シロオニタケ

シロオニタケ（白鬼茸^[1]、学名: Amanita virgineoides）は、テングタケ科テングタケ属に分類される大型のキノコの一種である。全体が白く、角錐状のイボに覆われている。柄の基部は棍棒状に膨らむ。食毒不明とされていたが、有毒の可能性があるとみられている。

シロオニタケ
シロオニタケ Amanita virgineoides (2011-08-19 加東市やしろの森公園にて撮影)
分類
界 : 菌界 Fungi 門 : 担子菌門 Basidiomycota 綱 : 菌じん綱 Hymenomycetes 目 : ハラタケ目 Agaricales 科 : テングタケ科 Amanitaceae 属 : テングタケ属 Amanita 種 : シロオニタケ A. virgineoides
学名
Amanita virgineoides Bas
和名
シロオニタケ

名称

和名「シロオニタケ」の由来は、キノコの色が白く、柄の基部が膨らんでいるので、鬼のもつ棍棒に見立てたことから名付けられている^[1]。オニゴロシ（秋田県）、オニタケ、シロトックリ、シロイボタケ（埼玉県）などの地方名がある^[2][3][4]。

分布

日本および韓国での分布が確認されている。京都府産の乾燥標本をタイプとして、テングタケ属分類学の権威の一人であるオランダのバス（Cornelis Bas）によって新種記載がなされたものである^[5]。独特な形態と相まって、希少種になりつつあるといわれている^[6]。

生態

菌根性^[1]。夏から秋にかけて、おもに広葉樹林のブナ科（シイ・カシ類・ブナ・コナラ・クリ・マテバシイなど）^[1]、あるいはマツ科（アカマツ・クロマツ・モミ・ヒマラヤスギなど）針葉樹林の林床に生える^[6]。有機物が豊富な地上に発生する確率が高いと言われている^[6]。

分類学的位置からして、おそらくは樹木の細根との間で外生菌根を形成するものと考えられているが、生態についてはまだ不明な点が多い。

形態

子実体は傘と柄からなる。傘は径5 - 20センチメートル (cm) 、大きなものでは30 cmになる場合もある^[6]。はじめ半球形からまんじゅう形、生長すると開いて丸形かほとんど平らになる^[6]。傘表面は白色で、角錐状に尖ったいぼ状突起を密布する^[4]。この突起は脱落しやすく、激しい降雨に叩かれたりした場合にはほとんど落ち、かさの表面はほとんど平滑になる^[1]。表面に細かな粉が付着している^[6]。縁に条線は無く、しばしば開いた傘の縁にツバの破片をぶら下げていることがある^[6][4]。ヒダはクリーム色で、やや密である^[4]。

肉は比較的薄く、もろくて壊れやすく、白色で傷つけても変色することなく、味やにおいは温和で刺激を感じないが、乾いてくると独特の強い不快臭を発する^[1][4]。

柄は長さ10 - 20 cmになり、もっとも太い部分の径は1 - 4 cm程度、下方に向かって大きく膨れ、全体としてはこん棒状からボーリングのピン状をなす^[6]。柄の表面は白色で、綿質の細かい鱗片に密に被われる^[4]。特に下部の膨らみでは、傘と同様の白色で脱落しやすいいぼ（外被膜の破片）が多数環状に付着し^[4]、内部は堅く充実している。柄の上方には、大形で粉質から膜質のつば（内被膜）を備え、上面は多少条線があり、下面は錐状のいぼがついている^[4]。しかし、傘の展開に伴って破れて脱落することが多く、幼いものを除いて普通は柄にほとんど残らない^[4]。

胞子は広楕円形から類球形で無色・平滑、ヨウ素を含む試薬で青灰色に染まる。ひだの縁およびつばの上面には、卵状・逆フラスコ状・こん棒状などを呈する多数の無性細胞が密生している。傘の表面に散在する円錐状のいぼは、ほぼ球形で多少厚い壁を備えた細胞群で構成され、少数の細い菌糸を混在している。傘の表皮は絡み合いつつ匍匐した菌糸からなり、個々の菌糸はしばしばかすがい連結を備えている。

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  複数の子実体がかたまって見出されることが多い。
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  こん棒状に膨らむ柄の基部
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  幼菌
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  柄
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  平らに開いた傘表面
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  ひだ

食・毒性

かつては食毒不明種として紹介されていたが^[1]、近縁種のタマシロオニタケからは機器分析によって有毒成分が検出されていることから、現在は有毒な可能性があるものとして扱われている。ただし、シロオニタケそのものによると確実に断定された中毒例は、まだ知られておらず、シロオニタケからの毒成分の検出例もまだない。含まれる成分として、2-アミノ-3-シクロプロピルプロピオン酸を含むが、有毒成分については不明とされる^[4]。中毒症状については、胃腸系および神経系の中毒を起こすと言われている^[4]。

本種を食用として利用している事例は、日本では確認されていない。茹でこぼしたり、水にさらしておけば食用になると言われるが不明であり、安易に口にしないように注意が呼びかけられている^[6]。中毒事例としては、2024年10月に茨城県の家族5人が町内で採取したキノコをスープにして食べたところ、直後から腹痛や嘔吐、意識障害などの症状が出て病院に救急搬送された食中毒事故が発生し、その原因菌がシロオニタケによるものと新聞報道された^[7]。

類似種

外観が類似した種類が数多く、しばしば互いに混同されている。シロオニタケモドキ（Amanita hongoi Bas）はつばがより堅くて厚く、脱落しにくいことや、胞子がシロオニタケのそれよりも僅かに大きいことで区別されている。ササクレシロオニタケ（Amanita cokeri f. roseotincta）は柄の基部が棍棒状（徳利状）に太くならず、つばより下には、ささくれ状の鱗片を生じ、子実体は成熟すると次第に淡赤褐色を帯びてくる^[8]。また猛毒のタマシロオニタケ (Amanita abrupta) は全体に小さく、柄の基部は棍棒状に太まらず、タマネギ状に丸く膨れることで異なっている^[9]。その他にも、数種の類似種が国内に分布しており、世界的にはさらに多数の種が存在している。

脚注

1. 大作晃一 2015, p. 44.
2. 松川仁『キノコ方言原寸原色図譜』東京新聞出版局、1980年12月。ISBN 4-8083-0030-3。
3. 奥沢康正・奥沢正紀『きのこの語源・方言事典』山と渓谷社、1998年11月。ISBN 4-635-88031-1。
4. 長沢栄史 監修 2009, p. 77.
5. Bas, C., 1969. Morphology and subdivision of Amanita and a monograph of its section Lepidella. Persoonia 5: 285-579.
6. 瀬畑雄三 監修 2006, p. 71.
7. “毒キノコ食べ、一家5人食中毒　「シロオニタケ」食用と間違え採取か　茨城・利根町”. 茨城新聞クロスアイ. 茨城新聞社 (2024年10月26日). 2024年11月6日閲覧。
8. 大作晃一・吹春俊光 2010, p. 131.
9. 大作晃一・吹春俊光 2010, p. 130.

参考文献

• 大作晃一『きのこの呼び名事典』世界文化社、2015年9月10日。ISBN 978-4-418-15413-5。
• 大作晃一・吹春俊光『おいしいきのこ毒きのこ : 見分け方がよくわかる!』主婦の友社〈主婦の友ベストBOOKS〉、2010年9月30日。ISBN 978-4-07-273560-2。
• 瀬畑雄三 監修、家の光協会 編『名人が教える きのこの採り方・食べ方』家の光協会、2006年9月1日。ISBN 4-259-56162-6。
• 長沢栄史 監修 学習研究社 編『日本の毒きのこ』学習研究社〈増補改訂フィールドベスト図鑑 13〉、2009年9月28日。ISBN 978-4-05-404263-6。

• 『日本のきのこ』（山と渓谷社）
• 『兵庫のキノコ』（神戸新聞総合出版センター）

参考サイト

• きのこ図鑑 撮れたてドットコム
• シロオニタケ（テングタケ科、テングタケ属）大野正明