ミゼットフィルム (Midget Film )は、スチル写真 用のフィルム の規格であり、和製英語 である。ミゼット判フィルム (ミゼットばんフィルム)とも呼ぶ。コダック はミゼットフィルムを製造販売しなかったので、ロールフィルム 番号は存在しない。日本の企業美篶商会 (のちの美スズ産業、2004年 解散)が、1937年 (昭和12年)に製造販売を開始した写真機ミゼット とともに発表した規格である。その後、おもに日本で発展し、海外にも輸出された。
ミゼットフィルム用写真機ヒット (東郷堂 、1950年代)。
ミゼットフィルム用写真機トップ (丸惣 、1960年代 )とミゼットフィルムキクフィルム (森田商会 )。
ミゼットフィルム は、「135フィルム 」(35mmフィルム )の半分の幅をもつ17.5mmフィルム を使用し、「120フィルム 」および「220フィルム」といったフィルム同様に、裏紙があってパーフォレーション の穴がないロールフィルムである。画面サイズは「14×14mm判 」、正方形 の画面である。
フィルムの生産が終了以降、「ミゼットフィルム」用の写真機を使用する場合には、裏紙とスプールを用意してパーフォレーション穴の開いていない長尺の「135フィルム」を半裁して巻きなおすか、裏紙つきの「120フィルム」を裁断してスプールに巻きなおす等の手法が試みられている。
映画黎明期であった19世紀末から小型映画 用のフィルムとして使用されてきた「17.5mmフィルム」の写真機への利用は、1910年代に上田写真機店 が発表した「モーメント時計カメラ」が先行しており、画面サイズは「15×22mm判」であり、「ミゼットフィルム」よりは画面が大きかった[1] 。
「ミゼットフィルム」は、美篶商会が1937年 (昭和12年)春に製造販売を開始した写真機「ミゼット 」とともに発表した規格である[2] 。「世界一最小カメラ」と銘打った「ミゼット」は爆発的にヒットし、三和商会 がその2年後の1939年(昭和14年)には、「マイクロ」を発売して、競合となった。
1945年 (昭和20年)の第二次世界大戦 終了後、連合国軍占領下の日本 では、東郷堂 の「ヒット 」(1950年 発売)を始めとして、たくさんの類似品が製造販売された。くわしい資料がなく不明な点も多いが、Made in Occupied Japan と刻印された製品が多く、1950年前後、1952年 (昭和27年)の日本の主権回復以前に発売されたものと推定されている。
森田商会 の「キク16」(1956年 発売)、東郷堂の「トヨカ16」(1950年代)のように、「16mmフィルム 」使用を思わせる写真機が散見されるが、これらも「17.5mmフィルム」を使用するいわゆる『豆カメラ (日本での愛称)』である。なお、豆カメラ は手のひらにのるほどの極小カメラのことを指し、海外では「サブミニチュアカメラ、ミニチュアカメラ、スパイカメラ」と呼ばれている。日本で初めての豆カメラは、1937年 に美篶商会 から発売された「ミゼット」であった。続いて1938年 にアース光学 の「グッチー」、1939年 に三和商会 の「マイクロ」と続き、この3機種が戦前の3大豆カメラと呼ばれた。ただしアース光学 の「グッチー」は、「20mmフィルム ・18×18mm判」で、ミゼットフィルムとはまた別の規格である。
写真機は、丸惣 が1965年 (昭和40年)に発売した「トップ」シリーズが最後の新製品シリーズである。
フィルムは、美篶商会 の「ミゼットパン」が1970年代まで製造販売していた。さらに、2016年 1月、川崎の田中商会 (2016年11月に茨城県ひたちなか市に移転)がフィルム部品などを当時のものを参考に再設計し製造を再開、フィルムが再び入手できるようになったが、2018年 に廃業とともにフィルムの生産を終了した。よって、田中商会の2016年 発売「ミゼット判フィルム」シリーズが最後の新シリーズである。
いずれも全て生産終了品である。
ミゼットクロームフィルム (1937年発売) - 白黒ネガフィルム、オルソクロマティック (英語版 ) 、10枚撮、美篶商会
ミゼットパンクロフィルム (1937年発売) - 白黒ネガフィルム、パンクロマティック (英語版 ) 、10枚撮、美篶商会
マイクロクロームフィルム (1940年発売) - 白黒ネガフィルム、オルソクロマティック、10枚撮、三和商会
マイクロパンクロフィルム (1940年発売) - 白黒ネガフィルム、パンクロマティック、10枚撮、三和商会
みのりパンクロフィルム (1945年以降発売) - 白黒ネガフィルム、パンクロマティック、10枚撮、三和商会
さくらパンクロフィルム (1945年以降発売) - 白黒ネガフィルム、パンクロマティック、10枚撮、三和商会
キクフィルム (1950年代発売) - 白黒ネガフィルム、パンクロマティック、10枚撮、森田商会
マイティパンクロフィルム (1950年代発売) - 白黒ネガフィルム、パンクロマティック、10枚撮、東興写真
ミゼット判フィルム Black&White PAN SS (2016年発売2018年販売終了) - 白黒ネガフィルム、パンクロマティック、ISO感度100、10枚撮、田中商会
ミゼット判フィルム カラー100 (2016年発売2018年販売終了) - カラーネガフィルム、ISO感度100、10枚撮、田中商会
いずれも生産終了品である。
美篶商会
ミゼット (1937年発売) - オリジナル版、通称「ミゼットジローナ1」
ニューミゼット (1939年発売) - 通称「ミゼットジローナ1a」「ミゼットジローナ1b」
ニューミゼットII型 (1943年発売) - 通称「ミゼットジローナ2」
ニューミゼットIII型 (1951年発売) - 通称「ミゼットジローナ2a」
三和商会
マイクロ (1939年発売) - 秋田製作所オリジナル版
新型マイクロ (1944年発売)
マイクロ新型 (1947年発売)
マイクロI (1947年発売)
マイクロII型 (1950年発売)
マイクロIIIA型 (1953年発売)
富士光
ライラビット (1940年前後発売)
コメックス (1950年前後発売)
ニッコーベビー (1950年代発売) - 「コメックス」のリネーム品
太陽堂
メテオール (1948年発売)
ベストカム (1949年発売)
エポック (1950年前後発売) - 「ベストカム」のリネーム品
ビユティー16 (1949年発売) - 「メテオール」の改良型
柏精工
コロナ (1940年代発売) - K.S.K. 銘
ブロンディー (1949年発売)
コロナックス (1950年代発売)
昭和光学精機
ミゼットフィルム用写真機 スナッピー (小西六、1949年)。
菅谷光機
ホープ (1949年発売)
ミラクル (1950年発売) - 「ホープ」の北米向けモデル
ルビナ
ルビックス
三光
ベビーフレックス (1940年代後半から1950年代前半頃発売) - 擬似二眼レフ
志村精機
マスコット (1950年前後発売) - 愛宕通英 設計
岡田光学精機
岡田光学精機、のちの第一光学 が製造販売した写真機。
東京精機
東京精機はかつての本鳥写真機械工業所、のちのコンドルカメラ である。
東郷堂
ヒット (1950年発売) - オリジナル版(多数の類似品が発売された)
ベビーマックス (1950年代発売) - 「ヒット」のリネーム品
バルルックス (1950年代発売) - 「ヒット」のリネーム品
トヨカ16 (1950年代発売)
キュート (1950年代発売)
ヒットII (1950年代発売) - 「トヨカ16」とボディ部が共通
スイート16 (1950年代後半発売) - 変形「14×18mm判」説、「14×20mm判」説あり
トヨカエース (1960年代発売)
アロー (1960年代発売)
ホビー16 (1960年代発売) - 「トヨカエース」のリネーム品
ホーマー16 (1960年代発売) - 「トヨカエース」のリネーム品
プリンスルビー (1960年代発売) - 「トヨカエース」のリネーム品
森田商会
サイカ (1950年代発売)
キク16 (1956年発売)
キク16II型 (1957年発売)
ジェム16モデルII (1950年代発売) - 「キク16II型」の北米向けモデル
ハルマット (1950年代発売)
柏原
ホーマー1号 (1960年代発売)
ペティート (1950年代発売) - 「ホーマー1号」のリネーム品
江崎グリコ
グリコライターカメラ (1950年~60年頃発売) - いわゆるスパイカメラ
丸惣
トップ (1965年発売)
トップII型 (1960年代発売)
スパイ14 (1960年代発売) - 「トップII型」のキット版
製造元不明
ゼニックス (1950年前後発売)
ガンマ (1950年前後発売)
サン (1950年前後発売)
サンB (1950年前後発売) - S.N.K. 銘
サン16 (1950年前後発売) - M.R.S. 銘
ピース (1950年前後発売) - R.K. 銘
ピースIII型 (1950年前後発売) - R.K. 銘
ミッキー (1950年前後発売) - R.K. 銘
ビスタ (1950年前後発売) - H.N.S. 銘
ショーリフレックス (1950年前後発売) - N.D.N. 銘、擬似二眼レフ
ショーリフレックス (1950年前後発売) - S.R.N. 銘、擬似二眼レフ
ピースベビーフレックス (1950年前後発売) - M.S.N. 銘、擬似二眼レフ
ピースベビーフレックス (1950年前後発売) - S.P.S. 銘、擬似二眼レフ
ピーススモールレフ (1950年前後発売) - S.P.S. 銘、擬似二眼レフ
ベル14 (1960年前後発売)
シング88 (1960年前後発売) - 「ベル14」に類似、香港製
ハニー (1960年代発売) - MASCOT CAMERA JAPAN 銘
プリンス16-A (1960年代発売) - 変形14×16mm判
コロネット ミゼット (1960年代発売) - MADE IN ENGLAND
PETIE (1960年代発売) - MADE IN WESTERN GERMANY
『昭和10–40年広告にみる国産カメラの歴史』、p.341.