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イイズナ(飯綱、学名:Mustela nivalis)は、食肉目イタチ科イタチ属に属する哺乳類。食肉目最小の種である。北米、北アフリカ、ユーラシア大陸中部から北部に広く分布し、日本では北海道、青森県、岩手県、秋田県に分布する[4]。コエゾイタチとも呼ばれる[5]。
雄は頭胴長14-26cm、尾長1.6-3.5cm、体重25-250g[6]。雌は雄よりやや小さい。夏は背側が茶色で腹側が白色。冬は全身純白になる。形態がよく似ているホンドオコジョとは近縁とされる事もあるが、染色体数や染色体構成は大きく異なっている[7][8]。
気性が荒く動きは俊敏。生息地は深い森林や平野、田畑など。また、日本では村里にも生息する。ネズミ類が主食だが、小鳥、昆虫類、両生類、死肉も食べる。
都市部の拡大による森林や池沼の減少とともに繁殖域が狭くなっている[9]。
2005年の分類では18亜種が知られている[2]。
- Mustela nivalis namiyei Kuroda, 1921 ニホンイイズナ[10]
- 青森県、岩手県、秋田県に分布。頭胴長16cm、尾長2.5cmほど。
- 染色体数は2n=38[11]。
- Mustela nivalis nivalis Linnaeus, 1766 キタイイズナ[12]
- 模式産地はスウェーデン[13]。北海道に分布。ニホンイイズナより大型。
- 染色体数は2n=42[11]。
- Mustela nivalis rixosa (Bangs, 1896) アメリカイイズナ[12]
- 模式産地はカナダ[13]。
- Mustela nivalis vulgaris Erxleben, 1777 ヨーロッパイイズナ[12]
- 模式産地はドイツ[13]。
また、2010年に台湾の個体群が亜種M. n. formosanaとして記載されている[14]。
本種を複数種に分割する説もある。2005年の分類ではエジプト個体群が独立種エジプトイイズナM. subpalmataとして分類されたが[2]、のちに発表された分子系統解析では亜種レベルの分化に留まることが示唆されている[15]。また。2007年にはベトナム北部の個体群をM. tonkinennsis、中国四川省の個体群をM. russellianaとする説が提唱されている[15]。そのほか、陝西省南部と四川省北部の個体群を独立種M. aistoodonnivalisとする説もある[16]。
- イイズナ M. nivalis
- LEAST CONCERN (IUCN Red List Ver. 3.1 (2001))[1]
- 亜種 ニホンイイズナ M. n. namiyei
- 絶滅のおそれのある地域個体群(環境省レッドリスト)[17]
2016年時点のIUCNレッドリストでは、以下の種が独立種として判定・掲載されている。
- エジプトイイズナ M. subpalmata
- LEAST CONCERN (IUCN Red List Ver. 3.1 (2001))[18]
- Sichuan weasel M. russelliana (= M. aistoodonnivalis)
- DATA DEFICIENT (IUCN Red List Ver. 3.1 (2001))[19]
- Tonkin weasel M. tonkinensis
- DATA DEFICIENT (IUCN Red List Ver. 3.1 (2001))[20]
伝承
東北地方や信州では「飯綱(いづな、イイズナ)使い」「狐持ち」として管狐を駆使する術を使う家系があると信じられていた。長野県飯綱山の神(飯縄権現)からその術を会得する故の名とされる[22]。
民俗学者武藤鉄城は「秋田県仙北地方ではイヅナと称し[注釈 1]、それを使う巫女(エチコ)もいる」とする[23]。また北秋田郡地方では、モウスケ(猛助)とよばれ、妖怪としての狐よりも恐れられていた[23]。
知里真志保は、アイヌ語でエゾイタチは、「ウパㇱ・チロンヌㇷ゚」または「サチリ(sáčiri)」 と称するが、コエゾイタチ(イイズナ)もまた「サチリ」と呼ばれたらしいとしており、「ポイ・サチリ・カムイ(poy-sáčiri-kamuy)」の尊称(「ポイ、ポン」は「小」の意)はコエゾイタチを指すのだろうと推論した[24]。
補注
ただし仙北郡でも特に生保内村(オボナイむら)では「オコジョ」と称している[23]。
出典
McDonald, R.A., Abramov, A.V., Stubbe, M., Herrero, J., Maran, T., Tikhonov, A., Cavallini, P., Kranz, A., Giannatos, G., Kryštufek, B. & Reid, F. 2019. Mustela nivalis (amended version of 2016 assessment). The IUCN Red List of Threatened Species 2019: e.T70207409A147993366. https://doi.org/10.2305/IUCN.UK.2016-1.RLTS.T70207409A147993366.en. Accessed on 22 November 2024.
W. Christopher Wozencraft, “Order Carnivora,” In Don E. Wilson & DeeAnn M. Reeder (eds.), Mammal Species of the World: A Taxonomic and Geographic Reference (3rd ed.), Johns Hopkins University Press, 2005, Pages 532-628.
『広辞苑 第4版』岩波書店、1991年。「いいずな」の項。
淺川昭一郎『北のランドスケープ―保全と創造』環境コミュニケーションズ、2007年、35頁
斉藤勝・伊東員義・細田孝久・西木秀人「イタチ科の分類」、今泉吉典監修『世界の動物 分類と飼育 2(食肉目)』東京動物園協会、1991年、42-46頁。
今泉吉典監修「イイズナ」『世界哺乳類和名辞典』平凡社、1988年、281頁。
Steven R. Sheffield & Carolyn M. King, “Mustela nivalis,” Mammalian Species, No. 454, American Society of Mammalogists, 1994, Pages 1–10.
アレクセイ アブラモフ・増田隆一「第5章 イイズナとオコジョ―北方の小型食肉類」『日本の食肉類』東京大学出版会、112-132頁。
Yingxun Liu, Yingting Pu, Shunde Chen, Xuming Wang, Robert W. Murphy, Xin Wang, Rui Liao, Keyi Tang, Bisong Yue & Shaoying Liu, “Revalidation and expanded description of Mustela aistoodonnivalis (Mustelidae: Carnivora) based on a multigene phylogeny and morphology,” Ecology and Evolution, Volume 13, Issue 4, John Wiley & Sons, 2023, e9944.
石井信夫「ニホンイイズナ(本州亜種)」、環境省自然環境局野生生物課希少種保全推進室 編『レッドデータブック2014 日本の絶滅のおそれのある野生動物 1 哺乳類』株式会社ぎょうせい、2014年、83頁。
Timmins, R., Duckworth, J.W., Tordoff, A.W., Abramov, A.V., Long, B., Mahood, S., Lunde, D.P., Roberton, S. & Willcox, D.H.A. 2016. Mustela tonkinensis. The IUCN Red List of Threatened Species 2016: e.T70207949A70207972. https://doi.org/10.2305/IUCN.UK.2016-1.RLTS.T70207949A70207972.en. Accessed on 22 November 2024.
『広辞苑 第4版』(1991年)、岩波書店「いづなつかい【飯綱使・飯縄遣】」の項
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