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2000年代後半に日本の大阪府で発覚した、障害者団体向け郵便料金割引制度の不正利用事件 ウィキペディアから
障害者郵便制度悪用事件(しょうがいしゃゆうびんせいど あくようじけん)とは、2009年に大阪地方検察庁特別捜査部が、自称障害者団体「凛の会(白山会)」が厚生労働省障害保健福祉部企画課が発行した障害者団体証明を利用し、障害者団体向けの郵便料金の割引制度である「心身障害者用低料第三種郵便物制度」を悪用し、約100億円単位の不正減免を受けていたことで[1][2]、障害者団体・厚生労働省・ダイレクトメール印刷・通販大手「ウイルコ」・広告代理店「新生企業」「博報堂エルグ」・大手家電量販店「ベスト電器」・日本郵便支店長等の各関係者らが摘発された法人税法違反・郵便法違反・虚偽有印公文書作成事件[3][4][5][6]。
事件で被告人とされた者のうち郵便法違反の障害団体郵便料金減免制度悪用について、同制度利用郵便の93%[7]を占めていた自称障害者団体「凛の会」会長・倉沢邦夫、凛の会発起人&幹部である河野克史らは有罪判決を受けた。ただし、偽の障害者団体に厚生労働省障害保健福祉部企画課が障害者団体証明公文書を発行した虚偽有印公文書作成事件については、部下へ指示した共犯として誤認起訴されていた厚生労働省元局長・村木厚子(発行時:障害保健福祉部企画課長)だけでなく、郵便法違反で有罪判決を受けた倉沢邦夫、河野克史ら「凛の会」幹部も、村木元局長の部下である元厚生労働省障害保健福祉部企画課係長が2004年6月に単独で「凛の会」を障害者団体と認める公的証明書を偽造したと主張したため、同罪では彼以外は無罪となった。元厚生労働省障害保健福祉部企画課係長には、懲役1年執行猶予3年(求刑懲役1年6月)の有罪判決が下された[3][8][9]。
その後、村木を共犯として起訴したことが、「大阪地検特捜部主任検事証拠改ざん事件」に発展し、本事件の担当主任検事であった前田恒彦、および上司の元特捜部長・大坪弘道、元特捜部副部長・佐賀元明(いずれも当時の役職)の検事3人による、本事件での職務遂行が犯罪の疑いをかけられ、逆に最高検察庁に被疑者として逮捕されるという極めて異例の事態になった。
事件のポイントは、以下のものがある。
なお、この(3)は本来は「郵便制度悪用」とは無関係であるが、一体の事件として扱われることがあり、本記事でも述べる。
この事件はメディアにより、 郵便不正事件[10]、 郵便割引不正事件[11]、 障害者郵便制度悪用事件[12]、 郵便割引制度悪用事件[13]、 障害者団体向け郵便割引制度悪用事件[14][15] など、様々な名称で呼ばれている。
郵政省当時の1976年に発足し[16]、日本郵政公社を経て郵便事業株式会社に引き継がれた郵便制度として、第三種郵便という一定の要件をそなえた低料金の定期刊行物の内でも、発行人が心身障害者団体であること等の証明を得た場合、さらに低料金の郵便料金が適用される「心身障害者用低料第三種郵便物」の制度がある。例えば、本事件当時、重量200gの書籍はゆうメールだと210円、単なる第三種郵便の月刊誌では84円のところが心身障害者用の月刊誌であれば30円である[17]。このため、本来この扱いを受けないダイレクトメールを虚偽の申請により心身障害者用低料第三種郵便物と認定させることは、正規の郵便料金との差額を不法にまぬかれることで、郵便法第84条に違反する。
障害者団体とされる「凛の会」(白山会に改称)や「健康フォーラム」が、2006年~2008年ころ、ベスト電器、紳士服販売店、健康食品通販会社などのダイレクトメールを障害者団体の定期刊行物と装い、「心身障害者用低料第三種郵便物」として低価格で違法に発送して、通常のゆうメールの料金との差額(商品広告や商品販売を主たる目的とし、無料で発行されるダイレクトメールやカタログは第三種郵便物としての認可はない)[17]を数十億円単位で不正に免れたとされる郵便法違反事件である[12][1]。
大阪地検特捜部が公表した捜査結果では、障害者団体6団体の定期刊行物を装い、11社の広告主のダイレクトメール約3180万通が違法に発送され、正規料金との差額・約37億5000万円を免れたとして、広告主、団体、広告代理店の関係者らが逮捕・起訴された[18][19]。
凛の会の場合、心身障害者用低料第三種郵便物として発送するために必要な障害者団体の証明に、厚生労働省発行の証明書が使用されており、虚偽公文書作成罪及び同行使罪も問題となった。この点に関して、文書を実際に作成した厚生労働省の元障害保健福祉部企画課予算係長だけでなく、文書の発行権限を持っていた元障害保健福祉部企画課長(逮捕時は現職局長)であった村木厚子が、大阪地方検察庁特別捜査部によって逮捕・起訴された。
証明書の作成権限のあった村木の指示については、大阪地方裁判所の刑事裁判において関係者の多くが否定しており、裁判の争点となった。村木の大阪地裁判決では、指示は認められないとして無罪が言い渡された[20]。この無罪判決は、大阪地方検察庁が控訴を断念したため、2010年9月21日に確定判決となった[21]。
村木の無罪判決を受け、2010年10月20日の元係長の公判において、検察官は、虚偽有印公文書作成罪及び虚偽公文書行使罪から有印公文書偽造罪及び偽造公文書行使罪に訴因変更する請求を行った[22]。
虚偽公文書作成罪は、文書作成権限がある者が虚偽の文書を作成する犯罪である。係長には、証明書を独断で作成できる権限が無かったため、虚偽公文書作成罪が成立するためには、作成権限がある人物[23]の指示を受け、共謀して作成していたことが必要である。
村木が無罪となり、元係長の単独の犯罪となれば、虚偽公文書作成罪は成立しないため、そのままでは凛の会元会長、凛の会発起人、元係長の3人とも虚偽公文書作成罪および同行使罪では無罪となる。そのため、訴因変更により公文書偽造罪および偽造公文書行使罪に変更する手続を行った。
凛の会元会長の裁判では、公文書偽造罪および偽造公文書行使罪への訴因変更を裁判所は認めず、無罪が確定した。一方で、凛の会発起人と元係長の公判では、公文書偽造罪および偽造公文書行使罪への訴因変更を裁判所は認めている。
2010年9月21日に朝日新聞は朝刊の1面で、本事件の証拠物件であるフロッピーディスクの内容が改竄されていたことをスクープした。最高検は刑事部検事・長谷川充弘を主任とする7人の検事のチームで直接捜査を開始し、同日夜、大阪地検特捜部検事で本事件の元主任検事・前田恒彦を証拠隠滅の疑いで逮捕した。また、同年10月1日には大阪地検元特捜部長・大坪弘道[25]及び大阪地検元特捜部副部長・佐賀元明[26]を犯人隠匿の疑いで逮捕した。これを受けて、管轄上級庁である大阪高等検察庁検事長・柳俊夫が陳謝した [27]。
取り調べを担当した6人の検察官(林谷浩二、國井弘樹及び遠藤裕介の各検事並びに坂口英雄、高橋和男及び牧野善憲の各副検事)が、2009年2月から2010年3月にかけて取り調べの際のメモを破棄していた問題。
村木の裁判では、取り調べメモを「取り調べのメモは、取り調べ時の状況を認定するについての有用な資料」とする一方で、破棄自体は直ちに違法ではないとしたが、検察側に有利な捜査供述と被疑者側に有利な公判証言が出てそれぞれ食い違った際に、被疑者側が「被疑者ノート」など公判証言を支える補強証拠を出してきた場合、検察側が作成した検察官面前調書を補強する証拠がない場合は、被疑者ノートを重視して被疑者に有利に判断するとした。
なお報道によれば、取り調べメモについては、最高裁判所が2007年12月、警察官の備忘録について「個人的メモの域を超えた公文書」として証拠開示の対象になるとの判断を示したため、最高検察庁は2008年7月及び10月に、同庁刑事部長名で取り調べメモの取り扱いについて各地検に通知し、取り調べ状況が将来争いになる可能性があると捜査担当検事が判断した場合は、取り調べメモを公判担当検事に引き継ぐことや、公判担当検事は取り調べメモを一定期間保管することを求めていたため、取り調べメモの廃棄は最高検の通知に反するものだったとされる[28]。
6人の検察官は証拠隠滅罪で、監督責任のある検察幹部10人は犯人隠避罪でそれぞれ告発され、検察は16人を不起訴処分としたが、2011年10月29日に検察審査会は不起訴不当の議決をした。
2010年10月7日、大阪地検特捜部検事を務めていた上田敏晴[29]が、本事件の被告人である新生企業元取締役に対し、脅迫的な取り調べをした疑いがあるとして、大阪地方裁判所は証拠採用請求されていた供述調書のうち、上田が作成した12通を却下した[30]。これを受けて翌10月8日に最高検で次長検事・伊藤鉄男が会見を開き「批判される面があっても仕方がないのかなと思う」と述べ、検証を行うことを明らかにした[31]。
刑事事件で無罪判決を受けた村木は2010年12月27日、「特捜部の違法な逮捕・起訴で精神的苦痛を受けた」などとして、国、元特捜部長、元検事(当時主任検事)および当時の担当検事の4者を相手に約4100万円の損害賠償を求めて、東京地方裁判所に民事訴訟(国家賠償請求訴訟)を提訴した。
2011年3月28日の第1回口頭弁論期日では、元特捜部長、元検事および検事の個人3名は請求棄却を求めたものの、国は何をもって違法性を主張しているか不明であるとして答弁および事実の認否を留保した[47]。2011年10月17日の第4回口頭弁論期日で、国は、休職中の給与分など約3770万円の損害賠償請求については請求の認諾をし、大阪地方検察庁が村木が事件に関与した旨の関係者の供述内容を報道機関へ捜査情報をリークしたことによって村木が事件に関与したとする記事が出て精神的苦痛を受けた慰謝料など330万円の損害賠償請求については棄却を求める主張をした[48]。裁判所は、情報漏洩をしたと目される大阪地検の職員が特定されておらず、当該職員が情報を漏洩した時期、態様、及び目的等について具体的な事実を認定するに足りる的確な証拠がなく、供述調書の作成から新聞記事が出るまでに1週間以上たっていることから、「地検職員以外が情報を提供した可能性を否定できない」として、地検以外の事件関係者も供述内容を知り得たとして330万円の損害賠償請求を棄却した。
また凛の会元会長の倉沢邦夫は制度を悪用して郵便料金を免れていた約3億5300万円の損害賠償を求める民事訴訟を日本郵便から起こされ、東京地裁は2013年9月20日に全額の賠償を命じる判決を言い渡した[49]。
この一連の事件中の「検察の証拠偽造事件」に対して、法務大臣・平岡秀夫は2011年11月4日の閣議後会見で、この事件が冤罪に当たるかどうかについて「有罪判決を受けていないという点では、冤罪とはならないのではないか」と回答した。これに先立って政府は閣議で「法令上の用語ではなく、政府として定義について特定の見解を有しておらず、特定の事件が冤罪か否かについても見解を有していない」とした。その後の会見で、同大臣は冤罪とは無実の者が有罪判決を受けるものだと解釈していると釈明した[50]。
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