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H-Iロケット(エイチワンロケット、エイチいちロケット)は、宇宙開発事業団(NASDA)と三菱重工業がN-IロケットとN-IIロケットに続いて開発し、三菱重工業が製造した人工衛星打上げ用液体燃料ロケットである。名称の頭文字「H」は水素の元素記号に由来し、第2段の燃料に液体水素を使用することから名付けられた[2]。
H-I | |
---|---|
H-Iロケット(実物大模型) | |
基本データ | |
運用国 | 日本 |
開発者 |
NASDA 三菱重工 マクドネル・ダグラス |
運用機関 | NASDA |
使用期間 | 1986年 - 1992年 |
射場 | 種子島宇宙センター大崎射点 |
打ち上げ数 | 9回(成功9回) |
開発費用 | 約1600億円[1] |
打ち上げ費用 | 150億円 |
原型 | N-IIロケット |
公式ページ | JAXA - H-Iロケット |
物理的特徴 | |
段数 | 2段または3段 |
ブースター | 6基または9基 |
総質量 | 139.9 トン |
全長 | 40.3 m |
直径 | 2.44 m(第1段コア) |
軌道投入能力 | |
低軌道 |
2,200 kg 300km / 30度 (2段式) |
静止移行軌道 | 1,100 kg |
静止軌道 |
550 kg (燃焼後アポジモータ質量含) |
地球重力圏脱出軌道 | 770 kg |
Nロケットに引き続き、一部がブラックボックスの条件で米国のデルタロケットの技術を導入し開発された。第2段と第3段ロケットや慣性誘導装置を国産化しており、デルタロケットの技術導入を行った3種類のロケットの中では国産比率が最も高く、N-IIでは54%から61%だった国産化率がH-Iでは78%から98%まで向上した。次世代のH-IIロケットへの重要なステップとなったが、第1段が自主技術で開発したものではないために、N-IやN-IIと同様にデルタロケットの亜種として分類される。名称はH-IIと類似しているが、N-IIと共通の第1段を用いている等、技術的な類似点はN-IIの方が多い。
第2段用に液体酸素と液体水素を推進剤とするLE-5型エンジンを自主技術で開発できたことは、次世代のH-IIロケットの第1段用LE-7型エンジンの実現に道筋をつけた点で意義が大きい。LE-7の実用化にはそれにもかかわらず大変な努力を要したわけであるが、LE-5の経験が無ければさらに難易度が高くなったといえる。
1981年(昭和56年)に開発が開始され[3]、1986年(昭和61年)8月13日にH-I試験機(第1号機)の打ち上げに成功、1992年(平成4年)まで合計9機を打ち上げ、すべて成功した。これにより「さくら」「ひまわり」「ゆり」など実用静止衛星の打上げを順調にこなし、さらに複数衛星の同時打上げの技術習得も行った。
関係機関の一部ではH-IAとも呼称されていたこともあり、後継として静止軌道に800kgの打上げ能力をもつH-IBロケット(後述)を開発する予定であった。しかし、2t級静止衛星の需要増加や国内技術の進歩のために計画を発展的に解消し、H-IIロケットの開発へと移行することになった[4]。
Nロケットの打ち上げ能力不足を背景として1975年(昭和50年)から以下のような基本的な枠組みの元に調査研究が開始された。
この研究において上段の構成要素はほぼ決定されていたが、第1段をどういったものにするかが争点となった。第1段を新規開発するのであれば開発計画に間に合わず、N-IIの流用とすると新規開発要素が少ないために開発計画には間に合うが打ち上げ能力が計画値の下限にとなる等、それぞれ問題があった。最終的にはN-IIの第1段を流用した500kg級のロケットH-IA(後のH-Iに該当)をまず開発し、その後800kgまで能力を増強したH-IBを開発するという計画に落ち着いた(後にH-IBは計画中止)[5]。
諸元\各段 | 第1段 | 補助ロケット | 第2段 | 第3段 | フェアリング | |
---|---|---|---|---|---|---|
寸 法 |
長さ(m) | 22.44 | 7.25 | 10.32 | 2.34 | 7.91 |
全長(m) | 40.3 | |||||
外径(m) | 2.44 | 0.79 | 2.49 | 1.34 | 2.44 | |
重 量 |
各段全備重量(t) | 85.8 (段間部含む) |
40.3 (9本) |
10.6 | 2.2 | 0.6 |
全段重量(t) | 139.9 (衛星除く) | |||||
エ ン ジ ン |
名称 | MB-3-3 | キャスターII | LE-5 | UM-129A | N/A |
型式 | 液体ロケット | 固体ロケット | 液体ロケット | 固体ロケット | ||
推進薬種類 (酸化剤/燃料) |
LOX/RJ-1 | HTPB | LOX/LH2 | HTPB | ||
推進薬重量(t) | 81.4 | 33.6 (9本) |
8.8 | 1.8 | ||
比推力(s) | 249 (海面上) |
238 (海面上) |
442 (真空中) |
288 (真空中) | ||
平均推力(tf) | 78.0 (海面上) |
22.5 (海面上)(1本分) |
10.5 (真空中) |
7.9 (真空中) | ||
燃焼時間(s) | 273 | 38 | 364 | 66 | ||
推進薬供給方式 | ターボポンプ | N/A | ターボポンプ | N/A | ||
制御 シス テム |
ピッチ ヨー |
ジンバル | N/A | ジンバル(推力飛行中) ガスジェット(慣性飛行中) |
スピン安定 | N/A |
ロール | バーニアエンジン | ガスジェット | ||||
3段式の液体+固体ロケット
機体 | 打上げ年月日 | 段数 | 補助ブースタ | 成否 | 積荷 | 命名前 | 目的 | 軌道 | 備考 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
試験機1号機 (H15F) |
1986年8月13日 | 2段式 | 9基 | 成功 | あじさい | EGS | 測地実験衛星 | LEO | |
じんだい | MABES | 磁気軸受フライホイール実験装置 | LEO | ||||||
ふじ | JAS-1 | アマチュア衛星1号 | LEO | Fuji-Oscar-12, FO-12 日本初のピギーバック衛星 | |||||
試験機2号機 (H17F) |
1987年8月27日 | 3段式 | 9基 | 成功 | きく5号 | ETS-V | 技術試験衛星V型 | GSO | |
3号機 (H18F) |
1988年2月19日 | 3段式 | 9基 | 成功 | さくら3号a | CS-3a | 通信衛星3号-a | GSO | |
4号機 (H19F) |
1988年9月16日 | 3段式 | 9基 | 成功 | さくら3号b | CS-3b | 通信衛星3号-b | GSO | |
5号機 (H20F) |
1989年9月6日 | 3段式 | 6基 | 成功 | ひまわり4号 | GMS-4 | 静止気象衛星 | GSO | |
6号機 (H21F) |
1990年2月7日 | 2段式 | 9基 | 成功 | もも1号b | MOS-1b | 海洋観測衛星1号-b | LEO | |
おりづる | DEBUT | 進展展開機能実験ペイロード | LEO | ||||||
ふじ2号 | JAS-1b | アマチュア衛星1号-b | LEO | Fuji-Oscar-20, FO-20 | |||||
7号機 (H22F) |
1990年8月28日 | 3段式 | 9基 | 成功 | ゆり3号a | BS-3a | 放送衛星3号-a | GSO | |
8号機 (H23F) |
1991年8月25日 | 3段式 | 9基 | 成功 | ゆり3号b | BS-3b | 放送衛星3号-b | GSO | |
9号機 (H24F) |
1992年2月11日 | 2段式 | 9基 | 成功 | ふよう1号 | JERS-1 | 地球資源衛星1号 | LEO |
Hロケットの開発計画において800kgの静止衛星打上げ能力をもつロケットとして計画されていたのがH-IBロケットである。固体補助ロケットのキャスターIVクラスへの大型化、MB-3-3エンジンのクラスタ化、新大型第1段エンジンの開発、推力偏向機能付大型固体補助ロケットを採用する等、幅広く検討が行われ、第3段をLOX/LH2エンジンに置き換える案が有力となった[5]。第3段を置き換える案は詳細な設計検討まで行われ、1989年の試験1号機打ち上げを目指していた[6]。しかし、急速な2t級静止衛星の需要増加により、1982年(昭和57年)頃に計画はH-IIロケットへと発展的に解消する方向性が示され、最終的に1984年(昭和59年)2月の宇宙開発政策大綱改訂によって書類上からも計画は消滅した。
H-Iロケットの実物大展示模型が、1989年3月から宮崎科学技術館に設置されている。
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