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心肺蘇生法(しんぱいそせいほう、CardioPulmonary Resuscitation, CPR)は、呼吸が止まり、心臓も動いていない(心肺停止)と見られる人の救命へのチャンスを維持するために行う循環の補助方法である。
Cardiopulmonary resuscitation 心肺蘇生法 | |
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治療法 | |
![]() トレーニング用のマネキンに心肺蘇生を行っている様子 | |
診療科 | 循環器学 |
ICD-9 | 99.60 |
MeSH | D016887 |
OPS-301 code | 8-771 |
MedlinePlus | 000010 |
CPRにおいては心臓マッサージ[注釈 1]を主に行い、余裕があれば気道確保し、呼吸の補助方法である人工呼吸も行う(総務省消防庁資料、『救急蘇生法の指針2015(市民用)』には、「救助者が人工呼吸の訓練を受けており、それを行う技術と意思がある場合」は人工呼吸を行う事とされている。)[1][2]
成人に対する心肺蘇生法(以下CPRと略)に関しては、特殊な器具や医薬品を用いずに行う一次救命処置(Basic Life Support, BLS)と、BLSのみでは心拍が再開しない場合に、救急車内や病院などで救急救命士や医師が気管挿管や高濃度酸素、薬剤投与も用いて行う二次救命処置(Advanced Life Support, ALS)の範囲がある。またBLSの範囲でも救急車内や病院などで行うCPRと、市民救助者が救急車が来るまでの間に行うCPRは異なる。訓練を受けていない市民救助者と訓練を受けている市民救助者でも一部異なる。
ここでは市民救助者によるBLSの範囲のCPRについて解説する。
CPRとは脳への酸素供給維持である。
脳自体には酸素を蓄える能力がなく、呼吸が止まってから4-6分で低酸素による不可逆的な状態に陥る。そのため一刻も早く脳に酸素を送る必要がある。
人間の脳は2分以内に心肺蘇生が開始された場合の救命率は90%程度であるが、4分では50%、5分では25%程度となる。
したがって、救急隊到着までの数分間(5-6分)に、「現場に居合わせた人」(「バイスタンダー」「市民救助者」と呼ぶ)によるCPRが行われるかどうかが救命率に大きく関わる(救命の連鎖)。
年 | 米国における病院内CPR | 米国における病院外でのCPR[3] | |||
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トータル生還率 (出典) | バイスタンダーによる AEDを使用したCPR |
バイスタンダーによるCPR (AED有無を問わない) |
CPR実施は 目撃されていない |
トータル生還率 | |
心拍再開に至った割合 | |||||
2018 | 49% | 41.9% | 20.6% | 31.3% | |
退院生還率 | |||||
2018 | 35% | 16.2% | 4.4% | 10.4% | |
2017 | 25.6% (p.e381,e390, 2019 AHA)[4] | 33% | 16.4% | 4.6% | 10.4% |
2016 | 26.4% (p.e365, 2018 AHA) | 32% | 17.0% | 4.7% | 10.8% |
2015 | 23.8% (p.e471, 2017 AHA)[5] | 32% | 16.7% | 4.6% | 10.6% |
2014 | 24.8% (p e270, 2016 AHA)[6] | 32% | 16.7% | 4.9% | 10.8% |
2013 | 16.8% | 4.7% | 10.8% | ||
2012 | |||||
2011 | 22.7% (p. 499, 2014 AHA)[7] | ||||
2010 | |||||
2009 | 18.6% (p. 12, Girotra supplement)[8] | ||||
2008 | 19.4% [8] | ||||
胸骨圧迫(きょうこつあっぱく)とは、一般に心臓マッサージと云われるものである。
心肺蘇生法の中心を成す対処法で、心停止した人の胸の心臓のあたりを両手で圧迫して血液の循環を促す。 胸骨の下半分、胸の真ん中に手の付け根を置き両手を重ねて、圧迫する。肘を真っ直ぐ伸ばし、100〜120回/分の速さで継続出来る範囲で強く、圧迫を繰り返す。ガイドラインでは「胸が約5cm沈むように圧迫するが、6cmを超えないようにする」とあるが、その場で測れる訳ではないので、継続出来る範囲で「強く」で良い。押したらしっかりと胸を元に戻す。訓練を受けていない救助者は自動体外式除細動器(AED)、または救急隊到着までハンズオンリーCPR[9]、つまり胸骨圧迫だけを続ける。
極力ほかの人を巻き込む。秒単位で12345と数えてもらうだけでもよい。5秒の間に8回以上なら100回/分以上を満たしている(後述)。数えることに応じてもらえれば、胸骨圧迫を代わってもらえる可能性が高い。疲れてきたらまわりの人に1分間だけでも代わってもらう。「強く早く」を維持するためにも交代は必要である。胸骨圧迫を中断する時間を最小限にする。 心肺蘇生の国際ガイドライン(2010年改訂)では、心肺蘇生法の中で胸骨圧迫の迅速な開始と、中断の最小化がもっとも重要視されるようになった。
なお「心臓マッサージ」は外科医が胸を切開し手で直接心臓を揉むという方法であって、胸骨圧迫は心臓マッサージではないという意見もあるが誤解である。胸を切開して行う心肺蘇生法は開胸心(臓)マッサージ、開胸CPRといい、二次救命処置(Advanced Life Support; ALS)に含まれるが、それに対して開胸せずに行う心臓マッサージを閉胸心マッサージということがある。その閉胸心マッサージの中で、医師や看護師、救急隊員以外の一般市民が救急車が来るまでの間に行う一次救命処置(Basic Life Support; BLS)として推奨されている心臓マッサージが、この胸骨圧迫である。
1990年に登場した方法[10]。吸盤が付いたカーディオポンプ( CardioPump )という装置で、胸骨を引き上げる動作も加えることで胸腔内陰圧を増大させ効率的な心肺蘇生法を行える[10]。ただし、体力が求められ、通常の方法に比べ作業者の酸素消費量は25%増加していることから心肺蘇生法を行っている人間への負担がかなり大きい[10]。
開胸心マッサージともいう。胸部を切開し心臓に直接動作を加える方法で、心臓へのアクセスという点においては最も確実な心臓マッサージ法[11]。
間歇的腹部圧迫(間欠的腹部圧迫、interposed abdominal compression cardiopulmonary resuscitation、IAC-CPR)は、二人の作業者が行うもので、一人は通常通りで、もう一人は腹部側で胸部側の作業者が胸部圧迫を緩めた際に腹部を圧迫することで、心臓への還流を増加させる方法。一次救命処置(BLS)のような院外蘇生には推奨されず、院内蘇生に限り心肺蘇生法としての有用性が認められるとアメリカ心臓協会のガイドライン2005年版には記載されていた[12]。2010年版では院内心停止で熟練者に限り推奨となっていたものの、以降のガイドラインでは推奨度に関して情報が更新されていない[13]。
伏臥位(俗に、うつぶせ)で行う心肺蘇生法である。患者の姿勢を変えることができない場合に行うことが推奨され[14]、人工呼吸が行いにくいが、嘔吐による誤嚥性肺炎や合併症のリスクを低下させられる[15]。
両脇の高さから一段下あたりの背が圧迫する位置である。
妊婦が仰向けになると、肥大化した子宮が下大静脈を圧迫し静脈還流が減少する。そのような状態であるため、仰向けの状態では仰臥位低血圧症候群と呼ばれる症状を引き起こす。そのため、2種類の方法の何れかを行う[16]。
新生児に行うものとして、新生児心肺蘇生法( neonatal cardiopulmonary resuscitation、略:NCPR)が上げられる。新生児は、胎内から外へ出てきた後の環境の変化に対応できず約10%程度の新生児が呼吸循環障害(新生児循環不全)を起こす。この時に、心肺蘇生を行わないと後遺症を残し、最悪の場合は死亡してしまう。まずはバッグマスク換気で90%が蘇生され、さらに胸骨圧迫を行えば大概が蘇生する[17]。
犬の気道確保は、舌を引き出すことで行う。横にした状態で左前肢を屈伸させ、ひじが当たった胸元あたりが心臓で、そこを中型犬以下の大きさなら指で、大型犬レベルなら手で胸骨圧迫する[18]。
ゾウレベルになると、体の上に乗り全体重を使って心肺蘇生法を行う[19]。
小児用パッドや小児用モードがあるが、この小児用は未就学児を指し小学生で小児用パッドを使うと刺激が足りない場合がある[20]。また、小児用パッドがない場合は、成人用を用いてもよい[21]。
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以下に意識・呼吸ともに無い場合のCPRを行う手順の概略をJRC ガイドライン2015に沿って記す。 CPRは厳密にはAEDを含まないが、実際には不可分であるため、ここではAEDも含めたBLSの範囲で手順を説明する。各手順の詳細は一次救命処置(BLS)を参照されたい。
1. 安全を確認
2. 意識の確認
3. 応援を呼ぶ
4. 呼吸の確認
5. 心臓マッサージ(胸骨圧迫)(Circulation, C)
6. 気道確保(A:Airway)
7. 人工呼吸(B:Breathing)
8. AEDによる除細動(D:Defibrillation)
なお、アメリカ心臓協会(AHA)のTVコマーシャル では、一般市民向けにもっと簡略化して「まず救急へ通報、次に胸の真ん中を強く早く押す」、だけを強調している。そして「早く」、つまり胸骨圧迫のテンポについては、ディスコ映画の「サタデー・ナイト・フィーバー」の名曲「ステイン・アライヴ」を推奨している。この曲のテンポは1分間に103回で、思い出しながら押すと約113回/分であったということから採用された。「強く」の程度については触れていない。とっさの場合には深さの検証など出来ないし、CPRの講習で4-5cm(旧ガイドライン)といっても初心者はおおむねそれより弱い。従って「強く」だけ意識してもらえれば良いということである。
ハンズオンリーCPR、すなわち胸骨圧迫だけでも良いとする根拠は、現行のガイドラインが、すべての人に完璧な心肺蘇生法を要求するのではなく、ひとつだけでも正しいことが行えるように普及することを、救命のための重要な理念としているためである。そのことから蘇生の最も重要な鍵とされている絶え間ない胸骨圧迫に焦点を置いた指導をいう。実際の場面では人工呼吸への抵抗感からCPRを躊躇する人が多く、胸骨圧迫だけで良いならCPRの実施率が期待できること。目の前で倒れた人の場合は、倒れて10分程度の救急車が来るまでの時間であれば、絶え間ない胸骨圧迫が行われた場合の救命率が高いというデータがあることなどによる。ただし、呼吸停止から心停止となることが多い小児や溺水などの心停止では、血液中の酸素の枯渇が必発であるため人工呼吸が必要である。
ポイントは胸骨圧迫を極力早く行うこととその中断を最小にすることである。またすべての救助者が訓練の有無に関わらずCPRを実施することが可能なように手順を分かりやすくしたことである。また119番側では連絡をしてきた者に胸骨圧迫のみのCPRを指導するべきであるとした[注釈 3]。手順の主な変更は次の通り。
重病患者においては、少なくとも10%がCPRにより生還している。米国病院における2001-2010年におけるサンプリング調査によれば[25]、全体の生還率は19%であり、癌患者においては10%、透析患者では12%であった。
80歳以上となると14%、黒人で15%、介護施設患者で17%、心不全の患者で19%、ICU外の心臓モニタリング患者で25%であった。進行がん患者を対象とした別の研究では、10%の生還率であった[26]。スウェーデンにおける患者を対象とした研究では、CPR後少なくとも30日生存した患者は、70〜79歳では40%、80〜89歳では29%、90歳以上では27%であった[27]。
医師会や消防署などで講習会(救命講習)が開かれるほか、下記のような場所でも講習会が行われている。
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