標的艦(ひょうてきかん、Target ship)は海軍の艦種の一つである。アメリカ海軍では実艦標的を目標として沈める演習をSink Exercise(SINKEX)と呼ぶ[1]。
標的艦とは、名前のとおり、爆撃訓練や砲撃訓練、新型砲弾・ミサイルの実験などで標的として使うことを目的とする軍艦である[注釈 1]。特務艦の一種である[注釈 2]。標的を曳航する場合のほか、無線操縦や[3]、有人操艦によって、自らが目標となる場合もある。
海軍休日時代の1930年10月に発効したロンドン海軍軍縮条約では、標的用艦船の保有隻数や武装撤去についての規定があった[注釈 3]。
廃艦(廃船)となった艦船の船体を、そのまま実弾の標的として処分することもよくある[注釈 4]。
このような場合は実艦的、実艦標的と呼称される。
すでに艦船ではなく単なる標的なので艦と呼ぶのは不適切な表現だが、こちらもしばしば標的艦と呼ばれる。旧式化や艦齢超過のために標的になった事例のほか、軍縮条約により未完成艦、新造艦、現役艦を廃棄する方法の一環として[注釈 5]、練度向上のための標的や、新兵器の実験艦[注釈 6]として処分した事もあった。
注
測量艦は水路氣象の探求調査に從事するもの、標的艦は艦砲射撃訓練の標的曳航に從事するもの、練習特務艦は教育に適する設備を有するもので三者共平時任務に属し、云はゞ戰闘力の培養機關であります。
第三款 標的用ニ變更セラルベキ艦船
(イ)専ラ標的用ニ變更スルコトニ依リ處分セラルベキ艦船ハ左記物件ガ撤去セラレ且陸揚セラレタルカ又ハ艦内ニ於テ使用不能ノモノト爲サレタルトキハ戰闘任務ニ堪ヘザルモノト看做サルベシ (一)一切ノ砲/(二)一切ノ射撃指揮所及射撃指揮要具竝ニ主要射撃指揮通信電線/(三)砲架操作用又ハ砲塔操作用ノ一切ノ機械/(四)一切ノ彈藥、爆藥、機雷、魚雷及魚雷發射管/(五)一切ノ航空用設備及附属物件 本艦船ハ艦船ヲ戰闘任務ニ堪ヘザルモノト爲スコトニ關シ第一款ニ於テ規定セラルル所ト同一期限迄ニ前記状態ト爲サルルコトヲ要ス
(ロ)各締約國ガ「ワシントン」條約ニ依リ既ニ有スル權利以外ニ各締約國ハ専ラ標的用ノ爲左記ヲ何時ニテモ同時ニ保有スルコトヲ許サル (一)三隻ヲ超エザル艦船(巡洋艦又ハ驅逐艦)但シ右三隻中一隻ニ限リ基準排水量三千トン(三千四十八メートル式トン)ヲ超ユルコトヲ得/(二)潜水艦一隻
(ハ)標的用ノ爲艦船ヲ保有シタルトキハ當該締約國ハ之ヲ再ビ戰闘任務用ニ變更セザルコトヲ約ス
射撃は四日午前に於て遺憾なく施行せられたり。之に先だつて標的艦壹岐は他艦に曳かれつゝ御召艦の近傍を過ぎ行きぬ。時に殿下は武官等を随へ給ひて後甲板にあらせられしが、東郷總裁は恭しく御前に進み、重々しき口を開きて、壹岐の前身たる露艦「ニコライ」一世の日本海に於ける戰況、竝に遂に鬱陵島附近に於て我が艦隊の爲めに包圍せられ、他の三艦と共に降旗を掲げたる其の顛末を御説明申上げ、猶ほ同艦は皇國の艦籍に入りてより盡す所尠からず、今は亦射撃の標的となり、實驗上に貢献する所あらんとする旨を言上せり 此の時元帥は思はず海戰當時を追憶してや、沈箸なる其の面上にも痛烈の氣漂ひ、三笠艦上に立てる面影を髣髴し來れり。(以下略)
ワシントン軍縮会議で、日本側は長門型戦艦陸奥を保有するかわりに、摂津を廃棄することになった。
日本海で勇名を馳せた 軍艦明石撃破沈没 海行かばの曲 海底の藻屑と消ゆ[35]【東京十四日】日本海々戰で勇名を馳せた明石(二千八百噸)は追濱飛行隊一本一万圓の魚雷發射の犠牲として相模灣にて沈没された、この日聯合艦隊は軍樂隊に「海行かば」の曲を奏でさせ谷口軍令部長、岡田大将等は昔を偲んで感慨無量であつた(記事おわり)
(実驗弾種)桜弾(陸軍)(装備状況)最上甲板上飛行甲板と同高の櫓上(艦最後部)(撃角二〇度)|(結果)艦底破孔 六九〇×八〇〇 浸水一五〇T
脚注
#対戦艦空中爆撃 p.4〔 英國ニ於ケル對戰艦爆撃演習 大正十二年八月一日(標的艦アガメムノン、表略)標的艦ハ無電ニテ操縦シ不規ニ速力ノ増減及少角度ノ変針ヲ行フ 〕
「大正13年7月7日(月)海軍公報(部内限)1119号 p.5」 アジア歴史資料センター Ref.C12070294800 〔 ○訂正 六月二十六日公報(部内限)號外 聯合艦隊戰技施行豫定期日一覽表中七月二十五日ノ部ヲ|二五|長門、陸奥第六回教練射撃 肥前ヲ目標トスル星彈研究射撃發射(金剛、比叡、第一驅逐隊)|ニ、同二十八日ノ部中「第五一驅逐隊」ヲ「第二一驅逐隊」ニ、同三十一日ノ部中「第四二驅逐隊」ヲ「第四五驅逐隊」ニ、八月三日ノ部中「名取、長良」ヲ「由良、名取」ニ、同四日ノ部中「由良、平戸」ヲ「長良、川内、平戸」ニ孰モ訂正 〕
#対戦艦空中爆撃 p.10〔 (五)帝國海軍ニ於ケル爆撃實験 本年七月相模灘ニ於テ旧戰艦石見ニ對シ實施シタルモノニシテ其要領左ノ如シ(表略) 〕
- 宮内庁 編『昭和天皇実録 第二 自大正三年至大正九年』東京書籍株式会社、2015年3月。ISBN 978-4-487-74402-2。
- 宮内庁 編『昭和天皇実録 第四 自大正十三年至昭和二年』東京書籍株式会社、2015年3月。ISBN 978-4-487-74404-6。
- 塩山策一ほか『変わりダネ軍艦奮闘記 裏方に徹し任務に命懸けた異形軍艦たちの航跡』潮書房光人社、2017年7月。ISBN 978-4-7698-1647-8。
- (12-28頁)当時「矢風」艦長・海軍少佐桜庭久右衛門『標的艦「矢風」巨弾地獄に針路をとれ 航空隊の技量向上に貢献しつつ潜水艦跳梁の海を護衛に任じた特務艦の航跡』
- (37-49頁)当時「大浜」艦長・海軍中佐山川良彦『悲運の高速爆撃標的艦「大浜」の怒りと涙 最新鋭駆逐艦なみの性能をもつ標的艦ながら油切れに泣き遂に沈没』
- ピーター・シャンクランド、アンソニー・ハンター「第2章 マルタ島の苦境」『マルタ島攻防戦』杉野茂 訳、朝日ソノラマ〈文庫版新戦史シリーズ〉、1986年12月。ISBN 4-257-17078-6。
- 寺崎隆治ほか『補助艦艇奮戦記 縁の下の力持ち支援艦艇の全貌と戦場の実情』潮書房光人社、2016年6月。ISBN 978-4-7698-1620-1。
- (164-287頁)戦史研究家伊達久『日本海軍補助艦艇戦歴一覧 水上機母艦、潜水母艦、敷設艦、一等輸送艦、二等輸送艦、敷設艇、電纜敷設艇、哨戒艇、駆潜艇、水雷艇、海防艦、砲艦、特務艦、全三三二隻の太平洋戦争』
- 原為一ほか『軽巡二十五隻 駆逐艦群の先頭に立った戦隊旗艦の奮戦と全貌』潮書房光人社、2014年12月。ISBN 978-4-7698-1580-8。
- (148-161頁)当時「夕張」航海長・海軍少佐津田武彦(夕張沈没後、波勝艦長)『袖珍軽巡「夕張」ソロモンへの片道切符 船団を護衛して魔の海域に作戦する小型軽巡を襲った痛恨の一撃』
- 福井静夫 著、阿部安雄、戸高一成 編『新装版 福井静夫著作集 ― 軍艦七十五年回想第三巻 世界空母物語』光人社、2008年8月。ISBN 978-4-7698-1393-4。
- ドナルド・マッキンタイヤー「1.海軍航空化への道ひらく」『空母 日米機動部隊の激突』寺井義守 訳、株式会社サンケイ出版〈第二次世界大戦文庫23〉、1985年10月。ISBN 4-383-02415-7。
- 雑誌「丸」編集部『写真 日本の軍艦 第13巻 小艦艇I』(光人社、1990年) ISBN 4-7698-0463-6
- アジア歴史資料センター(公式)(防衛省防衛研究所)
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- 『「〔五〕対戦艦空中爆撃ノ実験演習」奏聞及御前講演 巻3 大正8年3月31日~14年9月24日(防衛省防衛研究所)』。Ref.C11081070800。
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