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ウィキペディアから
灰色藻(かいしょくそう)は、植物界または古色素体類に属する藻類の一群である。
灰色藻 Glaucophyta | |||||||||||||||
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Glaucocystis sp. | |||||||||||||||
分類 | |||||||||||||||
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学名 | |||||||||||||||
Glaucophyta Skuja, 1954 | |||||||||||||||
属 | |||||||||||||||
淡水に棲む単細胞の藻類である。細胞内にシアネレ(cyanelle; シアネルとも)とよばれる原始的な葉緑体を持つ事で特徴付けられる藻類で、小規模ながらも独立の植物門(灰色植物門)を構成する。
「灰色」と名付けられてはいるが、細胞の色は藍藻と同様に深い青緑色である(写真を参照)。そもそも灰色植物門「Glaucophyta」の語源であるギリシア語のγλαυκός (glaukós)は地中海の色(sea-green)を表現する言葉であったが、これが英語のglaucous(淡い青緑色、青味がかった灰白色)を経て和訳された際に、単なる灰色になってしまったという経緯がある。
灰色藻の葉緑体(シアネレ)は、緑色植物及び紅色植物と同様に藍藻が細胞内共生(一次共生)して生じたものとされている。灰色藻と一部の原始紅藻は、光合成色素として藍藻が持っているフィコビリンタンパク質を保持しているために青緑色に見えるが、緑色植物では既に失われている。
灰色藻のシアネレは色素組成の他にも、一重のチラコイドが同心円状に配列するなど藍藻と共通する特徴を備える。シアネレは2枚の包膜に包まれているが、その2枚の膜の間には薄いペプチドグリカン層が存在する。これは細菌の細胞壁と同様の材質であり、共生した藍藻の細胞壁の名残であると考えられている。そのためペプチドグリカン層をリゾチーム処理で溶解することで葉緑体を破砕できる。また、葉緑体の分裂では、2枚の包膜のうち、内包膜の内側への陥入と外包膜のくびれは別々に進行する。この特徴は、通常の葉緑体の外側からのくびれ込みと、藍藻の細胞分裂が平行して進行していると見ることができる。ストロマ部分にはピレノイドではなくカルボキシソームをもつ点でも藍藻によく似ている。つまり灰色藻のシアネレは、細胞内共生した藍藻の特徴を色濃く残す葉緑体なのである。
シアネレは現生の藍藻に似てはいるが、ゲノムサイズが縮小するなど細胞小器官としての変化も進行している。灰色藻 Cyanophora paradoxa ではシアネレゲノムの解析が為されており、それによればゲノムサイズは127kb程度、コードされている主要な遺伝子は他の植物の葉緑体と共通するという。ゲノム内に逆行反復配列(IR; Inverted Repeat)を持つ点も同様である。シアネレは、藍藻が独立の藻類から葉緑体という細胞内小器官へ移行していく過程と仕組みを知る上で貴重な構造である。
包膜にペプチドグリカン層があることなどから、葉緑体は長い間、細胞内共生している藍藻であると考えられてきた。しかし、そのゲノムサイズが他の植物の葉緑体と同程度に縮小していることからオルガネラであると確定した。
灰色藻で遊泳細胞を生じる属では、細胞は二本の不等長鞭毛を備える。鞭毛には非常に細かい小毛が生えている。灰色藻の鞭毛装置には、多層構造体(MLS; Multi-Layered Structure)と呼ばれる配列微小管と層状構造の複合体が存在する。これは緑藻類に多く見られる構造であり、灰色藻と緑藻との関係を探る上で興味深い。
真核藻類の中でもっとも古く分岐したと考えられている。葉緑体の原始的な特徴、藻類に広く分布するクロロフィル結合タンパク質の遺伝子をもたないこと、炭酸固定のリブロース1,5ビスリン酸カルボキシラーゼ・オキシゲナーゼの系統が藍藻に近いことなどは、原始紅藻よりも古い特徴といえる。一方、系統樹によっては原始紅藻の方が古く分岐したとするものもあり、その系統的位置は確定していない。
淡水域にのみ出現する。特に、ある程度標高の高い湿原などに多い。低地の池にも見られるが、水量の少ない池よりもある程度水量や水質が安定した大型の湖沼を好む。このような分布を踏まえ、灰色藻の培養を行う場合には腐葉土や泥炭を煮出した抽出液を培地に添加すると良い。
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灰色藻類の系統関係[1] |
上位分類としては、緑色植物・紅色植物と共に、一次共生植物のグループであるアーケプラスチダに含まれる。灰色植物門内には1綱3目4科4属のみが知られる[2]。
なお、かつて灰色藻として分類されていたが、その後の研究で別の系統のである事が判明した生物もある。
ドイツの医師Hermann Itzigsohnが1854年にデンブノの泥炭地から見出した生物にGlaucocystisと名付けたのが始まり(正式な記載は1868年)である。当時はまだ真核生物と原核生物という区別がはっきり認識されておらず、細胞核とプラスチドが分化した藍藻だと考えられていた。
20世紀に入ってからは、アドルフ・パッシャーが提唱した何らかの藻類に藍藻が共生した生物であるという考え方が広く受け入れられていた[3]。この場合、共生した藍藻をCyanelle、結果生じる総体をCyanomと呼ぶ。また形態的な観点から、Cyanophoraはクリプト藻、Glaucocystisは緑藻が宿主となっていると考えられていた。ほかにも渦鞭毛藻や紅藻が宿主だとする各種の説があった。
灰色藻として独立した位置づけが与えられたのは20世紀半ば以降のことである。ハインリッヒス・スクーヤは宿主も共生体も独立しては生存できないことから、1954年に新エングラー体系中で一個の生物としてGlaucophytaと命名した[4]。これはなかなか受け入れられなかったが、1979年にLudwig Kiesが電子顕微鏡による微細構造観察で、宿主とされる側に他の藻類とは異なる独自の特徴を認めた[5]ことで定説となった。
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