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培地(ばいち、英語: medium)とは、微生物や生物組織の培養において、培養対象に生育環境を提供するものである。炭素源やビタミン、無機塩類など栄養素の供給源となる他、細胞の増殖に必要な足場や液相を与える物理的な要素もある。
もともと近代科学における微生物の発見の一つは、欧州の食の基礎に位置するスープが腐った中に発生したものを観察したところに始まる。パスツールによる自然発生説の検討の中でも、肉汁、即ちスープのベースとなる出汁であるブイヨンが良く使われてきた。これが言わば培地の始まりである。肉汁のようなありふれた物に生育する微生物を培養する場合は、その物自体を培地とすれば良い。しかし、そうでない生物を培養するには、培地の成分を工夫する必要がある。一般に、自由生活性の生物は培養が比較的容易である。例えば藻類などは独立栄養生物であり光合成が可能なので、窒素源やビタミン、微量元素を中心とした希薄な培地で生育させる事ができる。それに対して、原虫など寄生性の生物は概して環境の変動に弱く、また生育に特定の生理活性物質を要求するものもあり、培地組成を含めた培養系全体の構築・維持が難しい。多細胞生物の組織の一部を培養(組織培養)する場合はさらに多くの成分を必要とし、細胞自体が外菌のコンタミネーションに対して非常に脆弱なので、培養には注意を払う必要がある。
半合成培地や天然培地の場合、成分は不明確である。培養条件を一定にするという意味では合成培地が望ましいが、そのためには培養対象の必須栄養素の要求性や、その他の生育特性を完全に明らかにしておかなければならない。従って、ある生物の培養系を確立する場合は、天然培地で培養法を模索しながら、段階的に半合成培地あるいは合成培地へと移行していくことになる。
水に栄養分が溶けた状態で培地として用いるものを液体培地、固形のものを用いるものを固体培地という。歴史的には肉汁など液体培地が先行した。しかし、液体培地の場合、目的外の微生物が混入しやすく、またそれらを取り分けることがとても困難である。これに対する回答が固体培地である。固体上であれば、多くの微生物は最初の細胞の周囲にコロニーを形成するため、それらを取り分けたり選別したりすることが容易となる。ただし下記のように液体培地には固体培地にはない利点もあり、現在も目的にあわせて両方が用いられている。
固体培地はロベルト・コッホが最初に考案した。彼は、蒸したジャガイモの切り口に点在する雑菌のコロニーを見てこれを思いついたと言われている。当初はゼラチンが良く使われていたが、後に寒天が主流となった(寒天培地)。また、もともと固体であるもの、例えばきのこ栽培のためのおが屑なども固体培地と考えることができる。
生物によっては、両者を組み合わせた二相培地が用いられることもある。また、同じ生物であっても用途によって培地の使い分けが必要となる場合がある。菌類の場合、陸生菌は溶液中でも菌糸成長するが、胞子は空気中でなければ形成されない場合が多く、固体培地が必要になる。逆に水生菌は寒天培地で培養できても、そのままでは胞子形成が見られないことが多く、そこで作られたコロニーを切り出して水中に投下すると胞子形成が見られる。
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