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地球温暖化への対策のうち、温暖化そのものを抑制する「緩和」(mitigation)技術の一環として、エネルギー供給での対策の必要性が指摘されている。この目的のため、2030年や2050年までにエネルギー由来の排出量を数割~半分以上減らす必要性が指摘されている。その一方で世界のエネルギー需要は増大が予測されており、排出量削減とエネルギー供給量の増大の2つの目的を同時に満たすために国際的かつ大規模な対策の必要性が指摘されている。国際エネルギー機関(IEA)は「我々の現在の方針は持続可能ではない」と指摘した上で、「直ちに政策的措置を講じると共に、前例のないスケールで技術の転換を進める必要」があると指摘している[1]。
特に、大規模な排出源である発電・製鉄・運輸部門などでの削減努力は必須とされ、そのために再生可能エネルギー、原子力発電、二酸化炭素回収貯留、省エネルギーなど様々な技術を普及させる必要性が指摘されている。
現在の世界の温暖化ガスの年間排出量は炭素換算で約72億トン(二酸化炭素換算で264億トン)で、自然が吸収できる量の2倍以上と見積もられている[2]。このため温暖化ガスの安定化濃度をCO2換算で450ppmにするためには、2050年までにエネルギー由来の排出量を半減させる必要があるとされる(IPCC第4次評価報告書)。
2004年における部門別の直接排出量は、下記のように見積もられている[3]。
IEAは、大気中のCO2濃度を450ppmで安定化させるために、エネルギー関連の2050年までの排出削減量のうち、再生可能エネルギーで21%、二酸化炭素回収貯留(CCS)で19%、原子力発電で6%を削減し、残りの54%を省エネルギーや燃料の転換で削減するシナリオを示している[4]。
日本においては温暖化ガスの排出量はCO2換算で約13億4000万トン(2006年度)であり、京都議定書で定められた基準の総排出量12億6100万トンを6.2%上回っている[5]。その大部分は二酸化炭素で占められている[5]。
2006年度における主な部門別の内訳、および1990年度に対する増減率は下記のようになっている[5][6]。
直接排出量(電気・熱配分前)…発電所など、直接排出する側で集計した場合。
間接排出量(電気・熱配分後)…工場や家庭など、エネルギーを消費する側で集計した場合。
直接排出量では発電や運輸部門の排出量が大きく、間接排出量で見ると鉄鋼や民生部門での排出量が大きい。このため、これら部門での排出量削減努力が特に重要視されている。
日本は2050年までに排出量を60-80%削減する方針を打ち出している[7]が、2020~30年ごろまでの中期目標については具体的に決まっていない。詳しくは地球温暖化への対応の動き#日本国内の政策面での動きを参照されたい。
温暖化対策においては、特に今後10~30年ほどの緩和の努力が重要とされている。そのため今後10~30年ほどの間に普及が見込まれる緩和技術の重要性が指摘されている(AR4 WG III、スターン報告、[1])。これに該当するエネルギー供給に関連する緩和技術としては下記のようなものがある。
個々の対策にはそれぞれ特有の限界もあり、特定の対策の割合だけが増大すると費用対効果が悪化するため、エネルギー供給システム全体で考えることが必要と指摘されている(スターン報告)。例えば、下記のような課題が指摘されている(スターン報告、[4])。
国際エネルギー機関による予測では、大気中のCO2濃度を450ppmで安定化させるため、2050年までの排出削減量のうち、再生可能エネルギーで21%、CCSで19%、原子力発電で6%を削減し、残りの54%を省エネルギーなどで削減するシナリオが示されている[4]。
省エネルギー以外の技術では基本的に炭素プライシングが必要とされる。t-CO2あたりのおよその対策費用は発電部門では0~100米ドル、二酸化炭素回収貯留は50~300ドル、運輸部門は100~800ドル程度とされる[1]。ただし温暖化問題とは独立に、石油資源の枯渇に伴う不足分を補うにはやはり大規模な投資が必要と指摘されている[1]。
10年以内に実用化し普及する可能性のあるもの。
10~30年後までの普及は今のところ見込まれていないが、それ以降ならば普及する可能性があるものとしては、下記のようなものが挙げられる。ただしいずれも開発・研究段階のため実用化できる確証はなく、今後10~30年間に大量普及する見込みは現時点では無い。
発電由来のCO2排出量の削減が求められる一方で、世界の電力需要量は今後も増え続ける見込みである。この2つの要求を同時に満たすため、再生可能エネルギー、原子力発電のほか、二酸化炭素回収貯留などの利用が必要とされている[1]。
再生可能エネルギーは現在の世界のエネルギー供給においては枯渇性燃料よりも少ない量しか利用されていないが、その多くは発生エネルギー量あたりの温暖化ガスの排出量が低く、かつその資源量が膨大かつ無尽蔵であることから、大きな排出量削減ポテンシャルがあると見積もられている([1]、IPCC第4次評価報告書など)。2008年現在では風力発電や太陽光発電などが世界で急速に利用量を伸ばしている。
風によって発電する。世界の電力需要量の数倍に相当する電力を発電可能と見積もられており、設備の大型化によって採算性も比較的良くなったことから、近年急速にその普及量を伸ばしている[8]。温暖化ガス濃度を450ppmで安定化させる場合、2010~2050年の風力発電の導入ペースは平均で年50GW以上に達すると予測されている[1]。
太陽光や太陽熱によって発電し、膨大な資源量が利用可能である。昼間のピーク時に最も多くの電力を供給できるメリットがある。太陽熱発電は蓄熱によって日没後も発電可能であり、直射日光の多い地域での普及が期待されている。太陽光発電は建造物・砂漠など様々な場所に設置できる特徴があり、途上国などでの独立蓄電型システムの普及も期待されている[9]。 いずれも現時点ではコストが比較的高いものの、生産量が増えるに従って値下がりするため、今後の普及を見込んで生産量が急拡大している。普及ペースは風力発電よりは遅いが、2050年までには世界の電力市場の一角を占めると予測されている[1][9]。また他の発電方式の供給量の限界から、2100年には世界の電力市場の半分以上が太陽光発電や太陽熱発電で供給されるとも予測される[9]。
日本では2008年、福田ビジョンにより、2030年までに太陽光発電の普及量を現在の40倍に引き上げることが発表されている[10]。
エネルギー源としてのバイオマスは多岐にわたる。特にガスや液体、ペレットなど可搬性に富む形態の燃料としての利用が期待されている。運輸部門における化石燃料の代替として、バイオエタノールなどの開発が盛んである。ただし技術や生産条件によっては食料生産と競合したり排出量削減効果が少なかったりする問題も発生しており、質の管理の必要性が指摘されている。
貯水式の水力発電は出力調整がしやすい特徴を持つため、揚水発電などを含めて発電量の調節に用いられてきた。ただしダム建設などに伴う環境破壊が懸念されるため、近年はダムを必要とせず途上国などでも導入が比較的容易であるマイクロ水力発電が注目されている。
膨大な資源量を持ち、ベースロード電源としての利用ができる。世界全体での供給割合は少ないが、国によってはエネルギー消費量の数割を供給する場合もある[11]。
火山国である日本は潜在的資源量が多く、高温岩帯発電などの技術を用いれば少なくとも38GWの発電が可能と見積もられている[12]。
バイオディーゼル燃料または都市ガス(天然ガス)を燃料として、ディーゼルエンジンないしガスエンジンで発電し、同時にエンジンの排熱で給湯を行う方式。総合熱効率で70-75%と高く、比較的高価な燃料を使用しても採算が取りやすい。バイオディーゼルないし植物系アルコール燃料を使用すればカーボンニュートラルになる。家庭用・業務用電源として、夏季昼間電力のピークカット電源として期待されている。
火力発電所において、石炭や重油から、天然ガスなどのより炭素含有割合の少ない燃料に転換することで、発電量あたりの排出量の削減が図れる[13]。
天然ガス等を燃料とし、ガスタービンで発電したあとの排気廃熱で蒸気を発生させ蒸気タービン発電を行う。プラントの規模にもよるが、熱効率を在来の蒸気タービン火力発電所(30-43%)よりも高く(50%前後)できる。このため燃料消費が少なく、CO2排出が在来型の60-86%ですむ。
廃棄物を燃料として利用することで、排出量削減を図ることができる。
先進国、特に日本などにおける製鉄業のエネルギー効率は世界的に見て比較的高い。このような国で用いられている技術を途上国などの比較的低効率な製鉄所に適用することによって、大幅な排出量削減が見込まれている[14]。
現在の大都市にある製鉄所でも実施可能なのは鉄・ガス併産である。具体的には鉄鉱石の還元に使用された後のCOガスを製鉄所所内発電に使わずC1化学の原料につかいフィッシャー・トロプシュ法などによって自動車燃料を合成し、不足する製鉄所内電力は原子力発電電力を買電するというもの。日本を例にとれば鉄鋼業界は年間1億tの石炭をガスにしており、それを原料に数千万tの自動車燃料を合成すれば、日本全体の石油消費とCO2排出は数千万t節約される。ただし、現在の空気吹き製鉄法では排出ガスに窒素が大量に混入するためにC1化学原料に使えないので、LNG冷熱利用空気分留/水の原子力熱化学分解などで安価な酸素が大量供給され、溶融還元法等(DIOS等)酸素製鉄法に設備更新することが必要である。LNG発電所が冷熱を利用して酸素を生産して製鉄所に送り、製鉄所が合成ガスを燃料合成工場に送るなどコンビナート構成が必要とされる[15][16]。
従来製鉄法よりCO2を20%削減でき、価格の安い非粘結炭や粉鉱石でも使用できる方法としてITmk3がある。具体的には粉鉄鉱石と粉石炭を混合した塊をドーナツ型の炉で1350度に加熱して急速に還元し、塊状の鉄(ナゲット鉄)を得る。それを電炉で融解して鋼を得る。 設備が極めて小規模にでき、巨大投資が必要ないのが最大の特徴。山元にも設置可能で、米国メサビ鉄山の鉄を太平洋岸に送る場合のように、貧鉱で鉄道輸送距離が長い場合は、山元でナゲット鉄にして酸素や脈石をのぞいてから鉄道輸送することで輸送コストを節約できる利点がある。また石炭がCO2まで燃焼しきることで少量の石炭で大きな発熱量が得られるのでCO2発生量が少ない。山元製鉄は鉄鉱石生産国は付加価値向上、消費国はCO2発生の転嫁の効果もある[17]。
世界の運輸部門における排出量はほぼそのエネルギー使用量に比例するとされる。エネルギー使用量の構成は下記のようになっている[18]:
対策が無ければ、2050年には2000年の水準の倍以上の排出量になると見積もられている[18]。
日本の運輸部門におけるCO2排出量は、自家用乗用車が約半分(48.2%)を占め、次いで自家用貨物車(17.8%)、営業用貨物車(17.9%)などとなっており、自動車が約9割を占める。残りは自動車船舶(5.2%)、航空(4.4%)、鉄道(3.0%)などとなっている[19]。
運輸部門における緩和技術は、主に下記のような手段に分類できる[18]:
内燃機関と電動機を組み合わせるなどの機構を備えた自動車で、ブレーキ作動時に運動エネルギーを蓄え、加速時に使用するものである。加減速に伴う燃料使用を節減できる。通常のガソリン車に比べ、CO2排出量を5~8割に減らせるとされる[18]。
燃料電池と電動機、または内燃機関を介して水素で駆動される自動車。水素の製造方法によっては化石燃料よりも排出量を大幅に削減できる。
航空部門における緩和技術としては、下記のようなものが挙げられている[18]:
船舶における緩和技術としては、下記のようなものが挙げられている[18]:
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