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マツ科(マツか、学名:Pinaceae)は、裸子植物であり、球果植物(マツ門)に属する科である。北半球を代表する針葉樹のグループであり、針葉樹では現在最も繁栄しているとみられている一群である。ちなみに南半球ではマツ科ではなく、マキ科(Podocarpaceae)とナンヨウスギ科(Araucariaceae)の分化が著しく、ヒノキ科(Cupressaceae)は両半球の温帯地域に分布する。
樹形はクリスマスツリーのような円錐形になるものが多い。枝は同じ高さから四方八方に伸ばすものが多い(輪生という)。枝には二種類あり、旺盛に伸長し我々が一般に「枝」と呼ぶものを「長枝」、葉の付け根にあるごく短いものを「短枝」と呼ぶ。長枝はすべての種が持つが、短枝は一部の属しか持たない。
葉は針状であり生える場所は、長枝からのみ生えるもの(モミ属など)、長枝と短枝の両方から生えるもの(カラマツ属、ヒマラヤスギ属など)、短枝からしか生えないもの(マツ属)に分けられる。長枝から生える葉は一本ずつであるが、短枝から生える葉は数本から数十本が束になって生える。落葉の時にも特徴があり、マツ科では葉が落ちるときは葉だけが落ちる構造になっている。これに対し、マツ科と並んで代表的な針葉樹のグループであるヒノキ科では枝の一部分も一緒に落ちる。
花は雌雄同株(雄花と雌花が同じ株につくこと)、雄花は単生もしくは多数が束生する。花粉は風媒され、一般に2つの気嚢を持つが、カラマツ属、ヒマラヤスギ属、トガサワラ属、ツガ属では気嚢は1つである。雌花および雌花が成長した球果は鱗片状の構造が多数集まったものである。マツ属のみ原則として受粉した翌年に熟すが、ほかの種類は受粉した年に成熟する。また、マツ属のみ球果の鱗片が肥大して成長し、突起状の構造物(英:umbo)というものができる。熟した球果はそのまま落下するもの(マツ属、カラマツ属、トウヒ属、ツガ属、ユサン属など)と樹上で鱗片が分解するもの(モミ属、ヒマラヤスギ属、イヌカラマツ属など)がある。種子は一般に翼をもち、風で飛ばされやすい形となっているが、マツ属の一部には翼を持たないものがある。種子の翼は片側から伸ばす。ヒノキ科では種子の両側に翼がつく
常緑樹が大半であるが、カラマツ属など落葉樹のグループもある。山火事が頻発するような地域に生えるマツ属の一部の種類には晩生球果(英:serotinous cone)と呼ばれる仕組みを持つものがあり、成熟しても球果の鱗片は開かないが、山火事の強熱を浴びたときに鱗片が開いて種子を飛ばす。山火事後の森林は上層木が焼かれて明るく、土壌中の病原菌や競合種の種子も壊滅しているので、光や栄養をめぐる生存競争に優位に立っていると考えられている。山火事の利用はマツ科ではマツ属の一部の種にしか知られていないが、南半球を中心にヒノキ科、フトモモ科、ヤマモガシ科など複数の科の一部の種で似たような生存戦略を持つものが知られる。
マツ科では苗木のうちの病原菌を避ける手段として山火事ではなく、倒木を利用する者もいる。落ち葉が積もった地上よりも倒木の上で発芽し成長したほうが、病原菌に侵される危険が少なく生存率が高い。
マツ科の樹木はベニタケ科、フウセンタケ科、イグチ科、キシメジ科などの多くの菌類と菌根を形成する共生関係にある。樹木にとっては菌根を形成することで、土壌中の栄養分の吸収促進や菌類が作り出す抗生物質等による病原微生物の駆除等の利点があり、菌類にとっては樹木から光合成産物の一部を分けてもらうことができる。土壌中には菌根から菌糸を介し同種他個体や他種植物に繋がる広大なネットワークが存在すると考えられている[1][2][3][4][5][6]。共生する菌類の子実体は人間がキノコとして認識できる大きさに育つものが多く、中には食用にできるものもある。
落葉広葉樹林が主体となるような地域(温帯など)においては、冬でも青々とした葉を付けるマツ科の常緑樹は生命力の象徴とされることがある。たとえば中国文化圏における歳寒三友(日本では主に松竹梅と呼ばれる)ではマツ属の樹木が崇められている。欧米ではモミ属やトウヒ属が魔除けに用いられることもあるという。クリスマスのシンボルであるクリスマスツリーになるのも円錐形の樹形を持つマツ科の常緑樹であることが多い。モミ属やトウヒ属が用いられることが多いが、これらは分布域が比較的狭いためより広い分布と温度適性を持つマツ属を使ったツリーもあるという。
ヒノキ科などの他の針葉樹のグループと比べてより広い分布域を持つマツ科樹木は世界各地で木材としてよく利用される。マツ科樹木の天然分布は北半球のみであるが、南半球の地域でも大規模に植栽されていることがしばしばある。たとえばニュージーランドではアメリカ原産のラジアータマツ(Pinus radiata)に全面的に頼る林業を行っていることでよく知られている。日本の本州以南ではヒノキ科針葉樹の生育に向くことからマツ属のアカマツ(Pinus densiflora)を除いて木材目的での植栽は行われることが少ない。アカマツにしてもヒノキ科と比べたときに樹形の不安定さによる歩留まりの悪さ、マツ材線虫病(松くい虫、pine wilt)という致命的な伝染病の国内での流行に伴い新規植栽面積は激減している。国産アカマツ材の主要産地である岩手県三陸地方では超高密度植栽によって、通直で製材した時に歩留まりの良い樹形を作るなど造林技術を持つ地域もある。寒冷地である北海道は道南の一部を除いてヒノキ科針葉樹やマツ科マツ属ではなく、針葉樹の林業と言えばマツ科モミ属のトドマツかトウヒ属のアカエゾマツ、エゾマツで行われる。
木材のSPF材はトウヒ(英:Spruce)、マツ(英:Pine)、モミ(英:Fir)の頭文字を並べたもので、いずれも分類学上はマツ科に含まれる。ヒノキ科樹木が分布しないヨーロッパやカナダ、ヒノキ科樹木が分布するがマツ科樹木の利用が盛んなアメリカなどからの輸入材でホームセンターなどで手ごろな値段で手に入れることができる。
マツ属やカラマツ属の木材は心材と辺材の区別が明瞭であるが、トウヒ属やモミ属では不明瞭で区別できない。後者のような木材を淡色心材や熟材と呼ぶ。
マツ属樹木を中心に海岸付近や荒れ地の緑化に使われることがある。特に強風による飛砂被害を軽減するため、また数mの盛土工と合わせて高潮・津波被害を軽減するために造成される。日本では山形県庄内地方で江戸時代から植栽が行われた記録が残るほか、全国各地に「松原」などと呼ばれ点在する。現在の日本においては林野庁もしくは国土交通省、もしくはこれらの省庁が管轄する都道府県の部署が治山事業や砂防事業によって松原の造成や管理を担当している。保安林や砂防指定地による伐採及び開発規制がかかっている場所が多い。トウヒ属は防雪林にもちいられることもある。
マツ属やヒマラヤスギ属はしばしば街路樹としても用いられ並木道を作るが、比較的古いものが多く新規では稀である。
マツ科樹木は細胞中に大きな樹脂道を持ち、樹脂の量が多く各地で利用されている。特にマツ属とモミ属でよく知られている。
マツ属の一部の種の種子は松の実(英:pine nut)などと呼ばれ各地で食用にされる。樹木の直接の産物ではないが前述のように菌根を形成することから、マツ科樹木を中心とする森林では菌根性のキノコがよく発生し、その周辺地域では食毒問わずキノコに方言名を付けたり独自の食文化が発達していることもある。
葉から精油が採れる[7]。精油に含まれる香りの主成分は酢酸ボルニルであり、いわゆる「森の香り」がする[7]。これを利用して、「ウッディな香り」がする石鹸・入浴剤・ルームフレグランスなどが製造され、男性用化粧品にも多く使われる[7]。
症例は少ないとされるが、花粉症の原因植物となることがある[8]。
形態学的な分類で4亜科に分かれる分類方法で記述する。亜科単位の分類を形態や生態だけで分けるのは難しく、研究者によって諸説あったが、近年分子生物学的な手法の採用により分類が再編されつつある。
以下の1属を含む単型(モノタイプ)
以下の1属を含む単型。
以下の3属を含む。球果の鱗片には突起を持たず、受粉後1年以内に成熟する。葉の気孔帯は裏面にのみでき、位置は師部よりも下側である。
以下の6属を含む。球果の鱗片には突起を持たず、受粉後1年以内に成熟する。葉の気孔帯は裏面にのみでき、師部よりも下側である。球果には突起を持たない。種子はresin vesicleを持つ。系統学的にはほかの亜科とは早く分化したものとみられることが多い。
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