保釈保証金

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保釈保証金(ほしゃくほしょうきん)とは保釈という形で勾留されている被告人の身柄を釈放する代わりに公判への出頭などを確保するために預けさせる金銭のことである。

概要

要約
視点

日本では刑事訴訟法第93条・第94条で規定されている。

現金での納付が基本であるが、有価証券又は保釈保証書にて代えることもできる。弁護人は、電子納付(Pay-easy)の方法で保釈保証金を銀行振込をすることが増えている。

保釈保証金の立替え制度・保釈保証書発行事業

裁判所の保釈許可決定がされても、被告人や家族などが保釈保証金を用意できない場合には釈放されない。

家族など(被告人以外の者)は、日本保釈支援協会や全国弁護士協同組合連合会に申し込みをして、家族が被告人が逃亡した場合に保釈保証金を支払う保証人となる契約を締結することで、保証料(手数料)だけを負担することで、保釈保証金を立替え、または保証書発行をしてもらう制度を利用することができる。

ただし、これらの各制度は、無制限に利用できるものではない。日本保釈支援協会や全国弁護士協同組合連合会は、被告人が保釈期間に逃亡した場合に、国から保釈保証金を没取される立場に置かれる。そのため、組織側は、貸金のように、被告人の犯罪や認否等事件の概要のほか、家族の資力などに関して審査をしている。日本保釈支援協会は、審査の結果、「この度、貴方様の保釈保証金立替支援申込みについて審査の結果、立替支援はお見送りとさせていただく事となりましたので、通知いたします。」と書面で通知をすることもある。家族が申請をしても必ず立替えをしてもらえるわけではない。勾留施設(警察署や拘置所)では、無制限に保釈保証金の立替えなどをしてもらえるような噂が蔓延るものの、実際には制度を利用できないこともある。

さらに、制度の利用について、保証料は「有料」である。

  • 日本保釈支援協会の保釈保証金の立替え制度は、保釈保証金の2.75%の保証料が必要である(保釈保証金300万円の場合、保証料82500円+事務手数料2200円)[1]
  • 全国弁護士協同組合連合会の保釈保証書発行事業は、保釈保証金の2%の保証料が必要である(保釈保証金300万円の場合、保証料60000円)[2]

利息制限法の上限金利である年利15%でカードローンで保釈保証金300万円を借りた場合、1月あたりの金利は37500円である。保釈から判決言渡期日までの期間の長短にもよる(一般に、裁判官裁判の自白事件の審理期間は2ヶ月前後である)が、各制度の手数料は特段に安いとは言えないことが実情である。親戚などから借金をして保釈保証金を支払った方が手数料はかからず、審査がなく保釈手続きとして簡便であるため、家族として手放しに各制度の利用をした方が良いとはいえない。

没取

保釈を取り消す場合には、裁判所は、決定で保釈保証金の全部又は一部を没取(ぼっしゅ)(保釈保証書の場合は取り立て)することができる(刑訴法96条2項)。

没取とは、国庫に帰属させることである。

還付

没取されなかった保釈保証金は、裁判が終わった段階で還付される。

具体的には、次の場合に保証金を還付する(刑事訴訟規則第91条第1項各号)。

  • 勾留が取り消され、又は勾留状が効力を失ったとき(第1号)
    保釈の前提となっていた勾留そのものが取り消され、又は失効した場合である。
    勾留が取り消される場合については、刑訴法87条などに定めがある。
    勾留状が失効する場合としては、無罪免訴、刑の免除、刑の執行猶予公訴棄却の判決や、罰金科料のみの判決が言い渡された場合がある(刑事訴訟法第345条)。なお、被告人の死亡などにより公訴棄却の決定がされた場合には、被告人の親族又は後見人が受取人となることがある。
  • 保釈が取り消され又は効力を失ったため被告人が刑事施設に収容されたとき(第2号)
    保釈が取り消された場合については保釈#保釈の取消し参照。保釈が取り消されたものの保釈保証金の全部又は一部が没取されなかった場合の還付の規定である。
    保釈が失効する場合については保釈#保釈の失効参照。実刑判決を受けた場合の還付の規定である。
  • 保釈が取り消され又は効力を失った場合において、被告人が刑事施設に収容される前に、新たに、保釈の決定があって保証金が納付されたとき又は勾留の執行が停止されたとき(第3号)
    前段は、上級審での再保釈で、刑事訴訟規則第91条第2項による保証金の充当をせずに新たに納付した場合に、先に納付していた保証金の還付を定めるものである。
    後段は、実刑判決後に勾留の執行停止(刑訴法95条)がされた場合の還付の規定である。

ただし、刑事事件で罰金刑や追徴金が確定した場合や保釈中に民事訴訟で債権者から差し押さえられた場合は、保釈保証金から差し引かれることもある。

相場

保釈保証金は、被告人が逃亡をした場合に没取することを抑止力とする意味がある。そのため、犯罪の重さなどだけでなく、被告人の資力(預金や収入)によっても上下する。ただし、被告人が無職・無収入であっても、保釈保証金が無しになるわけではない。刑事第一審の保釈保証金の相場は、最低150万円~300万円程度である。ただし、裁判員裁判対象の重大事件ではより高額の保釈保証金を求められる傾向にある。

「保証金額は、犯罪の性質及び情状、証拠の証明力並びに被告人の性格及び資産を考慮して、被告人の出頭を保証するに足りる相当な金額でなければならない。」(刑事訴訟法93条2項)。

保釈保証金は、弁護人などが保釈請求書に保釈保証金の金額の希望額を記載することが多い。もっとも、あくまで希望額であり、最終的に裁判官が保釈保証金の金額を決定する。

たとえば弁護人が低額の保釈保証金の希望額を記載した場合には、裁判官によっては、保釈を認めない決定をし、または保釈保証金を上げられないか弁護人に打診をしている 相場よりも高額の保釈保証金を希望する被告人の方が、逃亡のおそれが低くなるため、保釈が認められやすいといえる。

保釈保証金の額について、過去の平成10年のデータでは、100万円未満が1.4%、100万円以上150万円未満が15.2%、150万円以上200万円未満が34.5%、200万円以上300万円未満が31.5%、300万円以上が17.4%であった[3]。近年、弁護士などからは、保釈保証金が高額化しているとして批判もある。

保釈保証金が高額となった例

日本における保釈保証金最高額はハンナン事件における浅田満ハンナン会長の20億円である。

保釈保証金没取最高額はカルロス・ゴーンの保釈中制限されている無断の海外渡航による15億円である。

さらに見る 人物, 肩書き ...
一審判決までの保釈保証金ランキング
人物肩書き事件保釈日[注 1]金額
[注 2]
出典
浅田満ハンナン会長ハンナン事件2004年12月22日20.0億円[4]
竹井博友地産会長地産事件1991年10月1日15.0億円[5]
末野謙一元末野興産社長末野興産事件1996年9月20日15.0億円[6]
高山清司弘道会会長京都恐喝事件2012年6月12日15.0億円[7]
カルロス・ゴーン日産自動車会長カルロス・ゴーン事件2019年4月25日[注 3]15.0億円
[注 3]
[8][9]
滝沢孝山口組若頭補佐山口組銃刀法違反事件2003年6月17日12.0億円[10]
小谷光浩元光進代表光進事件1992年3月19日[注 4]10.0億円
[注 4]
[11]
水野健元常陸観光開発社長茨城カントリークラブ事件1993年6月16日10.0億円[12]
司忍山口組組長山口組銃刀法違反事件1999年7月9日10.0億円[13]
尾上縫元料亭経営者尾上縫事件1992年3月17日7.0億円[14]
山岸忍プレサンスコーポレーション社長明浄学院事件2020年8月7.0億円
許永中元不動産管理会社代表イトマン事件1993年12月21日6.0億円[15]
堀江貴文ライブドア社長ライブドア事件2006年4月27日5.0億円[16]
村上世彰村上ファンド会長村上ファンド事件2006年6月26日5.0億円[17]
曽我部登元協畜社長協畜脱税事件2006年12月5.0億円
川本源司郎丸源ビル社長丸源脱税事件2013年3月27日5.0億円[18]
南野洋大阪府民信組理事長大阪府民信組事件1991年12月17日4.0億円[19]
伊藤寿永光元イトマン常務イトマン事件1992年11月27日3.5億円[20]
森脇将光金融業経営吹原産業事件1966年5月14日3.3億円
東郷民安殖産住宅創業者殖産住宅事件1973年7月12日3.0億円[21]
中瀬古功元明電工相談役明電工事件1988年12月8日3.0億円
金丸信元衆議院議員、元自民党副総裁金丸事件1993年3月29日3.0億円[22]
鍵弥実木津信用組合理事長木津信用組合事件1996年10月3.0億円
李煕健関西興銀会長関西興銀事件2002年3月3.0億円
武井保雄武富士会長ジャーナリスト宅盗聴事件2004年2月25日3.0億円[23]
小西邦彦飛鳥会理事長飛鳥会事件2006年7月31日3.0億円[24]
守屋輯共政会会長広島解体屋恐喝事件2007年11月22日3.0億円[25]
井川意高大王製紙会長大王製紙事件2011年12月22日3.0億円[26]
青木拡憲元AOKIホールディングス会長東京五輪汚職事件2022年9月7日3.0億円[27]
横井英樹ホテルニュージャパン社長ホテルニュージャパン火災1983年2月21日2.5億円[28]
河村良彦元イトマン社長イトマン事件1992年5月12日[注 5]2.5億円
[注 5]
[29]
平哲夫元ライジングプロダクション社長ライジングプロ脱税事件2002年2月7日2.3億円[30]
田中角栄内閣総理大臣、衆議院議員[注 6]ロッキード事件1976年8月17日2.0億円[31]
加藤暠誠備グループ会長設備グループ事件1983年8月27日2.0億円[32]
江副浩正リクルート創業者リクルート事件1989年6月6日2.0億円[33]
森口五郎元共和副社長共和汚職事件1992年3月3日2.0億円[34]
安田基隆元安田病院院長安田病院グループ事件1997年11月2.0億円[35]
本田博俊無限社長無限脱税事件2004年4月1日2.0億円[36]
水谷功元水谷建設会長水谷建設事件2006年9月7日2.0億円[37]
大賀規久大光社長大光事件2009年4月21日2.0億円[38]
角川歴彦元KADOKAWA会長東京五輪汚職事件2023年4月27日2.0億円[39]
渡辺広康元佐川急便社長東京佐川急便事件1993年11月19日1.8億円[40]
岡田茂元三越社長三越事件1982年12月4日1.5億円[41]
高橋治則東京協和信組理事長二信組事件1995年12月27日1.5億円[42]
安原治元富士住建社長富士住建事件1997年3月31日1.5億円[43]
津村昭元ツムラ社長ツムラ事件1997年4月9日1.5億円[44]
頴川徳助元幸福銀行社長幸福銀行事件2000年1月14日1.5億円[45]
藤村芳治元フジチク社長フジチク事件2005年11月2日1.5億円[46]
大島健伸元SFCG社長SFCG事件2012年7月12日1.5億円
ヒル・トレボー・アロンSMBC日興証券専務SMBC日興証券株価操縦事件2022年3月31日1.5億円[47]
青木宝久元AOKIホールディングス副会長東京五輪汚職事件2022年9月7日1.5億円[27]
佐藤茂カブトデコム社長北海道拓殖銀行背任事件1993年12月1.2億円[48]
竹内藤男元茨城県知事ゼネコン汚職事件1994年10月11日1.2億円[49]
泉井純一泉井石油商会代表泉井事件1997年7月3日1.2億円[50]
大池晧二元福徳銀行頭取福徳銀行不正融資事件1999年10月14日1.2億円[51]
秋元司元内閣府副大臣[注 6]IR汚職事件2021年6月7日[注 7]1.1億円
[注 7]
[52][53]
田中彰治元衆議院決算委員長田中彰治事件1967年1月9日1.0億円[54]
佐野友二元不二サッシ社長不二サッシ事件1978年10月1.0億円
竹久みちアクセサリーたけひさ社長三越事件1982年12月3日1.0億円[41]
生原正久元自民党副総裁第一秘書金丸事件1993年7月23日1.0億円[55]
斉藤了英元大昭和製紙名誉会長ゼネコン汚職事件1993年12月17日1.0億円[56]
角川春樹角川書店社長角川春樹事件1994年12月13日1.0億円[57]
佐佐木吉之助桃源社社長桃源社事件1996年10月16日1.0億円[58]
安部英帝京大学副学長薬害エイズ事件1996年10月25日1.0億円[59]
山口敏夫元労相[注 6]二信組事件1996年12月27日1.0億円[60]
大竹常夫公認会計士大竹常夫事件1999年12月1.0億円[61]
李正林元関西興銀理事長関西興銀事件2002年3月1.0億円
堤義明コクド会長西武鉄道株事件2005年3月24日1.0億円[62]
浅川和彦AIJ投資顧問社長AIJ投資顧問事件2012年12月19日1.0億円[63]
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脚注

関連項目

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