Loading AI tools
蛇腹のふいごと鍵盤の操作によって演奏する気鳴楽器 ウィキペディアから
アコーディオン(英: accordion)は、蛇腹のふいごと鍵盤の操作によって演奏する可搬式のフリーリードによる気鳴楽器である。コンサーティーナやバンドネオンは近縁の楽器であり、広義にはアコーディオンに含められることがある。これらはあわせて蛇腹楽器と総称される。日本語では手風琴(てふうきん)と称される。アコーデオンとも表記。
全てのキーに対して独立した発振器(リード)が備わっているため理論上全てのキーを同時に押した場合に割り当てられた全ての音が出る。そのため同時に複数の音を鳴らすのが容易であり、一台で主旋律と和音伴奏を同時にこなすこともできる。一人で持ち運べるサイズで取り扱いやすく、慣れれば立奏や歩奏も可能で、屋外での演奏にも適している。鍵盤ハーモニカのように息を必要としないので、弾き語りもできる。
合奏用アコーディオンは左手のボタンが無いため、通常のアコーディオンのように主旋律と和音を一人で同時に演奏することはできない。電子アコーディオンは一般的な電子楽器と同様に同時発音数が制限されているので、全てのキーを同時に押した場合に鳴らない音があるが、人間の指で演奏する場合は十分な余裕率で設計されている。
蛇腹楽器(アコーディオン族)は、伸縮自在の蛇腹の左右にそれぞれ筐体(きょうたい。器械を内蔵した箱)がついている。
アコーディオン(狭義)は左右の筐体の形が違う。演奏者は通常、右手側の筐体はバンドやベルトなどで胴体(腹部や胸部)に固着させる。蛇腹の伸縮動作は左手側の筐体を動かして行う(これに対してコンサーティーナやバンドネオンは、左右の筐体の形はほぼ同じで、また筐体は演奏者の胴体に固着させない。蛇腹楽器のバンドの説明を参照)。
右手側の筐体は主に主旋律を担当する。ピアノと同様の「ピアノ式鍵盤」もしくは「ボタン式鍵盤」が並んでいる。
左手側の筐体はさまざまで、ベース音や和音を奏でるのに特化したボタンが配置されているタイプが多いが、左手側も旋律をピアノのように奏でられるフリーベース・アコーディオンや、日本の教育楽器でよく見られる「合奏用アコーディオン」のように左手側はボタン鍵盤を省略したタイプもある。
一般的な「独奏用アコーディオン」の場合、右手側が8~50鍵ほど、左手側が18~120個ほどのボタンがある。筐体の内部構造は、ボタンと空気弁を繋げるためにシャフトが張り巡らされ、大変複雑である。重量は2~15キログラム程度。
以下に蛇腹楽器の主な種類を示す。狭義のアコーディオンは「左右非相称」の列の3種類である(詳しくは「アコーディオンの種類」を参照)。
両手で左右の筐体を保持する。それぞれの手で、筐体上の鍵盤やボタンを押すと、シャフトでつながった対応する空気弁が開くようになっている。蛇腹を伸縮することで送られた空気が開かれた弁を通り、リードを通り抜けるときにこれを振動させて音を鳴らす。リードはフリーリードと呼ばれるもので、薄い金属の板であり、共鳴管によらずリード自身の長さや厚さで音高が決定される。フリーリードの1枚のリードは一方からの通気でしか発音しないため、通常アコーディオンの場合は蛇腹を押した時にも引いた時にも発音するように一つのリード枠に表裏2枚のリードがセットされている。この発音原理はハーモニウムやハーモニカによく似ている。
押し引きで違うリードが発音するため、押し引きで同音の出るクロマティックタイプのアコーディオンと、押し引きで違う音の出るダイアトニックタイプのアコーディオンがある。
アコーディオンのリードの音高(ピッチ)には、H(高音)、M(中音)、L(低音)などがある。
「音色切り替えスイッチ(レジスター・スイッチ)」がない機種では、1台で1種類の音色しか鳴らせない。 音色切り替えスイッチを備えたアコーディオンでは、鳴るリードの組み合わせを変えることで、好きな音色(トーン)を選ぶことができる。
例えば、同じ「ド」でも、H(高音のドの単音)、M(中音のドの単音)、L(低音のドの単音)、HM(高音のドと中音のドを同時に鳴らす)、HL(高音のドと低音のドを同時に鳴らす)、MM(2枚の同じ高さの中音のドを同時に鳴らす)、MMM(3枚同時に鳴らす。別名「ミュゼット・トーン」)、HML(高音・中音・低音のオクターブ違いの3つのドを同時に鳴らす)では、音色の印象は変わる。
音色切り替えスイッチは、右手側の鍵盤部分と、左手側のベース部分の両方についている機種もあれば、右手側にだけついている機種もある。また一部の大型のアコーディオンでは、演奏者があごで音色切り替えスイッチを操作できる機種もある。
アイコン | 俗称 | 鳴るリードの組み合わせ | 音色(トーン)の風格 |
---|---|---|---|
ピッコロ | H | 細くて高い | |
クラリネット | M | おとなしめ | |
ファゴット | L | 太くて低い | |
オーボエ | H + M | 明るい | |
ヴァイオリン | M + M | ゆらめく感じ | |
ミュゼット (ミュゼット風) | H + M + M | ミュゼット風だが、本当のミュゼットではない | |
ミュゼット (本物) | M + M + M | ミュゼット仕様の、専用のアコーディオンの音色 | |
オルガン | H + L | パイプオルガン風 | |
ハーモニウム | H + M + L | リードオルガン風 | |
バンドネオン | M + L | バンドネオン風 | |
アコーディオン | M + M + L | 一般的なイメージのアコーディオンの音色 | |
マスター | H + M + M + L | 全部のリードを同時に鳴らす |
同じMのリードを表す●は、その位置によりチューニングの微妙なピッチの違いを表す場合がある。
アコーディオンの複数のリードを同時に鳴らす場合、それぞれのリードの音程のあわせかたによって音色の印象はがらりと変わる。主に以下の4種類がある。
ピアノ式鍵盤とボタン式鍵盤の二種類がある。詳しくはアコーディオンの種類の項を参照。
当初、アコーディオンの鍵盤は、他の蛇腹楽器と同様、狭いスペースにたくさんの鍵(キー)を並べることができるボタン式鍵盤が標準であった。また初期のアコーディオンは押引異音式だった。
1850年ごろ、ウィーンのフランツ・ワルターは、3列のボタン鍵盤を並べた押引同音式のクロマティック・アコーディオンを開発した(現在「B配列」と呼ばれるタイプ)。押引同音式のアコーディオンの出現により、ピアノ式鍵盤を装備する可能性が開かれた。
初期のピアノ・アコーディオンはウィーンのマテウス・バウアーによって開発されたが、これとは別個に1880年代のイタリアでも開発された[1]。
ピアノ式鍵盤の特長は汎用性である。ピアノやオルガンなど他の鍵盤楽器と共通なので、入門者もすんなりと弾け、また上級の演奏者も他の鍵盤楽器が長い歴史の中でつちかってきた演奏テクニックを活用することができる。その一方、ピアノ式鍵盤の欠点は、鍵が細長い板状であるためボタン式より広いスペースを必要とすること(小型軽量化には不利)、ボタン式と違い鍵どうしが密接しているため高速のパッセージを弾くとミスタッチが起きやすい[注 1]こと、などがある。 ダイアトニック・アコーディオン 日本でアコーディオンと言えばピアノ・アコーディオンを指すことが多いが、外国ではむしろボタン・アコーディオン(ダイアトニック・アコーディオンおよびクロマティック・アコーディオン)のほうが普及している。ただし日本でも、金子元孝以来、クロマティック・ボタン・アコーディオンのプロ奏者は少しずつ増えている。
アコーディオンの多くは、右手の高音部でメロディを弾き、左手の低音部で和音伴奏を弾きやすいように作られている。左手側で低音の伴奏をつけるためのベースシステムについては、さまざまな方式がある。
初期のアコーディオンは、押引異音式のダイアトニック・アコーディオンであった。このタイプのアコーディオンのベースシステムは、右手側の基本のキーが機種ごとに違うという楽器の特性もあり、統一された方式はなく、機種によって違いが大きい。また、1つのベースボタンを押すと、三和音(例えば「ドミソ」)ではなく、根音と第5音のみ鳴る(例えば「ドソ」)タイプもある。
左手側のベースボタンの数に決まりはないが、一般的には、右手側のボタンが1列しかないタイプ(one-row ワンロー)では左手側のベースボタンは2個か4個である。右手側が2列のタイプ(two-row ツーロー)ならベースボタンは8個、3列(three-row スリーロー)ならベースボタンは12個であることが多いが、これも単なる傾向にすぎず、例外も多い。
ストラデラ・ベース・システム(The Stradella Bass System)という呼称は、楽器生産で有名なイタリアのストラデッラで開発されたことにちなむ。クロマティック・ボタン鍵盤式アコーディオンおよびピアノ鍵盤式アコーディオンの左手部分のベースの機構として最も普通に見られるため「スタンダード・ベース」(「標準ベース」の意)とも呼ばれる。以下にベース・ボタンの並べ方を示す(これは96ベースの例。120ベースは両側にさらに拡張する)。
中型以上の機種では、ストラデラ・ベースは通常次の6列から構成される(以下、蛇腹に最も近い列=最も内側の列を第1列とする。)。2列目のボタンはファンダメンタル・ベース(the Fundamental Bass 基本ベース)と呼ばれ5度音階に従って並べられている。1列目のボタンはカウンター・ベース(the Counter Bass 対位ベース)と呼ばれ、2列目より長3度高い関係になっている。メジャーコードは3列目に配置され、4列目はマイナーコードで構成される。5列目はセブンスコードを格納し、最後の6列目はディミニッシュ・コードないしディミニッシュ・セブンスコードを持つ。
この方式の特長は、和音伴奏を簡単に演奏できることである。例えばCの三和音(ド、ミ、ソ)を鳴らそうと思ったら、右手の高音部ではドとミとソの3つの鍵を指で押さねばならないが、左手の低音部ではCのベースのボタン1個を押すだけで「ド、ミ、ソ」が鳴る。その反面、左手でメロディーを弾くのは不自由になる。左手のベース・ボタンのうち、単音を鳴らせるのは内側から見て第1列の対位ベースと第2列の基本ベースだけで、その音域は1オクターブに限られるうえ、小型のアコーディオンではベース部の単音ボタンを省略して和音ボタンのみしかないものすらある。
値段やサイズ、楽器の系統にも因るが、まったくない列があったり、レイアウトが多少変更されていることがある。ほとんどのロシア式の配置は、ディミニッシュ・セブンス・コードの列はボタンひとつ分移動され、ディミニッシュ・セブンス・Cコードは図のディミニッシュ・セブンス・Fコードの位置にあり、人差し指が届きやすいようになっている。
ストラデラ・ベース式のアコーディオンは、ボタンの数と種類によって次のように分類される。
フレンチ3/3ベース・システムは、ストラデラ・ベース・システムの改良型である。以下にベース・ボタンの並べ方を示す(これは96ベースの例。120ベースは両側にさらに拡張する)。
単音だけ鳴らすベースのボタン鍵に3列、和音を鳴らすコード・ベースのボタン鍵に3列を割り当てる(ストラデラ・ベースは、単音ベースは2列、コード・ベースは4列)。日本ではあまり見かけないが、フランスのアコーディオンなどでは時々見られる形式である。
普通の歌曲の演奏では、ストラデラ・ベースの6列目のボタンの使用頻度は、それほど多くない。フレンチ3/3ベースでは、ストラデラ・ベースの第6列のコードを省略する代わりに、カウンター・ベースのボタンを内側に向けて1列増やしている。単音のベース・ボタンが増えた結果、ベースでメロディーを弾きやすくなるだけでなく、演奏者が自分で単音のベースを組み合わせて複雑なコードを奏でることが容易にできるようになる。
左手側の低音部でもメロディーと和音をピアノのように自由に弾けるようにした、改良型のベースシステムで、半音階も網羅した1鍵1音のクロマティック式のボタン鍵盤をびっしり並べている。ボタン配列の方式はさまざまである。
左手側のベースボタンも、クロマティック・ボタン鍵盤式アコーディオンの右手側と同様に並べる方式。
ストラデラ・ベースの「基本ベース」「対位ベース」の並びかた(五度音階=「quint」=クイント)をベース部分全体に拡張した方式。
左手側のベース部のボタン鍵盤(まれにベース部もピアノ式鍵盤を採用する場合もある)の配列をピアノの白鍵と黒鍵のように並べたタイプ。コーカサスの民族楽器的な「東方アコーディオン」等で普通に見られる方式。
日本の小学校等で教育楽器として使用される「合奏用アコーディオン」では、左手側のベースボタンを省略したタイプが多用される。そのぶん軽量で安価になるだけでなく、演奏性の面でもリードの音の立ち上がり(レスポンス)が良くなるというメリットがある[2]。
世界最初のフリーリード楽器は中国の笙であるが、これは息で空気を送り込むようになっている。この笙のようなフリーリードによる発声の仕組みを、18世紀にヨーロッパの旅行者が中国から持ち帰ったものと思われる。
アコーディオンの発明者については、諸説がある。
「アコーディオン」という呼称を重視するならば、アコーディオンの発明者はデミアンである。1979年「アコーディオン150年祭」というイベントが日本でも行われた。
アコーディオンは一種の器械であり、デミアン以降も多くの楽器製作者が改良を重ね、自分が開発した新しいタイプのアコーディオンに関する技術を次々に特許登録した。19世紀のヨーロッパでは様々な物品や資料を集めて展示する博覧会がよく開催された。アコーディオンやコンサーティーナなど当時としては新しい器械技術を盛り込んだ蛇腹楽器の新製品も、ウィーンやミュンヘンなど大都市で開催された国際的な工業博覧会に出品された[3]。特許制度による知的財産保護と、博覧会など新時代の情報公開も追い風となり、アコーディオンの製作技術はヨーロッパ各地に広まった。
アコーディオンという楽器の設計思想そのものも、この楽器の普及を後押しした。発明者のシリル・デミアンの特許申請書にもあるとおり、彼は、音楽の知識をもたない素人でも簡単に旋律や和音伴奏を弾ける簡便な楽器として、アコーディオンを発明した[注 3]。デミアンが意図したとおり、プロの音楽家だけではなく、船乗りや移民、行商人、宣教師、軍人、旅芸人など、多くの人々がアコーディオンを持参して各地を旅し、この楽器を世界に広めた。
アコーディオンの外見は時代とともに変化している。
例えば、デミアンが製作した初期のアコーディオンは、左手でメロディーを弾き、右手で蛇腹の端をおさえて風を送り、現在のアコーディオンと左右の持ち方が逆転していた[4]。また初期のアコーディオンは簡便な押し引き異音式だったが、演奏能力拡張型の押し引き同音式の機種も考案された。楽器の演奏能力向上の改良は今日に至るまで絶えず続いており、時代がくだるほど多種多様なタイプのアコーディオンが併存するようになった。
またアコーディオンの素材やデザインも、時代の流行がある。ピアノ式アコーディオンの場合、20世紀前半までは、鍵盤部の両脇がリラのようにふくらみ、ボディも角ばったアール・デコ調のデザインが好まれた。20世紀後半以降は、装飾を減らし、ボディの角に丸みを持たせたタイプが普及している。こうした外観の変化は、飛行機や自動車など機械のデザインの変遷と似ている面がある。今日でも、中古楽器市場や骨董市場では、古いデザインのヴィンテージ・アコーディオンもかなり出回っている。
アコーディオンが使われる音楽シーンも変化した。
上述のとおり、初期のアコーディオンは、アマチュアも手軽に演奏を楽しめる安直な楽器だった。日本のアコーディオン普及協会会長をつとめた金子元孝も、レオ・フェレ(Léo Ferré)の名曲のタイトル「貧乏人のピアノ」(Le piano du pauvre)がピアノではなくアコーディオンを指すこと、この歌のタイトルのとおり昔のアコーディオンは非常に安価で、誰でも手軽に弾ける易しい楽器であり、田舎も含めてどこの家庭にも小型のアコーディオンが普及していたことを指摘している[5]。
時代がくだると、高価で重くて習得が難しい演奏能力向上型の機種も次々と開発された。これらは素人にはオーバースペックだが、プロの音楽家がアコーディオンで芸術音楽を演奏することを可能とした。
例えば、かつてオーケストラの中に入る鍵盤楽器といえばピアノ、チェレスタ、オルガン、の他にハーモニウムが使用されることがあったが、楽器の演奏能力と奏者の演奏技術が上がったことで、アコーディオンがハーモニウムよりも多用されるようになっている。武満徹、ベアート・フラー、グバイドゥーリナはオーケストラ曲でアコーディオンまたはバヤンを用い、高い音響効果をあげている。
日本への江戸時代の末に伝来した。美保神社には、嘉永2年(1849)に奉納された「日本渡来最古のアコーディオン」(1841年頃、ウィーンで製作された小型の1列ボタンのダイアトニック・アコーディオン)が現存している[6]。五雲亭貞秀の幕末の錦絵にも、アコーディオン(現在と左右が逆の古いタイプ)を弾く米国女性が描かれている。西南戦争で最後まで西郷隆盛と行動を共にした村田新八がアコーディオンを好んで弾いたことは有名である[注 4]。
その後、日本ではアコーディオンの流行期と衰退期が交互に繰り返した。金子元孝によると、明治30年代の関西での「手風琴」大流行、昭和10年代から20年代、1960年代(昭和35年から昭和44年)がアコーディオンの「わが国における三つの黄金時代」であった[7]。
当初、アコーディオンは輸入品ばかりであったが、明治30年代に入ると国産の「手風琴」の製造販売も見られた。ただし当時の国産品はリードに問題があったようで、明治30年代後半に姿を消してしまった。国産アコーディオンの量産が軌道に乗るのは、昭和6年の「トンボ一号」(トンボ楽器製作所)からである[8][9]。
2021年現在、JAPC(日本アコーディオン振興協議会)やJAA(日本アコーディオン協会)、AAA(全関西アコーディオン協会)、関東アコーディオン演奏交流会、CAC(中部アコーディオンクラブ)をはじめ数多くの関係団体が存在し、アコーディオンの普及と振興を図っている。
日本でアコーディオン(手風琴)と言えば、明治から大正まではダイアトニック・アコーディオンが主流だったが、昭和10年代の流行期からピアノ・アコーディオンが広まり始めた(戦前の日本では、ダイアトニック・アコーディオンに比べて、ピアノ・アコーディオンは高価であった)。
戦後は、横森良造はじめテレビなどに露出の多いアコーディオニストの多くがピアノ式を演奏したこと、小学校の音楽教育では教育楽器としてピアノ式鍵盤を備えた合奏用アコーディオンを採用したこと、などの理由により、昭和中期以降の日本で単にアコーディオンと言えば、もっぱらピアノ式鍵盤を備えたピアノ・アコーディオンを指すようになった。
一方、ダイアトニック・アコーディオンも、海外の民族音楽の演奏者を中心に、現在の日本でも一定の人気と知名度を保っている。
日本では、昭和33年(1958)の第2次「学習指導要領」改訂ののち、小学校など一般的な音楽教育の現場でも教育楽器としてアコーディオンが採用され、馴染みは深い。 日本の小学校などで用いられる「合奏用アコーディオン」は、左手のボタンを省略したピアノ式アコーディオンで、機種の音域ごとにアルト、ソプラノ、テナー、バスと分担化されており、器楽合奏や鼓笛パレードで組み合わせて用いられる場合が多い。
日本国内にあるクロマティック・ボタン式アコーディオンは、本格的な国産品は2021年現在まで作られたことはなく、全て外国製の輸入品である。個人の購入などは別として、日本国内での楽器店での正規の輸入・販売は、1957年、アコーディオニストの金子元孝が、桜井徳二をうながして正規にクロマティック式を輸入してもらったのが最初である[10]。これ以降、日本でもクロマチック式のプロ奏者は少しずつ増えた。金子元孝も含め、当初はピアノ式を弾いていたプロ奏者がクロマチック式に転向する例も少なくない。
1829年にアコーディオンが発明されて以来、さまざまなタイプのアコーディオンが考案されてきた。現在ではすたれたタイプのアコーディオンもあれば、今も百年以上変わらずに使われているタイプもある。同じアコーディオンであっても、タイプや設計思想が異なれば、全く別種の楽器と言ってよいほど奏法も音楽性も違ってくるので、要注意である。
アコーディオンの種類分けで特に重要なポイントは、以下の3点である。
上記の他にも、副次的な分類として、左手側のベースボタンの配列に注目した種類分けや、楽器の大きさ、音色に着目した種類分けもある。
日本で最も普及しているピアノ・アコーディオンは、ストラデラ・ベースをもつ押し引き同音式である。世界的に見ると、ボタン式アコーディオンや押し引き異音式アコーディオンのほうが普及している国や地域も多い。以下、主な種類を紹介する。
ピアノ・アコーディオン(「ピアノ鍵盤アコーディオン」もしくは単に「鍵盤アコーディオン」と呼ばれることもある)は19世紀にヨーロッパで開発されたタイプで、日本では最も一般的なタイプのアコーディオンである。
右手部はピアノの鍵盤と同形状の「手鍵盤」になっており、ピアノよりは鍵盤のサイズは小さめであることが多いが、ピアノ奏者でも演奏することができる。
左手のベース・ボタンは和音伴奏のためのもので、上述のとおり、ボタン配列の方式は標準的な「ストラデラ・ベース」や、旋律も自由に弾ける「フリー・ベース」など複数ある。鍵盤数は楽器のサイズによってまちまちだが、プロ奏者が使う大型のアコーディオンでは41鍵120ベース(右手の手鍵盤は41個、左手の和音伴奏用のベースボタンは120個)が標準であり[注 5]、中型や小型の機種では鍵盤数はこれより少なくなる。
ボタン式鍵盤を備えたアコーディオンには、押し引き異音式のダイアトニック・アコーディオンと、押し引き同音式のクロマティック・アコーディオンの2系統がある。蛇腹操作の特性上、ダイアトニックは小型の、クロマティックは大型のアコーディオンに多い。
ダイアトニック・アコーディオンはもっとも初期に開発されたシンプルなアコーディオンである。
ダイアトニック(diatonic)とは「全音階」を意味し、単一のキー(調)のみが演奏でき、ピアノの黒鍵にあたる半音は出せない(半音を出すためのアクシデンタル・キーを追加したタイプもある)。蛇腹(じゃばら)を伸ばすときと縮めるときで違う音がでる「押引異音式」になっている。ピアノ・アコーディオンなどに比べると構造が単純で軽量である。右手は主旋律を演奏し、左手は2~3のベース音とトニックとデミナントのシンプルな和音を演奏する。ダイアトニックの項目も参照。
ダイアトニック・アコーディオンは、各地の民族音楽と結びついて相互に発展して、種類が多い。
ダイアトニック・アコーディオンに対する英語の異称。
英語圏での「メロディオン」という語の意味用法は地域ごとの差が大きいので、要注意である[11]。なお、日本で「メロディオン」と言うと、鈴木楽器製作所の鍵盤ハーモニカの登録商標「メロディオン」(melodion)を指す。アコーディオンの「メロディオン」は日本語では同音になってしまうが、原語の綴りはmelodeonであり、鍵盤ハーモニカとは全く違う楽器である。
ケイジャン音楽の伴奏に特化したメロディオン。
オーストリアのシュランメル音楽で使われるアコーディオン。
シュタイリシェ・ハーモニカ(Steirische Harmonika=シュタイアーマルク式ハーモニカとも。)その名から誤解されがちだが、シュタイアーマルクではなくウィーンが発祥で、アルプス民俗音楽と相性の良い音楽から、当時田舎の代名詞でありウィーンにおいてこのジャンルの音楽の呼称として使われたシュタイアーマルクの名が用いられた。オーストリア、ドイツ、スイス、スロベニア、南チロルなどのアルプス地域を中心に民族音楽やそれに由来するポピュラーミュージックの主力楽器の一つとして現在でも多く使われており、ダイアトニックアコーディオンの中では最も普及している種類の一つでもある。メロディが3~5列、ベースはシングルとダブルのヘリコンベース(通常のベースより1オクターブ低音である)でボタンが2列15個前後と比較的多めであるほか、ベースボタンの両側にはラッパのような開口部が設けられている。またデザインも多くのアコーディオンがトラディッショナルなデザインを抜け出せないことと対称的に、シュトラッサー社(シュタイアーマルク州グラーツに本社を置く大手メーカー)の「クリエイティブ」のように現代的に進化したデザインのものも生産されており、そのことが若いアーティストが抵抗なく手にすることのできる土壌の一つとなっている。
クロマティック・ボタン・アコーディオンのこと。
蛇腹楽器の用語で「クロマチック」(クロマティック)と言えば「押し引き同音式で半音階も網羅している蛇腹楽器」を意味するので、語義上はピアノ・アコーディオンも広義のクロマティック・アコーディオンに含まれる[12]。ただし、ピアノ・アコーディオンが「クロマティック」であることは自明であるため、単に「クロマティック・アコーディオン」と言えば、通常、右手の高音部がボタン式鍵盤になっているクロマティック・ボタン・アコーディオンを指す。
全音階でしか演奏できない押し引き異音式のダイアトニック・アコーディオン(ダイアトニック・ボタン・アコーディオン)を改良したもので、1850年ごろにウイーンのフランツ・ワルターによって作られた。
右手側のボタン式鍵盤のキー配列には
がある。
上掲の図の、下の第1列~第3列(背景色が濃い部分)は必須のボタンで、上の第4列と第5列(背景色が薄い部分)は運指をしやすくするために補助的に追加したボタン列である(第4列までの機種や、第3列までしかない機種もある)。
この他、イタリア式やベルギー式以外では、フィンランドは独自の配列で、ロシアの場合は右手と左手で音の並びが逆になっている等、様々な方式がある[12]。日本では、クロマティック・アコーディオン奏者の多くはイタリア式で、ベルギー式の奏者は桑山哲也[13]など少数である。
左手側のベースボタンの配列はピアノ・アコーディオンと同様で、ストラデラ・ベースやフリー・ベースなど様々な方式がある。
ピアノ鍵盤と比較した場合のクロマティック・ボタン鍵盤の利点は、
逆にピアノ鍵盤より不利な点は
などである。
ロシアあるいはウクライナ音楽に特化したクロマティック・アコーディオン。本来は独自の鍵盤配列を持った民族楽器の一つで、1907年にピョートル・ステリゴフによって開発された。後に、イタリア式クロマティック・アコーディオンを参照して、西洋伝統音楽に耐える構造に徹底的に作り変えられ、レジスターや列数が強化された。バヤンは右手のボタン配列が通常のアコーディオンと若干異なる。音域は同一でも、音色はリード形状のせいで微妙なレヴェルで異なる。AKKO社[17]は右の8フィートのリードを二種から三種に増やし、重さは16.5kgを越え音栓数は31に及ぶモデルを生産している。これだけの重さに耐えなおかつ余裕で使いこなすロシア人の体力がよく解る楽器の歴史が見える。現在も、発祥時のピリオドモデルと改良されたモダンモデルどちらも生産されているものの、ロシア語圏で一般に広く出回っているのはすでに改良されたモダンモデルである。ロシアとウクライナでは路上やコンサートホールで頻繁に見かけることができる。詳しくはバヤンを参照。
ガルモン (ロシア語: гармонь (ガルモーニ) 英語: Garmon) はバヤンより古い歴史をもつ、ロシアの伝統的なアコーディオン。ロシア語風に「ガルモーニ」、さらにガルモーニの中でも「小さな可愛いもの」という意味合いをこめた愛称「ガルモーシカ」(ロシア語“Гармошка”)と呼ばれることもある[19]
ガルモンの語源は、ハーモニカにあたるロシア語“ Гармоника” (garmonika ガルモーニカ)である[注 6]時代や地域ごとに押引異音式(ダイアトニック式)、押引同音式(クロマティック式)など、さまざまなタイプのガルモンが作られ、外見や機構はバリエーションに富む。
最初のガルモンは、西欧からロシアに伝わったダイアトニック・アコーディオンを元に1830年代から製作されたトゥーラガルモン(ロシア語: тульская гармонь 英語: Tula garmon)である。1870年にはクロマティック式のガルモンも発明された。
ガルモンはコーカサス地方や沿ヴォルガ連邦管区にも広まり、現地のアジア系民族の音楽と結びついて改良され、さまざまな種類が作られた。1936年にカザンで開発された「東方風アコーディオン」は、左手側にピアノ配列フリー・ベースをもち、コーカサスその他の民族音楽で今もよく使われている。
2004年に日本の電子楽器メーカーであるローランドがVアコーディオンを発表。ピアノ式とボタン式があり、世界中のアコーディオン・サウンド、オーケストラ音色、ドラム&パーカッション音色、バーチャルトーン・ホイール・オルガン音色など多彩な音色を内蔵している。
一般的な電子楽器と同じで発音のエネルギーは電気により供給される。蛇腹の空気の流量は音源モジュールに音量信号(ベロシティ)として送られるのみで、エネルギーとしては利用されない。
コンサーティーナやバンドネオン等のコンサーティーナ族の楽器は、狭義の「アコーディオン属」(アコーディオン族)には含めず、アコーディオンとは別の楽器と見なされる。例えば、バンドネオン奏者は自分の楽器を「アコーディオン」と呼ばれることを嫌う[注 7]。これは、「ヴァイオリン属」の楽器であるヴィオラやチェロの演奏者が、自分の楽器を「ヴァイオリン」と呼ばないのと同様である。しかし歴史をさかのぼれば、バンドネオンの発明者であるバンド自身が自分の楽器を当初は「アコーディオン」と呼んだように、コンサーティーナ属も広義のアコーディオン属に含める場合があるため、ここでも簡単に解説しておく。詳しくは蛇腹楽器を参照。
イギリスの物理学者、チャールズ・ホイートストンが発明した蛇腹楽器。詳しくは「コンサーティーナ」を参照。
ドイツのハインリヒ・バンドが発明した蛇腹楽器。狭義のコンサーティーナとは別種の楽器であるが、コンサーティーナ属に含まれる。詳しくはバンドネオンを参照。
金管楽器のメロフォンとは全く別の楽器である。外見はギターに似る。右手で蛇腹につながったハンドルを操作して空気を送り、左手で(ギターで言うところの)ネックに備えられたボタンを操作して音高を変えて演奏する。
アコーディオンの蛇腹の様な構造が含まれる機械類や、蛇腹の動きを連想させる事象もアコーディオン云々と呼ばれる事がある。ただし、アコーディオンという言葉には蛇腹やベローズという意味はない。
Category:各国のアコーディオン奏者も参照のこと。
Category:日本のアコーディオン奏者も参照のこと。
Seamless Wikipedia browsing. On steroids.
Every time you click a link to Wikipedia, Wiktionary or Wikiquote in your browser's search results, it will show the modern Wikiwand interface.
Wikiwand extension is a five stars, simple, with minimum permission required to keep your browsing private, safe and transparent.