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複数のサブユニットからなるプロテアーゼ複合体、内在性膜タンパク質 ウィキペディアから
γ-セクレターゼ(英: gamma secretase)は、複数のサブユニットからなるプロテアーゼ複合体で、膜内切断プロテアーゼ(膜貫通タンパク質を膜貫通ドメイン内で切断するプロテアーゼ)の一種である。アルツハイマー病の発病と関わりがあると考えられている。
Gamma-secretase | |||||||||
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γ-セクレターゼ複合体。プレセニリン-1(橙)、ニカストリン(赤)、PEN-2 (青)、APH-1(緑)で構成される。内腔側が上(赤)、細胞質側が下(青)。構造はクライオ電子顕微鏡を用いて解明された[1]。 | |||||||||
識別子 | |||||||||
略号 | Gamma-secretase | ||||||||
Pfam | PF05450 | ||||||||
InterPro | IPR008710 | ||||||||
OPM superfamily | 244 | ||||||||
OPM protein | 5fn5 | ||||||||
Membranome | 155 | ||||||||
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γ-セクレターゼのX線結晶構造はまだ得られていない[2]が、低分解能の電子顕微鏡像からの再構成によって、約2 nmの孔が可視化され[3]、2014年に完全なヒトγ-セクレターゼ複合体の三次元構造がクライオ電子顕微鏡(cryo-EM)を用いた単粒子解析によって 4.5 Åの分解能で決定され[3]、2015年には原子分解能(3.4 Å)のcryo-EM構造が報告された[1]。
γ-セクレターゼ複合体は、プレセニリン1[4]、ニカストリン、PEN-2(presenilin enhancer 2)、APH-1(anterior pharynx-defective 1)の4つのタンパク質から構成される[5]。
プレセニリン1(アスパラギン酸プロテアーゼの1つ)は、免疫細胞の活性を調節する機能があり[6]、触媒サブユニットでもある。γ-セクレターゼ複合体中のタンパク質は、複合体の組み立てまたは成熟の過程でタンパク質分解によって高度に修飾されるが、その活性化のためにプレセニリンのN末端フラグメントとC末端フラグメントへの自己触媒切断が必要である[4]。ニカストリンの主な役割は、組み立てられた複合体の安定性を維持し、細胞内のタンパク質輸送を調節することである[7]。PEN-2は、プレセニリンの膜貫通ドメインへの結合を介して複合体へ結合し[8]、プレセニリンがタンパク質分解によって活性化されたN末端フラグメントとC末端フラグメントとなった後の複合体の安定性を助ける役割などがある[9]。APH-1はタンパク質分解活性に必要であり、保存されたαヘリックス相互作用モチーフを介して複合体に結合し、未成熟な構成要素の組み立てを開始する[10]。
なお、ヒトのゲノム中には2種類のプレセニリンと2種類のAPH-1が同定されている。APHのホモログは選択的スプライシングによって2つのアイソフォームが発現するため、少なくとも6種類の異なるγ-セクレターゼが生じる可能性があり、組織または細胞種に関する特異性が存在している可能性がある[11]。
γ-セクレターゼ複合体は、小胞体での組み立てとタンパク質分解によって成熟が行われると考えられている[12]。その後、複合体は分泌経路の後期区画へ送られ、そこで基質タンパク質と相互作用して切断を行う[13]。γ-セクレターゼ複合体はミトコンドリアにも局在することも観察されている[14]。
γ-セクレターゼは、内在性膜タンパク質を膜貫通ドメイン内で切断する[15]。基質の認識はニカストリンの細胞外ドメインが標的のN末端に結合することによって行われる。その後、2つのプレセニリンフラグメント間での過程によって、触媒アスパラギン酸残基が位置する活性部位へと送られるが、その過程はあまり解明されていない。活性部位には、細胞膜の内側の疎水的環境で加水分解を行うための水分子が存在していなければならないが、水とのプロトン交換がどのよう行われているかはよく分かっていない[2]。
γ-セクレターゼが作用する最もよく知られた内在性膜タンパク質はアミロイド前駆体タンパク質(APP)である[16]。APPがγ-セクレターゼとβ-セクレターゼによって切断されることで、アミロイドβ(Aβ)が形成される[17]。γ-セクレターゼは、AβのC末端部分の産生に際し、"sloppy"(ずさん)な切断部位を残すという、プロテアーゼでは珍しい性質を持つ[17]。γ-セクレターゼはAPPを複数の個所のいずれかで切断し、典型的には39–42アミノ酸の範囲でさまざまなペプチドを作り出す。Aβ40が最も一般的なアイソフォームであり、アミロイド線維の形成を引き起こすコンフォメーション変化に対し最も感受性が高いのはAβ42である[16]。古いデータでは異なるγ-セクレターゼによって異なるAβのアイソフォームが形成される可能性が示唆されていたが[18]、同じγ-セクレターゼによる1残基ごとの一連の切断によってAβのC末端が産生されていることがその後のエビデンスから示唆されている[16][17][19]。なお、初期の切断部位では46アミノ酸(ζ切断)や49アミノ酸(ε切断)のペプチドが産生される[17]。
近年の研究では、γ-セクレターゼとγ-セクレターゼ活性化タンパク質との相互作用がAPPからAβへの切断を促進することが示されている[15]。また、CD147が存在しないとγ-セクレターゼの活性が上昇するという研究結果から、CD147が非必須調節因子であることが示唆されている[20][21]。
γ-セクレターゼによるAPPの切断によって生成されるAβは、線維型の異常なフォールディング(ミスフォールディング)によってアルツハイマー病患者に見られるアミロイド斑の主成分となるため、アルツハイマー病と関連が研究されている[22]。早発型の家族性アルツハイマー病の発症は、APP自体の変異だけでなく、γ-セクレターゼを構成するプレセニリンの異常が因子となることが指摘されている[22]。プレセニリン遺伝子の変異はアルツハイマー病の主要な危険因子であることが示されている[23]。
このほか、γ-セクレターゼは、Notch[24]、ErbB4[25]、E-カドヘリン[26]、N-カドヘリン[27]、エフリンB2[28]、CD44[29]など、他のI型膜タンパク質のプロセシングにも重要な役割を果たしていると考えられる。
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