEU著作権法などのEU法 (二次法ないし派生法と呼ばれる[1])、そしてその上位法である欧州連合基本権憲章や欧州連合機能条約 (一次法と呼ばれる[1]) などに基づいて判決を下す司法機関である[2]。EU加盟各国の国内著作権法とEU著作権法の間で矛盾する場合は、EU著作権法が優先される[注 1]。また、EU著作権法の条文解釈や効力について疑義が生じた場合は、国内裁判所がいったん国内訴訟の審理を中断させて、欧州司法裁判所に解釈を付託する。これを先決裁定 (英: preliminary ruling procedure) と呼ぶ[4][5]。こうして欧州司法裁判所から下された先決裁定の判決は、当事国以外のEU加盟国の判決にも後々影響をおよぼすこととなる[注 2]。
なお、EU著作権法の一部は欧州経済領域 (EEA) 加盟国にも拡大適用される[注 3]。2024年12月現在、EU加盟国は27か国、EEA加盟国は30か国となっている[8]。差分3か国のアイスランド、ノルウェー、リヒテンシュタインはEU未加盟であるものの、EEAには加盟しているため[8]、この3か国は「部分的に」EU著作権法と欧州司法裁判所の判決に拘束される。
2020年12月31日をもってイギリスはEUから完全に離脱しており (いわゆるBrexit)、2021年1月1日以降の欧州司法裁判所の判決はイギリスに全く法的拘束力がおよばなくなり、またそれ以前の判決も後にイギリス国内で覆される可能性がある[9]。
欧州司法裁判所 (CJEU) は総称であり、
から構成されている[3][10]。後述の#PRO対欧州委員会事件のように、一般裁判所に訴訟事件が持ち込まれ (これを「直接訴訟」と呼ぶ[11])、判決に不服の場合は上級審である司法裁判所に上告される場合もある[12]。
欧州人権裁判所 (ECtHR) は欧州評議会 (英略称: CoE) 加盟国を対象とした国際司法裁判所である[13][14]。2024年12月時点でCoE加盟は計46か国に上り[15]、うちEUやEEAには未加盟であるもののCoEにのみ加盟している国は16ある (例: スイス、トルコ、ウクライナ、アゼルバイジャンなど)[15][8]。上述のとおりイギリスはEUを離脱しているが[9]、以降もCoEには継続加盟している[15][8]。
CoE加盟国は欧州人権条約 (英略称: ECHR) を遵守する法的義務があり[13][14]、著作権は表現の自由など人権の一部でもあることから[16]、同条約に反した国内著作権法をCoE加盟国が制定・運用すると、欧州人権裁判所 (ECtHR) に提訴されるケースがある (例: 後述の#セフェロフ対アゼルバイジャン政府事件)。
EUおよびEEA加盟国はすべてCoEにも加盟しているため[15][8]、欧州人権裁判所の著作権に関する判例はEUおよびEEA加盟国にも後々影響をおよぼす。このような背景もあり、EUの知的財産権を扱う欧州連合知的財産庁 (EUIPO) では、欧州人権裁判所の主要判例も収集・分析対象に含めている[17]。
EU著作権法が具体的にどの法令を指すのかは確固たる定義が存在しない状況である。EUでは著作権に関する法令はほとんどが指令の形をとり[18]、単発で提案されて都度採択され、それぞれが並存・補完し合っている。日本国著作権法やアメリカ合衆国著作権法のように一つの法律に体系的にまとまった (法典化した) 形にはなっていない[19]。
EU加盟各国は発令された各種著作権指令に基づいて、国内の著作権法やその関連法を改正する、あるいは新法を成立させるなどして、指令の内容に則した法整備を行う (これを国内法化と呼ぶ)[20][21]。よって、本項ではEU加盟各国の国内著作権法も判例解説の対象に含めている。
各種著作権指令の上位法も著作権関連の訴訟で参照されることがある。例えば欧州連合基本権憲章の第11条 (表現の自由) や第8条 (個人情報保護) である。これは過度な著作権保護が時として、著作物を利用する第三者の表現の自由や、その表現を伝達するデジタル・プラットフォーム事業者の企業活動の自由を抑圧しかねず、常に利害バランスの調整が求められるためである (例: 後述の#SABAM対Netlog事件)。また欧州連合機能条約の第102条は優越的地位の濫用を禁じており (日本の独占禁止法に相当する欧州連合競争法の一部) 、多数の著作物の利用許諾を一手に引き受ける著作権管理団体がこれに抵触することがある (例: #SABAM対Tomorrowland/Wecandance事件)。著作物利用の対価を十分に支払わない大規模デジタル・プラットフォーム事業者に対し、優越的地位の濫用で行政当局が制裁金を科すこともある。こうした訴訟以外の制裁措置も本項の対象とする。
著作権保護を主たる目的とはしない一般的なEU法令のうち、著作権にも一部関連しうるものがあり、こうした法令についても本項で取り扱う。例えばAI法 (別称: AI規則) は人工知能 (AI) の包括的な規制法であり、AIモデルの開発に用いられる学習データに他者の著作物が含まれることがあることから、著作権保護とも関連する (例: #クネシュケ対LAION事件)。
事件の英語名をクリックすると、当ページ内の争点別詳細解説のセクションに遷移する。事件の英語名は文献によって表記揺れがあり[注 4]、日本語の文献でもそのまま英語表記することも多く、当表に記述した英語・日本語の事件名は参考情報の扱いとされたい。
国内訴訟が欧州司法裁判所 (CJEU) に先決裁定が付託された場合、あるいは欧州評議会加盟国を対象とした欧州人権裁判所 (ECtHR) に持ち込まれた場合は、国内裁判所の欄に (右上矢印) の記号を付記する。判決年、および事件番号は欧州司法裁判所ないし欧州人権裁判所を優先して表記する。デフォルトでは判決年月日の古い順に並べている。事件番号は欧州司法裁判所の判決はEUR-Lexの採番体系を記載している。その他、欧州人権裁判所や国内裁判所はそれぞれ独自の採番体系を用いている。
事件名通称 | 国内裁判所 | 判決年月 (事件番号) | 争点 | 著作物 | 判旨・その他備考 | 特筆性 |
---|---|---|---|---|---|---|
Chappell v UK (チャペル対イギリス政府) | イギリス | 1989/03 (No 10461/83) | 法執行 (差押) | 映画 | 海賊版取締で家宅捜索は人権侵害か。 | [22] |
La Mode en Image v BY (エッフェル塔のライトアップ事件) | フランス | 1992/03 (90-18.081) | 著作物性 | 照明演出 | エッフェル塔のライトアップは著作権保護の対象。 | [23] |
SABAM v Netlog (SABAM対Netlog) | ベルギー | 2012/02 (C-360/10) | プロバイダー責任 | デジタル全般 | ベルギー版Facebookに課された一般的監視義務 (防止策) の是非。 | [24][25] |
Mc Fadden v Sony Music Entertainment (メクファデン対ソニー・ミュージック)[注 5] | ドイツ | 2016/09 (C-484/14) | プロバイダー責任 | 音楽 | 無料Wi-Fi接続提供者は著作権侵害コンテンツ拡散の責任を負うか。 | [26][27] |
Renckhoff v Land Nordrhein-Westfalen (レンコフ対ノルトライン=ヴェストファーレン州) | ドイツ | 2018/08 (C-161/17) | 例外・制限規定 (教育) | 写真 | 学生の課題論文に他者の写真が取り込まれて学校ウェブサイトで拡散。 | [28][29] |
Bastei Lübbe v Strotzer (バスタイ・ルブー対ストロッツァー) | ドイツ | 2018/10 (C-149/17) | プロバイダー責任 (開示請求) | 書籍 | 基本権憲章の「家庭生活の尊重権」は開示拒否の根拠になるか。 | [30][27] |
Levola Hengelo v Smilde Foods (レイヴォラ対スミルデ食品) | オランダ | 2018/11 (C-310/17) | 著作物性 | 食品 | 味覚は主観的であり、著作権保護の対象外と判示。 | [31][32] |
Kraftwerk v Pelham (クラフトヴェルク対ぺラム) | ドイツ | 2019/07 (C-476/17) | 複製権 | 音楽 | 約2秒のリズム流用はサンプルであり複製権侵害に当たらない。 | [33][34] |
G-Star v Cofemel (G-Star対クフェメル) | ポルトガル | 2019/09 (C-683/17) | 著作物性 | 実用品 (アパレル) | Tシャツやジーンズ製造・販売業者同士のデザイン盗用を巡る事件。 | [35][36] |
Glawischnig-Piesczek v Facebook (グラヴィシュニク対Facebook) | オーストリア | 2019/10 (C‑18/18) | プロバイダー責任 | 投稿コメント | 政治家に対する誹謗中傷コメントとシェア拡散削除命令は国外にもおよぶか。 | [37][38] |
SI and Brompton Bicycle Ltd v Chedech/Get2Get (ブロンプトン対チェデック) | ベルギー | 2020/06 (C-833/18) | 著作物性 | 実用品 (自転車) | 折り畳み自転車の技術デザインは著作権と意匠で二重保護されるか。 | [39][40] |
Constantin Film v YouTube (コンスタンティン・フィルム対YouTube) | ドイツ | 2020/07 (C-264/19) | プロバイダー責任 (開示請求) | 映画 | 権利侵害ユーザーの情報開示対象にEメールや電話番号なども含めるか。 | [41] |
SABAM v Tomorrowland and Wecandance (SABAM対Tomorrowland/Wecandance事件) | ベルギー | 2020/11 (C-360/10) | 競争法 | 音楽 | 音楽イベントの売上ベースで利用料を課すのは優越的地位の濫用か。 | [42] |
UCMR-ADA v Suflet de Român (UCMR-ADA対ルーマニアの魂) | ルーマニア | 2021/02 (C-501/19) | 集中管理団体 | 音楽 | 集中管理団体は付加価値税 (VAT) 納税主体か。 | [43] |
CV-Online v Melons (CV-Online対Melons) | ラトビア | 2021/06 (C-762/19) | 実質的投資 | データベース (求人広告) | 求人広告まとめサイトはリンクだけでも著作権侵害か。 | [44] |
Peterson v YouTube and Elsevier v Cyando (ピーターソン対YouTube、エルゼビア対Cyando) | ドイツ | 2021/06 (C-682/18 & C-683/18) | プロバイダー責任 | 音楽、書籍 | 2件併合判決。YouTubeなどは一次侵害責任を負うか。 | [45] |
Top System v Belgian State (トップ・システム対ベルギー政府) | ベルギー | 2021/10 (C-13/20) | 複製権 | プログラム | エラー修正目的の逆コンパイルは許諾を要するか。 | [46] |
Austro-Mechana v Strato (Austro-Mechana対Strato) | オーストリア | 2022/03 (C-433/20) | 複製権 | デジタル全般 | クラウド保存は複製料支払の対象か。 | [47] |
Safarov v Azerbaijan (セフェロフ対アゼルバイジャン政府) | アゼルバイジャン | 2022/09 (No 885/12) | 例外・制限規定 (教育)、消尽論 | 書籍 | 非営利団体による無許諾の書籍デジタル化の違法性。 | [17] |
RTL Television v Grupo Pestana (RTL対ペスタナ) | ポルトガル | 2022/09 (C-716/20) | 公衆伝達権 | テレビセット | 無料番組をケーブルでホテル個室のテレビに流すのは「再配信」か。 | [48][49] |
MPLC v Citadines Betriebs (MPLC対シタディーン) | ドイツ | 2024/04 (C‑723/22) | 公衆伝達権 | テレビセット | 個室にテレビセットを設置したホテルは公衆伝達権侵害か。 | [50][51] |
Poland v European Parliament and Council of the European Union (ポーランド政府対欧州議会・欧州連合理事会) | n.a. | 2022/04 (C-401/19) | 立法無効 | デジタル全般 | 2019年に成立したDSM著作権指令の第17条 (通称「アップロードフィルター条項」) は合法立法であると判断。 | [52][53] |
AMETIC v Administración General del Estado (AMETIC対スペイン政府) | スペイン | 2022/09 (C-263/21) | 集中管理団体 | デジタル全般 | 私的複製にかかる利用料徴収の法令無効化請求 | [54][55] |
Koch Media v FU (コッホ・メディア対FU) | ドイツ | 2024/04 (C-559/20) | 公衆伝達権 | ゲーム | 提訴前に発生した弁護士費用も著作権侵害者負担にできるか。 | [56][57] |
Seven.One Entertainment Group v Corint Media (Seven.One対Corint Media) | ドイツ | 2023/11 (C-260/22) | 集中管理団体 | テレビ番組 | 私的複製分の利用料をテレビ局に分配すべきか。 | [58] |
Kopiosto v Telia Finland (Kopiosto対Telia) | フィンランド | 2023/11 (C‑201/22) | 集中管理団体 | テレビ番組 | 著作権侵害で集中管理団体に提訴資格はあるか。 | [59] |
Public.Resource.Org & Right to Know v European Commission (PRO対欧州委員会) | n.a. (EU一般裁判所) | 2024/05 (C-588/21 P) | 著作物性 | 公的文書 | 民間団体作成の欧州規格関連文書に情報公開義務は生じるか。 | [60] |
Liberi editori e autori (LEA) v Jamendo (LEA対Jamendo) | イタリア | 2024/05 (C-10/22) | 競争法 | 音楽 | 外資系著作権管理団体のイタリア市場参入規制は違法。 | [61][62] |
GEMA v GL (GEMA対GL) | ドイツ | 2024/06 (C-135/23) | 公衆伝達権 | テレビアンテナ | マンションに屋内アンテナを設置した不動産管理会社は公衆伝達権侵害か。 | [63] |
Kneschke v LAION (クネシュケ対LAION) | ドイツ | 2024年 (係争中) | 例外・制限規定 (TDM) | 写真 | 写真をAI学習データに無断・無償流用できるか。 | [64] |
ある作品が著作権保護の対象となるのかが問われた事件を「著作物性」関連のトピックで以下にまとめる。
著作権では創作的な表現を保護し、その表現の大元となるアイディア (事実・発見・概念などを含む) は保護の対象外とする法律上の原理原則がアイディア・表現二分論である[65]。どこまでを著作権法で保護するのかが問われた判例は以下のとおりである。
画像外部リンク | |
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G-StarとCofemelのデザイン対比 - www.sgcr.pt および www.aippi.org からの転載 |
映像外部リンク | |
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Kraftwerk "Metall auf Metall" - Kraftwerk公式YouTubeより | |
Sabrina Setlur歌唱楽曲 "Nur mir" - プロデューサーMoses Pelhamの音楽レーベル "3pTV" 公式YouTubeより |
画像外部リンク | |
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ゲームのスクリーンショット画像 - メーカー公式ウェブサイト掲載 |
以下に詳述する判例上では、SNS (ソーシャルメディア) やYouTubeなどのオンライン・コンテンツ共有サービス事業者 (online content-sharing service providers、略称: OCSSPs)、Wi-Fi接続サービス提供者などがプロバイダーとしての責任を問われている。
著作権侵害事件では、プロバイダーの「二次侵害」ないし「間接侵害」責任が問われることがあり、これは他者の著作物を不法に利用した一般ユーザー (つまり「直接」の権利侵害者) に対し、権利侵害の場や手段を提供した者に「間接」的に発生する権利侵害の責任である[93]。2000年成立の電子商取引指令 (略称: ECD) は第12条から第14条が、プロバイダーに適用されるいわゆるセーフハーバー条項 (免責条項) となっており、違法コンテンツの通信・拡散にデジタル・プラットフォームが利用された際に事業者の二次侵害責任を免除する条件を規定している。電子商取引指令は著作権侵害以外のデジタル上での不法行為全般を広範にカバーし、著作権に特化した2019年のDSM著作権指令とは補完関係にある[94][95]。
EUの基本条約や欧州連合基本権憲章といった一次法 (基本法) に基づき、EUの立法機関 (欧州議会および欧州連合理事会) は指令などの二次法 (派生法) を採択している[109]:192。時として、こうした派生法が基本法と矛盾することがあり、派生法の立法取消 (無効確認) を求めて欧州司法裁判所に提起されることがある[109]:203。
また派生法たる指令の国内法化に伴って改正・制定されたEU加盟国の法令 (さらなる派生法) が、指令や各国の憲法などの上位法と矛盾し、違憲立法審査が行われることがある。
DSM著作権指令では、他者著作物の利用に際して、デジタル・プラットフォーム事業者に適正な利益分配を義務付けている[111]:81–82。Googleに代表されるこうした事業者は大規模にサービス展開し、市場における優越的地位を濫用して、利益を著作権者に十分還元していない事案があり、欧州連合競争法と著作権法が近接する分野である。また著作権管理団体 (CMO) が優越的地位を濫用して多額の利用料を請求するケースもある。
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