モスクワ数学パピルス(モスクワすうがくパピルス、Moscow Mathematical Papyrus)は、古代エジプトの数学文書。エジプト学者ウラジーミル・セミョーノヴィチ・ゴレニシチェフ(Владимир Семёнович Голенищев, Vladimir Goleniščev)が1893年エジプトからロシアに持ち帰った。もとはテーベ(現・ルクソール)付近のネクロポリス、ドゥラ・アブ・アル=ナーガ(Dra Abu el-Naga)にあった[1]。ゴレニシチェフが当初所有していたことから ゴレニシチェフ数学パピルス(Golenischev Mathematical Papyrus)とも呼ばれる。その後1911年モスクワプーシキン美術館に他の古代エジプト文物とともに寄贈され、今もそこにある。4676番という所蔵番号からモスクワ4676パピルスとも呼ばれる[2]

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モスクワ数学パピルスの14番目の問題

ヒエラティックで書かれた古文書であり、エジプト第11王朝時代のものとされている。長さ約5m50cm、幅は4cmから7.5cmで、ソビエト連邦東洋学者ヴァシーリー・ヴァシーリエヴィチ・シュトルーヴェ(Vasily Vasilievich Struve[3]) が1930年、25の数学問題とその解法ごとに切断した[4]リンド数学パピルスと共に古代エジプトの数学文書として有名である。モスクワ数学パピルスの方が古いが、リンド数学パピルスの方が大きい[5]

第10問題: 半球の表面積

モスクワ数学パピルスの第10問題は、半球の表面積を問う問題である。曲面の面積の近似値を求める問題としては最も古い問題の1つである。

次のような例が書かれている。「かご(半球)の(表面積の)計算例。半球の開口部(の直径)は 4 + 1/2(の比率)。表面は? かごは卵形の半分(半球)なので、9の1/9を求める。すなわち1が得られる。(9から引いて)残りを計算すると8。8の1/9を計算する。2/3 + 1/6 + 1/18 が得られる。8からこれを引いた残りを求める。2/3 + 1/6 + 1/18 を引くと 7 + 1/9 が得られる。7 + 1/9 と 4 + 1/2 をかけると32が得られる。これが表面(積)である」[6]

この計算を式に表すと次のようになる(dは直径)。

一方、正しい半球面の表面積は次のようになる。

以上から、古代エジプト人は円周率の近似値として、次の値を使っていたことがわかる。

第14問題: 四角錐切頭体の体積

モスクワ数学パピルスの第14問題は、その中でも最も難問で、切頭体の体積を求める問題である。切頭体の体積を求める最古の例の1つである。古代の数学で完全な多角錐や円錐の体積を求める例は知られていない[7]メソポタミアでも同様に、完全な角錐や円錐よりも切頭体の体積を求めることに興味を持っていたと思われる。例えばバビロニアの数学粘土板 BM 85194 には、城塞の壁の一部である台形状の部分の体積を求める計算が刻まれている。

第14問題では、上面が1辺の長さ2の正方形で、底面が1辺の長さ4の正方形、高さが6の正四角錐台の体積を求めている。その解は56と記されていて、正しい解である。

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解法は次のように書かれている。「正四角錐台は高さが6、底面の辺が4、上面の辺が2である。4を2乗して16となる。4を2倍して8となる。2を2乗して4となる。16と8と4を足して28を得る。6の1/3を求め2を得る。28を2倍して56を得る。この56が正しい解である」[8]

式で表すと次のようになり、正しい式である。

すなわち、古代エジプト人は正四角錐台の正しい体積の公式を知っていたとわかる。高さを h、底面の辺を a、上面の辺を b とすると、次のような公式となる。

古代エジプト人がどのようにして正しい公式にたどり着いたのかは不明である。バビロニア人は、上面と底面の面積の平均をとり、それに高さをかけるという間違った計算法を採用していた[9]

不思議なことにモスクワ数学パピルスに最初に注釈をつけた Touraeff は、この第14問題が任意の切頭体の体積を与える公式を示していると考えた[10]。次に示したその公式は、モスクワ数学パピルスが記されてから3000年間知られていなかったものである(Aは底面の面積、Bは上面の面積)。このような見方をするのは Touraeff だけではない[11]

正四角錐台の体積を正しく求めていることから、これを積分法の起源とする見方もある[12][13]

関連項目

脚注・出典

参考文献

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