日本産業標準調査会(にほんさんぎょうひょうじゅんちょうさかい、英: Japanese Industrial Standards Committee、略称:JISC)は、産業標準化法(昭和24年6月1日法律第185号)第3条第1項の規定により経済産業省に設置される審議会。
2019年(令和元年)7月1日の法改正以前の名称は日本工業標準調査会(にほんこうぎょうひょうじゅんちょうさかい)であった。
概要
- 業務
- 産業標準化法によりその権限に属させられた事項を調査審議するほか、産業標準化及び国際標準化の促進に関し、関係各大臣の諮問に応じて答申し、又は関係各大臣に対し建議することができる(産業標準化法第3条第2項)。
- 委員
- 調査会の委員は、30人以内で組織され、学識経験のある者のうちから、関係各大臣の推薦により、経済産業大臣が任命する。委員の任期は、2年である。会長は委員の互選により選出され、調査会の事務を総理する(産業標準化法第4条、第5条)
- 臨時委員
- 特別の事項を調査審議するため必要があるときは、臨時委員を置くことができ、学識経験のある者のうちから、関係各大臣の推薦により、経済産業大臣が任命する。臨時委員は、当該特別の事項の調査審議が終了したときに退任する。(産業標準化法第6条)
- 専門委員
- 調査会には、専門委員を置くことができ、会長の命を受け、専門の事項を調査する。専門委員は、会長の申出により、経済産業大臣が任命し、当該専門の事項の調査が終了したときは、退任する。(産業標準化法第7条)
- 委員の手当および旅費
- 調査会の委員、臨時委員及び専門委員は、予算に定める金額の範囲内において、手当及び旅費が支給される(産業標準化法第8条)。
- 国際標準化機関の加盟団体
- 国際標準化機構 (ISO) に昭和27年(1952年)[1]、国際電気標準会議 (IEC) に昭和28年(1953年)[2]に加入。平成21年度に、調査会が加盟するISOに148百万円を[3]、IECに81百万円を[4]、それぞれ分担金として政府の一般会計から支出した。
- 事務局
- 経済産業省産業技術環境局基準認証ユニット(基準認証政策課・工業標準調査室・基準認証振興室・基準認証広報室・産業基盤標準化推進室・環境生活標準化推進室・情報電子標準化推進室・認証課・管理システム標準化推進室・相互認証推進室・製品認証業務室・知的基盤課・計量行政室)[5]
平成13年中央省庁再編前後の動向
調査会は平成13年中央省庁再編前には、旧通商産業省工業技術院の付属機関で、事務局は同院標準部標準課が行っていた[6]。平成13年の中央省庁再編の際には、工業技術院の独立行政法人化(産業技術総合研究所)と併せて、行政組織の減量・効率化の観点から同院標準部各課及び調査会の位置づけが問題になった。この点、中央省庁等改革大綱で「通商産業省の工業技術院標準実施部門について、一部民間で対応できない規格作成等を除き、民間移譲」することとし[7]、中央省庁等改革の推進に関する方針で「通商産業省の工業技術院標準実施部門(標準部材料機械規格課、消費生活規格課、情報電気規格課)について、民間等では規格作成ができない等の理由から国が行わざるを得ない業務を除き規格作成業務の民間移譲を進める 」とされた。結局、規格制定部門については国営を維持することとし、併せて平成11年当時は特別の機関である工業技術院に置かれる合議制の機関であった調査会が、府省再編に伴い、審議会と位置づけられることとなった[8]。
その後調査会は『21世紀に向けた標準化課題検討特別委員会報告書』(平成12年5月29日)44頁で、民間主導のJISの原案作成の更なる推進を提言した上で、「我が国では、規格原案作成を専業として行っている民間団体はなく、規格作成・普及だけで独立に採算を立てられる状況にはほとんどないものと考えられる」ことから「今後規格作成における民間の役割を更に強化するためには、引き続き民間における規格原案作成を支援していく一方、民間提案((注:工業標準化法)12条提案)に係る規格原案作成者に著作権を残す等、規格作成に係るインセンティブを高める方策を探る」とした。
調査会の民営化に関する議論
上記の省庁再編以降、日本の標準化行政における調査会の位置づけ、役割、存廃、民営化の可否などについて議論がしばしば行われるようになった。調査会の民営化推進論と国営維持論の主な内容は、次の表のとおりである。民営化推進論者にはメーカー等の出身者が、国営維持論者には経済産業省(旧通商産業省出身者を含む)の関係者が多い傾向にある。
表:調査会の組織に関する議論の概要
会議名・資料名 | 民営化推進論 | 国営維持論 |
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21世紀に向けた標準化課題検討特別委員会
(2000年) |
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『21世紀に向けた標準化課題検討特別委員会報告書案』パブリックコメント
(2000年) |
「今後の日本の標準化システムは、主要規格先進国のシステムである『国家標準化機関が政府機関でない国』(注:下記『主要国の政府と国家標準化機関の状況』の米国、英国、ドイツ、フランス等参照)の形態をとるべきであるとの考えにいたっている。(注:工業標準化)法第12条による民間の自主的な規格が、いまだに担当する大臣の名において制定されているのは、もはや時代にかなった方式ではない。」[12] |
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情報処理学会情報規格調査会 NEWSLETTER
(1998/2010年) |
「『国家規格』とは 本来 "International Standard" に対応する "National Standard" であって、少なくとも欧米先進諸国では "National Standard" は政府制定の規格ではない。米国のANSIを始め先進国の多くの標準化団体は経費を企業メンバーの会費、規格文書の売り上げなどによって賄っており、政府からは助成金さえもらっていない。…政府が制定していること自体が間違っていて、是正が必要だというのが筆者の考えである。 」「我が国が経済大国になってからも、発展途上国と同様に官庁が加盟していることは許されないのではないか。行財政改革や規制緩和が叫ばれているときに、なぜこれを産業界に戻そうとしないのか。それは官僚が一度手にした権限を自ら放棄することは絶対にないからである。…一方産業界の方も通産省が嫌がることは言い出したがらないし、近視眼的にはISOやIECの国際分担金を政府が税金から払ってくれるならその方が得だと考えるに相違ない。 」「政府が標準化に口を出すことを止めてもらい、委託金のようなものも徐々に当てにしないようにして、その間に本当にボランタリーな標準化団体を確立すべきであろう。」[14] |
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その他
(2006/2007/2009年) |
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以上の議論においては、①国家標準化機関としての国の役割はJISCが設立された第2次大戦直後と比べて変化があったのか、ある場合は民営化すべきなのか、②民間団体が国家標準化機関である欧米先進国と同様にすべきであるのか(下記の表参照)、③国際標準化活動においては政府機関が中心的な役割を担うべきなのか、④JISの公共財的な性格と民間団体の利益の関係が、主な論点になっている。
このうち④については、民間団体にJIS原案の著作権を残すことを以って対処する旨の見解を調査会事務局が示しているが、JISのように主務大臣が制定し、その普及の徹底を目的とする規格については著作権法第13条第2号が適用されることから、JIS本文は著作権法で保護されない著作物であるとの指摘がある[19]。これに対して調査会事務局側は、規格本文が官報に掲載されていないこと、また必ずしも官公庁自らが作成したものではないことを理由として、否定的な見解を示しているが[20]、官報への本文掲載や官公庁自らの作成が著作権法第13条第2号の適用の要件となっていないことから、その妥当性に疑問があるとの批判がある[21]。
調査会は現在、『21世紀に向けた標準化課題検討特別委員会報告書』(平成12年5月29日)の提言に基づいて日本工業標準調査会標準部会議決・平成14年4月24日適合性評価部会議決)を定め、財団法人日本規格協会はこれらに基づく運用により、JIS規格票、JISハンドブック等の販売で1,574,901,508円の収入(平成21年度)を得た[22]。しかしJIS本文が著作権法により保護されなければ、このような販売や標準化活動の資金源などについて見直す必要がある。さらに、平成13年の中央省庁再編の際に問題となった調査会の民営化について再度検討する可能性がある状況となっている。
主要国の政府と国家標準化機関の状況比較
参考文献
- 鳥澤孝之「国家規格の著作権保護に関する考察 -民間団体が関与した日本工業規格の制定を中心に-」『知財管理』第59巻第7号、日本知的財産協会、2009年、793-805頁、ISSN 1340-847X、NAID 120007137247。
脚注
関連項目
外部リンク
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