Loading AI tools
ウィキペディアから
アブシシン酸[注釈 1](アブシシンさん、アブシジン酸、英: abscisic acid、ABA)は、植物ホルモンの一種[1][2]。構造的にはセスキテルペンに属する。休眠や生長抑制、気孔の閉鎖などを誘導する。また乾燥などのストレスに対応して合成されることから「ストレスホルモン」とも呼ばれる。分子式C15H20O4。CAS登録番号は [21293-29-8]。
(S)-(+)-アブシシン酸 | |
---|---|
[S-(Z,E)]-5-(1-Hydroxy-2,6,6 -trimethyl-4-oxo-2-cyclohexen- 1-yl)-3-methyl-2,4-pentanedienoic acid | |
別称 アブシジン酸 アブシシンII ドルミン | |
識別情報 | |
略称 | ABA |
CAS登録番号 | 21293-29-8 |
PubChem | 5280896 |
ChemSpider | 4444418 |
日化辞番号 | J9.144H |
| |
| |
特性 | |
化学式 | C15H20O4 |
モル質量 | 264.32 g mol−1 |
外観 | 結晶(CHCl3あるいは石油エーテルより) |
融点 |
160 °C, 433 K, 320 °F |
沸点 |
120 °C (sublimes) |
溶解度 | アセトン、エタノール、CHCl3に可溶 |
比旋光度 [α]D | +411.1 (c = 1, EtOH, 20 °C) |
特記なき場合、データは常温 (25 °C)・常圧 (100 kPa) におけるものである。 |
植物の休眠・生長抑制物質に関する研究は1950年代から1960年代にかけて精力的に行われた[3]。 1961年、LiuとCarnsはワタの葉柄から単離した落葉促進物質をabscission(葉などの離脱)にちなみ「アブシシン (abscisin)」と命名した[4][5]。1963年には大熊和彦らがワタ未熟果実から同様の物質を単離し「アブシシンII (abscisin II)」と命名した[6]。同じく1963年に、イーグルス (Eagles) とウェアイング (Wareing) は、ヨーロッパダケカンバ (Betula pubescens) に含まれる出芽休眠物質を「ドルミン(dormin)」(休眠 dormancy にちなむ)と命名した[7]。
1965年に、アブシシンIIの構造がアディコット (Addicott) らによって提唱され[8]、同年にコーンフォース (Cornforth) らは、カエデ葉からドルミンを単離し、構造解析および全合成によってアブシシンIIと同一物質であることを明らかにした[9][10]。絶対立体配置はコーンフォースらによって1967年に決定された[11]。
名称の混用を避けるために、1967年の第6回国際植物生長物質会議 (IPGSA) において、化合物名を「Abscisic acid(アブシシン酸)」、略称を「ABA」と統一することとなった[12][13]。
なお、現在では、正式な日本語表記は「アブシシン酸」であるとされているが[14]、「アブシジン酸」「アブサイシン酸」と呼ばれることも依然として多くある。
高等植物におけるアブシシン酸生合成は、ピルビン酸とグルタルアルデヒド3-リン酸(いわゆる非メバロン酸経路)からカロテノイド、キサントキシン、アブシシンアルデヒドを経由して合成される経路(間接経路)が主であると考えられている[15][16]。合成経路のカロテノイドまでは色素体内、キサントキシンから後は細胞質内での反応である。このなかで、カロテノイドからキサントキシンが生成される反応を触媒する、9-シス-エポキシカロテノイドジオキシゲナーゼ (NCED) がアブシシン酸生合成の主な律速酵素であると考えられている。
アブシシン酸を生産する植物病原菌もいくつか知られている[17]。これらの菌におけるABA生合成経路は植物とは異なり、メバロン酸経路によりイソペンテニル二リン酸 (IPP) を合成し[18]、カロテノイドを経ずファルネシル二リン酸(炭素数15)からアブシシン酸を生合成する直接経路が主であるが[15][19]、カロテノイド経路を持つ種もある。直接経路におけるファルネシル二リン酸以降のABA生合成は種によって様々な経路が知られている。
2006年以降、植物においていくつかのABA受容体が報告されたが[20][21][22]、ABAの機能に関連する役割については論争があった[23]。2009年に、PYR/PYL/RCARタンパク質として知られるタンパク質ファミリーが、有力なABA受容体であることが報告された[24][25]。
この受容体の発見をきっかけに、ABAのシグナル伝達経路の解明が急速に進んだ[26]。通常、植物では2C型タンパク質脱リン酸化酵素 (PP2C) が、キナーゼ(リン酸化酵素)SnRK2 (SNF1-related protein kinase 2) を脱リン酸化し不活性状態としている。ABAが受容体であるPYR/PYL/RCARタンパク質に結合すると、PYR/PYL/RCARタンパク質とPP2Cが複合体を形成し、PP2Cによる脱リン酸化が外れてSnRK2が活性型となる。活性型SnRK2は下流のロイシンジッパー型転写因子をリン酸化して活性化し、ABA-responsive promoter element (ABRE) の制御下にある関連遺伝子が転写される[23][27]。
アブシシン酸は高等植物のほかにコケ、緑藻、また藍藻と一部の植物病原菌からも見出されており、コケと緑藻では生長抑制作用が明らかにされている。また苔類(コケ)に多量に含まれるルヌラリン酸(lunularic acid、構造がアブシジン酸にやや似る)についても類似作用が示されている[28][29][30]。
Seamless Wikipedia browsing. On steroids.
Every time you click a link to Wikipedia, Wiktionary or Wikiquote in your browser's search results, it will show the modern Wikiwand interface.
Wikiwand extension is a five stars, simple, with minimum permission required to keep your browsing private, safe and transparent.