電磁場テンソル(でんじばテンソル)とは、電磁場を相対性理論に基づいた4次元時空の形式で記述した2階の反対称テンソル場である。以後、相対論と言えば、特に断りがなければ特殊相対性理論を指す。
電磁場の強度(field strength)F は二階のテンソル
と定義される[1]。
ここで A は相対論的な4元ベクトルの電磁ポテンシャル
である[註 1]。
また、微分も相対論的な4元ベクトル
である。
定義から電磁場テンソルは明らかに反対称テンソルである。従って独立成分は6つある。
これは3次元空間のベクトル場である電場の強度 E と磁束密度 B の各成分に対応する。
電場の強度と磁束密度は3次元空間の電磁ポテンシャルによって
と表される。
あるいは各成分毎に
と書くことが出来る[註 1]。
具体的には
である[註 1]。上付きの
は
となる[註 1]。それぞれ行列の形で表せば
となる。
双対テンソル
完全反対称テンソル ε を用いれば、電磁場の強度 F に双対なテンソル
が定義される[2]。
具体的には
であり、行列の形で表せば
となる。
媒質中の電磁場
媒質中での電磁場を表す電束密度 D と磁場の強度 H は、電磁場の強度と同様に二階のテンソル G によって相対論的な形式で記述される。
それぞれの成分は具体的には
である[3]。このテンソル G はサブ電磁テンソルとも呼ばれる。
サブ電磁テンソル G は電磁場の強度 F と
で関係付けられる。ここで P は分極テンソルであり、その成分は誘電分極 P と磁化 M である。
具体的には
である。
サブ電磁テンソル G と分極テンソル P をそれぞれ行列の形で表せば
である。
球座標表示
球面座標系 (ct, r, θ, φ) による4元ポテンシャルの成分表示は
であり、電磁場強度 F として
が得られる。
平坦な時空のミンコフスキー計量とその逆行列は球座標において
であり、電磁場強度の添え字を上げると
となる。
例えば、原点に点電荷 q が存在するときの電磁場テンソルは
で表される。
電磁場テンソルによって、相対論的な形でマクスウェルの方程式を記述することができる。
定義からビアンキ恒等式
が成り立つ[4]。
双対テンソルを用いれば
と表すことも出来る[4]。
この式は添え字 ν = 0,1,2,3 についての4つの方程式であり、それぞれ
と対応する。
自由空間における電磁場の運動方程式は
と表される。
ここで j は4元電流密度である。
この式は添え字 ν = 0,1,2,3 についての4つの方程式であり、それぞれ
と対応する。
媒質中の運動方程式
媒質中の運動方程式は
と表される。
成分ごとにそれぞれ
である。
電磁場テンソルは荷電粒子に作用するローレンツ力を相対論的に記述する際に現れる。
相対論的な粒子の位置を X = (ct, r) で表すとき、電荷 q を帯びた荷電粒子に作用するローレンツ力は
となる[1]。
ここで p は粒子の4元運動量である。ドットは運動のパラメータによる微分である。
時空の曲率、すなわち重力場がある場合に、偏微分はテンソルとはならず、レヴィ・チヴィタ接続を導入して共変微分への置き換えが必要となる。しかし、電磁場強度 F は偏微分による定義を変更することなくテンソルである。反対称性により共変微分の接続が相殺されるため
となる[5]。ビアンキ恒等式は定義から成り立つので変更を要しないが、運動方程式は
であり[5]、共変微分への置き換えが必要となる。