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未完成のまま劇場公開された日本のアニメーション映画 ウィキペディアから
『ガンドレス』(GUNDRESS)は、天沢彰原作の日韓合作アニメーション映画。1999年3月20日に日活配給で東映洋画系の劇場42館で公開されたが、映像が未完成の状態での上映となり、そのことが珍事として話題となった[1][2][3][4][5][6]。
題名のガンドレスは、銃(GUN)をドレス(DRESS)のように身にまとっているというエンジェル・アームズ社のメンバーたちを表現した言葉である。この言葉通り「美少女と銃器・メカアクションの組み合わせ」が基本コンセプトとなっており、そうした作風を得意とする士郎正宗がキャラクター・メカデザイン原案で参加している(デザイン画は画集『イントロンデポ4 バレッツ』に収録されている[7]。士郎のコメントによると元々はロールプレイングゲーム用企画だった[7])。ストーリーは小説版(全3巻、後述)の外伝的要素が強い。
西暦2100年。ヨコハマ・ベイサイドシティは2度の震災から驚異的に復興し、今や高度な自治権を有する国際都市として、首都・東京を上回る繁栄を謳歌していた。しかし、繁栄の陰に犯罪はつきもので、テロリストたちによる凶悪犯罪の多発によって、治安は悪化し、市長もまたテロリストの凶弾に倒れる。新たに市長に就任したウォン=ハイクは、元市警SWAT部隊隊長で現・市長補佐官のゴウマンに新たな治安維持部隊の創設を命じる。ゴウマンは警察学校での教え子、タカコ・ホウライジに新たな警備会社の創設を依頼し、タカコは異能の美少女たちを集めたエンジェル・アームズ社を創設する。エンジェル・アームズ社のメンバーは最新式のパワードスーツ・ランドメイドに身を包み、テロリストに立ち向かっていく。
ある日、エンジェル・アームズ社は密輸組織の頭目を捕らえるが、彼は身柄の安全の保障と引き換えに取引相手の名前を教えるという取引を市長に持ちかける。市長はその取引に応じ、エンジェル・アームズ社が頭目の身辺警護を勤めることになる。やがて、頭目の命を狙って新たなテロリスト集団が現れるが、そのリーダー、ジャン=リュック・スキナーこそ、エンジェル・アームズ社のメンバー、アリサ・タカクラの元恋人で既に爆死したと思われていた人物であった。
「アリサは元恋人の情にほだされて、自分たちを裏切るのでは?」エンジェル・アームズ社のメンバーの中で動揺が広がる中、アリサはテロリストに捕らえられる。そして、アリサの前にかつての恋人、ジャン=リュックが現れる。
日活、東映、パナソニックデジタルコンテンツ、イヨンズコーポレーション、インナーブレイン、スターフィッシュの6社による製作委員会方式により製作され、幹事会社は日活が務めた[8]。4億円の予算があり、アニメの製作はサンクチュアリが請け負い、サンクチュアリからはさらにスタジオジュニオに2億円に満たない額で制作が丸投げされた[9]。しかし製作管理が破綻し完成が間に合わず、大部分が未完成の状態で劇場公開された[5]。
このため、当日の舞台挨拶はなくなり[10]、前売り券は返金に応じ、観客には事情を説明して納得した上で入場してもらい、また後日完全版のビデオを送付するなどの措置が取られた[2][3][4][5]。ビデオを送る人数は7000人だったという[8]。これらビデオ送付対象者には「完成版ビデオ」に先立ち、鋭意制作中の旨を記した「暑中見舞い葉書」も送られた。
アニメ映画では、『宇宙戦艦ヤマト 完結編』や『火垂るの墓』などが、本作以前に一部未完成のまま上映された例はあったが、大半が未完成のままというものはなく、まさに「前代未聞」[1]であった。興行を行なう東映は、公開2日前の3月18日の初号試写の段階になってこの事態を把握したが、上映中止による混乱を鑑みて、未完成の状態のままの配給を決定したという[2][3][5][8]。
セル画の着色が間に合わず、人物が単色で塗られていたり、制作者の指紋が画面に残っていたり、動画の不足のために登場人物が何度も同じ動作を繰り返すなど、多くのシーンが未完成だった。公開初日に新聞紙上で珍事と書かれて[2][3]話題となり、未完成の度合いを確かめるために劇場に見に行った人もいたという。一部の劇場ではビデオカメラで画面を撮影する人までいたという[8][注釈 3]。
パッケージソフト化や衛星放送など二次利用のため[8]、上映後も完成のための作業が続けられ、完成版は2000年4月29日から東京上野の「上野スタームービー」で2週間上映された。完成のために更に1億円の予算がかかったと言われる。この未完成事件で東映は日活に、日活はサンクチュアリに、サンクチュアリはスタジオジュニオにそれぞれ損害賠償を求めた[11]。制作を請け負ったスタジオジュニオは、1997年のテレビアニメ『白鯨伝説』でもたびたび納品を落として未放映になるトラブルを起こしており、本作で損害賠償請求をされたことも重なり、後には事業停止した。
ビデオ化は東映ビデオが辞退し[8]、2000年9月22日に日活からDVD版が発売された[12]。公式ウェブサイトのDVD発売告知ページでは「業界及びファンの間で話題騒然となった“衝撃作”」[12]と自称している。DVDには特典として「3.20ver」こと未完成の劇場公開版も収録されている[12]。ただし、一部カットされた箇所があるため、マルチアングルは採用されていない。
当時『新世紀エヴァンゲリオン』のヒットに便乗して、テレビアニメやアニメ映画が濫造され、著名な例として『ロスト・ユニバース』の第4話「ヤシガニ屠る」のような作画の質の低さ、セルの枚数不足による動画の不良、結果として納品出来なかった事による未放映などのトラブルが多発していた。また、本作上映の不始末を、顧客を無視した企業の利益優先主義がもたらした帰結として、東映の労働組合である全東映労連が問題として取り上げたこともある[8]。
監督と音響演出を務めた谷田部勝義は、2001年頃のインタビューで本作の制作状況を回想し[13]、渡された脚本の完成度が低く、制作が最初から躓いたと述べている[13]。映画は90分なのに脚本が3時間のボリュームがあり、監督なのに脚本に手を加えることができなかったという。途中で手を引くスタッフも現れたため、監督の谷田部が音響演出も兼任することになったという[13]。また、「まさかあの状態で公開するとは思ってなかった」、「私は『ガンドレス』で仕事をなくしました、っていうくらいで(笑)」とも述べ、本作に関わった影響で、以降の仕事に差し障りがあった旨を明かしている[13]。
キャラクター・メカデザイン原案の士郎正宗は、2004年発表の作品集『イントロンデポ4 バレッツ』に収録された本作のデザイン画の解説で、自分の仕事は設定画を納品した時点に完了しており、その後の制作が「どの様な状況だったのかは判らない」[7]と述べた。ただし士郎は、企画の初期段階では元気娘のユン・ケイを主役とする筋書きだったものが、『ニキータ』に影響を受けたプロデューサーによって、アリサを主人公とするダークな内容へと途中で変更されたことを証言しており[7]、この設定変更はしない方がよかったのではないかという主旨のことを述べている[7]。
電撃文庫から天沢彰著で『ガンドレス』全3巻および、堀慎二郎・天沢彰共著で『ガンドレス・ザ・ムービー』が刊行されている。
スターフィッシュからPlayStation用ゲームが2000年2月に発売された。同名の映画とは異なる形にする方針でキャストやデザインが異なる。
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