女王陛下のユリシーズ号
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『女王陛下のユリシーズ号』(じょおうへいかのユリシーズごう、H.M.S. Ulysses)は、イギリスの作家アリステア・マクリーンが1955年に発表した海洋冒険小説。作者の処女作である。第二次世界大戦中、ソ連に援助物資を送る架空の輸送船団FR77とドイツ軍との死闘を、FR77の護衛部隊の旗艦である架空のイギリス海軍巡洋艦「ユリシーズ」を中心に描いた作品。
日本語版は、村上博基の訳で早川書房のハヤカワ・ノヴェルズ、その後ハヤカワ文庫NVから出版されている。
1970年に『週刊少年サンデー』で漫画化(全11回)された。構成を滝沢解、作画は野口太陽がつとめた。単行本化はされていない。
1942年、イギリス北端スカパ・フロー泊地にあったイギリス海軍の巡洋艦「ユリシーズ」は、イギリスからソ連に援助物資を輸送する輸送船団「FR77」の護衛部隊旗艦の任務を命じられる。しかし、ユリシーズは既に20ヶ月続いた厳しい任務により艦も人も疲弊しきっており、そのために小反乱を起こした乗組員の一部が、取り締まりに来た憲兵とのあいだで双方に死傷者を出すという騒ぎまで起こしていた。しかし、司令部は小反乱の件を不問とする代わりに護衛任務を押しつけ、かくてユリシーズは休暇を与えられないまま、FR77の護衛のために一路ムルマンスクへと出港する。そこに待ち受けていたものは、大波浪、厳寒といった大自然の猛威と、巧妙きわまりない攻撃を繰り出してくるドイツ軍の潜水艦と爆撃機、そしていつ出撃してくるか分からないドイツの大戦艦ティルピッツの恐怖があるのであった。
本作に登場する「ユリシーズ」は、架空の軽巡洋艦である。ダイドー級軽巡洋艦とベローナ級軽巡洋艦の中間に位置する艦で、同型艦は存在しない。基本的な艦型はベローナ級に準じているが、速力はダイドー級・ベローナ級を上回っており、公試では39.2ノットの高速を発揮している。また、世界で最初にレーダーを完備した艦艇とされており、最大探知距離85マイルを誇るレーダーを三脚前檣と主檣上に装備している。
所属は本国艦隊で、本国艦隊の所属艦の中で唯一空母の指揮が可能な艦だったため、既に多くの船団護衛任務に参加し、戦果を挙げている。今までの戦闘では目立った損傷も無かった幸運艦であり、北極海用のダズル迷彩による幽霊船のような雰囲気も相まって、北極海を航行する商船乗組員たちには一種の伝説として語られている。
また、ユリシーズ以外のFR77護衛部隊の構成艦艇は以下の13隻。ただし、悪天候による損傷やUボートによる雷撃などによって戦没あるいは戦闘不能になる艦が続出し、FR77と合流したのは旗艦ユリシーズ以下、スターリング、サイラス、ヴェクトラ、ヴァイキングの5隻のみであった。全て架空艦であり、ユリシーズも含め、いずれもスカパ・フローを母港とする。なお、解説は劇中の描写を元にしており、現実の同級艦とは異なる場合がある。
原題にある「H.M.S.」とはHis Majesty's Ship あるいはHer Majesty's Ship の略であり、直訳すれば「国王陛下の船」あるいは「女王陛下の船」となる。これはイギリス海軍所属の船舶であることを意味する艦船接頭辞で、語頭の代名詞は在世の君主の性に従う。イギリスは第二次世界大戦の全期間、国王ジョージ6世の治世であり、正確には『国王陛下のユリシーズ号』と題されるべきであった。しかし翻訳自体の評価は高く、改題の機会もないまま、現行の題名がすっかり定着している。
日本でも評価の高い作品であり、早川書房の『ミステリマガジン』1992年5月号誌上で行われたアンケートを基に、1992年(平成4年)10月に発行された書籍『冒険・スパイ小説ハンドブック』で発表された人気投票の集計結果では、本作が海洋冒険小説部門、および総合ベスト100における第1位の人気を獲得している[1]。
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