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有機化合物の製法・用途・性質についての研究する分野 ウィキペディアから
有機化学(ゆうきかがく、英語: organic chemistry[1])は、有機化合物の製法、構造、用途、性質についての研究をする化学の部門である[1][2][3][4]。
構造有機化学、[5][6]反応有機化学(有機反応論[7])、合成有機化学、[8]生物有機化学[9]などの分野がある。
炭素の酸化物を除き、炭素化合物はすべて有機化合物である[10]。また、生体を構成する物質のうち、タンパク質や核酸、糖、脂質といった化合物は炭素化合物である[注 1]。ケイ素はいくぶん似た性質を持つが、炭素に比べると Si-Si 結合やSi=Si結合等の安定度が低いために炭素ほどの多様性をもたない[11]。
有機化学が誕生する以前から人類は様々な有機物を利用していた。食料については言うに及ばず、麝香や樟脳等の香料、石鹸やアルコール等がその好例である。石鹸は油脂を植物灰中の金属塩と反応させて作られていた。従って有機化学の始まりを定義するのは異論のあるところである。
1780年頃にカール・ヴィルヘルム・シェーレが生物材料から有機化合物を取りだすことに成功し、以降徐々に有機化学が発展していくが、当時は有機物は人工的には合成することができず、生命の神秘的な力によって生み出されるとされる、いわゆる生気論が主流であった[12]。二酸化炭素などは炭や木を燃やせば作ることができるため、生命力に依らない無機物であるとされた。つまるところ、人によって作ることができず、生物によってのみ作ることができる物質が有機物であると考えられていたのである。
化学における生気論は1828年にドイツのフリードリヒ・ヴェーラーによって打ち破られた[注 2]。彼は、無機物であるシアン酸アンモニウムの加熱によって有機物である尿素が得られることを示したのである[13]。これによって有機物の定義は変化した。
その後、19世紀後半には有機化学は分野として独立し[14]、様々な有機化合物の性質が調べられ数々の反応が発見されるとともに、様々な有機物が合成されるに至り生気論は崩壊した[15]。その中で特筆すべきものとして芳香族化合物の発見があげられる。最初に見つかった芳香族化合物はベンゼンである。ベンゼンの構造はフリードリヒ・ケクレによって示された[注 3]が、二重結合を有する物質の割に反応性が低いことや、置換誘導体の種類が少ないなど奇妙な性質を持っていることが分かった[16]。この奇妙な性質の原因が解明されるのは量子力学が導入されてからである。
1857年にウィリアム・パーキンが紫色染料のモーブを合成することに成功したのを皮切りに[17][18][19][20]、有機化学の成果は続々と工業分野に応用されるようになった[21]。初期の応用は染料工業が中心であったが、やがて19世紀後半には薬品工業にも応用は広がっていった[22]。1869年のセルロイドの開発をきっかけに合成樹脂の研究が進められ、1909年にはアメリカのレオ・ベークランドが初の完全な合成樹脂としてベークライトの工業化に成功した[23][24][25]。18世紀末には人造絹糸(レーヨン)の開発も進み、さらに時代が下って1934年、ウォーレス・カロザースによってナイロンが作り出された[26][27][28]。やがて有機化学の発展と共にゴムや接着剤、樹脂などが合成されるようになり、靴下から宇宙船まで様々な分野に応用されている。
有機化学は元来生物を構成する物質を扱う学問であり、生化学とごく密接に関連している。[29]有機化学における手法は、生化学における化学反応の理解や、生体物質の解析などに応用される。現在では、有機化学は生化学や高分子化学の基礎として位置づけられている。
有機化学の理論は構造論と反応論に大別できる[30]。
有機化学の基本的な実験操作は、現代ではかなり洗練され、実験の安全性および結果の妥当性を保証するものとしてほぼ確立されているので、実験者はまずそれらをしっかりと身につけることが求められる。 ただし各手順は研究者によって微妙に異なることもあり、時にはそこから流派(出身研究室)を推測することも可能である。
有機化学で化合物の合成方法を考える場合、炭素骨格の構築と官能基の変換に大別することが多い。
一般の有機化合物は、鎖式炭化水素(アルカン、アルケン、アルキン)あるいは環式有機化合物(シクロアルカン、芳香族炭化水素、複素環式化合物など)を骨格とし、そこに官能基(ヒドロキシ基、カルボキシル基など)が結合した構造を持っている。
官能基を変換することは比較的容易である。例えば、アルコールは適当な酸化剤を用いることによって、アルデヒドあるいはカルボン酸に変換でき、カルボン酸からさらにアミドやエステルへと変換することが可能である(官能基については基に詳しい説明がある)。
一方、炭素骨格を構築することはなかなか難しい。古くからアルドール反応やグリニャール反応が用いられてきたが、期待する炭素骨格を効率よく合成することは困難であった。しかし、近年では鈴木カップリングやメタセシス反応など、効率の良い反応が開発され、タキソールやシガトキシンのような複雑で巨大な分子も全合成することが可能となっている。
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