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2009年アメリカ復興・再投資法(2009ねんアメリカふっこう・さいとうしほう、英語: American Recovery and Reinvestment Act of 2009、略称ARRA)(Pub.L. 111–5)、通称景気刺激策 (the Stimulus)、復興法 (The Recovery Act) は、アメリカ合衆国第111議会において2009年2月に制定され、バラク・オバマ大統領が2009年2月17日に署名して成立した、景気刺激対策法である。
正式題名 | 雇用の維持および創出、社会基盤への投資、エネルギー効率と科学、失業者への援助、2009年9月30日までの会計年度において州と地方自治体の財政安定と、そのほかの目的のために追加の歳出を行う法律 (An act making supplemental appropriations for job preservation and creation, infrastructure investment, energy efficiency and science, assistance to the unemployed, State, and local fiscal stabilization, for the fiscal year ending September 30, 2009, and for other purposes) |
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頭字語(口語) | ARRA |
通称 | 復興法 (The Recovery Act)、景気刺激策 (Stimulus)、景気刺激パッケージ (The Stimulus Package) |
制定議会 | アメリカ合衆国第111議会 |
施行日 | 2009年2月17日 |
引用 | |
一般法律 | 111-5 |
Stat. | 123 Stat. 115 |
立法経緯 | |
ARRAの主な目的は、2000年代後期の大不況に対応して、できるだけ早く雇用を維持・創出することであった。2次的な目的は、大不況でもっとも影響を受けた人々に一時的な救済策を提供し、社会基盤・教育・保健・再生可能エネルギーへ投資することであった。この景気刺激策の予算額は2009年から2019年までの間に、制定時点で7870億ドル、後に8310億ドルと見積もられた[1]。法律には、社会基盤、教育、保健、エネルギー、連邦税の優遇措置への直接的な支出と、失業給付の拡大やその他の社会福祉の提供が含まれている。ARRAの理論的裏付けはケインズ経済学にあり、不況に際しては雇用を維持しさらに経済が衰退するのを防ぐために、政府は公的支出を拡大することで、民間の支出減少を相殺するべきだというものである。しかし法律が通過して少し後に、ノーベル経済学賞受賞者のポール・クルーグマンは、この法律を支持しつつも、「民間の支出減少の3分の1もカバーできていない」として、あまりに規模の小さすぎる景気刺激策だと批判した[2]。
法案の上院案および下院案はどちらも、主に民主党の議会委員会の指導者とスタッフによって書かれた。法案関連の作業はオバマ大統領が2009年1月20日に政権を引き継ぐ前に開始されていたため、オバマ次期大統領の首席補佐官らは委員会の指導者やスタッフたちと複数回の会合を開催した。2009年1月10日にオバマ次期大統領の運営陣は、検討中の典型的な景気刺激策による雇用への影響の予備的な分析を示した報告書を発行した[3] 。
下院の法案H.R. 1は、2009年1月26日に提出された[4]。法案は下院歳出委員会の委員長である民主党のデイヴ・オウビーが提案者となり、他に9人の民主党議員が共同提案者となった。1月23日に下院議長のナンシー・ペロシは、2009年2月16日までにはオバマ大統領に署名を求めて提出できるように審議が進んでいると述べた[5]。本会議での投票には206の修正案が提案されていたが、そのうち11のみが採用され、これにより法律の迅速な成立が可能となった[6]。
2009年1月28日に下院では、賛成244、反対188により法案が可決された[7]。民主党議員は11人を除いて賛成したが、177人の共和党議員は反対した(共和党の1人は投票しなかった)[8]。
上院の法案S. 1は2009年1月6日に提案され、後に下院法案の修正案S.Amdt. 570に置き換えられた。法案は、上院少数党院内総務のハリー・リードが提案者となり、他の16人の民主党議員と民主党会派に加わってはいるが無所属のジョー・リーバーマンが共同提案者となった。
上院は2009年2月2日の週に2750億ドルの税引当の件から法案審議を開始した[5]。上院案と下院案の重要な相違点は、代替ミニマム税の修正の1年延長を含めるかどうかで、これにより法案の予算総額は700億ドルの増額となるものであった。
共和党議員は、減税を増やし社会基盤以外に関連した支出を減らすようにする修正案をいくつか提案した[9]。共和党議員は、社会基盤への支出を増額し、住宅税額控除を7,500ドルから15,000ドルに倍増させ、またその適用を初回のみではなくすべての住宅購入者に拡大することを強く求めており、オバマ大統領と上院民主党議員は共和党議員の提案に妥協する用意があると示唆していたものの、結局法律に組み入れられることはなかった[10]。他に検討された修正案としては、2009年自由法、上院財務委員会のマリア・キャントウェル(民主党)とオリン・ハッチ(共和党)の提案した電気自動車への税制優遇措置を含めること[11]、共和党のジム・デミントの提案した「宗派的な教育、宗教上の礼拝、神学校または神学部、あるいは施設の機能の本質的な部分に宗教上の役割が含まれるもの」への支出を禁じる文言を法案から削ること[12]などがあった。
上院は、オバマ大統領の強い後押しを受けて2月7日に特別土曜討論会を開催した。上院は法案に関する議事を打ち切って法案自体の採決を行うために本会議に送るという動議を2月9日に採決し、61対36(棄権2)で可決した[13] 。2月10日に、上院は61対37(棄権1)で可決した[14]。民主党議員は全員が賛成したが、共和党議員は3人のみ(スーザン・コリンズ、オリンピア・スノー、アーレン・スペクター)が賛成し、このうちスペクターは後に民主党に転じている[15]。この時点で、上院の法案の予算額は8380億ドルであった[16]。
オバマの原案により近かった下院の法案に対して、上院の共和党議員は前代未聞の水準の法案修正(ほぼ1500億ドルに達する)を行った。修正でもっとも大きな損をしたのは州政府[17](財政安定基金を厳しく制限した)と低収入労働者(税額控除を削減した)で、これに対して利益を得たのは高齢者(オバマ原案および下院法案ではほとんど除外されていた)と高収入の納税者であった。上院が可決した8270億ドルの経済再建策と下院が可決した8200億ドル、そして両院協議会で最終的に可決した7870億ドルの策は、この額の中でもさらに大きな違いがある。追加の債務が10年余りにわたって3500億ドル追加された。多くの歳出は2年で期限切れとなる[18]。
上院案と下院案で主な歳出先の違いとしては、上院案でより多く支出するのが保健対策(1533億ドル対1400億ドル)、再生エネルギープログラム(740億ドル対394億ドル)、住宅購入者税額控除(355億ドル対260億ドル)、高齢者への新たな支払いと代替ミニマム税期限の1年延長である。下院案が多く支出するのは教育(1430億ドル対1191億ドル)、社会基盤(904億ドル対620億ドル)、低所得労働者と失業者への支援(715億ドル対665億ドル)である[16]。
議会の交渉者は、2月11日には議会合同協議会報告を完成させていたと述べている[27]。2月12日に下院院内総務のステニー・ホイアーは、法案内容の文言調整が終わっておらず、下院の民主党議員は採決する前に48時間の公開査読期間を設けると事前に約束していたのであるが、翌日には法案の採決を行うとした。最終的な手書きの条項を含んだ報告書はその夜に下院のウェブサイトに掲載された[28][29]。2月13日に、報告書は下院を246対183で通過した。賛否はおおむね党派に基づいており、賛成246票はすべて民主党議員で、反対は176票が共和党、7票が民主党であった[30][31][32]。
上院は60対38で法案を可決した。すべての民主党議員と独立派、そして共和党議員3人が賛成した。2009年2月17日にバラク・オバマ大統領が署名して最終的に法律が成立した。
アメリカ復興・再投資法第3章では、提案の背景となる基本意図を示している。この目的説明には以下のようなものがある。
この法律では、全体の37パーセント、2880億ドル相当が税制優遇措置に用いられ、18パーセント、1440億ドル相当が州と自治体の財政支援に(州への支援の90パーセント以上はメディケイドと教育に用いられる)用いられると規定している。残りの45パーセント、3570億ドル總統は運輸・通信・汚水処理設備改善・連邦政府ビルや私有建物のエネルギー効率向上、連邦失業給付の拡大、科学研究プログラムなどの連邦政府支出に割り当てられる。
最終的な法律の各部分の詳細を以下に示す[33][34][35][36]。
総額2880億ドル。
総額2370億ドル。
総額510億ドル。
ARRAでは経済的および臨床的健全性のための健康情報技術に関する法律(通称HITECH法)の立法が含まれていた[38]。
健康管理に関する支出の総額は1551億ドルである[39]。
総額1000億ドル。
総額822億ドル。
総額1053億ドル。
総額481億ドル[41]、一部はTIGER(経済復興を実現する運輸収入、Transportation Income Generating Economic Recovery)助成金の形で。
総額180億ドル[42]。
総額72億ドル。
総額105億ドル。
総額272億ドル。
総額147億ドル[47]。
総額76億ドル[要出典]
総額106億ドル。
ARRAには保護貿易的なバイ・アメリカン条項が含まれており、この新しい景気刺激策の資金を使った公共の建物や公共事業に対して、アメリカ合衆国内で生産された鉄鋼やその他の製品を使う一般的な要求を課している。
2009年5月15日のワシントン・ポストが報じるところによればこのバイ・アメリカン条項はカナダの実業界を憤慨させており、カナダ政府はアメリカとの通商に制限を加える立法を行って報復するとした[50]。カナダ地方自治体連合会議の代表たちは2009年6月6日に、カナダの都市の公共契約へのアメリカからの応札者を潜在的に排除する決議を採択し、スティーヴン・ハーパー首相によるバイ・アメリカン条項への反対への支援を表明した。連盟代表でシェルブルック市長のジャン・ペローは、「このアメリカの保護主義的な政策はカナダ企業を害し、カナダの雇用を犠牲にし、世界的な景気後退期において成長しようとするカナダの努力を損なう」と表明した。2010年2月16日に、アメリカ合衆国とカナダは、カナダ経済を損なう恐れのあるバイ・アメリカン条項をカナダ企業への適用を除外することで合意した[51][52]。
マーティン・フェルドシュタイン、ダロン・アシモグル、アメリカ合衆国国家経済会議委員長のローレンス・サマーズ、ノーベル経済学賞受賞者のジョセフ・E・スティグリッツ[53]、ポール・クルーグマン[54]といった経済学者らは、経済の後退を補うより大きな景気刺激策を望んでいた。フェルドシュタインは景気刺激策に対して賛成しつつも、実際の法案について、より直接的に消費者の消費拡大や失業対策に取り組むように改訂する必要があると関心を表明した[55]。法律が成立した直後、クルーグマンは問題に対応するには刺激策は小さすぎると書き、「政治的判断により刺激策の規模が小さくなり、オバマ大統領が超党派の支援を得ることを期待して本来含まれるべき減税策よりも多くの減税を含むものとなったと広く信じられている」と付け加えた[56]。保守的な経済学者であるジョン・ロットは政府の支出に対してより批判的であった[57]。
2009年1月28日に、オバマ大統領の計画に反対するおよそ200人の経済学者の名前で、ニューヨーク・タイムズとウォール・ストリート・ジャーナルに全面広告が掲載された。これにはノーベル経済学賞受賞者のエドワード・プレスコット、バーノン・スミス、ゲーリー・ベッカー、ジェームズ・M・ブキャナンといった人たちが含まれていた。これらの経済学者たちは、オバマ大統領の引用した「経済を復活させる復興計画という政府の介入を我々が必要としていることについては、反対する者はいない」という言明を否定した。その代りに、署名した人たちは「経済を改善するためには、働き、貯蓄し、投資し、生産するための障害を除去する改革に政策策定者が焦点を置かなければならない。成長を促進するための最良の財政政策の使い方は、税率を下げ、政府の重圧を減らすことである」と信じていた[58]。この広告の資金は、ケイトー研究所が提供している[59]。
2009年2月8日、アメリカ進歩センターが執筆し、景気刺激策に賛同する約200人の経済学者が署名した手紙が議会に送られた。その中では、オバマ案は「国家に損害を与える雇用喪失の克服の第一歩となる重要な投資を提案している」とし、また「合衆国を持続可能で長期的な成長の道に戻す」だろうとした[60]。この手紙には、ノーベル経済学賞受賞者のケネス・アロー、ローレンス・クライン、エリック・マスキン、ダニエル・マクファデン、ポール・サミュエルソン、ロバート・ソローらが署名した。ニューヨーク・タイムズは、IHSグローバル・インサイト、Moody's.com、Economy.com、マクロエコノミク・アドバイザーズなどの見積もりを掲載し、それによればARRAなしでは経済はさらに悪化していたかもしれないと示唆している[61][62]。
2009年2月4日の議会予算局の報告では、この景気刺激策は短期的には経済的な結果と雇用の面での増加をもたらすが、議会予算局の見積もった基準に比べると2019年時点で国内総生産 (GDP) は0.1パーセントから0.3パーセントの範囲で減少すると見積もった[63]。
議会予算局は、この法律の制定により連邦予算の赤字額は、2009会計年度の残りの期間に1850億ドル、2010会計年度に3990億ドル、2011会計年度に1340億ドル、2009年から2019年の期間の総計では7870億ドル増加すると見積もった[64]。
2月11日の報告書では、議会予算局の局長ダグラス・エルメンドルフは、この景気刺激策の有効性については経済学者の間でも意見が相違しており、何らかの重要な効果があるか懐疑的な者もいれば、非常に大きな効果を期待している者もいると指摘した[65]。エルメンドルフは、議会予算局では短期的にはGDPと雇用の増加を見積もっていると述べた[65]。長期的には、議会予算局ではこの法律により政府の債務が増加し民間投資をクラウディングアウトすることによって生産をわずかに押し下げると見積もるが、しかし道路の改良や基礎研究や教育への支出増加といったその他の要素がこの生産減少を相殺するかもしれないとし、また需要の減少に伴って民間の投資は既に減少しているので、短期的にはクラウディングアウトは問題ではないかもしれないともした[65]。
議会予算局は、GDPは2009年末までに1.4パーセントから3.8パーセント増加、2010年末までは1.1パーセントから3.3パーセント増加、2011年末までは0.4パーセントから1.3パーセント増加、2014年以降は0から0.2パーセントの減少と見積もった[65]。雇用への影響は、2009年末までに80万人から230万人増加、2010年末までに120万人から360万人増加、2011年末までに60万人から190万人増加、そして以降の年はアメリカ合衆国の労働市場がほぼ完全雇用状態に近づくため増加幅は減少するが、決してマイナスにはならないと見積もった[65]。2014年以降のGDPの減少はクラウディングアウトによるもので、政府の負債の増加が本来投資にまわっていたであろう資金を吸収するためである[65]。経済学者のスティーブン・マーグリンとピーター・シュピーグラーによる2013年の研究では、議会予算局の推定通りに景気刺激策がGDPを引き上げたことが示された[66]。
2009年5月21日、ワシントン・ポストの記事では「景気刺激策の支援のために、オバマ大統領は前例のない透明性を実現すると公約し、Recovery.govにおいて納税者は資金を細かく追跡できるようにすると述べた。しかし法律に署名されて3か月経った時点で、Recovery.govはニュースリリースや支出の概要、略語で埋められた表や年表以上のものをほとんど提供していない」と述べていた。同じ記事では、「政府のウェブサイトと異なり、民間が運営するRecovery.orgは7870億ドルに上る景気刺激策の資金がどのように使われているか詳細な情報を実際に提供している」ともしている[67]。
ウェブサイトに関する誤りの報告は全国ニュースとなった。このニュースによれば、Recovery.govは実在しない選挙区への資金配分を報告していた[68][69]。
2010年1月に、推定950万ドルをかけてRecovery.govは再設計された[70]。法案のうち、Recovery.govの設立と運営を意図した条項の部分は、法律自体が成立する以前に既に成立していた。ウェブサイトの構造・保守・監督を定める条項である第1226章は法律により定められている。景気刺激策の資金を扱っている組織に対して、法案で定めたどの活動に資金が使われているかを結びつけられる、最終的にRecovery.govで公開されることになる詳細な報告書を提供するように指示がなされている。
2009年7月20日、ドラッジ・レポートはRecovery.org上のページにリンクを張った上で、アメリカ合衆国農務省がモッツァレラチーズや冷凍ハム、缶入り豚肉などの何十万から百数十万ドルにも達する高額な契約を結んでいたと主張した。同日農務省が発表した声明ではこの主張の誤りを正し、「2ポンドのスライスされた冷凍ハムとあるのはパッケージのサイズを指している。2ポンドのハムを買うために119万1000ドルを費やしたというメディアの報道は誤っている。実際のところ、問題視されている契約では76万ポンドのハムを119万1000ドルで購入したもので、1ポンド当たり約1.5ドルである」とした[71]。
議会予算局は2009年10月に、2008年と2009年の赤字額(それぞれ4600億ドルと1兆4100億ドル)の変化の理由を報告した。議会予算局は、ARRAの結果として2009年に赤字額が2000億ドル増加したと見積もった。減税と追加歳出がほぼ半々であるが、ARRAの影響を受けた経済からの歳入への影響については含めていない[72]。
2010年2月12日に、経済報告を定期的に発行している労働統計局は、2000年以降の月ごとの失業数のデータを発表した[73]。民主党全国委員会のプロジェクトを組織しているコミュニティである、オーガナイジング・フォー・アメリカ (OFA) は、2007年12月以降の労働統計局のデータを示した表を準備した。OFAはこの表を用いて、「ARRAの結果として、失業数はARRAの開始される前である1年前に比べればわずかである」と主張した[74]。一方で、失業というのは不況の初期には常に増加するものであり、政府が景気刺激策を行っても行わなくても自然に減少するものであって、OFAが示した表はミスリーディングである、と主張する者もいた。
景気刺激策の主な正当化として、オバマ政権と民主党の支持者たちは2009年1月に、ARRAがあった場合となかった場合の推定した失業率を示す表を発表した[3]。このグラフは、もしARRAが制定されていなければ失業率は9パーセントを超えていたであろうことを示し、一方でARRAが制定されれば8パーセントを超えることはないとした。ARRAが制定された後、実際の失業率は2009年2月に8パーセントを超え、2009年5月に9パーセントを超え、2009年10月には10パーセントを超えた。2011年6月には失業率は9.2パーセントであったが、ARRAが制定されていた時の推定失業率は7パーセント未満であった。しかし民主党支持者たちは、これはARRAが計画された時点のいかなる推計よりも実際の景気後退がかなり大きなものであったことを結果的に明らかになったことが理由であると主張した。
2009年3月の全米企業エコノミスト協会による産業調査によれば、2009年2月に制定された法律による財政出動を検討した協会所属のエコノミストのうち70.6パーセントは、財政出動は景気後退を短縮させるのに中程度から強い影響を持っていたと推計し、29.4パーセントは影響が少ないかほとんど影響がなかったと見積もった。景気刺激策の各要素のうちで、全米エコノミスト協会がもっとも効果的であったと推定したものは、社会基盤投資、失業給付の延長、個人減税である[75][要文献特定詳細情報]。
景気刺激策実施の1年後、ムーディーズやグローバル・インサイトのようないくつかの独立系経済関連企業は、景気刺激策により160万人から180万人分の雇用が維持または創出されたと見積もり、景気刺激策が完了するまでの間に250万人分の雇用への影響があると予測した[76]。議会予算局はこれらの推計は保守的であるとみなしている[76]。議会予算局は、2009年第4四半期で210万人の雇用を維持したと自身の持つモデルに基づいて見積もり、経済を最大3.5パーセント加速させ、失業率を最大2.1パーセント押し下げたとしている[77]。議会予算局は、2010年には景気刺激策はさらに大きな効果を持つと推計している[77]。議会予算局はまた、「報告された雇用件数のうち、どれだけが景気刺激策無しでも存在していたかを推計するのは不可能である」とした[78]。2010年第1四半期に関する議会予算局の報告書では、雇用の創出が280万人分、GDPの増加が4.2パーセントとプラスの効果が維持されていることを示した[79]。一方で、ウェスタンオンタリオ大学の経済学者ティモシー・コンリーと、オハイオ州立大学の経済学者ビル・デューパーは、州レベルの変化を用いて推計し、景気刺激策により45万人分の政府機関の雇用を維持または創出した一方で、民間の100万人分の職を喪失させあるいは創出を妨害したとし、総計では職を減らしたとした[80]。コンリーとデューパーの分析は、一見して統計的に見当違いの分析であるとして批判されている[81][82][83]。他の研究者たちは、景気刺激策の雇用への影響について有意に肯定的な結論に至っている。連邦準備制度の経済学者ダン・ウィルソンは、似たような方法論を指摘されている誤りを犯さずに用いたが、「ARRAによる歳出は最初の年に約200万人分、2011年3月までに300万人分以上の雇用を創出または維持した」と推計した[84]。
議会予算局は同様に、法律の長期的な影響分析を評価した。2014年以降、この景気刺激策は経済を0から0.2パーセント減速させると見積もっている。一方でどの時期にも雇用に対してはマイナスの影響を持たないと推計されている[85]。
2011年にアメリカ合衆国商務省は、以前に出していた推計の見直しを行った。経済学者のディーン・ベイカーは
見直されたデータによれば、リーマン・ショック後の半年において我々が以前認識していたよりもさらに急速に経済が落ち込んでいたことを示している。景気刺激策が実施された直後の2009年第2四半期に経済の落ち込みは止まった。この後4四半期に渡ってかなりの成長が続いた。2010年末から2011年初めにかけて、景気刺激策の効果が薄れ始めた影響により成長は再び鈍化し始めた。言い換えれば、見直されたデータによって示された成長のパターンは、景気刺激策が功を奏したことを明らかにしている。主な問題は、景気刺激策の規模が充分に大きくなく、経済が本来の成長力に戻るまで十分な期間にわたって刺激を続けることができなかったということである。[86]
と述べた。
民主党議会選挙運動委員会は、ARRAに反対しておきながら自分の選挙区ではARRAによる景気対策の成果を自分の手柄と主張した、共和党の議員を「偽善の殿堂」と称する一覧にして公開した。2011年9月現在、民主党議会選挙運動委員会は128人の共和党下院議員をこの一覧に載せている[87]。ニューズウィークは、公式には景気刺激策では雇用は創出されないと論じていた共和党議員の多くが、この景気刺激策で雇用が創出されることを理由として自分たちの選挙区に景気刺激策を行うように求める手紙を書いていたと報じた[88]。
この景気刺激策は、規模が小さすぎると批判されてきた。2010年7月、40人の有名な経済学者が、失業を減らすためにさらに拡大した景気刺激策を求める声明を発表した。彼らはまた、赤字の削減が優先であるという見方に疑問を投げかけた。「需要の慢性的で基本的な不足に対処せずに赤字の削減を最初の目標とすることは、1930年代の過ちとまったく同じである[89]」
2010年7月にホワイトハウスの大統領経済諮問委員会は、景気刺激策により「2010年第2四半期の時点で250案人分から360万人分の雇用が維持または創出された」と推計した[90]。その時点で、景気刺激策による支出額は合計2570億ドル、減税額は2230億ドルであった[91]。2011年7月に大統領経済諮問委員会は2011年第1四半期時点の推計を行い[92]、ARRAはそれを実施していなかった場合に比べると240万人分から360万人分の職を維持または創出したとした。この時点での支出額と減税額は合計6660億ドルであった。単純な数学的計算をすれば、ARRAは1人の雇用のために185,000ドルから278,000ドルを納税者に負担させたと批判者は報告したが、この計算はこの結果として得られた恒久的な社会基盤のことは考慮に入れていない。
2010年8月に、共和党上院議員のトム・コバーンとジョン・マケインは、ARRAの支出による「もっとも無駄なプロジェクト」として100のプロジェクトを記した報告書を発行した。この2人が疑念を示したプロジェクトへの支出の総額は約150億ドルで、これは全体の8620億ドルに対して2パーセント以下であった。この2人は、景気刺激策は経済に良い効果があったと認めたが、雇用創出の点で最大の効果を得ることに失敗したと批判した。CNNは、この2人が指摘した異議は不明確な一部の事業について大まかな概要を示したもので、ジャーナリストたちはいくつかの点で彼らが誤った印象を抱いていると指摘した、と述べている[93]。
ARRAの主な目的の1つでまた約束でもあったこととして、雇用を創出する多くのすぐに取り掛かれる事業に着手するということがあった[94]。しかしながら、これらのプロジェクトのうちかなりの数、特に社会基盤に関連するものの大半については、実現までには多くの人が期待していたよりも長い時間がかかった[95][96]。これはおおむね、こうした事業に関わる法的な手続きに基づくものであった[要出典]。
アメリカ機会税額控除制度や勤労所得税額控除に関連するものを含めてこの法律に基づく税額控除のいくつかは、2010年減税・失業保険・雇用創出法に基づきさらに2年間延長された[97]。
2011年11月に、議会予算局はこの法律に関する以前の報告書を更新した。議会予算局は「2010年末には雇用への効果は減退し始め、2011年を通じて続いている」と述べた。にも拘らず、2011年第3四半期に議会予算局はこの法律でフルタイム相当の雇用を50万人分から330万人分増加させたと推計した[98]。法律の第1513章では、この法律の影響についての報告書は四半期ごとに発行されるとしていたが、最後に発行された報告書は2011年第2四半期についてのものであった[99]。2012年12月の時点で、アメリカ人の58.6パーセントが雇用中である[100][101]。
2013年に、リーズン・ファウンデーションはARRAの結果についての研究を行った。調査対象となった8,381の企業のうち、23パーセントのみが新しい労働者を雇用して事業が完了した時点までそれを維持していた。調査対象企業の41パーセントはまったく労働者を雇わなかった。30パーセントは政府からの資金支出が無くなるとすべての労働者をレイオフした[102]。こうした結果は、労働者をまったく雇わなかったり雇った労働者を最後まで保持しなかったりした企業のことを考慮に入れていないという点で、過去の雇用創出数の推計に疑問を投げかけるものとなった。
バイデン副大統領が監督役を担うことに加えて、高レベルの諮問機関として大統領経済復興諮問委員会(後に雇用および競争力に関する大統領諮問委員会と改称)が法案の成立と同時に任命された。
同様に、大統領は内務省監察官のアール・デバネーと復興説明責任・透明性委員会を法律の管理を監視させるために任命した[103]。他に11人の監察官が復興説明責任・透明性委員会のために働き、またこの委員会には復興独立諮問小委員会が置かれていた。
2011年末に、デバネーと委員会のために働く監察官たち、そして委員会と関係しない監察官たちは、ワシントンのオブザーバーの視点で見て、法律の監督に当たっていかなるスキャンダルも起こさなかったと認められた[104]。
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