公表権に関する代表的な判例として、1900年の破毀院 (フランスの最高裁判所) による「ウィスラー判決」(William Eden c. Whistler, Cour de Cassation, 14 mars 1900; D.1900.1.497) や[110][19][111]、1931年のパリ控訴院(フランス語版、英語版)「カモワン判決」(Carco et autres c. Camoin et Syndicat de la propriété artistique, Cour D'Appel de Paris 6 mars 1931; DP.1931.2.88) が知られている[112][113][114](#判例にて詳細後述)。
また、美術作品の尊重権侵害に関する判例も多く、画家ベルナール・ビュッフェが冷蔵庫に描いた絵画作品を巡る1965年の破毀院判決 (Bernard Buffet c. Fersing, Cour de Cassation, Chambre civile 1, du 6 juillet 1965 1965.2.126.)[123][124][125]や、自動車メーカー大手ルノーが彫刻家・画家ジャン・デュビュッフェのモニュメントを破壊した事件に関する1983年の破毀院判決 (Régie Renault c. J.-Philippe Dubuffet, Cour de Cassation, Chambre civile 1, du 16 mars 1983, 81-14.454; 117 RIDA July 1983, p.80)[126]などがある (#判例にて詳細後述)。このように、フランスの尊重権は条文上だけでなく、実質的にも広く適用されている[124]。
修正・撤回権関連の判例としては、画家ジョルジュ・ルオーと美術商アンブロワーズ・ヴォラールの遺族間で作品の所有権を巡って争った事件が知られている (Cons. Vollard c. Rouault, Cour de Paris, 19 mars 1947; D.1949.20. Appeal from Roualt c. Cons. Vollard, Trib.Civ.de la Seine, 10 juillet 1946; D.1947.2.98; S.1947.2.3.)[129](#判例にて詳細後述)。
ところがフランスでは、この消尽論を認めておらず、代わりにフランスでは「用途指定権」(droit de destination) の考え方を判例上で用いてきた。用途指定権とは、複製された著作物の購入者が再販するのを禁じる、あるいは事前許諾を求める権利である[143][145][146][注 28]。しかし、デジタル著作物への対応強化を目的とするWIPO著作権条約に基づき、2001年に施行されたEU指令のひとつである情報社会指令 (2001/29/EC) で、頒布権を規定している (第4条第1項) [147][146]。フランスもこのEU指令に対応すべく、2006年に通称DADVSI(フランス語版、英語版) (Loi sur le Droit d'Auteur et les Droits Voisins dans la Société de l'Information、情報社会における著作権・著作隣接権法、法令番号: 2006-961)を[148]、2009年には通称HADOPI 1法(フランス語版) (法令番号: 2009-669)[15][149]とHADOPI 2法(フランス語版) (法令番号: 2009-1311)[15]を成立させ、特にインターネットを介した頒布権に関し、フランス著作権法の条文上で明文化するようになった (詳細は#情報社会指令と国内法化の遅延で後述)。
他国では「貸与権」と呼ばれる著作物のレンタルに関する権利については、EUが2006年に貸与権指令(英語版) (2006/115/EC) を出しているものの、フランスでは貸与権の名称で著作権法上、成文化していない。代わりに用途指定権の概念を用いて、実質的に貸与権を認める判決が2004年に破毀院から出されており (Cour de Cassation, Chambre civile 1, du 27 avril 2004, 99-18.464)、貸与権指令の国内法化は不要と判断されているためである[150]。たとえば、音楽CDを購入した者がそのCDを第三者に貸与する際には、音楽の著作権者に対してライセンス料を追加で支払う必要が出てくる。この法的根拠として用途指定権の概念が用いられている[151]。
譲渡契約成立の条件に関連する判例としては、2006年の破毀院判決が知られている。本事件ではミネラルウォーターのヴィッテルを販売するネスレ社が使用した写真が当初の撮影目的と異なる利用であったことから、訴訟へと発展した (Cour de Cassation, Chambre civile 1, du 12 juillet 2006, 05-15.472)[153](#判例にて詳細後述)。
ここでの「実質的投資」であるが、データベース自体の構築に投下された資本に限定される。つまり、データベースのコンテンツを構成する個々の素材を「既存から見つけ出し」、「収録」する費用は含むが、素材の「新たな創作」に費やされた投資は含まない。この解釈は、欧州司法裁判所が2004年、英国の競馬データベースに係る事件 (British Horseracing Board v. William Hill Organization Ltd., Case C-203/02) で判示している[174][175][176](#判例にて詳細後述)。フランス国内ではこれを踏襲する形で、2009年のフランス破毀院「プレコム判決」(Précom, Ouest France Multimedia c. Direct Annonces, Cour de cassation, civile, Chambre civile 1, 5 mars 2009, 07-19.734 07-19.735) が出ている[177][178](#判例にて詳細後述)。
コンピュータ・プログラムはL112-1条が定義する「精神的な著作物」とは厳密には言い難いものの、1986年の破毀院判決 (通称「パショ事件」、Babolat Maillot Witt c. J. Pachot, Cour de cassation, Assemblée Plénière, du 7 mars 1986, 83-10.477) では「著作者による知的な創作活動が創作性の要件を満たす」と判示され、コンピュータ・プログラムにも著作物性を認めた画期的な判決として知られている[191][192][193](#判例にて詳細後述)。また1991年の破毀院判決 (通称「Isermatic France事件」、Cour de Cassation, Chambre civile 1, du 16 avril 1991, 89-21.071) では「著作者個人の寄与の賜物としての創作性」がコンピュータ・プログラムの著作権保護の要件として挙げられた[193](#判例にて詳細後述)。これらの要件解釈は2012年の破毀院判決 (Cour de cassation, civile, Chambre civile 1, 17 octobre 2012, 11-21.641) でも踏襲されており、コンピュータ・プログラムの有用性は著作権保護の可否とは関係しない旨を付言している[193]。
集合著作物に関する判例としては、1993年の破毀院判決 (Cour de Cassation, Chambre civile 1, du 24 mars 1993, 91-16.543、通称「アレオ判決」) が知られている[213][214][215]。アレオ社が委託編纂した地域情報ガイド誌上に、他社販売の絵葉書と同一の写真が複数使われていた事件であるが、この絵葉書の販売企業が集合著作物の著作権者として認められるかが問われた (#判例で詳細後述)[216][217]。
特にインターネット経由での著作権侵害に対しては、政府系独立機関である視聴覚・デジタル伝達規制局 (L'Autorité de régulation de la communication audiovisuelle et numérique、略称: Arcom) がフランス国内で取り締まりの重要な役割を担っている[注 45]。以前はフランス文化省傘下の著作権監視機関であるHADOPI(フランス語版)が取り締まってきたが[82]、電気通信事業者や放送事業者などを監督・規制する視聴覚最高評議会 (略称: CSA) と2022年1月1日に合併し、Arcomに組織再編された[272][270]。
当法律は、労働者の団結権などを禁じる1791年ル・シャプリエ法(フランス語版、英語版) (Loi Le Chapelier)[336]の提唱者としても知られる政治家イザク・ルネ・ギ・ル・シャプリエ(フランス語版、英語版)の報告書に基づいている[324][337]。報告書の中でル・シャプリエは、著作権を最も聖なる所有権と定義し、著作物とは著作者の思想の果実だとみなした[324][337]。
1900年の破毀院 (フランスの最高裁判所) による「ウィスラー判決」(William Eden c. Whistler, Cour de Cassation, 14 mars 1900; D.1900.1.497) は、アメリカ合衆国出身でイギリスで主に活躍した画家ジェームズ・マクニール・ウィスラー (ホイッスラーとも綴る) が、完成した肖像画を依頼主のイーデン準男爵(英語版)に対して引き渡し拒否した事例である[19][110]。破毀院は、ウィスラーに対して肖像画の製作代金の返金は命じたものの、著作権法上の公表権をウィスラーに認め、作品の引き渡し要求は棄却した[19][422]。ウィスラーは当初、イーデンの前払金に不満を持っていたとされていたが、法廷上では自らの作品の出来映えに満足できなかったと証言している。いったんはサロンに作品を展示するも、ウィスラーは描かれていたイーデン夫人を別人に描き変えてしまった事件である[111]。
通称「カモワン判決」
1931年のパリ控訴院(フランス語版、英語版)「カモワン判決」(Carco et autres c. Camoin et Syndicat de la propriété artistique, Cour D'Appel de Paris 6 mars 1931; DP.1931.2.88) は、出来栄えに不満を持った画家シャルル・カモワン(フランス語版、英語版)が自身の作品を切り刻んでゴミ箱に捨てたが、ゴミ漁り人がそれをアート収集家に売却して復元されてしまい、11年後の1925年にフランシス・カルコ(フランス語版、英語版)が所有していることが判明した事件である。復元された作品は差し押さえられ、5,000フランを損害賠償として原告カモワンに支払うよう命じられた[423][112][113]。被告側は、作品が販売カタログ上に掲載されていたことから、公表済の作品であると法廷で抗弁していた[114]。
しかし他国では著作者人格権侵害の訴えが棄却されている。生前の1988年にオランダの劇場を相手にベケット本人が提訴しており、やはり本件でも同作品の登場人物を全員女性に変更する演出が問題となった。セリフ回しや演出が原作に忠実であることを理由に、オランダのハールレム裁判所は同一性保持権侵害の訴えを棄却している[121]。さらにオーストラリアでも、同作の上演に際して無許可の楽曲を挿入しようとしたことから、ベケットの甥が法的措置に踏み切る姿勢を見せたことがある[121]。著作者人格権の保護水準が大陸法諸国と比べて低いとされる英米法のオーストラリアでは、2000年に著作者人格権のうち氏名表示権と名誉声望保持権のみを明文化する法改正を行ったばかりであり、フランスの司法判断と同水準の権利保護はオーストラリアでは難しいとの識者見解もある[121]。イタリアでも同作の登場人物2名を男性から女性演者に変更して上演を続け、ベケットの著作権相続人は差止を求めて提訴するも、ローマ地方裁判所は2006年に合法との判決を下している (Fondazione Pontedera Teatro v SIAE (Società Italiana Autori ed Editori and Ditta Paola D'Arborio Sirovich di Paola Perilli), Tribunale di Roma, 2 December 2005)。イタリアのケースでは演者は女性ではあるものの、人物設定は男性のままだとして、1992年のパリ判決とは状況が異なると被告側が主張していた[119][120]。
ジョン・ヒューストン監督映画『アスファルト・ジャングル』のカラー化
国際的な同一性保持を巡る類似の判例としては、米国出身の映画監督ジョン・ヒューストン作『アスファルト・ジャングル』(原題: "The Asphalt Jungle") に係る事件も知られている (Turner Entertainment Company c. Huston または Huston c. la Cinq, Cour de Cassation, Chambre civile 1, du 28 mai 1991, 89-19.522 89-19.725)[14][122][425]。本事件は、白黒映画をカラー化しようとして尊重権侵害が問われた[14]。原告はヒューストンの遺族、およびヒューストンと脚本を共著したベン・マドー(英語版)であり、被告は米国ターナー・エンターテインメント (後にタイム・ワーナーと合併したターナー・ブロードキャスティング・システム傘下)、およびターナー社からフランスでの放送ライセンスを取得した公共放送テレビ局のフランス5 (La Cinquième) である[122]。本事件ではアメリカ著作権法と比較してフランス著作権法が著作人格権を手厚く保護している点が識者から指摘されている[426]。仮に米国法で本事件が裁かれた場合、職務著作の観点から映画製作に参画したクリエイター (すなわちヒューストン本人) は著作者として認められないことから、ヒューストンの遺族に著作者人格権を相続されえないと解されている[427]。パリ控訴院は1990年、著作物の製作地が米国であることを理由に、フランス法ではなく米国法の基準で著作者人格権侵害は認められないとの判決を下したが、多方面から批判を受けた[428]。フランス破毀院はパリ控訴院の判決を破毀し、フランス法に則って尊重権侵害を認めた[429][14]。
冷蔵庫に絵を描いたベルナール・ビュッフェの作品
画家ベルナール・ビュッフェは6台の冷蔵庫に絵を描いて "Nature morte aux fruits" と題し、児童福祉のチャリティ・オークションにかけた。その作品の購入者がビュッフェの意に反して冷蔵庫を解体して絵だけを切り売りしようとした事件では、破毀院が1965年にビュッフェの意思を尊重する判決を下している (Bernard Buffet c. Fersing, Cour de Cassation, Chambre civile 1, du 6 juillet 1965 1965.2.126.)[123][124][125]。
ルノー社によるデュビュッフェのモニュメント破壊
同一性保持 (改変禁止) 以外でも、尊重権侵害が認められたケースがある。自動車メーカー大手ルノーが彫刻家・画家のジャン・デュビュッフェにブローニュ工場内に設置するモニュメントの製作を発注した。デュビュッフェは "Salon d'été" (「夏のラウンジ」の意) と題した作品を製作中であったが、ルノーがこの事業を白紙にしただけでなく、デュビュッフェへの事前通告もなく建造中のモニュメントを破壊した。こうしてデュビュッフェの尊重権侵害が問われるも、発注契約上の2条項が争点となった。第一に、ルノー側がモニュメントを建造しない場合にデュビュッフェが相応の対価を得る旨が盛り込まれていた点にある。換言すると、ルノー側に製造中止権が留保されていると解することができる。第二に、モニュメントの色や材質などの選定にあたっては、発注者に意見を仰ぐ条項である。これらを勘案し、一審と控訴審ではデュビュッフェの著作権はモニュメントの模型にしかおよばず、実物の著作権は有していないと判断した。しかし破毀院は原審の判決を破毀し、デュビュッフェは模型と実物両方の著作権を有しているとして差し戻した (Régie Renault c. J.-Philippe Dubuffet, Cour de Cassation, Chambre civile 1, du 16 mars 1983, 81-14.454; 117 RIDA July 1983, p.80)[126]。ベルサイユ控訴院は原審 (Dubuffet c. Régie Nationales des Usines Renault TGI de Paris, Cour d'appel de Versailles, 8 July 1981, 110 RIDA October 1981) を覆して尊重権侵害と判定した[430][124]。
著作者人格権 - 修正・撤回権関連
画家ルオーの未完807作品
修正・撤回権関連の判例としては、画家ジョルジュ・ルオーと美術商アンブロワーズ・ヴォラールの遺族間で作品の所有権を巡って争った事件が知られている(Cons. Vollard c. Rouault, Cour de Paris, 19 mars 1947; D.1949.20. Appeal from Roualt c. Cons. Vollard, Trib.Civ.de la Seine, 10 juillet 1946; D.1947.2.98; S.1947.2.3.)[129]。ルオー作品を独占的に扱っていたヴォラールは、生前にルオーと807点の作品の契約を締結していた。しかし作品が完成する前にヴォラールが死去したことから、ルオー側が譲渡契約の未成立を訴えたのである。完成した絵画に入れられる署名がないことなどを理由に、これらの作品群は未完成と判定されて撤回権の行使が原審、控訴審ともに認められた[431]。
著作財産権 - 演奏・上演権関連
ホテルの有料テレビ
演奏・上演権が問われた判例としては、ホテルの有料のテレビ・ラジオの事件が複数存在する[138]。音楽著作権管理団体のSACEM(フランス語版、英語版)とホテル・ルテシア(フランス語版、英語版)[注 87]で争われた事件 (SACEM c. Société Hôtel Lutetia. Tribunal de grande instance de la Seine. 3' chambre. 22 mars 1961 (J)) では、有料コイン式であったことから、ホテル側は受信機としてのテレビを個室に設置してホテル利用客に貸与しているだけに過ぎず、上映・放送をホテルが無断で行ったとは見なされなかった[432][138]。また別の事件では、ホテルがいったん受信したコンテンツを各部屋に伝達するシステムを導入しており、ホテルが伝達行為者と見なされたために演奏・上演権が問われることとなった[138]。
本事件 (Babolat Maillot Witt c. J. Pachot, Cour de cassation, Assemblée Plénière, du 7 mars 1986, 83-10.477) は、コンピュータ・プログラムにも著作物性を認めた画期的な判決として知られている[191][192]。本事件は、コンピュータ・プログラムを開発したパショが、その後に勤務先のBabolat Maillot Witt (BMW) 社から解雇されたため不当解雇で提訴した事件である[192]。さらに、当該プログラムの著作権がパショ個人に帰属するのかも併せて問われることとなった[433]。コンピュータ・プログラムはL112-1条が定義する「精神的な著作物」とは厳密には言い難いものの、破毀院は1986年、「著作者による知的な創作活動が創作性の要件を満たす」と判示している[193][注 7]。
通称「Isermatic France事件」
本事件 (Cour de Cassation, Chambre civile 1, du 16 avril 1991, 89-21.071) では「著作者個人の寄与の賜物としての創作性」がコンピュータ・プログラムの著作権保護の要件として挙げられた[193]。"Graphix" と呼ばれるシステムには電子署名のカットや調整といったグラフィック・デザイン機能 (モジュール) が実装されており、原告のGerber Scientific Products社は被告のIsermatic France社をこれらモジュールの偽造および競争法違反で提訴した。しかしIsermatic側はモジュールは「アイディア・表現二分論」でいうところのアイディアでしかなく、著作権保護の対象外であると抗弁した。このモジュール群は創作的な選択のもとに構築されており、著作者個人の創作性が発揮されていると判示された[434]。
集合著作物に関する判例としては、1993年の破毀院判決 (Cour de Cassation, Chambre civile 1, du 24 mars 1993, 91-16.543、通称「アレオ判決」) が知られている[213][214][215]。プロヴァンス=アルプ=コート・ダジュール地域圏の都市ヴィルヌーヴ=ルベの観光局が、地域情報ガイド誌の編纂をアレオ社 (Aréo) に委託した。このガイド誌に収録された写真14点が、出版・広告業SMD社の販売していた絵葉書と同一であるとして、SMD社がアレオ社や観光局などを著作権侵害で提訴した事件である[216][217]。SMD社の従業員が個々の写真を創作していたものの、写真のネガは「不分割」の要件を満たしておらず、SMD社は法人として集合著作物の著作権を有していないとアレオ社は主張して控訴した。しかし破毀院は「集合著作物の推定」に則り、SMD社を集合著作物の著作者として認めている[216][217]。以降、複数の破毀院判決がアレオ判決に追随したことから、アレオ判決は判例上の実質的な転換点と見做されている[439]。しかしながら、アレオ判決の「集合著作物の推定」は有識者から強く批判されているとの見解もある[440]。
複数国にまたがる事件
2012年の破毀院判決 (Cour de cassation, civile, Chambre civile 1, 28 novembre 2012, 11-20.531) は、集合著作物の著作権と商標権侵害がマダガスカルとフランスの両国にまたがって問われた事件に関するものである。マダガスカルの企業Maki社が同国の産業財産権庁に商品デザインを商標登録した後に、Serisud社がMaki社の商標をフランスで登録したとして、MakiがSerisudを商標権侵害と不正競争防止法違反で提訴した。これに対抗して、Serisud側は著作権侵害と不正競争防止法違反で反訴した。問題となったデザインは "poissons jaunes" (黄色い魚) などと題した9点である。集合著作物の権利を定めた著作権法 L113-5条の解釈に関連し、フランス国外の裁判所に提訴済の事件であっても、フランス国内での裁判に影響を与えるものではないとした[441][214]。
データベース関連
英国競馬データベースに係る欧州司法裁判所判決
データベースをスイ・ジェネリス権で保護する際の成立要件として挙げられる「実質的投資」について、欧州司法裁判所は2004年、英国競馬公社 (BHB) 対ウィリアムヒル事件 (British Horseracing Board v. William Hill Organization Ltd., Case C-203/02) で判示している[174][175][176](#判例にて詳述)。本事件であるが、原告BHBが出走馬やジョッキーといった競馬レースに関する詳細情報をデータベース化していた。被告のウィリアムヒルは大手ブックメーカー (賭け屋) であり、BHBのデータベースの情報を一部用いてオンラインの勝馬投票サービスを立ち上げたことから、権利侵害で提訴された[442][443]。競馬レースごとの出走馬をリスト化し、形式チェックしただけではスイ・ジェネリス権は認められないと判断された。データベースに掲載されるデータの信憑性まで踏み込んで担保し、その正確性をデータベース運用中にモニタリングしているかどうかが「実質的投資」の判断軸となる[175]。
通称「プレコム判決」
2004年の競馬データベース判決が出た後も、フランスの各裁判所ではデータベースの構築と、データベースのコンテンツ (個々の素材データ)を区別しない状況が続いたものの、2009年のフランス破毀院「プレコム判決」(Précom, Ouest France Multimedia c. Direct Annonces, Cour de cassation, civile, Chambre civile 1, 5 mars 2009, 07-19.734 07-19.735) でようやく欧州司法裁判所と同様の定義が支持されるようになった[177]。本事件は、不動産物件広告を掲載したデータベースをめぐる事案である[444]。原告プレコム社 (Précom) は新聞向けの不動産広告を取り扱っており、またウェスト・フランス社 (Ouest-France Multimédia) はオンライン新聞メディア企業である[178]。ウェスト・フランス社を始めとする他社ウェブサイトから不動産広告が抜粋され、不動産業者向けの掲示板サービス Direct Annonces 上に無断転載されたことから事件に発展した[178]。しかしプレコムはデータベースの「コンテンツ」(個々の素材) たる不動産広告の創作に投資したすぎず、スイ・ジェネリス権での保護対象に当たらないと破毀院は判示したことから、欧州司法裁判所の競馬データベース判決を踏襲したとみなされている[177][178]。
著作財産権の譲渡契約の不備が著作権侵害に発展した事件としては、2006年の破毀院判決が知られている (Cour de Cassation, Chambre civile 1, du 12 juillet 2006, 05-15.472)[153]。本事件は、フランスの小都市で名水の地として知られるヴィッテルを撮影したフリーランスの写真家が、その写真の権利を市に譲渡したことに端を発する。その譲渡契約上で「時間、地域、利用方法・形式に一切の制限を設けない」とする包括的で曖昧な文言が用いられていたことが問題となった。市はこの写真を広告代理店に提供し、広告代理店がミネラルウォーターの「ヴィッテル」にこの写真を採用した。「ヴィッテル」ブランドを有していたペリエ社はその後、食品・飲料大手ネスレ社に買収されたことから、写真家がネスレによる写真利用を著作権侵害で提訴している。上述の通り、フランス著作権法では著作財産権の譲渡にあたって利用目的などを明確化することを求めており、写真家と市の間で締結された譲渡契約は無効と破毀院で判断された[153]。
著作隣接権関連
実演家の定義解釈を巡る事件
著作隣接権で権利保護される実演家から「補助的な実演家は除く」(exclusion de l'artiste de complément) とL212-1条で定義されていることから、「補助的な」の文言解釈を巡って法廷で争われた (Cour de Cassation, Chambre civile 1, du 6 juillet 1999, 97-40.572)[446][157]。本事件では、イギリスの歌手スティングの楽曲『ラシアンズ』(原題: "Russians"、アルバム『ブルー・タートルの夢』収録曲) のミュージックビデオ出演者に著作者隣接権があるのかが問われた。破毀院は1999年、原審を破毀して原告に著作者隣接権を認めている。破毀院の示した解釈によると、条文上での "complément" の文言は「言われなければ気づかないような軽微な」(仏:subtilité、英:subtle) の意味であり、本事件の出演者は「軽微」な演者ではないと判定された[157]。「補助的な実演家」は著作隣接権が初めて条文上で明文化された1985年法の時代から存在する文言だが、当時より「端役」を包含するとの識者解釈がある[447]。労働法典 L762-1条では実演家との労働契約および報酬について規定しており、補助的な実演家も含めて権利を認めていることから、著作権法L212-1条との間で定義の法的矛盾が指摘されてきた[447]。
同日1999年7月6日には破毀院で類似の判決がもう1件下されている (Cour de Cassation, Chambre civile 1, du 6 juillet 1999, 96-43.749)。本事件では、広告映像の出演者に関する著作者隣接権が問われた。助演であっても作品に対して創作性を発揮して個人の人格が反映された寄与があれば、たとえ出演時間が短かったとしても実演家としての著作隣接権が認められると判示された[157]。
一方、アメリカのテレビ番組『Temptation Island(英語版)』のフランス版『L'Île de la tentation(フランス語版)』に出演した53名による訴訟事件 (Cour de cassation, civile, Chambre civile 1, 24 avril 2013, 11-19.091 等)[注 88] では、出演者に著作隣接権が認められなかった。当テレビ番組は4人の未婚カップルが楽園の島に隔離されて12日間を過ごし、貞操観念が試されるリアリティ番組である。破毀院は2013年、脚本 (著作権が認められる著作物) があって、それを演技で実演しているわけではない事実に加え、出演時に「雇用契約」を締結していることから、原告53名を実演家ではなく従業員と判断した[157]。
拡大集中許諾制度関連
絶版書籍のデジタル再頒布制度
絶版書籍は有料市場向けに新規発行されていないだけで、著作権を放棄したわけではない。20世紀以前の絶版書籍のデジタル再頒布を半ば強制する2012年3月1日法は、フランス人権宣言で保障された所有権の侵害ではないかとして、憲法院 (違憲審査権を有する司法機関で、最高裁から独立) で審理されることとなった[249]。しかし、憲法院は2014年2月28日、合憲の判断を下している (Constitutional Court, 28 February 2014, No. 2013-370 QPC)[249]。識者からは、世界で一般的な拡大集中許諾制度を超えてフランスでは著作権管理団体に管轄権を与えすぎているとの懸念も示されており、特にオプトアウトの実効性が疑問視されている[251]。オプトアウトの仕組み自体は提供されているものの、フランス国立図書館が一覧化した20世紀以前の絶版書籍が約99,000冊なのに対し、実際にオプトアウトを行使したのは約2,500件に留まっているとの統計データもある (2013年時点)[448]。また、EU著作権指令の一つである2001年の情報社会指令 (2001/29/EC) の条文解釈にも影響がおよぶ可能性があることから、欧州司法裁判所でも審理された (Marc Soulier and Sara Doke v. Premier ministre and Ministre de la Culture et de la Communication, Case C-301/15, ECLI:EU:C:2016:878)[449]。特に欧州司法裁判所で問われたのは情報社会指令の 2(a) 条 (著作者の複製権) および 3(1) 条 (著作者の公衆伝達権) であり、以下の2点が懸念材料であった。1点目は、オプトアプトが行使されない限り、絶版書籍の著作権者は再頒布を許諾したと見なされる点について、十分な事前周知がなされていないことにある。2点目は、オプトアウトの行使を試みる者は、他に著作権者がいないことを証明しなければならない点である[449]。ところが2019年成立のDSM著作権指令では、8(1) 条、8(4) 条、および10条で著作権管理団体への絶版著作物の利用許諾をより円滑に実現可能にする条項が含まれており、上記2点の懸念事項は払拭されている。[450]。
フランスの著作権は伝統的には La propriété littéraire et artistique (直訳: 文学的および芸術的所有権) と呼ばれていたが、著作物の対象が拡大したこと、また著作者本人だけでなく著作隣接権者にまで保護対象が拡大したことを受け、現在は使用頻度が下がり、Les droits d'auteur et les droits voisins du droit d'auteur en France (意訳:著作者および著作隣接権者に関する権利) が一般的である[2]。著作者本人の権利は1957年3月11日法、著作者隣接権は1985年7月3日法が著作権法として存在し、これらは産業財産権と共に1992年にCode de la propriété intellectuelle (知的財産法典) として法典化された[3]。
フランス著作権法に詳しい弁護士・井奈波はフランスの著作者人格権を4つに分類し、その1つを「尊重権」(le droit au respect de l'œuvre、英訳: the right of respect for the works) と呼んでいるが[18]、著作権法の米仏比較を行った法学者Peelerは「同一性保持権」(droit a l'intégrité、英訳: the right of integrity) と呼んでいる[21]。フランス経済・財務省のウェブサイト上でも「尊重権」の用語が用いた上で、respect de son intégrité (英訳: respect for integrity、同一性保持) とrespect de son esprit (英訳: respect for the author's spirit、著者の意思尊重) の2つを包含すると定義していることから[22]、本項では「尊重権」の表記を採用した。また、知的財産法典に収録前の旧法をベースに執筆されたフランスの著作権法学者Colombetは著作者人格権を「公表権」[23]、「氏名尊重権」[23]および「著作物尊重権」[24]と分類した上で、著作物尊重権は著作物が過度に変形されて公表されるのを著作者が阻むことができる権利であると位置づけている[24]。なお、日本の著作権法上では「同一性保持権」とは別に「名誉声望保持権」が著作者人格権の支分権の一つに挙げられており、たとえ無断で著作物を改変しなくとも、著作者の人格を傷つけるような著作物の利用方法 (例: 名画を風俗店の看板に利用する) を禁じている[25]。
エッフェル塔のライトアップの著作物性を問う1992年の破毀院 (フランス最高裁) 判決は、Cour de cassation, Chambre civile 1, du 3 mars 1992, 90-18.081を原文参照のこと。判決文によると、エッフェル塔建造100周年記念行事でエッフェル塔がライトアップされ、その風景を写真に収めた者が絵葉書にして販売したことから、事件へと発展した。エッフェル塔の公式ホームページ上では、夜間撮影であっても私的目的であればSNS上でのシェアも問題ないとしている。その上で、プロによる撮影時はエッフェル塔管理者からの事前許諾取得が必要としている[70]。
DADVSIやHADOPI法の前提となった欧州連合の著作権法に関する指令のデジタル消尽に関する規定に関連し、欧州司法裁判所 (CJEU) はUsedSoft事件やTom Kabinet事件などの裁定を下している[83][84]。UsedSoft事件は2012年7月3日のCJEU判決「Case C-128/11 UsedSoft v Oracle」[85]を、Tom Kabinet事件は2019年12月19日のCJEU判決「Case C-263/18 Nederlands Uitgeversverbond and Groep Algemene Uitgevers v Tom Kabinet Internet BV and Others」[86]を参照のこと。
スポーツのテレビ中継も、例えば競馬の実況音声や映像などは創作性[注 7]が認められれば著作権保護の対象となると解されている。欧州司法裁判所の判決 (Tiercé Ladbroke SA v. Comm'n of the European Cmtys., Case T-504/93) も参照のこと[181]。
追及権はフランス語で Droit de Suite (英訳するとRight to Followの意) と呼ばれていることから、2001/84/EC指令を追及権指令と訳す専門家が多い。追及権に詳しい早稲田大学・小川明子[401]や、フランス著作権法全般に詳しい弁護士・井奈波朋子[227]などに使用例が認められる。一方、EU官報で公示された正式名称には英語で Resale Right が使われており[139]、これを直訳すると再販権指令となる。
“Copyright litigation in France: overview”[フランスにおける著作権訴訟の概要](英語). Thomson Reuters Practical Law.2019年8月3日閲覧。“Law stated as at 01-Oct-2018 (2018年10月1日時点のフランス著作権法に基づく解説)”
“Database protection”[データベースの保護](英語).欧州連合.2024年10月13日閲覧。“If you have created a database that is accessible by electronic or other means – you can protect: the content, via a sui generis right; its structure, via a copyright. If your database meets the requirements for copyright and sui generis right protections, you can apply for both...(中略)... If the structure of your database is not an original creation, you can still protect its content under the sui generis right...(中略)... you are automatically granted this protection for 15 years... (意訳: 電子その他媒体でアクセス可能なデータベースの創作者は、そのコンテンツはスイ・ジェネリス権で、またデータ構造は著作権で保護される。両権利の要件を満たす場合、両権利とも適用される。(中略) データベースの構造に創作性が認められなかった場合でも、コンテンツのみスイ・ジェネリス権で保護されうる。(中略) スイ・ジェネリス・データベース権の保護期間は15年である。)”
“Resale Royalty Right”[追及権 (再販権)](英語).アメリカ合衆国著作権局 (USCO).2024年10月13日閲覧。“The royalty originated in France in the 1920s and is in general practice throughout Europe, but is not part of current United States copyright law. (意訳: 追及権に基づくロイヤリティの支払いは1920年代にフランスで始まっており、現在は欧州全域で広く行われている。しかしアメリカ合衆国の連邦著作権法上では未導入の仕組みである。)”
“Artist's Resale Right”[芸術家の追及権](英語).WIPO.2024年10月13日閲覧。“The Artist's Resale Right, also known as Droit de Suite, has been implemented in more than 80 countries. (意訳: 芸術家の追及権は80か国以上で法的に保障されている。)”
“Everything you need to know about the Eiffel Tower at night”[夜間のエッフェル塔に関する周知事項](英語). エッフェル塔公式ウェブサイト(2023年12月27日).2024年10月13日閲覧。“Any individual can take photos and share them on social networks. The Eiffel Tower’s lighting and sparkling lights are protected by copyright, so professional use of images of the Eiffel Tower at night require prior authorization... (抄訳: 個人が夜間撮影してSNSにシェアする行為は問題ないが、プロによる撮影・映像使用は事前の許諾取得が著作権保護上求められる。)”
“17 USC 101: Definitions”[合衆国法典第17編 (著作権法収録) 第101条: 用語の定義](英語). The Office of the Law Revision Counsel in the U.S. House of Representatives.2019年7月28日閲覧。“A work of visual art does not include (中略) any poster, map, globe, chart, technical drawing, diagram, model, applied art, motion picture or other audiovisual work, book, magazine, newspaper, periodical, data base, electronic information service, electronic publication, or similar publication...”
“Overview: the TRIPS Agreement”[TRIPS協定の概要](英語).WTO.2024年10月13日閲覧。“In respect of each of the main areas of intellectual property covered by the TRIPS Agreement, the Agreement sets out the minimum standards of protection to be provided by each Member (抄訳: TRIPS協定でカバーされる主な領域に関し、WTO加盟国が最低限遵守すべき水準を当協定は設定している)”
“The Beijing Treaty”[北京条約](英語).WIPO.2024年10月13日閲覧。“The Treaty was adopted in Beijing on June 24, 2012, and entered into force on April 28, 2020. (訳: 北京条約は2012年6月24日に採択され、2020年4月28日に発効)”
Counterfeiting: a Global Spread a Global Threat[偽造: 世界的な拡散、世界的な脅威] (Report) (英語). 国連地域間犯罪司法研究所(英語版). p.163. With regard to th e im plem entation of th e EU Copyrigh t Directive...(中略)... France adopted in 2006 th e Loi sur le Droit d'A uteur et les Droits Voisins dans la Société de l'Inform ation (DADVSI)
“Copyright: orphan works”[著作権: 孤児著作物とは](英語).GOV.UK (イギリス政府公式サイト)(2024年7月9日).2024年10月13日閲覧。“Orphan works are creative works or performances that are subject to copyright - like a diary, photograph, film or piece of music for which one or more of the right holders is either unknown or cannot be found. (意訳: 孤児著作物は創作的な著作物や実演であり、著作権法の保護対象である。日記、写真、映画や楽曲などが例として挙げられ、著作権者が匿名ないし不明の状態にある著作物を指す。)”
“Code de la propriété intellectuelle | Article L335-7-1”(フランス語).レジフランス.2024年10月13日閲覧。“Version en vigueur depuis le 01 janvier 2022 | Modifié par LOI n°2021-1382 du 25 octobre 2021 - art. 1 (意訳: Arcomへの組織再編を規定した2021年10月25日法 (法令番号: 2021-1382) によって当条文は改正されており、その施行日は2022年1月1日である)”
“Report of Le Chapelier on Dramatic Author's property (with the Decree adopted by the National Assembly)”[劇場作家の所有権に関するル・シャプリエの報告書 (国民会議にて可決成立)](英語). Primary Sources on Copyright (eds L. Bently & M. Kretschmer).2024年10月13日閲覧。“La plus sacrée, la plus légitime, la plus inattaquable et, si je puis parler ainsi, la plus personnelle de toutes les propriétés, est l'ouvrage, fruit de la pensée d'un écrivain... (意訳: 最も聖なる、最も正統性のある、最も揺るぎなき、そして言わずもがな、あらゆる所有権において最も個人的なものとは、著作者の思想の果実たる著作物である。)”
“Back to the source - History of Vittel”[水源 - ヴィッテルの歴史](英語). ヴィッテル商品公式ホームページ.2024年10月13日閲覧。“It seems it was named after its owner, a Roman general called Vitellius who used it to treat his gout.”