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液晶ディスプレイ(えきしょうディスプレイ、liquid crystal display、LCD)は、光源等の表面に、液晶の光学特性を利用した複数のシャッターを配置し、様々なパターンでシャッターを開閉することによって図画等を表示する装置である。
液晶ディスプレイはデジタル化された電子機器の普及に伴いごく一般的な表示装置となっている。特に、数値や機器動作状態等の情報表示装置、映像などの画像表示装置として多様な電子機器において利用されている。
液晶ディスプレイには、「液晶モジュール」と呼ばれる部品が含まれており、その液晶モジュールは、主に「液晶パネル」と呼ばれる液晶を含む板状の部品と、液晶パネルに対して電気信号を供給するための駆動回路とを含んで構成されている。
液晶ディスプレイの典型例には、液晶テレビやコンピュータ・ディスプレイがある。液晶モジュールは、これら以外にも、携帯電話端末、携帯型ゲーム機、電卓、時計などの表示部として使われている[注 1]。
つまり、単に「液晶ディスプレイ」と呼ばれた場合であっても、製品全体を指す場合と製品の表示部だけを指す場合がある。本記事では、便宜上、製品全体を指す場合には液晶ディスプレイと呼び、製品の表示部だけを指すには液晶モジュールや液晶パネルと呼ぶ。テレビ、PCなどの表示装置の製品としての「液晶ディスプレイ」と、携帯電話やデジタルカメラなどに組み込まれる製品の一部の部品としての「液晶パネル」と「液晶モジュール」について、それぞれを分けて記述する。また、本項目では液晶プロジェクタは扱わない。
単体装置としての液晶ディスプレイは、光源、駆動回路や電源回路、接続コネクタ、ケース等を除けば主要部分が液晶パネル[注 2]と呼ばれる薄い板状部品で構成されている。
電卓や時計の液晶は、あらかじめ「絵」の形に電極を配置して液晶に電圧を加える反射型の液晶が使用されることが多い。カラーの画像や映像を表示するものでは、格子状に配列したサブ画素 (Sub-pixel, sub-dot) を用いる。
液晶パネルは、外光や、フロントライト、バックライト等の光源により発せられた光を部分的に遮ったり透過させたりすることによって表示を行う。一般的な透過型液晶パネルを例として表示原理を説明する。
このように液晶層を表裏2枚の配向層がはさみ、さらに2枚の偏光フィルタとその外側に電極が位置する。表側の偏光フィルタを透過する光が多い場合に表示が明るくなり、少ない場合には表示は暗くなる。
こうして光学的なシャッターを実現し、このような微細なシャッター1つを1つのサブ画素とする多数のサブ画素によって望む画像を表示する。このシャッターは光の透過と遮断だけを行うので多様な色は、概ね3原色を備えた色フィルタで実現される。
2枚の電極に挟まれた各画素での表示には偏光フィルムの配置方向に応じて、2種の表示モードが存在する[注 11]。
液晶パネルは、大きくは表裏2枚の基板とその間の液晶材料から構成される[注 12]。
液晶パネル(表面より順に示す。カッコ内は厚みの例)
上記に加えて基板の周囲に「封止剤」が使われる。
液晶パネルは、油状の透明な液晶組成物(液晶材料)が2枚の透明な基板の間にサンドイッチされ、周囲が封止剤によってシールされていて、液晶材料が漏れ出すことなくまた液晶材料が清浄に保たれるようになっている。セルギャップという基板同士の間隔を一定に保つためのスペーサやギャップ材として、粒の大きさが揃ったプラスチック球が少しだけ液晶層に散布されていたり、カラーフィルタ基板に柱状のスペーサが作り込まれている[注 13][注 14][注 15][1]。カラーフィルタ基板よりもアレイ基板の方が周囲の接続端子などの分だけ大きくなる。
2枚の基板は表側にカラーフィルタ基板、裏側にアレイ基板が配置される。アレイ基板は液晶側にTFTなどのアクティブ素子とサブ画素となる電極がアレイ(配列)状に作り込まれている[注 16]。カラーフィルタ基板の液晶側には、ブラック・マトリックス (BM) やR(赤)、G(緑)、B(青)というカラーフィルタを配列し、さらに透明電極による共通電極またはコモン電極と呼ばれるものが基板全面に作られる。これらの基板は光をできるだけ無駄なく透過させるために、ガラス基板が用いられることが多い[注 17]。耐衝撃性、フレキシブル性などの点からプラスチック基板を用いることもある。透明電極の材料としては、電気抵抗が低くパターン加工の容易なインジウムとスズの酸化物であるITO (Indium-tin-oxide) が広く用いられている[注 18][2]。また、透明電極に印加される電圧は、アレイ基板ではTFTなどのアクティブ素子を通じて外部から印加されるが、外部からサブ画素までの配線として金属配線もアレイ基板の内面に配置されている[注 19]。アレイ基板の端部には、配線電極の接続部が露出しており、ここに駆動回路が接続されて電気的に実装される。表裏2面の透明電極のそれぞれの内側には、ポリイミド材料の配向膜が配置されて、液晶材料を所望の配向状態になるようにしている[3]。
液晶パネルでは、液晶を封入した表裏の透明基板のさらに外側に、1組の偏光フィルタ(偏光板、Polarizer)を設ける形式が主流である。透過型の液晶パネルでは、裏側の光源(バックライト)から出た光は、光源⇒偏光フィルタ⇒アレイ基板⇒サブ画素の透明電極⇒配向膜⇒液晶⇒配向膜⇒共通透明電極⇒カラーフィルタ基板⇒偏光フィルタ、という順に各要素を通過して観察者の目に届く。ごく安価な表示用途で使われる簡易な反射型の液晶パネルでは、散乱性の反射板を液晶パネルの背面(裏面)に配置してそれ自体には光源を設けず、周囲の光(外光)によって表示する[注 20]。 アレイ基板からカラーフィルタ基板の共通電極へ接続するのはトランスファ (Transfer) と呼ばれ、またこの接続材はコモン転移材 (Common transfer material) と呼ばれ、一般に銀ペーストやカーボン・ペーストといった導電ペーストが使用される。
実際の製品ではこういった基本構造の他にも、視野角特性を改良するための光学フィルム(視野角補償フィルム)などが偏光フィルタとガラス基板との間に追加して挿入される場合がある。また、バックライトシステムの一部にも、視野角や輝度を向上させるための光学フィルム(輝度上昇フィルム)を用いる場合もある。
カラーフィルタは、サブ画素に対応させて、赤色 (R)・緑色 (G)・青色 (B) の光を透過させる着色層やブラック・マトリックス (BM) を基板上に配置し、保護膜で覆ったものである[3]。この着色層は、液晶をはさむ2枚の基板の表側のカラーフィルタ基板に微細パターンで塗り付けられる「着色材」、又は「着色膜」であり、顔料系、又は染色料系のものが用いられる。BM層によって黒色表示時の光漏れと隣り合う着色材同士の混色を防ぎ、TFTへの光照射による光電流の発生も防止する。着色材の定着に感光材を用いるものは、着色材に混ぜられてそのまま定着する。0.1μm程の薄いBM層は金属クロムが多く、他にもカーボン、チタン、ニッケルの使用が試みられている。BM層の間には1.2μm程のBM層よりは厚みのある3色の着色層が一定のパターンで配置される。高精細の画面では着色層のパターンはストライプ配置が多いが、低精細度の画面ではデルタ配置が良好な画質の印象となる。
カラーフィルタは色素の吸収を利用して各サブ画素の通過光をR、G、Bの3つの基本色にして、加法混合方式で混色を作り出すことで中間色を含むカラー表示が実現する。各サブ画素の印加電圧を制御して画素ごとの混色による発色が可能になり、透過光を遮ることで黒を表現する。これがカラー液晶パネルの仕組みである[注 21][4]。
カラーフィルタには高色純度と高透過性、耐光性や耐熱性、耐薬品性、平滑性、加工寸法の精度が求められる。180℃で1時間といった配向膜の焼成工程や低抵抗性ITOの成膜工程等での高温に耐える必要がある。同じく配向膜やITOの加工中での溶剤や洗浄剤に対する耐性が求められる。突起などがあるとセルギャップが一定に保てず、表示品質が悪くなる[5]。カラーフィルタだけでも光の70%程度が失われて主に熱となり、残る約30%だけが通過できる[6]。
簡易な表示で済む電卓の表示部のようなものを除けば、多数のサブ画素を格子状に配列したドットマトリクスによる表示が液晶パネルの主流となっており、これによって変化に富んだ画像表示が行える。ドットマトリクス表示の多数のサブ画素ごとの電極に個別の配線を行うと、基板周縁部は配線で埋まり現実的ではなくなることから、縦横の2次元的な配線の交点でサブ画素の電極を制御するマトリクス配線方式が採られている。マトリクス配線では、基本的に液晶パネル外との配線数が縦線と横線の合計数で済む。
マトリクス配線で使用される2種類の信号線を以下に示す[注 22][7]。
マトリクス配線には「単純マトリクス駆動方式」と「アクティブ・マトリクス駆動方式」がある。
TFT等のアクティブ素子を用いる液晶パネルは、1990年代末頃から生産技術の発展とともに低価格化し、2000年代に入ると高品質の表示が必要なテレビ受像機やコンピュータ・モニタ、携帯電話の表示部として広く普及しており、STN型の単純マトリクスを使った液晶パネルは減少傾向にある[注 24]。
TFTを構成する半導体の組成には、普及したアモルファス・シリコンと、開発が進んで実用化段階にあるポリ・シリコンがある。画面サイズの比較的小さな液晶パネルでは、開口率を上げるために絶縁膜を挟んで隣のゲート線上との間にコンデンサを作る「付加容量型」が多い。
ここでは一般的なアクティブ・マトリクス駆動方式の中でも、実用とされている駆動技術の代表的なものについて説明する。液晶分子が移動・回転する速度は、一般的には印加された電圧の二乗に比例するため、高速で表示を変えるためには印加電圧を高くする必要がある。
液晶表示では直流駆動すると寿命が短くなるため、交流電圧を加えることで駆動する交流電圧駆動が行われている[注 26]。この交流の印加方式にいくつか種類があるが、いずれもフレームごとに反転させる。
画面が高精細となりサブ画素数が増えると動画表示のためにはXドライバの駆動周波数が100MHzを超えて一般的なICでは動作速度が満たせなくなる。このため、画面を例えば4分割するなどして駆動周波数を抑える工夫を行うのが普通であり、これを分割駆動 (Multiplexing drive) という。分割によってOLB (Outer Lead Bonding) による接続とデータドライバ / アドレスドライバ用ICは増えるが、高い周波数での設計は避けられる。例えば、3,200×2,400画素のQUXGAでは駆動周波数が575MHzとなって普通のICでは対応できなくなる。これを4画面にすれば約72MHzに低減できる。分割駆動では、XとYのドライバ(データドライバとアドレスドライバ)のICモジュールとそれらとの接続を増やすだけでなくタイミング・コントローラも対応しなければならない。画面を複数の領域に分けた分割駆動とすることで、一般的な半導体技術で作られた駆動ICを使用しながら画素数の増加を可能にした[4]。
フレーム反転方式での液晶駆動では、カラーフィルタ基板側の透明電極である共通電極(コモン電極、対向電極)の電位の掛け方の違いで2方式に分けられる。
動きの激しい動画表示では、移動する物体の輪郭部が不鮮明に見えることがある。これは液晶画素が印加電圧を一定に保つホールド型駆動で構成されているために起こるが、これを避けるために、1つのフレーム内で画面を一度、全面真っ暗にすることで印加電圧をフレームごとに独立にするインパルス型駆動にする方法を採る。これがブラック挿入法である。液晶の表示時間は短くなり高い応答速度も求められ駆動データも高速化が必要だが、動くものの表示が鮮明にできる。
画素の明暗が急速に変化する場合に、液晶分子の動きが遅いために追従できないことがある。この場合に印加電圧を変化初期の短時間だけ10-20%程度大きめや小さめのプリエンファシス信号として与えることで液晶分子を早く駆動することができる。液晶の反応速度は印加電圧の2乗に反比例するので波形の立ち上がりと立下りだけ電圧を振ることで早い応答が得られる。
ブラック挿入法と同様に動く物体の表示を鮮明にするために、走査のタイミングを合わせてバックライトを消灯する。
倍速駆動や120Hz駆動と呼ばれる液晶パネルの駆動方式では、ほとんどの場合、毎秒60枚のフレームを表示していたものを120枚表示することを指す。表示枚数を増やすことによって激しい動きを伴う動画での残像感を小さくしようというものである。1秒間に60枚あった元の画像の間に、前後の画像情報から中間の画像を作り出して合わせて120枚にされる。4倍速の製品も登場している[注 27][1]。
ショートリング (Short ring) は静電気破壊からパネルを保護する回路技術である。アレイ基板とカラーフィルタ基板はそのままでは大きなコンデンサとして働いて、人体などの静電気を蓄えて内部回路のTFT素子をショートさせる恐れがある。これを防ぐために、データ信号/アドレス信号の接続パッドごとに薄膜トランジスタ相当を抵抗として接続して、もう一方を共通接続する。このような抵抗を「作りこみ抵抗」や「負荷抵抗」と呼ぶ[4]。
単純マトリクス駆動による液晶パネルには、以下の方式がある[注 28][5]。
TN型(Twisted Nematic型、ねじれネマティック型)は初期に量産された最も基本的であり、2010年現在でも主流の表示方式である[注 29]。
この方式では、電圧が無印加の状態でネマティック液晶と呼ばれる液晶分子の配向を90度ねじれるように配列している。表裏2枚の基板間で90度ねじれるように、各基板表面の配向膜に配向処理が施される[注 30]。このねじれによって液晶を通過する光の偏光成分がほぼ90度回転する[注 31]。これは旋光と呼ばれる現象である[注 32]。また、正しく電圧が印加されると、分極している液晶分子は電界方向、つまり画面に垂直方向に揃って並び、光は偏光変換を受けずに液晶層を通過するため、光源側の偏光フィルムを透過した光の偏光状態がそのまま保たれて逆側の偏光フィルムにそのまま届くようになる。
STN (Super Twisted Nematic) 型は、単純マトリクス駆動方式での代表的な形式であり、現在でも比較的簡易な表示装置では使用されている。TN型が無印加時において液晶分子の並びのねじれ角が、両面の基板の間で90度であるのに対し、STN型では、180-270度となるように作製される。これにより印加電圧の僅かな差によって大きな配向変化を実現し、TN型では難しいハイデューティでの単純マトリクス駆動を可能にする。このため、TFT等のアクティブ素子を用いずに画素数の多い表示が可能となっている。TN型と同様にNBモードとNWモードがあり、NBモードでは黒と黄色、NWモードでは白と青の表示になる。初期のSTN型では光の波長によって明暗が一致せず、着色が避けられなかったため、いくつかの派生型が開発された。
STN型の派生型には以下のものがある。
アクティブ・マトリクス駆動による液晶パネルには、以下の方式がある。
単純マトリクス駆動と同様に、アクティブ・マトリクス駆動と組み合わせても多く利用されている[注 36]。生産技術が確立され比較的安価である。また、特別な工夫をしなくても高い開口率[注 37]が得られるため表示が明るくなり、同じ表示輝度であればバックライトの消費電力を削減できる。応答速度も8-15ms程度とそれほど遅くはない。短所は、視野角が狭く色度変位が大きい。画質よりコストや低消費電力を重視する用途に用いられる。2000年代頃までは廉価なノートパソコン向けであったが、2010年頃からは画質も向上し、ほとんどのノートパソコンでTN型となっている。また、視野角の狭さが簡易なプライバシーフィルターの効果を持つことから、上位機種でも積極的に採用するメーカーもある。
IPS型(In-Plane Switching型、インプレイン・スイッチング型)では、電極は一方の基板の面内方向に配置している。電圧を無印加の状態では液晶分子はねじれずに基板面に対して一定の水平方向を向いている。電圧の印加時には電界が面内方向に掛かるたて液晶分子が90度水平に回って電極に沿って並ぶ。無印加と印加で液晶分子が面内方向で90度回ることで、2枚の偏光フィルムとの間で透過、遮蔽を作り出す。液晶分子同士が並んだままで回転できるため反応が速く、特に中間調の応答が良い。見る角度にあまり影響されず視野角が広いという特徴がある。回転は、電極をくし型に配置することで実現されるため、半導体技術を用いるアクティブ・マトリクス駆動でのみ用いられる。液晶配向が基板に対して垂直方向に立ち上がることがないため、視野角が広い[注 38]。視野角特性が良好なためTV用途で多く用いられるが、反面、開口率を上げにくく表示が暗くなり易い、正面表示でのコントラストを高めにくいといった課題もある[注 39]。
VA型(Vertical Alignment型、 垂直配向型)では、負の誘電率異方性を持った液晶分子と垂直配向膜との組み合せで、無印加時には液晶分子が画面に対して垂直になり、印加時には液晶分子が画面に対して水平な配置となる。見る角度にかかわらず比較的良好な視野角と高いコントラストが得られる。8-15ms程度の応答速度になる[9][注 40][10]。
OCB (Optically Compensated Bend, Optically Compensated Birefringence) 型は、無電界時には液晶が弓状に配列し、電圧印加時にはほぼ直線状に並ぶ。弓状から直線状に変化することで発生する液晶の流れと液晶分子の配向の変化が互いを阻害することがなく配向の変化が液晶の流れを加速するように働くため3-8msといった高速応答性を持つ[注 42]。光学補償フィルムを必要とする。視野角も広く、-20℃といった低温環境でも応答性がそれほど損なわれないがまだコストに課題があり、放送機器用や車載用での採用が多く、大画面は存在しない[注 43][注 44][11][9][5]。
液晶分子は直径が0.4nm、長さが2nm程度の細長い有機分子である[注 45][5]。
マザーガラスはマザーガラス基板とも呼ばれ、アレイ基板やカラーフィルタ基板の元となる素材である。これらの基板上に成膜するプロセスでは生産性向上のためにマザーガラスを切らずにそのままの大きさで製造工程を進め、終わりに近い工程で各基板ごとの大きさに切断してゆく。マザーガラスは以後の工程で障害とならないように、反り、塵、汚れ、傷、泡、欠けがないように求められる。 1枚のマザーガラスから取れる基板数は「面取り数」と呼ばれ、面取り数を増やすためにマザーガラスは拡大されてきた。マザーガラスの大きさとその月間や年間の処理可能枚数で、液晶ディスプレイ工場の生産能力が表現される。
稼動開始 | 1枚のパネルの大きさ (表示面対角長:インチ) | 10.4 | 12.1 | 14.1 | 15 | 17 | 20 | 23 | 28 | 32 | 37 | 42 | 50 | 60 | |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
第1世代 | 1991年 | 300×350mm - 320×400mm | 不明 | ||||||||||||
第2世代 | 1994年 | 360×465mm - 410×520mm | 不明 | ||||||||||||
第3世代 | 1996年 | 550×650mm | 6 | 6 | 4 | 4 | 2 | ||||||||
600×720mm | 9 | 6 | 6 | 4 | 4 | 2 | |||||||||
650×830mm | 9 | 9 | 6 | 6 | 4 | 4 | 2 | ||||||||
第4世代 | 2000年 | 680×880mm | 9 | 9 | 6 | 6 | 4 | 4 | 2 | ||||||
730×920mm | 12 | 9 | 9 | 6 | 6 | 4 | 2 | ||||||||
第5世代 | 2002年 | 1000×1200mm | 16 | 15 | 12 | 9 | 6 | 6 | 3 | 2 | 2 | 2 | |||
1300×1500mm | 20 | 12 | 8 | 8 | 6 | 3 | 2 | 2 | 2 | ||||||
第6世代 | 2004年 | 1500×1800mm | 12 | 8 | 8 | 6 | 3 | 2 | 2 | ||||||
第7世代 | 2005年 | 1870×2200mm | 20 | 15 | 12 | 8 | 6 | 3 | 2 | ||||||
第8世代 | 2006年 | 2160×2460mm | 24 | 15 | 15 | 8 | 8 | 6 | 3 | ||||||
第9世代 | 2007年 | 2400×2800mm | 8 | 8 | 6 | 3 | |||||||||
第10世代 | 2009年10月[注 49][13] | 2,880×3,130mm | 12 | 8 | 6 |
マザーガラスは、主にその表面に構築される電極や回路の処理工程の最高温度によって使用できる種類が限定される。STN型のような単純マトリックス駆動では低価格のソーダガラスが使用できるが、TFT型のようなアクティブ・マトリックス駆動では高温処理が求められるため、高温ポリシリコン処理での1,000℃以上に耐えられる高価な石英ガラスや低温ポリシリコンでの600℃弱まで耐える無アルカリガラスが使用される。
ガラス厚も薄くなっており、カラーTFT液晶ディスプレイの開発当初は1.1mmであったものが0.7mmになり、特にノートパソコン用などでは0.63mmから0.6mmとなり、携帯電話用では0.4mmの製品が出ている[1][4][14]。
配向膜にはポリイミドが使われることが多い。可溶性を高めるためのN-メチル-2-ピロリドン (NMP) などのアミド系極性溶媒と塗布性を高めるためのセロソルブアセテートなどの溶媒にポリアミック酸を溶解させたものが使用される。これを基板に塗布後、250℃以上に加熱処理してポリアミック酸を熱重合によりイミド化させて配向膜を形成する。基板上で熱重合するのではなくあらかじめ液体状態でイミド化させた可溶性ポリイミドも使用される。可溶性ポリイミドを使えば、基板上への塗布後の加熱温度が180℃以下となり、乾燥させる程度の処理となる。このため、加熱温度を高められないカラーフィルタ基板を用いる場合の配向膜として都合が良い。ポリイミド製の配向膜は、材質を選べば透明であり、300℃程度にも耐える高い耐熱性があり、液晶の配向を安定させることが可能であり、ガラス基板や電極膜への塗布性や密着性が良いという特徴がある[5][注 50][10]。
偏光フィルムは、一般的な透過型パネル用では、偏光素子が入った偏光基材とこれを両面で挟むベース基板、そして片面には保護フィルムともう片面にはガラス基板に貼り付けるための離型フィルムから構成される。反射型パネルの裏面用は保護フィルムの代わりに粘着層を介して反射板が付けられる。 偏光フィルムは偏光板とも呼ばれるが「板」のような堅いものではなく、多ければ10層ほど積層されても0.12-0.4mm程度の薄いものであり、液晶パネルへ貼り付けられるまではテープ状に巻かれている。偏光素子が入った偏光基材とは、ヨウ素や二色性染料が偏光素子でありこれが偏光効果を起こす。偏光基材はポリビニルアルコール (PVA, Poly Vinyle Alcohol) が使われ、偏光素子がこの媒体内に含まれる。偏光基材を保護する役割のベース基板にはトリアセチルセルロース (TAC, Triacetyl cellulose, Cellulose triacetate) が使われる[注 51]。ベース基板も「板」と呼ばれるがフィルムである。離型フィルムにはベース基板側に粘着層が塗布されており、ガラス基板に貼り付ける段階で剥離され、粘着層によってガラス基板に貼り付けられる。
偏光フィルムの単体での光学特性は、透過軸方向に平行方向の透過率:T1 と透過軸方向に直交方向の透過率:T2で表され、T1 は"1"に近く、T2は"0"に近くなるように偏光素子や偏光基材が調整される。1枚の偏光フィルムの単体透過率は T で表され、T1 とT2の平均で表される。 2枚使用時の光学特性は、透過軸方向が互いに平行な平行透過率:Tと透過軸方向が互いに直交な直交透過率:Tがあり、平行透過率:TはT2とT1のそれぞれの2乗の和の平均で、直交透過率:TはT2とT1の積で表される。 また、偏光度 P は以下の式で表される。
実際の製品として使われている偏光フィルムでは、単体透過率 T は38-48%程度、偏光度 P は75-99.9%程度である。可視光領域で透過率と偏光度が波長によって差があると液晶パネルにすると色付きするので、これらの特性に波長依存性がないことが求められる[5]。
2009年現在一般には、透明電極としてITO (Indium-tin-oxide) が使用されているが、ITOは塗布後の定着工程で200-300℃程度の比較的低い温度で半結晶化されるため抵抗値が高く、また透過度も波長の短い光線では低くなるために完全な透明ではなく少し茶色や黄色がかった色味を持つ。インジウムが中国に偏在するレアメタルであり、電子機器による需要増で価格が高騰している。
ITOに代わるものとして、ZnO膜や金の微細な繊維を配合した高分子膜の研究が進められて成果が上がっており、早ければ数年の内には製品への採用が始まるとされている[15]。
液晶モジュールは、主な構成部品として液晶パネルに駆動回路と駆動用プリント基板、必要ならばバックライトを取り付けたものである[注 52]。駆動用プリント基板類は液晶パネルとの接続部が柔軟なため、パネルの裏側に折り込まれて無用な実装面積を省くのが普通である。また、駆動回路の主要部を低温ポリシリコンによるTFT回路で液晶パネル上に取り込むことで、液晶パネルへの接続は、電源部やタイミング・コントローラ回路、最低限の映像信号回路などを載せた小型のプリント基板だけになり、不良の原因となる接続部の大幅な削減によって液晶モジュールの信頼性の向上が実現できるが、額縁スペースが余分に必要となる。
説明を簡単にするため、TFTカラー液晶モジュールでの駆動例を示す。以下の周辺回路の多くは、TABによってアレイ基板に接続されるか、COGや低温ポリシリコンによってアレイ基板上に実装または構築される。低温ポリシリコンを採用している場合でもタイミング・コントローラや電源回路は、ポリシリコンによるTFT素子でD/Aコンバータ、メモリ、コントローラまで作り込むと消費電力が増すために、外付け回路基板上の専用ICが使用される事が多い。
まず製造工程の概要を示したのちに、詳しい説明を加える。
各工程の最後や出荷前にそれぞれ検査が行われる[4]。
アレイ基板の製造工程の各段階中と工程の最後に検査が行われる。アレイ基板として使用されないマザーガラス上の空き領域にあらかじめテスト用回路を作り込んでおき、膜厚、膜質、電気的特性を計測するという手法も使われる。
画面の大きさは21世紀以降急速に拡大している。アスペクト比は、テレビ用では4:3や16:9のアスペクト比を考慮しており、パソコン用もほとんどはテレビと同様の比率を考慮して作られている。
表示する画面部分は「有効表示領域」や「表示領域」、「アクティブ領域」と呼ばれ、周囲は「額縁」と呼ばれる。この有効表示領域の大きさは画面の対角線の長さをインチで表し、日本では数詞として「型」を付けて表現される。一般に画像の精細度を表すには、1インチ ( 2.54) 当り何個のドットがあるかという意味で "dpi" (dot per inch) を使うことが多いが、カラー液晶では "RGB" 3色の点で1つの画素 (pixel) を構成するため無用な混乱を避ける意味で "ppi" (pixel per inch) が使われることが多い。精細度を表す別の方法として「画素ピッチ」がある。画素ピッチは画素が並ぶ間隔を表しており、例えば1,000ppiでは0.0254mmになる。TV画面の水平解像度では「TV本」という解像度の表し方もあり、白地に縦に引いた黒い線を最大何本まで判別できるかというもので、普通のTVでは350TV本である[4]。
ブラウン管式ディスプレイでも、液晶ディスプレイと同様に画面の対角線の長さをインチで表した「○○型」と表記していたが、米国では液晶ディスプレイと同じく有効表示領域の大きさを計っていたのに対して日本ではガラス管の外側の大きさを表していたので、実際に表示される領域は1-2インチ程度小さかった[16]。
液晶ディスプレイでの画素(ピクセル、Pixel)は、"RGB" を合わせて1画素と数えて、R、G、Bのそれぞれは「サブ画素」や「サブ・ドット」と呼ばれる。カラー液晶ではサブ画素ごとに輝度を制御しており画素ごとではない。画素とサブ画素を混同しないように注意が求められる。
「ドット抜け」といった画素単位やサブ画素単位での不良は数個まで許容されるが、2013年現在では従来に比べて製造現場での環境整備が進み、ドット単位での不良はほとんどなくなる傾向にある[6]。
安全性に関して留意すべきは、バックライトに冷陰極線管 (CCFL) を使用しているものでは、1,000V以上の高電圧を生じているので感電事故を起こさないように不用意にバックライトの電源部を触らないことである[5]。陰極線管内には水銀が含まれるので、電気接続に使われるハンダの鉛やBM層のクロムと同様に人体には有毒であり、環境中にも放出されないよう留意する必要がある[3]。液晶自身の毒性については, 急性経口毒性の指標であるLD50で表現するとほとんどが2,000以上であり、皮膚刺激性や吸入毒性でも「毒物および劇物取締り法」に抵触しない程度には基準を満たしているため、比較的安全であると考えられる[16]。
1888年オーストリアのF.ライニッツァー (Reinitzer) らにより、コレステロールと安息香酸のエステル化合物からなる結晶を加熱することで液体状となるサーモトロピック液晶が発見された。1964年には米国で最初の液晶表示装置が考案され、1968年には米RCA社のハイルマイヤー (R. Heilmeir) 達の手で最初のネマティック液晶を使用した表示装置が作られた。これ以降、多様な装置が作られたがいずれもモノクロのものであった。1973年には日本で電池駆動可能な電卓の表示装置[注 63]として採用された。しばらくはTN型による低消費電力で薄く小型のものが主体となって、電卓や腕時計、ワープロ、電子手帳、携帯型ゲーム機など、そのころ登場しはじめたデジタル機器の表示部として普及した。また1976年には英国ハル大学のグレイ教授が安定な液晶材料(ビフェニール系)を発見し、それは現在のLCD材料の基礎となっている。1983年には日本のエプソンから世界最初のTFT型液晶カラーテレビ「ET-10」が発表され、翌年に発売された。1988年には14型のTFT型液晶カラーTVが発表された。
1990年代になるとそれまでのセグメント表示からドット・マトリクス表示に、モノクロ表示からカラー表示に変わり、TFTによるアクティブ・マトリクス駆動によって高精細な表示が可能になった[注 64]。1990年代半ばに低温ポリシリコンによるTFT層が実用化された。用途も静止画だけのスチルカメラの表示部のようなものから、動画が扱えるデジタルビデオカメラの表示部へと広がり、ノートパソコンの表示や小型テレビ、カーナビへと広がった。20世紀末ごろにはブラウン管TVを駆逐する勢いで、大型平面TVでの採用が大きな広がりを見せてきた[注 65]。1990年代に日本メーカーのそれまでの基礎研究や技術開発の実用化・製品化が進み、世界市場を開拓していった。1990年代半ばに韓国メーカーが、1990年代後半には台湾メーカーが世界市場に本格的に参入してきた。
2000年代になると、小型の表示器としては携帯電話やPDA、携帯音楽プレーヤー等の多様な携帯型電子機器に使用されるようになり、大型では大画面TVや普及型TVなど、広くTV用途で採用されている。2000年代には中国メーカーが世界市場に本格的に参入してきた[5][1][9]。
液晶ディスプレイに関係する産業には以下の会社群がある。
上記での液晶原材料とは、液晶材、配向膜、ターゲット材などがあり、液晶部材とはカラーフィルタ、偏光板、マザーガラスがある。 液晶パネルメーカーは液晶ディスプレイメーカーに対して液晶パネルを部品として供給するメーカーを指し、液晶ディスプレイメーカーは自社で液晶パネルを内製するものと社外から購入するものの両者を含む。液晶ディスプレイメーカーの中には内製した液晶パネルを外販する会社もある。液晶部材から半導体、液晶パネルを含めて内製する垂直統合型の液晶ディスプレイメーカーとして、韓国のサムスン電子、LGフィリップスと、日本のシャープ、パナソニック、ソニー、日立、東芝がある。欧州と台湾では水平分業型の専業メーカーがいくつかある。
液晶ディスプレイ産業は国際的な市場に向けた世界規模での開発・生産・販売が行われているが、生産拠点は比較的アジアに集中しており、また液晶部材の中でもマザーガラスのように巨大化を遂げた部品では長距離輸送に向かない[注 66]ため、地域的な偏在性を生む要因となっている[7]。
液晶ディスプレイ産業は、特に大画面TVでの需要が急速に立ち上がっていることもあり、産業の中心は大型パネルの生産に比重が移っている。こういった大型パネルの生産では大きな設備投資が求められる割りに生産設備の陳腐化速度が速く、新たな技術の採用によって生産コスト削減や製品性能が大きく向上するなど、半導体産業に似た特徴を備えている[注 67][注 68][19]。半導体産業での「シリコンサイクル」と同様に液晶ディスプレイ産業では「クリスタルサイクル」と呼ばれる需給バランスの長期的な変動を繰り返す傾向がある[注 69]。また、中サイズのパネルではノートパソコンに組み込まれ、小画面パネルでは携帯機器や家庭電化製品、産業用機器などの広範な電気製品に対して組み込むために、多くが外販され一部が社内の別部署での機器生産に使用される。
液晶ディスプレイメーカーの各社は同業同士での競争だけでなく、プラズマディスプレイや有機ELのような似た用途のディスプレイ技術へも競争が求められる。また、多くのメーカーは液晶技術だけに固執せずに新たな次世代ディスプレイ技術への模索も続けている[9]。
2009年1月の10型以上のTFT液晶パネルの世界売上高が25億米ドルだったと発表した。これは前月2008年12月から10.7%減であり、前年同期比では63.3%も減ったことになる。枚数で云えば、2,380万枚であり、これは前月2008年12月から12.4%減、前年同期比では33.5%減ったことになる。
1990年代は日本のメーカーで9割近くを占めていたが、迅速な大規模投資ができず、次々に撤退に追い込まれていった。2009年時点でのメーカー別の売上高シェアでは、1位が韓国サムスン電子 (Samsung Electronics) 社の27.9%、2位が韓国LG電子系列のLG Display社が27.8%だった。出荷枚数別では、1位がLG Display社が26.4%で逆転し、2位はサムスン電子の26.0%、3位が台湾奇美電子 (Chi Mei Optoelectronics) 社で13.8%だった[20]。しかし、韓国メーカーも中国メーカーからの追い上げを受けシェアを落とし、2024年時点では過半数が中国メーカーによって生産されている。
液晶パネルには、形状的な特徴、電気的な特徴、並びに、光学的な特徴および構成部品数などの面で他の表示装置とは異なる特徴がある。
液晶パネルの形状的な最大の特徴は、薄型である点である。ガラス2枚と偏光フィルタ2枚、必要に応じてバックライトによって表示が行えるため、非常に広汎な製品に応用されている。
また、液晶パネルの電気的な面での最大の特徴は、液晶パネルそれ自体の電力消費が非常に小さいことである。数ボルト程度の電圧によって表示が書き換わり、電流はほとんど流れないためである。このため、ロジック系ICによって容易に駆動が可能であるなどの特徴から、用途の制限が少ない。ただし、液晶パネルの液晶部分は通常は交流駆動する必要があり、表示内容を書き換えなくても極性反転のために充放電電流が消費される。また、液晶パネルは自発光しないため、照明を設ける場合には、照明のために消費電力が大きくなるという課題がある。ただしこれはLEDなどにおいてある程度は低減できる。
液晶ディスプレイの光学面での最大の特徴は、液晶それ自体が発光しないことである。表示には、バックライト、フロントライト、外光などの光源を必要とする。液晶ディスプレイでは、白色光のバックライトにカラーフィルタを用いた液晶パネルを組み合わせるカラー表示が主流である。[注 70]
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液晶パネルは、様々な利点を有する一方、表示原理に起因する技術課題(欠点)も有している。
液晶ディスプレイが多様な用途をカバーしてきた背景には、要求される光学的機能を実現するために、数多くの構成部品を組み合わせて液晶ディスプレイ自体が構成されてきた点を挙げることができる。
液晶ディスプレイは、多数の構成部品により構成される。この構成部品の多さのために、細かな需要に合せた多様なバリエーションが生み出されている。そればかりか、この構成部品の多様さは、液晶ディスプレイの性能の進歩に大きく寄与してきた。液晶パネルの液晶部分に全く変更がなくても全体性能の改良が実現されるからである。一例として、透過型液晶ディスプレイの構成部品であるバックライトを挙げると、バックライトの光源の進歩により、色再現範囲(色域、color gamut)が大幅に改善されたり、消費電力が低下するといった性能改善が実現される。このように、液晶そのものの改良がなくとも、構成部品の技術進歩が液晶ディスプレイの進歩に取り込まれている。
また、液晶ディスプレイを構成する部品を選択することによって表示特性を用途に適合させることも行なわれている。その典型例が、光沢(グレア)表示とノングレア(つや消し・マット)表示の選択である。この選択は、液晶ディスプレイの最もユーザー側に位置する部品(通常は偏光フィルム)の表面処理によって決定される。つまり、平滑な面を持ち光沢のある表面処理の偏光フィルムを採用すると光沢表示となり、散乱のある表面処理の偏光フィルムを採用するとノングレア表示となる。よって、写真画像や動画の鑑賞目的のために、色純度やコントラストの感覚的な品位を高めることができる光沢画面と、事務処理用に適する映り込みの少ないノングレア画面との用途別の作り分けが、偏光フィルムの選択のみにより行える[注 86]。
液晶パネルは、透過型液晶パネル、反射型液晶パネル、プロジェクター、フィールドシーケンシャルカラー表示、半透過型液晶ディスプレイといったさまざまな表示方式が実用化または創出されており、非常に柔軟な光学的構成で用いられ、構成部品の改良が技術的進歩に寄与している。
液晶パネルの光学的機能の多様性の一例を挙げるなら、液晶パネルでは、外光を利用することにより照明を設けずに低消費電力の表示を行うことも可能であるし、必要に応じて照明を設けて、自発光型の表示装置と類似の用途に用いることもできる点が好例である。それ自体が発光することはないため、光源との組合せの数だけ光学的機能にも多様性が生まれている。
液晶パネルに照明を設けない場合には、外光を反射板で反射させて往復で表示を行うことが多い(反射型液晶パネル)。反射型液晶パネルでは、多くの場合に裏側の偏光板の背面に適当な凹凸をもった金属などの反射板を配置する方式(セル外反射板方式)が主流で、安価な液晶表示部で背景が薄緑、表示が変化する部分がこの背景色と黒色との間で変化するものは主にこの方式である。一部には、裏面側には偏光板を設けず、液晶層の裏側の基板の液晶層側反射板を配置して、液晶層と反射板を近接させ手配置する方式(セル内反射板方式)も実用化されている。この場合、一枚の表側の偏光板にフィルム位相差板が併用され、液晶層を往復する光の偏光を制御することが多い。
また、液晶パネルに照明を設ける場合には、EL(エレクトロ・ルミネッセンス)、冷陰極管、発光ダイオードなどの光源によって背面から照明するバックライトによる透過光を観察する透過型液晶パネルや、表示面側からフロントライトと呼ばれる照明装置により照明して反射光を観察するフロントライト付き反射型液晶パネルがある。照明を設けるのは、多くの場合、カラー表示を行うカラーフィルタの吸収のために表示が暗くなる場合である。
そして、照明を設ける液晶パネルと、照明を用いない液晶パネルとの組み合わせるようなもの、つまり、透過型と反射型を組み合わせることにより、外光を反射しつつ、バックライトの照明も利用する半透過型液晶パネルもしくは半(微)反射型液晶パネルと呼ばれるものもある。これにより、夜間の周囲が暗いときから日中の直射日光下まで表示内容が確認できるパネルが開発できるため、家庭用ビデオカメラ、ディジタルスチルカメラなどに利用されている。このように、発光ディスプレイに近い照明を用いた表示と外光を利用した反射ディスプレイとしての表示を1つの表示パネルで両立するものは液晶以外の表示方式では知られておらず、液晶パネルに用いることができる光学的機能の多様性を示す好例といえる。
誘電体である液晶物質は誘電分極という性質を持つ。スメクテック液晶でキラリティを持つ種類の物質は、長軸周りの分子回転の動きが束縛されるため永久双極子が並んだ状態となって電界がなくともが自発分極を起こす強誘電性を示すことがある。この代表的なものが、カイラル・スメクテックC相(又はキラル・スメクテックC相)と呼ばれる液晶である。
カイラル・スメクテックC相の液晶は通常は螺旋をとるが、2枚の基板間隔が縮められ螺旋ピッチ以下にまで狭くなると、螺旋構造がとれなくなり特定の2つの向きにのみダイレクタが揃う配列が許されるようになる。
このようなカイラル・スメクテックC相の液晶の層を1-2マイクロメートルの狭い幅の2枚の平行な電極基板で挟み込むと、正、又は負の電圧を電極間に加えることですべてのダイレクタの方向を揃えられ、さらに熱的揺らぎによっても容易には逆の方向まで変化しないので、電圧を加えなくとも配列状態が維持でき、無電力で表示が保存できる。
このような構造の液晶表示を表面安定化強誘電性液晶 (Surface Stabilized Ferroelectric Liquid Crystal, SSFLC) と呼び、一時期は実用化が進められたが、動作原理上、光の透過度で中間値が作れないことや狭い液晶層を大画面で作るのが容易ではなく、あまり利用は進まなかった。ただし、応答速度が他方式より2-3桁も早く、電界を切っても配列状態が残るので、フィールドシーケンシャルカラー表示や電子ペーパーとしての用途が見出されている。
強誘電性液晶は明状態と暗状態のそれぞれにするためには特定の極性電圧を加える必要があり、これは直流駆動(DC駆動)しか許されないことになる。直流駆動では画質の低下が避けられないので、できれば交流駆動(AC駆動)が望まれた。
2枚の基板間隔が広がり、螺旋構造が復活しても自発分極は層ごとで互いに打ち消しあって外部には現れず、無電界ではダイレクタが層ごとに交互に異なる向きに並んでいる。2枚の偏光フィルムを直交で用い、1枚の偏光軸を片方のダイレクタに合わせると、無電界ではほとんど遮蔽されるが、電極の電圧を正でも負でも加えると光が通るようになる。
しきい値以上の正電圧ですべての層で1方向にダイレクタが揃い、正と負の領域でのしきい値以下の電圧で層ごとに交互に1方向ずつ異なる無形にダイレクタが揃い、しきい値以上の負電圧ですべての層で正電圧とは逆向きの1方向にダイレクタが揃う。これら3つの他に中間の状態は取れないので反応が早い。
また、これまでの強誘電性液晶や反強誘電性液晶ではヒステリシス特性があったが、中間調表示が可能な無しきい値反強誘電性液晶 (Threshold-less Anti-Ferroelectric Liquid Crystal, TL-AFLC) が開発されている[16]。
反射型は液晶が表示器として使用され始めた頃からの比較的古い技術である。外光を反射することで表示を行う反射型液晶表示パネルは、透過型のようにバックライトを必要としないため、現在も簡易な表示に多用されている。最も代表的な反射型の液晶表示はセグメント表示によるデジタル時計である。反射型でも、フロントライトと呼ばれる光源を液晶表面より手前側に備えることで、外光の無い暗所でも見えるように工夫したものがある。
これに対し、半透過型は、反射・透過両用型、つまり、外光による反射光の表示と、背面のバックライトによる透過光による表示とを組み合わせるものである。反射型でのフロントライトと同様に、暗所ではバックライトを使い、明るい場所ではライトを消すことで電力消費を抑えることができる。
反射型や半透過型は、外光が強い場合に視認性が低下するという透過型の欠点を解消できる利点がある。特に直射日光が差し込む環境などでの視認性は、その直射日光下の周囲の明るさに順応して観察者の目が明るさを感じにくくなることが影響する。透過型ではその観察者の目に表示面を明るく感じさせるためには強力なバックライトが必要になる。これに対し、外光に比例した反射光を利用する反射型および半透過型では、なんらエネルギー消費を増やさずとも、表示面を明るく感じさせることかでき、さらに外光に比例して反射光が増加するというある種の自動調整も実現する。
反射型と半透過型では液晶層の背面に反射板が置かれている。半透過型ではその反射板が半透過性の反射板とされたり、部分的に背面からの光を通過させる領域を設けて光透過性を示す反射板とされる。反射型と半透過型ともに、反射板の位置にはさらにバリエーションがあり、液晶層の背面側基板のさらに背面側のものと、前側(液晶側)のものとがある。旧来の反射型や半透過型は前者であるが、近年のアクティブ素子を利用するものでは後者も採用されている。後者は、背面側基板の厚みが表示に悪影響を及ぼさないため、高精細な表示が可能である。この場合、背面側基板はアレイ基板とされる。
特にアクティブ素子を利用する反射型や半透過型ではアレイ側の配線が不透明でも開口率に影響しにくい点で、透過型とは異なっている。つまり、反射型では、反射性の(サブ)画素電極を金属配線やアクティブ素子の上に形成した絶縁膜の上に構築することで金属配線やアクティブ素子などの非透過性要素が開口率に影響しないようにできる[16]。また、半透過型でも、反射部分を非透過性要素に重ねて配置することが可能である。
2000年頃には、携帯電話用としてカラー表示のできる反射型TFT液晶が多用された。ところが、表示コンテンツの多様化が進展すると画質に不満が生じた。2002年頃に携帯電話にカメラ付き機種が登場すると、特に表示画面の高画質化が求められ、反射型TFT液晶に代わり半透過型TFT液晶が採用されるようになった。それ以降、ワンセグや動画再生機能などに対応した機種などのさらなる高画質化要求に応じ、透過型TFTと半透過型TFTが使い分けられている[21]。反射型は低消費電力であるため、電話機以外でも携帯用途での利用が再び進んでいる[22]。
セグメント表示の身近な例では、電卓に多用されている8の字によって数字を表示する、7セグメントディスプレイが挙げられる。このように表示対象をいくつかの小さい領域である「セグメント」に分割し、その領域毎に外部から所望の電圧を印加するものを、セグメント表示と呼ぶ。
どのセグメントに電圧をかけるかを適宜制御すれば、数字の0 - 9等を表示し分けることができる。数字だけでなく擬似的なアルファベットも16セグメント程度で1文字を表すものがあり、各種電気機器の動作表示部などではピクトグラムのような簡単なマークもセグメントによって表される。セグメント数が少なければスタティック駆動されるが、電卓のようにセグメント数が多くなるとダイナミック駆動(人間の目で判断できないほど高速で表示を順番に切り替える方式)される。
セグメント表示の多くは中間調を持たず明暗の2つの状態で表示されているが、電池が消耗した電卓などで駆動電圧が不十分になると、表示が薄くなり、中間調のような表示が起きる。
液晶テレビでは、液晶パネルは製造原価の6割から7割を占める重要な部分である。
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