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料理、料理人、食材など食に関することを主題にした漫画 ウィキペディアから
料理漫画(りょうりまんが)あるいはグルメ漫画(グルメまんが)は、料理、料理人、食材など食に関することを主題にした漫画を指す。
食の定義は本能に根ざしてるとして[注 1]、様々な角度から漫画に反映させられているが、一般に料理漫画には対決や(飲食店の)経営、(食事をつくる相手への)愛、(食材についての知識をもとにした)謎などのテーマが描写される[2]。グルメ漫画には三大欲求の食欲と並ぶ性欲と関連付けられた作品も多く、女性が食べたときの蕩けるような表情が描かれる作品も2010年代には増え、「美味しいものを食べたときのとても幸せな様が、そう表現されるのは食欲を性欲の代わりとして見立ている」との解釈もある[3]。
タイトルに料理の名前を冠した作品も多いが、漫画研究者の斎藤宣彦は、それらを料理漫画には含めず、重視しているのは次の3点である[4]。
- 作品中で「料理(スイーツやお酒など飲み物も含める)をつくる」ことが描かれる
- つくる"過程"が大事。作り方や手順に触れられている
- "味"も大事。おいしさに関する表現がなされている
杉村啓は斎藤による定義を踏まえながらも、2010年代になると多様性があり、それだけでは収まらないとして、
- 舞台が飲食店である
- 主人公が「飲食」にまつわる職業や趣味(食べ歩きも含む)を持っている
- 「飲食」にまつわることが重要なテーマとなっている
を付け加え、それらが複数当てはまり、特に3つ目を重要視して料理や食事をせず食べた思い出を語る話術でおかずをかけて争う『極道めし』や、食事をせず食に関するトリヴィアを語る『めしばな刑事タチバナ』も含め、『トリコ』のように食材や調理方法までファンタジー世界な作品も該当するため、「料理・グルメ漫画は広く存在するゆえ『食漫画』『飲食漫画』と呼ぶのが正確かもしれない」との見解ながらも「『グルメ漫画』として広く通用している」として、自著でもそれを使っている[5]。
南信長は厳密な定義はないが料理を作る人が主人公なら料理漫画、食べる人が主人公ならグルメ漫画、両方とも当てはまらない多様な作品がある時代となってからはまとめて食漫画と言えるのではないかとしている[6]。
石ノ森章太郎は1959年(昭和34年)に『トンカツちゃん』(週刊少年サンデー)というギャグ漫画を描き、「初の食欲増進マンガ」と自称していた[7]が、斎藤宣彦はこの作品を「料理漫画かは微妙」としつつも先駆の1つに挙げている[7]。
斎藤によれば、料理漫画は望月三起也の『突撃ラーメン』(週刊少年ジャンプ)と、一ノ木アヤ原作で萩尾望都が画を担当した『ケーキ ケーキ ケーキ』(なかよし)が嚆矢で[注 2]、どちらも1970年(昭和45年)に連載が始まり、少年漫画と少女漫画とで同時期に料理をサブジャンルとしてもつ作品が誕生したとのこと[4][注 3]。このテーマで漫画を書くことになった望月は、当時『週刊少年ジャンプ』の編集長だった長野規から子供の好物を題材にすればウけると思うとアドバイスされたことを述懐している[10]。
で、そのラーメンマンガにトライしたのですが、それまでの私は活劇モノなら得意、タテひざ30分で一本のアイデアが出るというタイプでしたが、さァ困った。メン好きの私ですが、それまでに少年マンガで“食モノ”なんてない。参考にもしようがない。(…)ま、それでも“食モノ”マンガを初めて描いたってところは、自慢していいんでしょうか。長野さんのアイデアマンぶり、いまでも色々アドバイスされた事、お世話になってます[10]。
『突撃ラーメン』は戦争アクションであり、『ケーキ ケーキ ケーキ』はミュージカルを題にとって身体の動きを演出にとりいれていた。料理漫画はアクションものとして創作された[11]。また『突撃ラーメン』はラーメンが大きな主題ではあるが、メインは主人公の波乱万丈な人生、親子の物語、復讐で、料理の味が詳しく語られるわけではなく、父の仇である竜玉師の経営する店の前に出店して客を奪おうとするも竜玉師の予想通りに知名度先行で肝心のラーメンの味に落胆したことで1か月で閑古鳥が鳴く事態となるが、具体的にラーメンの何が問題だったのか、どういうメニューだったのかなどは触れられず、ヒューマンドラマがメインだった[12]。杉村啓は亀井三恵子の『台所剣法』を1970年から2015年まで『しんぶん赤旗』で45年間連載された世界で最古かつ最長のグルメ漫画だとする[13]。
同じ年に3作品が登場したのは高度経済成長期で、国民に余裕ができるようになり、1968年に元禄寿司一号店、吉野家のチェーン店展開が始まり、1970年に初のファミリーレストランすかいらーく開店、1971年にマクドナルド日本一号店が開店したように外食産業が発展していった時代だった[14]。そして、「家庭では電気炊飯器の普及したことで重荷が減り、料理が労働より楽しむこともできるようになったから」と杉村啓はみている[15]。
紙というメディアでは、料理の見た目というごく一部の側面しか描写できない[16]。望月によって料理漫画(彼によれば「食モノ」「味モノ」)が初めて意識的に描かれると同時に、その困難さも意識された[10]。
料理の味も香りも漫画では表現できないために「美味しさ」を描くことができない難しさが料理漫画にはあることは、黎明期の時点で存在したが、それを克服する手法として料理を食べた人間の解説や「リアクション」が考案された[17][注 4]。『ケーキ ケーキ ケーキ』でもケーキの美味しさを味わったキャラクターがミュージカル仕立てで歌い踊るが[11]、このリアクションの表現を極端なまでに推したのが寺沢大介で、『ミスター味っ子』(週刊少年マガジン)の料理を食べた「『解説者』の激しいリアクション」は、「料理漫画の新たなリアリティのありどころ」とした[18]。『ケーキ ケーキ ケーキ』では発表の少し前より少女漫画でみられたミュージカル的な演出を取り入れ、同作ではそれを食べたときのリアクションとして進歩させた[19]。杉村は「勝ち抜き方式ではないが料理に順位をつけるコンクールに出場するため、少女漫画におけるグルメ漫画は同作より始まり、グルメ漫画の原点の1つ」と見ている[20]。そして『ミスター味っ子』の、特にアニメ版における「伝説的誇張[21]」が施された過剰な反応で美味しさを表現するやり方は、『焼きたて!!ジャぱん』(橋口たかし。週刊少年サンデー)などへと受け継がれて大きな影響力を持った[22]」[21]。特に中華料理の題材で顕著となり、『鉄鍋のジャン!』(西条真二。週刊少年チャンピオン)やの『中華一番!』(小川悦司。週刊少年マガジン)などは途方もないレシピとリアクションのぶつかりあいでありながら、同時に料理漫画としての正当性も併せ持つ作品となった[23]。こういった異端と正統のバランス感覚はゆでたまごの『グルマンくん』にもみられる[23]。また、『ミスター味っ子』『中華一番!』はグルメ漫画は食べた人が大仰なリアクションするというイメージを印象付けた作品との見解もある[24]。
すでに『ケーキ ケーキ ケーキ』において「料理対決」は行われていた[11]。この手法は続く『包丁人味平』(牛次郎、ビッグ錠。週刊少年ジャンプ)で一定の仕上がりとなり、主人公が何かのきっかけで「対決」に参加して料理やレシピを作り、審査員が味の「解説」をして、「勝負」が着くという流れは料理漫画の様式美となる[21]。対決や実況、解説、そして勝負という図式は「スポ根」を踏襲したものでもあり[25]、斎藤宣彦らは「野球漫画で生み出された「試合」や「実況」を換骨奪胎したもの」と評し[26]、試合に勝つためのインパクトの強い料理とは「必殺技」であり、奇想天外な「魔球」と見る向きもあった[25][27][28]。1980年代に結城貢が提唱した「料理は愛情」という考えが『包丁人味平』で描かれ、「味平は場数を踏んでいなくとも勝つことができるのは料理を作るときに食べる人のことを思って作るのがそれだ」との指摘もされ、スポ根的対決を含むグルメ漫画の礎になった[29]。
1980年代になると漫画の外では外食が根づき、「グルメ・ブーム」が生まれた。
その流れをつくりだす原動力の一つともなり、また自らその流れにのったのが1983年開始の『美味しんぼ』(雁屋哲、花咲アキラ。ビッグコミックスピリッツ)である[30][31]。この頃に『ザ・シェフ』(剣名舞、加藤唯史。週刊漫画ゴラク)、『クッキングパパ』(うえやまとち。モーニング)なども成功をおさめ[32]、『美味しんぼ』の主人公たちが目指す料理の「究極」は時代の流行語ともなるほどジャンル全体が盛り上がりをみせた[32][33][注 5]。『美味しんぼ』の登場は(野球漫画のスタイルに頼らないという点、漫画的なアイディア勝負やリアクションをしないという点で)画期的だったと言われ[27]、それ以前のグルメ漫画は食材にあまりこだわらず、例えば、魚の鮮度に注目することはあっても、野菜、調味料、肉ならどの動物のものかとかまではこだわらなかったが、『美味しんぼ』はそれこそ本質で時間をかけて探しに行き、他のグルメ漫画で触れにくくされてきた環境問題や、食品偽装・添加物などの問題に立ち入り、毀誉褒貶ありながらも人気を得た理由の1つとなった[35]。この作品は主人公が料理人ではなく、農薬や捕鯨、さらには歴史問題にまで絡めた政治的すぎるメッセージを含んでいたが、それと同時に食の本質や食材の知識を問うていた。トリヴィアルな蘊蓄をつめこむ「情報漫画」でもあったことも、その後の料理漫画へ強い影響を与えた[30]。雁屋哲がグルメブームを批判するために原作をつとめたはずだったが、『美味しんぼ』の誕生によって「料理漫画はグルメ漫画」と呼ばれ、ブームの原動力の1つとなったことは「やや皮肉な出来事」と表現されている[36][37]。
『クッキングパパ』は、所帯を持つ男性主人公が家庭で料理を作り、1980年代にはあまり考えられなかった状況で登場[注 6]、主人公は料理が得意なことをしばらく周囲には隠していた[39]。作中に登場する料理のレシピを併載したことでヒットし、男性も家庭料理を作る習慣が広まった[40]。
料理漫画の最初期の作品である『包丁人味平』は、「職人」を描いた漫画でもあった[41][注 7]が、『美味しんぼ』は漫画的誇張をされながらも修行と経験を積んで高度な技術をふるい、店を開き繁盛させるビジネスマンとしての側面をもつプロフェッショナルを主人公として、(少年の)読者に向けて「大人の世界」を描くという「職人もの」の流れを汲み、アイディア料理が中心になっていく『ミスター味っ子』にも受け継がれている[43]。しかし、『美味しんぼ』の主人公である山岡士郎やライバルであるその父親の海原雄山は、その流れを断ち切るキャラクターでもあり[44]、山岡は普通以上の料理の腕前をもつが、それらは知識やセンスなどによるもので、求道的職人のような日々鍛錬を怠らないといった描写はない[36][注 8]」。「グルメ漫画」の主人公は基本的に料理をつくらず、料理についての知識や情報を語り、食の本質を論じてみせる批評家になることで主人公性を獲得した[45][46][47]。料理の味を表現する手段も絵からセリフのレベルに移され、リアクションの過剰さは「美味しんぼ」においては例えば「まったりとして…」といった台詞に代表されるような形容表現の過剰さとして現れた[47]。絵は「情報性」をそこなわないために抑制して描かれ、絵と文の関係が逆転した[48]。
『ミスター味っ子』は料理対決をしながらも、それ以前の同系統の作品と違い、登場する料理が実際に作れるもので演出は少年漫画的必殺技もなく入手が難しい食材が使われるわけでもない実在する料理なのが画期的だとされた[49]。1980年代には漫画形式で解説する料理本や、グルメ漫画でも荒唐無稽ではなく取材に基づいたきちんとした描写の作品が増え、実在の商品やそれをモデルにしたものも描かれるようになり、『道連れ弁当』(ありま猛、きり・きりこ。リイドコミック)[50]、『夏子の酒』(尾瀬あきら。モーニング)[51]など、本格的な知識を得られる作品が増えた[52]。
1990年代になると1993年から放送されたテレビ番組『料理の鉄人』の影響があり、『美味しんぼ』では番組出演した道場六三郎、岸朝子本人が登場[52]、1995年開始の『鉄鍋のジャン』は、それまでのグルメ漫画の傾向と大きく異なり主人公の秋山醤があらゆる手段で料理勝負に勝とうとするなど、それまでの「料理は心」という主人公的考えを持つ五番町霧子を鼻で笑い、「料理は勝負」としたのは『料理の鉄人』にも通じ、番組と同じく料理は芸術でその腕を見てもらえればいいという思いを受け継いだのが『鉄鍋のジャン』」と杉村はみている[53]。同作で登場した飲めるラー油は後に中華料理店にも広まり、文庫版に掲載されたレシピを元に作られたものがインターネット上で話題になるなど現実の料理にも影響を与えた[54]。1992年に開始した寺沢大介の『将太の寿司』(週刊少年マガジン)は1990年代を代表する寿司漫画となり、審査役の柏手の安こと溝口安二郎は彼のパロディが他作品で多く描かれたり、作中における食べる人の心を考えるのが大事という信念によるものか韓国で経営必読書として注目されたり、ドラマ『宮廷女官チャングムの誓い』の原作者は『将太の寿司』を読んで料理対決のアイディアにするなど、日本だけの影響に止まらなかった[55]。
グルメブームにより食通でなくとも食を語ったり楽しんだりことにおおらかな時代になり、漫画にもそういう主人公の『大市民』(柳沢きみお)、『酒のほそ道』(ラズウェル細木。週刊漫画ゴラク)、『孤独のグルメ』(久住昌之、谷口ジロー)が登場した[56]。1990年代はグルメ漫画の細分化の傾向がみられ、映像化や荒唐無稽な内容でも現実に影響を与える作品が増えた[57]。
1990年代から2000年代にかけて中華料理などジャンルの細分化が進んだのは、日本に多様な国の料理店が開店したり、中食の広まりや食べログの開設によって有名店でなくとも食べに行くようになったことで食文化が成熟したことがグルメ漫画にも影響を与え、特定の料理に特化した漫画が増加・細分化して掘り下げることの先駆となったカレーを主題とした『華麗なる食卓』(ふなつ一輝。週刊ヤングジャンプ)が登場した[58]。ビジネス面も切り込む『ラーメン発見伝』シリーズ(久部緑郎、河合単。ビッグコミックスペリオール)は後に特定のメニューだけで商売が成立するのかという経営のことを考える作品が登場する影響を及ぼした[59]。1990年代から2000年代にはB級グルメブームが起こり、それにより漫画では『駅前の歩き方』(森田信吾。モーニング)、『食キング』(土山しげる)、同時期には大食いブームもあり、『喰いしん坊!』のようなそれまでのグルメ漫画ではなかった大食いやとにかく食べ続けることを主題とした作品も登場した[60]。
『焼きたて!!ジャぱん』は企業とグルメ漫画のコラボ商品が大ヒットした先駆だが、当初は作中で料理を食べたときのリアクションをパロディとして扱っていたのがあくまでもイメージだったものが実際に影響を与えるほどとなり、同作でそれをやり過ぎてしまったことでグルメ漫画で大仰なリアクションは減少したとの見方もある[61]。
『神の雫』(亜樹直、オキモト・シュウ。モーニング)は日本のみならず韓国やフランスでワインブームを起こし、作中に登場するワインの人気が急上昇して出荷停止になるほどであった[62]。作中でワインを評するときの表現はより進歩し、『焼きたて!!ジャぱん』のようにギャグありきではなく芸術品や風景に喩えたのはリアクションが説得力が増したといえる[62]。
2000年以降は時代を反映してプロではない素人による家庭料理を題材にした『おうちごはん』(スズキユカ)、『花のズボラ飯』(久住昌之、水沢悦子)、『リトル・フォレスト』(五十嵐大介。月刊アフタヌーン)や、料理男子の増加によって男性が作って女性に食べてもらう『まかない君』(西川魯介)、『どんぶり委員長』(市川ヒロシ。WEBコミックアクション)、『にがくてあまい』(小林ユミヲ。EDEN)が登場した[63]。
2000年代には女性主人公の作品が増加し、『ちぃちゃんのおしながき』(大井昌和)や少女が憧れの対象として特にパティシエを目指したりその職をメインに据えた『キッチンのお姫さま』(小林深雪、安藤なつみ。なかよし)、『夢色パティシエール』(松本夏実。りぼん)、『パティスリーMON』(きら。YOU)が登場[64]。2000年代後半になると、1人で食事を楽しむ『孤独のグルメ』のフォロワーが多く登場。同作は1994年開始だが、同年代のグルメものでは『クッキングパパ』は家族で料理を食べ、『将太の寿司』は一人で食べるのは楽しくなく家族愛こそが必要という話が幾度もあり、『料理の鉄人』は豪華な食材を惜しまず使っていたため中年男性が1人で外食するのは特異と見られた[65]。同作は筆者の久住昌之が泉晴紀とのコンビ泉昌之として1981年に発表した短編『夜行』が源流で、作中でトレンチコートの男性が夜行列車で弁当をどうバランスよく楽しんで食べていくかが描かれ、『孤独のグルメ』の主人公、井之頭五郎の原型とも考えられている[66]。2000年代になると五郎の特徴的な台詞がインターネット上で話題となり人気が出て、『夜行』から30年ほどかかって中年男性が一人飯にこだわることが広く受け入れられた[67]。両作はそれまでよくあった料理を作る人でもグルメの知識豊富な評論家的な主人公でなくとも食べることを好み、多少のこだわりを持つ主人公の先駆けで、それほど時間がかかって受容されるようになったのは漫画では他にはないと杉村は指摘している[68]。
ジャンルの細分化の果てである全体的にファンタジー世界である『トリコ』(島袋光年。週刊少年ジャンプ)では、読者から作中に登場する食材などを募集、以前よりそういったことは漫画ではあったが全43巻で完結近くまで応募が続いたのは同種の企画の中で最も成功した部類で、また同作のアニメを見た子供が主人公に倣って食事のときに手を合わせるようになったこともあり、食育の最も基本を子供に広めたとの見方もある[69]。
野球漫画の構造を取り込んだ『包丁人味平』によってパターンが確立され、評論家を主人公にした『美味しんぼ』が新たな歴史をつくった料理漫画は、その後も多様な作品が書かれ続け、「雑学」「レシピ」「大食い」「日常」などジャンルの細分化も起こっている[70]。どの週刊誌にも料理漫画が連載された時期もあり、このジャンルは漫画にとって欠かせないものとなっていった[70]。『美味しんぼ』を経験した料理漫画の新世代は、「主人公が料理をするとは限らないため」[45]、料理という語を取り除き「食マンガ」[31]といった名称で呼び始める。身近で低価格な料理や家庭料理を焦点にした漫画も増え始めた[71]。ラーメンをテーマにした『ラーメン発見伝』や駅弁をテーマにした『駅弁ひとり旅』、コーヒーをテーマにした『珈琲どりーむ』といった一つの料理に絞った作品も登場し[72]、ハンバーガーをテーマに全18巻という長期連載となった『本日のバーガー』(花形怜、才谷ウメタロウ。週刊漫画TIMES)、燻製をテーマにしたの『いぶり暮らし』(大島千春)、うなぎをテーマにしたの『う』(ラズウェル細木。モーニング)など、一つの料理の堀下げが主流となっていく。芝田隆広は新たな世代の「食マンガ」の特徴として、「漫画的な誇張がされていても実際に購入したり調理すれば食べられる料理」や、「味や素材にこだわりがあってもあくまで身近な料理に手をかける点」を挙げている[73]。
実在する飲食店が作中に描かれる『愛がなくても喰ってゆけます。』(よしながふみ)、『いつかティファニーで朝食を』(マキヒロチ。月刊コミック@バンチ)、『三十路姫』(伊藤静)、『みつめさんは今日も完食』(山崎童々、ツレヅレナツコ)、『ごほうびおひとり鮨』(王嶋環。ふんわりジャンプ)なども登場した[74]。
2010年代はより細分化が進み、『バリスタ (漫画)』(花形怜、むろなが供未)、『放課後のトラットリア』(橙乃ままれ、水口鷹志)、『ダンジョン飯』(九井諒子。ハルタ)、『異世界居酒屋「のぶ」』『異世界食堂』『とんでもスキルで異世界放浪メシ』、『幻想グルメ』(天那光汰、おつじ。ガンガンONLINE)のように異世界ファンタジーやなろう系小説のコミカライズのグルメものや、『お肉ガール』(川本スガノ)、『肉女のススメ』(小鳩ねねこ)、『肉食女子!!』(城谷間間、青木健生)少女と肉の取り合わせの作品である作品が登場したのは調理器具の発達で低温調理や真空調理が身近になり日本人の肉に対する意識が変化したためとされる[75][76]。異世界舞台のグルメものは現代にある料理を異世界の人々に食べてもらうパターンと現実にはない食材を使って料理を作って楽しむパターンに主に分けられる[76]。同年代は女性主人公が食べたり飲んだりする作品が増え、先駆けとして『ワカコ酒』(新久千映)があり、「同年代は女性の一人居酒屋ブーム、男性の割合が多い趣味を女性することが増えた遠因に同作でそれが可視化されたため」とされる[77]。女性に続いてボーイズラブ出身者による男性の食事姿を官能的に描く作品『めしぬま』(あみだむく)、『イケメン共 メシを喰え』(東田基)、『男子、隣人と食せよ』(森世)、『男のやる気メシ!』(鬼嶋兵伍)なども登場した[6]。
2000年代以降は細分化が進んだが別ジャンルとの複合化も多くなり、『信長のシェフ』(歴史。西村ミツル、梶川卓郎。週刊漫画TIMES)、『紺田照の合法レシピ』(極道。馬田イスケ。少年マガジンR)、『頂き!成り上がり飯』(ヤンキー。奥嶋ひろまさ)、『山と食欲と私』(山ガール。信濃川日出雄。くらげバンチ)、『不倫食堂』(不倫。山口譲司。グランドジャンプ)、『将棋めし』(将棋。松本渚。コミックフラッパー)、『シネマごはん』(映画。福丸やすこ)『とんずらごはん』(指名手配犯。義元ゆういち。マンガボックス)、や、漫画家との取り合わせ『めしにしましょう』(小林銅蟲。イブニング)『光れ!メシスタント』(310)、『漫画家接待ごはん』(瀬口たかひろ。月刊少年エース)が登場した[78]。また、
女子高生が罠猟で野生動物の被害を防ぐ攻防を描く『罠ガール』(緑山のぶひろ。電撃マオウ)、青果市場の仲卸業に入社した主人公の視点から青果物の魅力や取引を描く『八百森のエリー』(仔鹿リナ。モーニング)のような農業をテーマとした作品が登場したのは吉村和真は料理やグルメからその裏の生産にも興味と持ったことや暗く描かれることが多かった農村や農家が少年の成長や少女の居場所として題材とされるようになったとみている[79]。
2010年代開始のグルメ漫画は数百作に上るブームとなり、「料理を題材にすれば多数のジャンルとの取り合わせしやすく、食に無縁だったり嫌いな人はほとんどおらず、読者を得るとっかかりの良さがあり、それによって漫画家の技術や知名度とはあまり関係なく、巻数が短い場合は挑戦的な主題を扱いやすいこと」が理由との見解があり[80]、グルメ漫画専門の漫画雑誌『まんぷくジャンプ』(集英社)、『モーニング食』(講談社)、『食漫』(日本文芸社)が増刊として発行されたり、『ごはん日和』(ぶんか社)、『いただきマス幸せごはん』(芳文社)、『県民食堂なつかし屋』(ガイドワークス)、コンビニコミック『ぐる漫』(少年画報社)も登場した[81]。
定期・不定期刊行のアンソロジーも含む。
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