古代ペルシア語
イラン語派に属する言語 ウィキペディアから
古代ペルシア語(こだいペルシアご)は、イラン語派に属する言語のひとつである。古代ペルシア帝国(アケメネス朝)の公用語の一つで、古代ペルシア楔形文字を用いて書かれた紀元前6世紀から紀元前4世紀までの碑文が残る。
アヴェスター語とともに古代イラン語に含まれる。中世ペルシア語(パフラヴィー語)や現代ペルシア語(ペルシア語、ダリー語、タジク語)の祖先にあたる。
概要
古代ペルシア語はダレイオス1世以降の王の言葉を伝える碑文によって知られる。実務的な文章はこの言語では書かれず、アケメネス朝以前から使われていたエラム語や、アラム語が使われた。
古代ペルシア語はアヴェスター語に似ているが、イラン語派のうち南西部の言語であり、アヴェスター語とは異なる音韻変化を見せることがある。またアヴェスター語に比べると新しい要素が多い。
ダレイオス1世・クセルクセス1世の碑文はまだ古形を保っているが、それ以降の碑文はすでに中期ペルシア語に近づいている[2]。
音声
古代ペルシア楔形文字の制約により、正確な音韻には不明な点も多いが、母音は a ā i ī u ū ai āi au āu があったと考えられている。ただし後期には ai au は ē ō に変化していた[3]。音節形成的な r (r̥) もあったと思われるが、つづりの上では単に ar と書かれている。
子音は、つづりの上で以下の22種類を区別する[4]。
ほかに ç と翻字される音がある。この音はアヴェスター語の θr に対応し、s に近い音だったと考えられるが、正確な音価はわかっていない[5]。例:puça「息子」(アヴェスター語: puθra, サンスクリット: putra)。
側面音 l は外来語にのみ現れる。例:Lab(a)nāna「レバノン」[6]。
形態論
名詞は性・数・格で変化する。性は男性・女性・中性がある。数は単数・双数・複数があるが、双数の用例はごく限られている[7]。アヴェスター語で8種類あった格のうち、古代ペルシア語では属格と与格、具格と奪格の区別がなくなり、6格になっている。人称代名詞には独立形のほかに後倚辞形が発達している。
動詞は人称・数で語尾変化する。時制には現在・不完了過去・完了がある。アオリスト形もまれに見られるが、意味は不完了過去と変わらない[8]。完了は受動完了分詞とコピュラを組みあわせた迂言法を使用し、本来の完了形は滅んだ。古代ペルシア語は分裂能格言語である。
語順
古代ペルシア語の語順はかなり自由であるが、基本的には SOV で、形容詞は修飾する名詞に後置される。否定辞は動詞の前に置かれる。
例文
ベヒストゥン碑文より。
ラテン文字翻字: Θātiy Dārayavauš xšāyaθiya: Pasāva hadā kārā adam ašiyavam abiy Sakām, pasā Sakā tayaiy xaudām tigrām baratiy.
逐語訳: 王(xšāyaθiya)ダレイオスは(Dārayavauš)言う(θātiy、三人称単数現在): その後(pasāva)軍隊(kārā、単数具格)とともに(hadā)私は(adam)サカ(Sakām、単数対格)へ(abiy)、行った(ašiyavam、šiyav-「行く」の一人称単数過去)、[関係代名詞](tayaiy、複数男性主格)とがった(tigrām、単数女性対格)帽子を(xaudām、単数女性対格)持つ(baratiy、三人称複数現在)サカ族(Sakā、複数対格)の後を(pasā)。
脚注
参考文献
関連項目
外部リンク
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