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印欧語族に属する言語の音変化による分類 ウィキペディアから
標準的なインド・ヨーロッパ祖語(印欧祖語)の再建では、以下の3系列の舌背破裂音が想定されている。
これら3系列の舌背破裂音は、ほとんどの娘言語で2系列に合流した。硬口蓋音と軟口蓋音が合流した言語をケントゥム語、軟口蓋音と両唇軟口蓋音が合流した言語をサテム語という。サテム語では、硬口蓋破裂音が破擦音 (tʃ - ts) や摩擦音 (ʃ - s) に変化した(口蓋化)。サテム語では印欧祖語に見られた k と kʷ の区別は失われていることが多い。
ケントゥム語 | 印欧祖語 | サテム語 |
---|---|---|
*k | *ḱ | *ḱ |
*k | *k | |
*kʷ | *kʷ |
サテム語とケントゥム語の違いは「百」を表す単語に見ることができる。ケントゥム (centum) とサテム (satem) は、「百」を表すラテン語の centum とアヴェスタ語の satəm に由来する。この二つの語は同系で、最初の音は印欧祖語では *ḱ として再建される。ラテン語の語頭の /k/ の音(文字では c )は、印欧祖語の *ḱ が *k と合流したことを示している。それに対して、アヴェスタ語の語頭の s は、 *ḱ が *k との区別を保ち、後に口蓋化したことを表している。この語は祖語の段階で *kʲmtom という形であったが、サテム語に属するイランのアヴェスタ語で satəm、リトアニア語で šimtas、ロシア語では сто /sto/ などに変化している。一方、ケントゥム語に属するラテン語では centum /kentũ/、ギリシャ語では (he-)katon(現: εκατόν)、英語では hund(-red)(*k > h の変化はグリムの法則による)などとなっている。
ギリシャ語、イタリック語派、ケルト語派、ゲルマン語派はケントゥム語であり、インド・イラン語派、バルト・スラヴ語派はサテム語である。これらのケントゥム語はサテム語よりも西側に分布しているため、ケントゥム語とサテム語の違いは、方言的なものであったと考えられている意見がある。 ところが、以下の発見によって、ケントゥム語とサテム語は系統の違いを表すものではなく、このような音変化はそれぞれの言語で独立に起きたと考えられる意見もある。
とくにスラヴ語派とバルト語派はどちらもサテム語派に属するものの、同時にケントゥム語派の音声的特徴も残しており、またこのスラヴ語派とバルト語派は文法的にはゲルマン語派(ケントゥム語派に属する)との間で明確な共通性があるため、スラヴ語派、バルト語派、ゲルマン語派の3つの言語の共通祖語(インド・ヨーロッパ祖語の北西語群)を想定する学説も有力となってきている[1][2]。
インド・ヨーロッパ語族に属する諸言語話者を特徴づける遺伝子はハプログループR1b (Y染色体)およびハプログループR1a (Y染色体)[3] [4] であるが、R1bはヨーロッパ西部やアナトリア、ウイグル(旧トカラ語分布域)などケントゥム語話者に高頻度で、R1aはバルト・スラブ語派やインド・イラン語派などサテム語話者に高頻度である[5]。印欧祖語が話されたヤムナ文化の人骨からはハプログループR1b (Y染色体)が91.5%の高頻度で検出されているが、R1aは検出されていない[6]。そのため、元来の印欧語族話者はケントゥム語を話すR1b集団であり、ある時点でR1a集団が新たに印欧語に言語交替を起したものと考えられ、その際にR1a集団の基層言語の特徴がサテム語の特徴として受け継がれたものと思われる。
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