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浮世絵の技法のひとつ、型紙摺絵の一種。 ウィキペディアから
木版画は単色摺が基本である。だが、上客からの要望もあり、彩色化が図られるようになる。最初は、摺った後に筆で着彩する方法が取られた。
安房国の縫箔[注釈 1]屋出身で、17世紀後半の江戸で活動した、菱川師宣の場合、版本や、「揃い物」[注釈 2]に、着彩されている墨摺絵が現存する。その後、1741-42年(寛保元-2年)に、色版を用いた紅摺絵[4][5]が、そして、1765年(明和2年)には、鈴木春信による多色摺、錦絵が登場する[6][7]。
一方、師宣以前の上方、つまり大坂と京は、「洛中洛外図屏風」や「寛文美人図」等、「近世風俗画」が盛んに描かれたが、これらが「上がりもの」として江戸に持ち込まれることによって、師宣の歌舞伎絵・美人画・春画を生むきっかけとなった[8][9]。上方でも、版本から一枚摺が生まれ、墨摺絵に筆彩色する過程は同じだが、その次に登場したのが「合羽摺」であったのが、江戸との違いである。
「主版」(おもはん)、つまり最初に摺る輪郭線[14]は版木を用いるが、色版は、防水加工した紙を刳り抜いて型紙とし、墨摺りした紙の上に置き、顔料をつけた刷毛を擦って彩色した。色数と同じだけの型紙を必要とする[15][16]。防水紙を使用することから、「合羽」と呼ばれる。
合羽摺の利点は、加工が容易であり、コストが安く、納期が早い、馬連を用いないので、錦絵より薄く安価な紙が使用できる点である。
逆に欠点は、版木摺ほど細密な表現が出来ない、色むらが出やすい、重ね摺りすると、下の色は埋もれてしまう(版木の場合は、下の色を透かすことが可能。)、切り抜き箇所の縁に顔料が溜まりやすい、型紙が浮き上がり、顔料が外にはみ出すことがある、型紙を刳り抜くため、その内部に色を入れたくない部分がある場合は、「吊り」と呼ばれる、色を入れる箇所の一部を切り残す必要がある[注釈 3]、安価な紙を用いた為、大切にされず、現存数が少なくなっただろう点である[17][16]。
合羽摺の登場は、享保年間(1716-36年)の絵本『聖泰百人一首』扉絵とされる[18]。蘇州版画からの影響[注釈 4]か、友禅染の型紙の転用から生まれたと言われる[20][16]。しかし、それ以前に、大津絵で合羽摺が採用されていたとの論があり[21]、また他分野からの影響ではなく、職人なら自身で開発できるだろうとの仮説もある[20]。
上方では、1813年(文化10年)頃に、江戸の錦絵が流入した[22]後でも、合羽摺が併存し、1887年(明治20年)頃まで存続した[23]。
画題は役者絵と「練物(ねりもの)[注釈 5]」が大部分で[25]、判型は、錦絵が大判もしくは中判[注釈 6]が主流なのに対し、合羽摺は細判[注釈 7]が多い[27]。
浮世絵師ではないが、伊藤若冲の『花鳥版画』(1771年(明和8年)、平木浮世絵財団は6種所蔵。)は、木版摺と合羽摺の併用とされている。黒地部分は、裏から馬連跡が見えるのに対し、彩色部は馬連跡が在る箇所と無い箇所がある。刷毛ではなく筆を使用し、濃淡を変化させたり、顔料を吹くなど、高度な技術が投入されている[28]。若冲は、親族に西陣織業者が居り、そこから友禅染の援用を思いついたのではと、山口真理子は指摘する[29][注釈 8]。
長崎絵でも、合羽摺が用いられた。
唐人は新年を祝う為、唐寺で摺られた「年画」を家屋に貼る風習があり、それが周辺に住む日本人にも受け入れられ、江戸や上方とは異なり、版本から一枚絵に展開する過程を必要としなかった[31][32]。
現存する「長崎絵」最古のものは、寛保から寛延年間(1741-1751年)とされ[33]、そのころから墨摺絵に手彩色することが始まり、天明年間(1781-1801年)頃に合羽摺が行われるようになる[34]。
天保年間(1830-44年)初頭、渓斎英泉の門人である、磯野文斎が版元「大和屋」に婿入りし、後に彫師・摺師を江戸から招くことにより、錦絵が齎された。但し他の版元では、合羽摺版行が続いた[34]。
画題は、江戸や上方と異なり、オランダ人や唐人の風貌や装束、彼らの風習、帆船や蒸気船、珍しい動物、出島図や唐人屋敷、唐寺など、長崎特有の異国情緒を催すものが描かれた[35][36]。
1858年(安政5年)の日米修好通商条約締結後、外国人居留地の中心が横浜に移ることにより、1860年(安政7・万延元年)には横浜絵が隆盛し[37][38]、文久年間(1861-64年)頃に、長崎絵の版行は終わったとされる[39]。
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