概説
外耳、中耳、内耳、聴神経(バスドラム)、聴覚皮質などの器官を使い、音の信号を神経活動情報に変換し、音の強さ、音高、音色、音源の方向、リズム、言語などを認識する能力、機能を指す。いわゆる五感の一つである。 なお、この感覚が生じることを「聞く(きく)」といい、聴覚を用いつつ(耳だけでなく)心も充分に用いることを「聴く」と言う。特に、積極的な姿勢でこの感覚を用いつつ深い認識をしようとすることは「傾聴する」という[要出典]。
可聴域
個人差はあるがヒトでは通常、下は20Hz程度から、上は14,000Hzから20,000Hz程度までの鼓膜振動を音として感じることができ、この周波数帯域を可聴域(en:Hearing range)という[2]。可聴域を超えた周波数の音は超音波という。ただし大半の人間は15,000Hzが上限とされる[2]。
日常会話では540Hzから4000Hzの帯域が使われるため[3]、日本の健康診断で行なわれる簡易的な聴力検査では1,000Hzと4,000Hzのサイン波を利用している[2]。騒音性難聴の危険がある場所で働く者向けの精密検査においては250Hz、500Hz、1000Hz、2000Hz、4000Hz、8000Hzが使われている[4]。
20,000Hzより高い周波数は内耳で遮断されているが、可聴域の範囲にある音と同時に聴くと脳が反応することが分かっている[2]。可聴域を下回る、あるいは可聴域下限付近の低周波音は、騒音被害(低周波騒音)を引き起こすものとして注目されている(低周波音参照)[2]。
加齢による可聴域の変化
上記の通り、ヒトには限られた周波数帯の音しか聞き取れないが、さらに加齢によって可聴域が縮小する。高周波の聴力から先に失われる傾向にあることを利用して、20代くらいまでのヒトには十分聞き取れるが、それ以上の年代では聞き取りにくい(場合によっては聞き取れない)ことを利用した商品開発も進んでいる(→モスキート音)。さらに、20代を過ぎると、個人差はあるものの、どの周波数の音に対しても徐々に聴力が低下し始め、最終的には老人性難聴になる。しかし、老人性難聴となっても、比較的低い周波数帯の音に対する聴力は良好に保たれている場合がある。
音楽における可聴域
ヒトは、様々なアナログ楽器から発する音波を素材として広く音楽に採り入れ、聴覚の範囲を開拓してきた。楽器が発することのできる音波の特徴や周波数帯域は様々であるが、特に低音域については可聴域の限界を超えた試みがなされている。それに対して高音域については、超音波に近づくにしたがい物理的に発生が困難となる理由も相まって、素材として開拓の余地がまだ大きく残されている。
低音域については、西洋音楽におけるコントラバスより低い特殊な音域を大太鼓や銅鑼の打楽器で発することができることは古い時代より世界各地で知られており、これらは皮膚に振動を感じさせる特殊な効果を持っているため、独特な扱われ方を呼んできた。それ以外に、通常大型とされているパイプ・オルガンでは、巨大な32'ストップが常設されており、弱音から強音に至るまで全身に振動を感じさせる効果はある意味で聴覚の限界を追求しようという挑戦であるが、更に現代では、アトランティック・シティ・コンヴェンション・ホール(外部リンク:公式サイトによる写真)やシドニー・タウン・ホールにおいて64'ストップも登場し、音とは言いがたいほど超低音の空気振動を発する巨大な管によってより聴覚を超えた音素材の効果を活用しようという挑戦が続けられている。
音響機器の例
音楽CDはサンプリング周波数に44,100Hzを採用しているが、これは理論上22,050Hzまで再現できるため(標本化定理 実際には音声出力時にローパスフィルタに通すため、22,050Hzよりは帯域が狭くなるが、フィルタによる減衰域を除外しても)ヒトの可聴域は十分カバーできると考えられたからである。ハイレゾリューションオーディオや高音質を標榜する音楽配信サービスでは、サンプリング周波数や量子化ビット数をCD以上とすることで可聴域を超える周波数を収録した音源も存在する。またスピーカーやヘッドフォンにおいても、高価格帯では再生可能な周波数帯域が可聴域を超える製品が販売されている[5]。
身近な例としては、FMラジオの19kHzのパイロット信号がある。比較的高い周波数であるため安価な機器では除去していないものも多いが、人によっては可聴域を超えるため、聴取にあまり影響を与えない。
古い時代のブラウン管テレビでは、走査線の走査回数は15,750Hz(525本×30フレーム/秒、NTSCを採用している地域)であるため人によっては可聴域内に入り、走査に伴って生じる高周波の雑音が聴こえてしまうことがあった。後にノッチフィルタを入れて高周波を除去することが一般的となった。また、デジタル放送ではこの種の高周波は含まれない。
聴覚系の感覚器
外耳は耳介(じかい)、外耳道からなる。耳介は、パラボラアンテナのように空気中を伝わる音声の音圧をあげて集音する機能を持つのみならず、その複雑な形態から、音源の方向によって音響伝達特性が変わることで上・前後・左右といった音源定位に役立っている。外耳道は約20 - 30mmの長さを持っており、鼓膜で終わる。
中耳は、鼓膜、つち骨、きぬた骨、あぶみ骨の3つの耳小骨(じしょうこつ)よりなる。空気振動による鼓膜の振動が内耳のリンパ液に伝わる際、3つの耳小骨を伝わることで、鼓膜とあぶみ骨の面積比の関係とてこの原理により圧力が約22倍に上昇する。つまり天然の物理的変圧器の役割を果たしている。作曲家ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェンは耳小骨の動きが悪くなる耳硬化症に罹患していたといわれている。
内耳は側頭骨の中に位置し、直径1cm程度で2回り半巻いておりカタツムリのような形をした蝸牛(かぎゅう)、半規管、前庭よりなる。蝸牛は内部が3層構造になっており(上から前庭階、蝸牛管、鼓室階)それぞれリンパ液などで満たされている。あぶみ骨の振動が蝸牛の入り口の小窓(卵円窓:らんえんそう)に伝わり、内部のリンパ液を振動させ、コルチ器を載せた基底膜を振動させる。このとき最も強く振動する基底膜の位置が音の周波数により異なり、高い音の方が入り口付近、低い音の方が入り口から遠い位置の基底膜を振動させる。この振動がコルチ器のうちの内有毛細胞の不動毛を変形させ、イオンチャネルを開かせ細胞を電気的に興奮させ、内耳神経へと伝えられる。
このような基底膜の物理的な周波数特性に加え、内有毛細胞の特定の周波数への「チューニング」という生物的な要素により、我々は音声認知の初期から、周波数情報を神経細胞興奮という情報に変換しているのである。基底膜の周波数特性を発見したゲオルク・フォン・ベーケーシはその業績で1961年のノーベル医学生理学賞を受賞している。
その後、内耳神経に伝達された神経興奮は背側と腹側の蝸牛神経核を経て、ほとんどは対側の(一部同側の)上オリーブ核に中継され、外側毛帯、下丘、内側膝状体を経て大脳の聴覚皮質に伝達される。
聴覚に関連する話題
人間以外の聴覚
- カエル
- カエルの一部は鼓膜がないが、皮膚や骨から伝わる振動を内耳に受けて音を感知していると考えられている[7]。
- 昆虫の一部
- 無脊椎動物
- カエノラブディティス・エレガンスが音に反応することが確認された[7]。
脚注
関連項目
外部リンク
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