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日本の技術者 ウィキペディアから
前原 巧山(まえばら こうざん、文化9年9月4日(1812年10月8日) - 明治25年(1892年)9月18日)は、江戸時代末期から明治期に活躍した日本の技術者。巧山は号で、名は喜市(きいち)、元の名を嘉蔵(かぞう)と言う。純国産の蒸気船の製造で知られる。
宇和島藩内で、細工物などをしながら糊口を凌いでいた嘉蔵は、かねてから懇意にしている本町の豪商清家市郎左衛門の屋敷で、藩の家老桑折左衛門より、火輪船(蒸気船)の程ではなくても、櫓をこぐ現在の舟より、人力を減らして速く進める船の工夫は無いものかと相談を受け、嘉蔵が器用であるので、彼ならばあるいは、と推挙しておいたと言う話を聞く。もとよりそのような大それた物は出来ないので他の方にお願いしてくれと、その日は辞去した。
中々左様なる品、我々工夫にてハ無覚束、外の方へ御吟味被成と申帰り、打過候処(前原一代記咄し)
その半月後ほどに、漁に使う網曳きのロクロを思い出し、これを工夫して船を進退できないかと考え、以来一室にこもり不眠不休で2日思案し、さらに5日かかり横一尺、長さ二尺五寸、深さ七、八寸の箱車に四輪を付け、心棒を一回転すると車輪が三回転するカラクリを作り上げ、清家市郎左衛門に見せた。
その出来栄えに驚いた市郎左衛門は、その箱車を町年寄から町奉行を通じ家老桑折に差し出され、桑折はそれを火輪船の製造を希望する藩主伊達宗城に披露した。直後に嘉蔵は藩の造船所でそのカラクリを船に応用する工事にかかる。陸では容易に進んだ箱車の仕掛けも、海では海水の抵抗で思うように推進しなかったが、藩主自ら操作し大変喜び、老職たちも大いに感心したという。
殿様御覧ニ入れ、両車御手にて、御試被成候処、御面躰至極宜敷、思召ニ入候様子にて、御役人様方も御感心被成候故(前原一代記咄し)
その後、士分(御雇、二人扶持五俵)に取り立てられる。役所から袴に大小を差し、裡町(現中央町付近)の自宅に帰ったところ、近隣の住民は気が狂ったのかと思ったと言う。
袴大小にて裡町四丁目へ帰候処、丁頭内山彦兵衛、近家之人とも気違ひ候と語り合候様子にて、(中略)'家内中大いに歓ひ被下、其夜家内中之貧相応之酒肴調、出世の悦を致し(以下略)
安政3年(1856年)から本格的に製造に着手したが、度重なる試作、試運転を重ねてもなかなか満足する蒸気船の完成には至らなかった。鋳物の湯釜では、高圧になると「巣」から蒸気が噴出し、銅を使用することを進言しても、古来からの鋳物職人は納得せず喜市に非難が集中した。「御船手方」ではなく「おつぶし方」と言われたのもこの頃である。もし完成したのなら、自分の耳や鼻を切っても良いと悪態を突く者まで出た。
蒸気の車を廻すといふ事、愚人の喜市中々出来申儀夢にも無き事、若又万一出来車廻り候ハ、鼻を殺ぎ耳を切るべしとも申、餘ニ組中にも右様申人沢山にて諸職人にも心付申者多く
大阪から銅板を取り寄せ、苦労の末蒸気機関の試運転には成功したが、船としては思ったほど進まず失敗。安政4年(1857年)に研究、修行のため薩摩に出発。薩摩藩の蒸気船に同乗したり、島津斉彬の側近肥後七左衛門に学ぶ。翌年長崎を経由して帰国。長崎で楠本イネに会う。
銅座おい祢(ね)様方に国元二宮敬作被居候間、此処へ弐人参り候処、年賀祝儀なりと娘おたかと申す人々琴を弾し、おい祢様ハ三味線にて大さはぎの処へ……
帰国後、蒸気船の試運転に成功、藩主・伊達宗徳を乗船させ、九島沖を航行。その後吉田、戸島、八幡浜、三浦などにも航行にも成功(翌年は江戸より帰国途中の藩主を三崎まで迎えに行く)。この功績により喜市は譜代(三人扶持九俵)となる。
度々旅勤いたし、深素工夫致し候、殊に多人数を使ひ、心配致し、御成就ニ相成、御満足被思召、右により此度御譜代被仰付、苗字御免、切扶持参人分九俵被下置目録被下、夢之如く有難御受申上……
「前原一代記咄し」の表紙裏には次の和歌が詠まれている。
吉野家源蔵━喜市(実父は向灘浦高城弥兵衛) 室 周木浦三好民兵衛門の姉娘 ┃ ┃ ┗━━━━━┳ 前原巧山(嘉蔵、喜市)━━━━━━━━┳益太郎 ┃ ┃(喜佐久、喜作) ┃室 ┃室 ┃1 水口屋おこう ┃御荘網代浦国太郎の孫娘 ┃2 油屋彦兵衛の娘、おくま(益太郎の母) ┃(喜市と同時に結婚) ┃3 八幡浜松葉屋八蔵の娘(男子出生・早世)┃ ┃4 大浦役人の娘(且一郎出生) ┣男子(早世) ┃5 御荘網代浦国太郎の娘 ┃ ┃(その娘が益太郎の室) ┃ ┃6 慶応3年中山の世話で結婚・離縁 ┗且一郎 ┃7 佐伯町の女 ┃ ┃ ┣おしま━━━━━━━━━━━━━━━━繁次郎 ┃ ┃ ┃ ┗永次郎
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