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フタバガキ科(フタバガキか、学名: Dipterocarpaceae)は双子葉植物の科。東南アジアを中心に分布する高木で熱帯雨林を代表する一群である。
和名フタバガキの由来はカキノキ(Diospyros kaki, カキノキ科)樹木と形態的な特徴が類似している点から来ているといわれる。どの点が似ているかということについては、果実説と葉説がある。果実説ではカキノキと果実が似ており、およびその実には羽のような葉が2枚付くことといわれている[1]。このため漢字表記は二葉柿、もしくは双羽柿などとなる。学名 Dipterocarpaceae も同じ特徴に由来しギリシア語で「二枚の羽根」という意味。ただし、後述のように果実に付く羽の数については種によって差があり、必ずしも2枚とは限らない。また、葉が類似説ではフタバガキ科は多くの種類で葉に光沢を持ち、縁には鋸歯を持たない点などがカキノキの葉に似ており、カキノキの葉に瓜二つだからというものである。いずれの説にしてもカキノキと似ていることからの命名である。
樹形は種や環境によって左右されるが真っ直ぐな明瞭な主幹を持ち、樹冠は丸くなるものが多い。樹高は20 m未満の種もあるが、多くは40 mから場合によっては60 mに達する。フタバガキ科の葉は光にかざしたときに葉脈が明確に見える「異圧葉」という葉を付ける。これは柵状組織の間に透明な部分があることで、葉の全体に水を行きわたらせる能力と光の透過性に優れ効率的な光合成に寄与しているのではと考えられている[2]。
果実は2枚、3枚もしくは5枚の葉と一緒に落ちてくるもので、羽根突き遊びの羽根によく似ている。果実に付いている葉は風を受けて種子の分散にいくらか役に立っているといわれているが、無風条件下では親木からせいぜい40 mという結果もある[3]。種子自体には翼を持たず葉と一緒に落下するという植物にはほかにニレ科のケヤキ属などが知られているが、フタバガキ科とは葉の落ち方が異なる。
花の突起には時計回りに渦を描くようなものと反時計回りのものがあり、分類にも活用されていたが、近年の分子生物学的な手法では突起の向きによる分類は否定されている。
フタバガキ科には常緑樹が多いが、インドシナ半島北部など明確な乾季のある気候の地域(熱帯季節林や温帯林)に生える種には落葉するものもある。樹高が大きいことから森林の最上層を構成することも多い。本科では一斉開花と一斉結実という現象が見られることで知られる。一斉開花に至る仕組みはよくわかっていなかったが、一定期間の乾燥と低温が開花の引き金になることがわかってきた[4]。密集する森林の上層木を構成する個体では隣接するもの同士と樹冠が重ならず、僅かな隙間が見られることがあり、「樹冠の譲り合い」(英: crown shyness)などと呼ばれる。これは樹木が譲り合って太陽光を分け合っているなどともいわれてきたが、実態は強風を受けて樹冠が揺れることで隣接する樹冠と接触してしまうので成長しないのだとされる。
花は虫媒花で花粉の媒介に重要な役割を果たす昆虫は種類によっても異なるが、一般に想像するようなハチやチョウではなく小型の昆虫であるアザミウマや甲虫類とされる。アザミウマは飛翔能力が高くないので、花粉の媒介者としては花に集まったアザミウマを狙う肉食のカメムシなども関与すると見られている。
フタバガキ科の種子は一般に難貯蔵性(英:recalcitrant seed)で乾燥や低温に弱く、強い直射日光の当たる場所に落ちた種子は死滅してしまう。また、一部には毎年結実する個体もいるが、一斉開花・結実する年でないと虫害による不良種子がほとんどだという[5]。
熱帯の樹木の根は菌類と共生し菌根を形成する場合には、アーバスキュラー菌根を形成するものが多いが、フタバガキ科のいくつかの属では温帯のマツ科やブナ科の樹木と同じく外菌根を形成する。本科の苗畑もしくは山火事跡地においてはニセショウロ属(Scleroderma)菌類が優先しているが、林内ではまた違う種類の菌類であるという[6][7]。
仏教では釈迦が死去(入滅という)したときに生えていた木が本科サラノキ属(Shorea)のサラソウジュであったということから、復活・再生の象徴として扱われる。日本ではこの釈迦の話をもとにした平家物語の冒頭部分「祇園精舎の鐘の聲、諸行無常の響あり。沙羅雙樹の花の色、盛者必衰の理をあらはす。驕れる人も久しからず、唯春の夜の夢の如し。猛き者もつひには滅びぬ、偏に風の前の塵に同じ。」という文章でよく知られている。 インドネシアでは自国の自然を代表する植物として、動物であるサイとともに描いた切手が発行された。
フタバガキ科サラノキ属やパラショレア属の木材は総称でラワン材やメランティ材、またウルシ科やマメ科などの熱帯の樹木と総称して南洋材などと呼ばれ利用される。その木材は樹種によって多少異なるが、一年中暖かい熱帯で育つために年輪が不明瞭で、耐久性は中程度かやや低いと評されるものが多い。一部の樹種は細胞中にシリカの結晶を含むために硬く、切削の刃物を傷めてしまうこともあるという。細胞中にシリカを含むのは本科に限らず熱帯の樹木にはしばしばみられる特徴となっており、ウルシ科の一部の種でも知られている。フタバガキ科はほかにも属ごとに総称を持つ傾向があり、メルサワ(メルサワ属 Anisoptera)、アピトン(クルインとも; フタバガキ属 Dipterocarpus)、カポール(リュウノウジュ属)、メラワンおよびギアム(以上2つともホペア属)の材も利用される[8]。
日本では丸太をかつらむきにして張り合わせた合板にしたうえで、内装材や家具やコンクリートを流し込む型枠として使ったという。特にコンクリート型枠としては安いうえに頑丈で繰り返し使え、コンクリートの硬化不良を起こしづらい木材であると高く評価されてきた。90年代以降は原産地での伐採規制や丸太の形での輸出ではなく、現地で加工した製品の輸出といった原産国での事情、国産材のスギやカラマツの合板利用に向けた研究と利用が進んだことなどから、輸入量特に丸太の形での輸入は減少している。南洋材丸太取り扱い最大手の大新合板工業(新潟市、オーシカの子会社)が2021年3月で事業を停止し解散することを発表する[9]など、今後も丸太の形での輸入し国内で製材や加工する形での利用は減少していく流れとなっている。
無計画な伐採や違法伐採による個体数の減少も深刻な種もある。天然林資源の伐採だけに頼らず、種子から苗木を育て植栽する人工林施業も進められている。前述のように難貯蔵性種子かつ、一斉開花・結実する年にしか虫害のない優良な種子を集めることが困難であることもあり、挿し木等による無性繁殖についても研究が進められている。このようにフタバガキ科は苗木の安定供給や生育速度に難があることから、伐採跡地に外来種のユーカリなどの成長が早く苗木も安定して供給できるような樹木を植えてしまうことも多く環境破壊の一種として問題になっている。
フタバガキ科の樹脂はダンマル樹脂(ダンマーと綴られることもある。英: dammar gum)といい、特にサラノキ属(Shorea)やホペア属(Hopea)で採取される。油絵を描くときに使うほか、インドネシアやマレーシアでの伝統的な染物であるバティック(batik)ではこの樹脂を生地に塗ってから染料に漬けることで、樹脂を塗られた部分だけ染料を弾き模様が描かれる。このような技法をろうけつ染め(英: Resist dyeing)などと呼ぶ。
種子を乾燥させた後油を搾り、調理油やココアバター(カカオバター)の代替品として製菓原料などに使うことがある。特にサラノキ属(Shorea)の一部の種から取れるものが有名で、ボルネオではテンカワン (tenkawang) やイリッペナッツ(illipe nut)と呼ばれている。なお、イリッペナッツといった場合は同じく油脂を取るアカテツ科の樹木を指す場合もあるという[10]。
クロンキスト体系の分類ではツバキ目に入れるが、APG植物分類体系ではアオイ目に移している。下位分類は下記のように2亜科に分かれる。分類情報および分布情報は Plants of the World Online に従う[11]。
13属480種程度を含む最大の亜科である。
和名未定の亜科。アフリカに2属30種未満程度、南米に1属1種が知られている。
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