ハミルトン–ヤコビ方程式は変数分離によって解かれる場合に最も便利であり、その場合には保存量が直接的に求められる。例えば、ハミルトニアンが陽には時間
に依っていない場合、
を分離する事が出来る。そのとき、時間微分
は定数(通常
)となる必要があり、分離された解

を与える。時間に依存しない関数
は時にハミルトンの特性関数と呼ばれる。簡約されたハミルトン–ヤコビ方程式は以下のようになる。

他に変数分離が可能な状況として、ある一般化座標
とその微分
が一つの関数
を通してのみハミルトニアンの中に現れるような場合を考える。

この場合、関数
は二つの関数に分離でき、片方は
だけに依存して、他方は残りの一般化座標に依存する。

この形でハミルトン–ヤコビ方程式を置き換えると、関数
は定数(以下
)となる事が示され、
に関する一階の常微分方程式 が得られる。

幸運な場合では、関数
は
個の関数
に完全に分離され以下のようになる。

この場合、問題は
個の常微分方程式に帰着する。
が変数分離可能かどうかは、ハミルトニアンの形と一般化座標の選び方の両方に依存する。直交座標でハミルトニアンが時間に依存せず、一般化運動量について二次式である場合に、以下の条件を満たせば
は分離可能である。
すなわち、ポテンシャルエネルギーの項が加法的に各々の座標について分離可能で、各々の座標に対するポテンシャルエネルギーの項がハミルトニアンの対応する運動項と同じ座標依存の因子を掛けられている場合である(ステッケルの条件)。2自由度系(
)の場合、系が直交座標、極座標、放物線座標、楕円座標のいずれかで変数分離可能であるとき、またそのときに限り、運動量について2次の運動の積分が存在し求積可能であることが知られている(ベルトラン・ダルブーの定理)[5]。
直交曲線座標におけるいくつかの例を以下に示す。
球座標の例
球座標におけるハミルトニアンは以下のように書かれる。
![{\displaystyle H={\frac {1}{2m}}\left[p_{r}^{2}+{\frac {p_{\theta }^{2}}{r^{2}}}+{\frac {p_{\phi }^{2}}{r^{2}\sin ^{2}\theta }}\right]+U(r,\theta ,\phi )}](//wikimedia.org/api/rest_v1/media/math/render/svg/8135e847f807057271308c42129f27a439ed25c2)
ハミルトン–ヤコビ方程式が完全に分離可能なのは、
が同じような以下の形式を持つ場合である。

ここで
,
,
は任意の関数とする。完全に分離された解
をハミルトン–ヤコビ方程式に代入すると以下が得られる。
![{\displaystyle {\frac {1}{2m}}\left({\frac {dS_{r}}{dr}}\right)^{2}+U_{r}(r)+{\frac {1}{2mr^{2}}}\left[\left({\frac {dS_{\theta }}{d\theta }}\right)^{2}+2mU_{\theta }(\theta )\right]+{\frac {1}{2mr^{2}\sin ^{2}\theta }}\left[\left({\frac {dS_{\phi }}{d\phi }}\right)^{2}+2mU_{\phi }(\phi )\right]=E}](//wikimedia.org/api/rest_v1/media/math/render/svg/0500b4017ff98b17688bbd5ce0f178b5cfff265c)
この式は常微分方程式の積分によって解け、最初に
に関する方程式は以下のようになる。

ただし
は運動の定数で、ハミルトン–ヤコビ方程式の
依存性は以下のように消去された。
![{\displaystyle {\frac {1}{2m}}\left({\frac {dS_{r}}{dr}}\right)^{2}+U_{r}(r)+{\frac {1}{2mr^{2}}}\left[\left({\frac {dS_{\theta }}{d\theta }}\right)^{2}+2mU_{\theta }(\theta )+{\frac {\Gamma _{\phi }}{\sin ^{2}\theta }}\right]=E}](//wikimedia.org/api/rest_v1/media/math/render/svg/0239284f86fc2a00497f5806ccbfc375d722385e)
次の常微分方程式は一般化座標
を含む。

再び
は運動の定数で、
は消去され、最後にハミルトン–ヤコビ方程式は常微分方程式

となり、これを積分すると
が求まる。
楕円柱座標の例
楕円柱座標(en:elliptic cylindrical coordinates)のハミルトニアンは以下のように書かれる。

ここで楕円の焦点は
軸上
の点にある。ハミルトン–ヤコビ方程式が完全に分離可能なのは、
が以下のように同じような形で与えられた場合である。

ただし
,
,
は任意の関数である。完全に分離された解
をハミルトン–ヤコビ方程式に代入することにより以下が得られる。
![{\displaystyle {\frac {1}{2m}}\left({\frac {dS_{z}}{dz}}\right)^{2}+U_{z}(z)+{\frac {1}{2ma^{2}\left(\sinh ^{2}\mu +\sin ^{2}\nu \right)}}\left[\left({\frac {dS_{\mu }}{d\mu }}\right)^{2}+\left({\frac {dS_{\nu }}{d\nu }}\right)^{2}+2ma^{2}U_{\mu }(\mu )+2ma^{2}U_{\nu }(\nu )\right]=E}](//wikimedia.org/api/rest_v1/media/math/render/svg/ccc55248a1c7e94bb2bf451c2c2f707dd5bc7e35)
最初の常微分方程式、

を分離し、変形して両辺に分母を掛けると以下の簡約されたハミルトン–ヤコビ方程式が得られる。

さらにこれは独立な 2 つの常微分方程式


に分離でき、これらを解けば
の完全な解が得られる。
放物線柱座標の例
放物線柱座標(en:parabolic cylindrical coordinates)におけるハミルトニアンは

ハミルトン–ヤコビ方程式が完全に分離可能なのは、
が以下のように同じような形で与えられた場合である。

、
と
は任意の関数である。完全に分離された
をハミルトン–ヤコビ方程式に代入し、
![{\displaystyle {\frac {1}{2m}}\left({\frac {dS_{z}}{dz}}\right)^{2}+U_{z}(z)+{\frac {1}{2m\left(\sigma ^{2}+\tau ^{2}\right)}}\left[\left({\frac {dS_{\sigma }}{d\sigma }}\right)^{2}+\left({\frac {dS_{\tau }}{d\tau }}\right)^{2}+2mU_{\sigma }(\sigma )+2mU_{\tau }(\tau )\right]=E}](//wikimedia.org/api/rest_v1/media/math/render/svg/7eccdb6c70e861d3bbc68d7f82cfe80b61b4b715)
最初の常微分方程式

を分離し、変形して両辺に分母を掛けると以下の簡約されたハミルトン–ヤコビ方程式が得られる。

さらにこれは独立な 2 つの常微分方程式


に分離でき、これらを解けば
の完全な解が得られる。