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日本語の記号(約物)の一つ ウィキペディアから
長音符(ちょうおんぷ)、長音符号(ちょうおんふごう)[1]、長音記号(ちょうおんきごう)[2]または音引き(おんびき)は、「ー」のように書き表される、日本語の記号(約物)のひとつ。棒引き(ぼうびき)ともいう。また、俗に伸ばし棒(のばしぼう)とも呼ばれる。漢字JISにおける名前は、KATAKANA-HIRAGANA PROLONGED SOUND MARK である[3]。
仮名とともに使われ、直前の仮名で表されるモーラに1モーラ(長音)を加え、直前の仮名の母音をふつうの倍の2モーラにのばすことを表す。その場合、音素の一つとして直前の字と共に一つの音節を構成し、直前の字の母音は長母音となる(ただし、直前の仮名が「ん」の場合は、んを2モーラにのばす)。
その使用を巡っては、特にカタカナ・ローマ字への音写において激しい表記揺れが発生しており、日本人の間でも表記が合致しないことが多い。
長音符は主にカタカナで外来語(例:テーブル)や擬音・擬態語(例:ニャーン、シーッ)の長音を表記する場合に使われる。現代の日本語の表記では外来語や擬音・擬態語以外でカタカナを使う場合は限られているが、外来語や擬音・擬態語以外では、カタカナ表記であっても原則として長音符は使わず、下記の平仮名と同様の方法で長音を表す(例:シイタケ、フウトウカズラ、セイウチ、ホウセンカ、オオバコ)。ただし俗な用法としてヒコーキ、ケータイなどのように長音符を使う場合がある。
平仮名では通常、長音符は使われず、現代仮名遣いに基づいた別の方法で長音を表す(例:かあさん、にいさん、すうじ、ねえさん、けいさん、とうさん、そのとおり)。ただし俗な用法として感動詞(例:「ああ」の代わりに「あー」、ありゃー)、擬音・擬態語(例:どすーん、そーっ、あーん)や方言・俗語(例:てめー、あぶねーっ!、あちー)、語調の強調による長呼(例:ながーい、よーく、たかーい)の表記などに平仮名でも長音符が使われることがあり、特に漫画の書き文字に多用される。
2022年1月11日に通知された、「公用文作成の考え方」(公用文作成の要領の改訂版)では、片仮名で表記されている人名、地名、外来語の長音に平仮名で振り仮名を付ける必要があるような場合には、便宜的に長音符号をそのまま用いてよいとし、次の例を挙げている[4]。
漢字音を示す振り仮名の場合、現代的な中国語などの発音にはカタカナ表記で長音符を使うが、それとは別の日本漢字音にはカタカナ表記、平仮名表記のいずれの場合も原則として長音符は使わず、上記の現代かな遣いにもとづいた方法で長音を表す。
ア段、イ段、エ段の長音はヘボン式ではそれぞれ “aa, ii, ei” と表記し、訓令式ではサーカムフレックスを用い表記する。
ウ段、オ段の長音の表記はいくつかある。例として「東京」のローマ字表記を挙げる。このうち、2.と4.(大文字のみ)が内閣告示における公式の表記である[5]が、他の表記も広く使われている。
日本語の発音をローマ字で表記したうえで伝えたい場合は、規格として定められた1.あるいは2.の方法の手段を取ることが無難であるが、上記の入力の困難さゆえ、別方式が使われることが非常に多い。またTOKOU STORE(東光ストア)のようにいずれにも当てはまらない事例もある。
長音符を複数続けて長さを表現することがある。また、楽譜では伸ばしている音符の歌詞に「ー」を書き続けることで表現することがある。
例
くだけた表現やより長い音を表すため、波型の長音符を使用する事もある。この場合、波ダッシュ「〜」や波型の長音符「〰」の二つが使われる。
例
変形を行い、ループした形状の長音が使用されることもある。
例[15]
矢印を用いた「→」や、気分や音調を加えた「⤴」や「⤵」が使用されることもある。
例
日本語文字列照合順番(JIS X 4061-1996)は、辞書などでソートを行う場合に、文字の並び順を規定した国家規格であるが、この規格では、長音符を仮名にする場合のルールとして直前の文字の小書き文字を通常の文字に直し、濁音、半濁音を除き、長音符を次の文字に置き換えるとしている。
前の文字 | 長音の置き換え文字 |
---|---|
あかさたなはまやらわ | あ |
いきしちにひみりゐ | い |
うくすつぬふむゆる | う |
えけせてねへめれゑ | え |
おこそとのほもよろを | お |
ん | ん |
長音符は外国語を表すのに使われたのが始まりといわれ、江戸の儒学者なども使っていたが、明治時代に一般的となった[16]。引く音の「引」の右側の旁(つくり)から取られたという説がある。
1900年(明治33年)、小学校令施行規則によって小学校の教科書に棒引き仮名遣いを使うことが定められた。これは漢字音や感動詞の長音を「ー」を使って表すというもので、「校長」を「こーちょー」、「ああ」を「あー」、「いいえ」を「いーえ」とするような仮名遣いであった。しかし、1908年(明治41年)に文部省令で廃止された。
外来語、特に語末が -er, -or, -ar, -y などで終わる英単語由来のものについて、語末の長音符が省略される場合がある。省略の対象とする単語や、統一的に省略するかどうかは各分野の慣わしや個人の流儀による。
1991年の内閣告示「外来語の表記(平成3.6.28 内閣告示第2号)」は、「原則として長音符を用いて書き表すが、慣用に応じて長音符を省くことができる」としている。次の二つの例を示している[17]。
2022年1月11日に通知された、「公用文作成の考え方」(公用文作成の要領の改訂版)では、1991年の「外来語の表記(平成3.6.28 内閣告示第2号)」における「慣用に応じて長音符を省くことができる」との規定を設けていない。このため、コンピューター(computer) エレベーター(elevator)のみが例示されており、(慣用に応じて) エレベータ、(慣用に応じて) コンピュータの例示はなされていない[18]。また、「-ty、-ry など、y で終わる語も長音符号を用いて書く」と明示している。
産業界は日本工業標準調査会(JISC)の「外来語の表記に語尾の長音符号を省く場合の原則」に基づいて長音符を省略することが多かった[19]。
「規格票の様式及び作成方法の規格(JISZ8301)」の2008年版までは、一定の基準(例えば、「3音以上の場合には、語尾に長音符を付けない」など)によって長音符を付ける・付けないを定めていた。長音符を省略する理由は、当時の活字などの印刷コスト、紙面や画面上の表示スペース、記憶装置などの節約と言われている[要出典]。
しかし現在の日本産業規格 JIS8301の2019年版(2019年7月22日改正)では、長音符を省略するとした基準そのものを廃止し、単に「外来語の表記は,主として“外来語の表記(平成3.6.28 内閣告示第2号)”による。」として内閣告示に完全に準拠することとした[20]。
(財)テクニカルコミュニケーター協会の「外来語(カタカナ)表記ガイドライン(第3版、2015年8月制定)」では、 -er, -or, -ar, -y には原則として長音符を付けることとしている[21]。この例外は次の通り。
なお、このガイドラインには、16ページの「表記と原語の一覧」が附属している。
一般社団法人 日本翻訳連盟は、その日本語標準スタイルガイド(翻訳用)において、カタカナ語の末尾の長音は原則として省略しないこと、長音表記のルールについては上記の『外来語(カタカナ)表記ガイドライン第3版』(テクニカルコミュニケーター協会、2015年)に従うこととしている[22]。
現状では、政府、官庁、関連企業、マスコミ、教科用図書(教科書など)などの対応は分かれている。法令、官公庁の公文書、国会の議事録などでは長音符を省略する場合が多く、一般向けのマスコミや教科書などでは長音符を記載する場合が多いが、それぞれ反対の場合も混在の場合もある。例として、航空自衛隊が「ヘリコプター」と表記した同一機種を、メーカーの三菱重工が「ヘリコプタ」と表記している[23]。
工学分野では、外来語の最後の長音符を記載しない慣習もあり、分野・時期・企業などにより対応が分かれており、表記ゆれがある(例:カテゴリとカテゴリー、ユーザとユーザー、プリンタとプリンター、コンピュータとコンピューター、サーバとサーバー、など)。
またコンピュータ業界では対応がほぼ二分されており、伝統的な国内メーカーは長音符の省略が多いが、新興国内メーカーでは「マウスコンピューター」のように社名そのものに長音符が付いている例もある。海外勢のIBMやインテルなどは従来より長音符を表記しており、HPやマイクロソフトは2008年7月25日に、「長音符を省略する記法」から「長音符を表記する記法」に変更した[24][25](サーバ#表記揺れも参照)。ただし、「アクセサリ」「カテゴリ」のように「イ」列で終わる語には長音符は付けないこととしている。
記号 | Unicode | JIS X 0213 | 文字参照 | 名称 |
---|---|---|---|---|
ー | U+30FC | 1-1-28 | ー ー | 長音記号 |
ー | U+FF70 | 1-1-28 | ー ー | 長音記号(半角) |
〜 | U+301C | 1-1-33 | 〜 〜 | 波ダッシュ |
〰 | U+3030 | 1-1-33 | 〰 〰 | WAVY DASH |
⌇ | U+2307 | 1-1-33 | ⌇ ⌇ | WAVY LINE |
➰ | U+27B0 | - | ➰ ➰ | CURLY LOOP |
➿ | U+27BF | - | ➿ ➿ | DOUBLE CURLY LOOP |
点字では長音符を次のように表す。
モールス符号では長音符を次のように表す。
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