論理学 (ろんりがく、英語 : logic ) は、正しい推論 の研究である。形式論理学 および非形式論理学 が含まれる。形式論理学は、演繹的に妥当 な推論あるいは論理的真理 の研究である。論証の議題や内容とは無関係に、論証の構造のみにより、前提からどのように結論が導かれるかを研究する。非形式論理学は、非形式的誤謬 、批判的思考 、議論学 と関わりがある。非形式論理学は自然言語 で記述される論証を研究する一方、形式論理学は形式言語 を用いる。各形式論理体系は、証明系 (英語版 ) を表現する。論理学は、哲学 、数学 、計算機科学 、言語学 を含む多くの分野で中核をなす。
論理学では、モーダスポネンス のような形式的に妥当な推論を研究する。
論理学は、前提の集合および結論からなる論証を研究する。論証の例には、前提「今日は日曜日である」および「今日が日曜日であれば、私は働かなくて良い」から結論「私は働かなくて良い」を導くものがある。前提および結論は、命題 あるいは真理適合的な言明を表現する。命題の重要な側面は、その内部構造にある。例えば、複合命題は、
∧
{\displaystyle \land }
(かつ) や
→
{\displaystyle \to }
(...ならば...) のような論理語彙 で接続された単純命題から構成される。単純命題も、「日曜日」や「働く」のような各部分に分解できる。命題の真偽は、通常、その各部分すべての意味に依存する。ただし、論理的に真の命題は、その各部分の具体的な意味とは無関係に、その論理的構造のみによって真であるため、これに当てはまらない。
論証には、正しいものと正しくないものがある。論証は、前提が結論を支持する場合に正しい。演繹的論証 は、前提が真である場合、結論も必然的に真であるため、結論の支持が最も強い。一方、前提に含まれない新しい情報を含む結論が帰結する拡充的論証 (英語版 ) では、同様の強い結論の支持が存在しない。日常対話および自然科学で見られる多くの論証は、拡充的論証である。拡充的論証は、帰納的論証 および遡及論証 に分類される。帰納的論証は、多くのカラスの個体を観察してすべてのカラスが黒いと結論するような、統計的一般化である。遡及論証は、医者が患者の症状をうまく説明する診断を下すような、最良の説明への推論である。正しい推論の水準に満たない論証には、多くの場合、誤謬 が含まれる。論理体系は、論証の正しさを評価する理論的枠組みである。
論理学は、古代 から研究されてきた。論理学の初期の成果には、アリストテレス論理学 (英語版 ) 、ストア派論理学 (英語版 ) 、ニヤーヤ学派 、墨家 がある。アリストテレス論理学は、三段論法 の形式を取る推論を研究する。アリストテレス論理学は、ゴットロープ・フレーゲ ら19世紀後半の数学者の業績を起源とする現代の形式論理学に取って代えられるまで、西洋で主要な論理体系とみなされてきた。今日、最も用いられる論理体系は古典論理 である。古典論理 は、命題論理 および一階述語論理 からなる。命題論理は完全な命題の論理的関係のみを対象とする一方、一階述語論理は述部 や数量詞 のような命題の各部分も研究する。拡張論理は、古典論理の基礎となる基本的な直感を受け入れ、これを形而上学 、倫理学 、認識論 などの別の分野に拡張する。一方、逸脱論理 (英語版 ) は、古典論理で用いられる直感の一部を却下し、論理学の基本法則への別の説明を提示する。
「logic 」は、「理性」、「言説」、「言語」などの訳語が充てられるギリシア語 の「ロゴス 」を語源とする。論理学は、歴史的には思考法則 (英語版 ) あるいは正しい推論 の研究と定義され、推論 あるいは論証 の観点から理解されてきた[5] 。論証は、推論を表現する[6] 。論証は、前提の集合および結論からなる。論理学は、論証が正しいかどうか、つまり、論証の前提が結論を支持するかどうかを研究する[7] 。形式論理学 および非形式論理学 はどちらも論証の正しさの評価を対象とすることから、この大まかな論理学の定義は、形式論理学および非形式論理学を含む広義の論理学に当てはまる[8] 。形式論理学は歴史的に深く研究されてきた論理学の分野であり、一部の論理学者は、形式論理学のみを論理学の範囲と捉えている[9] 。
非形式論理学
広義では、論理学には形式論理学および非形式論理学の両方が含まれる[24] 。非形式論理学は、非形式的な基準を用いて論証の正しさを検討・評価する。非形式論理学は、主に日常対話に注目する。非形式論理学は、形式論理学の知見を自然言語で記述された論証に応用することが困難であることが判明するにつれて、研究が進められた。この点で、非形式論理学は、形式論理学だけでは解決できない問題を研究する分野であるといえる[27] 。形式論理学および非形式論理学は、どちらも論証の正しさを評価し、誤謬を判別するための基準を提示する[28] 。
非形式論理学の定義としては多くのものが提案されてきたが、非形式論理学の厳密な定義には合意がない。最も字面的な定義では、「形式」および「非形式」という語を、論証を記述する言語を指すものとみなす。この定義では、非形式論理学は、非形式言語あるいは自然言語で記述される論証を研究する分野とされる[30] 。形式論理学では、自然言語で記述された論証は、形式言語に翻訳することで間接的にのみ検討できる一方、非形式論理学では、そのような論証を元々の形式で直接検討できる[31] 。また、この定義では、論証「鳥は飛ぶ; トゥイーティー は鳥である; したがって、トゥイーティーは飛ぶ」は自然言語で記述されており、非形式論理学で検討される一方、形式言語への翻訳「(1)
∀
x
(
B
i
r
d
(
x
)
→
F
l
y
s
(
x
)
)
{\displaystyle \forall x(Bird(x)\to Flys(x))}
; (2)
B
i
r
d
(
T
w
e
e
t
y
)
{\displaystyle Bird(Tweety)}
; (3)
F
l
y
s
(
T
w
e
e
t
y
)
{\displaystyle Flys(Tweety)}
」は形式論理学で検討される。自然言語の表現は曖昧であったり、文脈に依存していたりする場合があり、自然言語で記述される論証の研究には困難が伴う[33] 。別の定義では、非形式論理学は、広義で議論の基準や手順の規範的な研究とされる。この定義では、非形式論理学には、議論における理性 の役割、批判的思考 、議論の心理学に関する問題も含まれる。
また、非形式論理学を非演繹的論証の研究と定義するものもある。この定義は、非形式論理学を演繹的推論を研究する形式論理学と対照する[35] 。非演繹的論証は、結論がおそらく真であることを示すが、結論が真であることを保証しない。非演繹的論証には、「私がこれまで見たカラスはすべて黒かった」から「すべてのカラスは黒い」を結論するような、経験的観察に基づく帰納的論証 がある[36] 。
また、非形式論理学を非形式的誤謬 の研究と定義するものもある。非形式的誤謬は、論証の内容やコンテキスト に誤りが含まれる正しくない論証である。例えば、誤った二分法 は、考慮されうる選択肢を除外することで、内容の誤りを犯す誤謬である。誤謬「あなたは我々の味方であるか、我々の敵である; あなたは我々の味方ではない; したがって、我々の敵である」は、誤った二分法である。一部の論理学者は、形式論理学を論証の大まかな形式のみの研究、非形式論理学を実際の論証の例の研究と定義する。別の定義では、形式論理学は正しい推論における論理定数の役割のみの研究、非形式論理学は具体的な概念の意味の検討も含む研究とされる[40] 。
前提・結論・真偽
前提と結論
前提および結論は、推論および論証の基本的な部分であり、論理学において中核をなす。妥当な推論あるいは正しい論証では、前提から結論が導かれる。つまり、前提が結論を支持する。例えば、前提「火星は赤い」および「火星は惑星である」は、結論「火星は赤い惑星である」を支持する。多くの論理体系では、前提および結論が真理の担い手 (英語版 ) でなければならないとされる[注釈 1] 。これは、前提および結論が真理値 を持たなければならない (真または偽でなければならない) ということを指す。現代哲学では、前提および結論は、命題 あるいは文 とみなされる。命題は、文の外延であり、一般に抽象的対象 とされる。例えば、英語の文「the tree is green 」は、ドイツ語の文「der Baum ist grün 」とは異なるが、どちらも同じ命題を表現する。
前提および結論の命題説は、抽象的対象への依存により批判されてきた。例えば、自然主義 (英語版 ) では、通常、抽象的対象の存在は否定される。また、命題の同一性の基準の定義の困難性を問題とする見解もある。このような異論は、前提および結論を、命題ではなく文 (本のページに印刷された記号のような具体的な言語的対象) と見ることで回避できる。ただ、この場合、文が多くのケースで文脈に依存していて曖昧であり、論証の妥当性がその各部分だけでなく文脈や解釈にも依存するという新たな問題が生じる。また、前提および結論を、思考や判断のような心理的な観点で理解する方法もある。この立場は心理主義 と呼ばれる。心理主義は、20世紀初頭には盛んに議論されたが、現在は広く受け入れられていない。
内部構造
前提および結論は内部構造を持つ。命題および文と同様に、前提および結論には単純なものと複合的なものがある。複合命題は、その構成要素として、「かつ」や「...であれば...」のような論理結合子で接続された別の命題を持つ。一方、単純命題は命題部を持たない。ただし、単純命題も、単称名辞 (英語版 ) や述部 などの副命題的部分を持つため、内部構造を持つと見ることができる。例えば、単純命題「火星は赤い」は、述語「赤い」を単称名辞「火星」に適用することで定立される。一方、複合命題「火星は赤い; かつ、金星は白い」は、論理結合子「かつ」で接続された2つの単純命題で定立される。
命題の真偽は、少なくとも部分的にはその構成要素に依存する。真理関数 的な命題結合子で定立された複合命題では、命題の真偽はその各部分の真理値のみに依存する。ただし、この関係は、単純命題およびその副命題的部分を検討する場合にはより複雑となる。単純命題の副命題的部分は、対象 (または対象の集合) の指示など、それ自体で意味を持つ。各副命題的部分が構成する単純命題の真偽は、それら各部分の現実との関係 (各部分が指示する対象のありよう) に依存する。この議題は、指示の理論 (英語版 ) で研究される。
論理的真理
複合命題には、その各部分の具体的な意味とは無関係に真であるものがある[53] 。例えば、古典論理では、複合命題「火星は赤い; または、火星は赤くない」は、単純命題「火星は赤い」などの命題の各部分の真偽によらず真である。この場合、この真理は論理的真理と呼ばれる。命題の真偽がその命題に含まれる論理語彙のみに基づく場合、その命題は論理的に真であるという。これは、その命題が、その論理項以外の部分にいかなる解釈を適用しても真であるということを指す。一部の様相論理 体系では、このことを命題があらゆる可能世界で真であるという。一部の論理学者は、論理学を論理的真理の研究と定義する[16] 。
論証と推論
論理学は一般に、論証あるいは推論の正しさの研究と定義される[59] 。論証は、前提の集合および結論からなる。推論は、前提から結論を導く過程である。ただ、論理学では、「論証」および「推論」を同義とみなす場合もある。論証は、前提が結論を支持するかによって、正しいものと正しくないものに分類される。一方、前提および結論は、それが現実に沿うかによって真偽が決まる。形式論理学では、論証が正しく、かつ、真の前提のみを持つものを健全 な論証という。論証は、単純論証および結合論証に分類される場合がある。結合論証は、単純論証を連ねて定立された論証である。つまり、ある論証の結論が、続きの論証の前提となる。結合論証が正しいためには、これらの連なった論証のすべてが正しい必要がある。
論理学で用いられる論証 関連の用語
論証および推論には、正しいものと正しくないものがある。論証および推論は、前提が結論を支持する場合に正しい。正しくない場合、この支持が欠けている。結論の支持は、推論の種類によって異なる形態を取る[62] 。演繹的推論 は、最も強い支持を持つ。ただし、前提に演繹以外の結論の支持があり、演繹に妥当でない論証も正しい論証である場合がある。この場合、帰納的推論または拡充的推論の用語が用いられる[63] 。演繹的論証は形式論理学と関連し、拡充的論証は非形式論理学と関連する[64] 。
拡充的論証
拡充的論証は、前提に含まれない新しい情報が結論する論証である。拡充的論証では、前提が結論をより確からしくする一方、結論の真理は保証されない[74] 。つまり、前提がすべて真であっても結論が偽である場合がある。この特徴は、非単調性 および棄却可能性 (英語版 ) と強く関連する。つまり、新たな推論から得られた情報をもとに、前の結論が棄却される場合がある[75] 。拡充的推論は、多くの日常対話および自然科学における論証の中核をなす。拡充的推論は、異なる推論の正しさの基準を持ち、無条件で正しくないものは存在しない。拡充的推論における結論の支持は、通常、段階で得られる。強い拡充的論証では、結論が非常に確からしいということができ、弱い拡充的推論では、この確からしさの度合いが弱まる。したがって、前提による支持が弱いがこれを無視できない場合など、正しい拡充的論証と正しくない拡充的論証の区別は曖昧である場合もある。この特徴は、論証が妥当なものとそうでないものに厳密に区別され、その境界線上にあるものが存在しない演繹的論証とは対照的である。
拡充的論証の分類に用いられる用語には一貫性がない。James Hawthorneら一部の哲学者は、演繹的論証以外のあらゆる論証を「帰納」に分類する。一方、狭義では、帰納的論証は遡及論証 とともに、拡充的論証の一種に数えられる。また、Leo Groarkeら一部の哲学者は、拡充的論証の種類として、さらにconductive argument [注釈 2] を挙げる。この狭義の意味では、帰納は主に統計的一般化を伴う論証と定義される。この場合、特定の規則を示す多数の事例の観察を前提とし、この規則が常に成立するという一般法則を結論するものが帰納的推論に分類される。例えば、過去に観察したゾウの色の知識をもとに、「すべてのゾウは灰色である」と結論する推論がこれに当たる。また、一般法則ではなく、「私がまだ見ていないあるゾウも同様に灰色である」のように、さらなる事例についての結論を推論するものも帰納的推論に含まれる。Igor Douvenら一部の哲学者は、帰納的推論を統計的一般化のみに基づく推論と定義する。この定義では、帰納的推論は遡及推論と区別される。
逆行推論には、統計的一般化を伴わないものもある。いずれの場合にも、逆行推論では、前提が真であることを結論がもっともうまく説明 できるということを根拠に、前提から結論が支持される[82] 。この点で、逆行推論は、最良の説明への推論と形容される。早朝にキッチンにパンくずの乗った皿があるという前提から、その家の住人が夜食をとったが、疲れて食卓を片付けなかったと結論する場合を例とする。この例では、この推論は、結論が現在のキッチンの状態を最もうまく説明できるため、正当化される。逆行推論では、単に結論が前提を説明するというだけでは不十分である。例えば、「空き巣が昨晩家に入り、途中で空腹を感じたため夜食をとった」という結論も現在のキッチンの状態を説明できるが、この結論は最も可能性が高い説明とはいえないため、正当化されない[82] 。
誤謬
すべての論証が正しい推論の水準を満たすわけではない。論証が正しい推論の水準に満たない場合、そのような論証は誤謬 と呼ばれる。誤謬の重要な側面は、論証の結論が偽であるという点ではなく、結論に至る推論に瑕疵があるという点にある。したがって、論証「今日は晴れている; したがって、クモには足が8本ある」は、結論が真であっても誤謬である。ジョン・スチュアート・ミル ら一部の哲学者は、誤謬の要件として、「論証が一見正しいように見えること」を付け加えた。これにより、実際の誤謬を、単なる不注意による推論の誤りと区別できる。
Young America's dilemma: 賢く偉大であるべきか、裕福で強くあるべきか? (1901年のポスター) 。これは、起こりうる事象を除外する選言的前提で、非形式的誤謬の一種である誤った二分法 の例である。
誤謬は、形式的誤謬 および非形式的誤謬に分類される。形式的誤謬では、論証の形式に問題が存在する。前件否定 は、形式的誤謬の一種である。ただし、多くの種類が学術的に議論されているほとんどの誤謬は非形式的誤謬である。非形式的誤謬では、論証の内容あるいはコンテキストに問題が存在する。非形式的誤謬は、さらに曖昧さの誤謬、仮定の誤謬、関連性の誤謬に分類される場合がある。曖昧さの誤謬では、「羽毛は明るい; 明るいものが暗いことはあり得ない; したがって、羽毛が暗くなることはない」のように、自然言語の曖昧さが誤りの原因となる。仮定の誤謬では、間違っているか、正当化されない仮定が含まれる。関連性の誤謬では、前提が結論と無関係であるため、結論が前提により支持されない。
定義的・戦略的規則
論理学では、論証が正しい、あるいは正しくないための条件に注目する。これらの条件に違反する場合、誤謬が存在する。形式論理学では、これらの条件を推論規則と呼ぶ[90] 。推論規則は、推論の正しさや許容される推論を決定する定義的規則である。定義的規則は、戦略的規則と対比される。戦略的規則は、ある前提の集合から結論を導くために必要な推論の手順を決定する。この区別は、論理学だけでなく、ゲームにも存在する。例えばチェス では、定義的規則が、ビショップ が斜めにのみ移動できるということを規定する。一方、戦略的規則は、中央を制圧し、キング を守るなど、ゲームに勝つために合法手をどのように用いることができるかを規定する[91] 。戦略的規則は、効率的な推論に重要であり、論理学者は戦略的規則により重きを置くべきであると主張される[90] 。
論理体系は、推論および論証の正しさを評価するための論理的枠組みである。過去2000年以上の間、西洋では、アリストテレス論理学 (英語版 ) が最も重要な論理体系とみなされてきたが、この分野での近年の発展により、多くの新たな論理体系が考案されてきた。形式論理体系は、古典論理 、拡張論理、逸脱論理 (英語版 ) に分類される。
古典論理
古典論理は、伝統的論理学やアリストテレス論理学とは区別される。古典論理には、命題論理および一階述語論理が含まれる。古典論理は、多くの論理学者が支持する基本的な論理的直感に基づいているため、「古典」と呼ばれる[104] 。古典論理の根拠となる直感には、排中律 、二重否定の除去 、爆発律 (英語版 ) 、二値性の原理 (英語版 ) が含まれる。古典論理は、当初は数学の論証を評価する目的で考案され、その後、他の分野への応用が進んだ。古典論理は数学に特化しており、哲学的に重要な多くの分野に関連する論理語彙を含まない。例えば、必然性・可能性や、倫理的義務・許可の概念は、古典論理では扱えない。同様に、過去・現在・未来の関係も、古典論理では記述できない。この問題に対して、拡張論理が考案された。拡張論理は、古典論理の基本的な直感を採用し、新たな論理語彙を導入することで、古典論理を拡張する。これにより、数学の範囲を超える倫理学 や認識論 の分野で、厳密な論理的アプローチが応用できる。
拡充論理
拡充論理は、古典論理の基本原理を受け入れ、形而上学 、倫理学 、認識論 での応用のため、新たな記号や原理を導入する論理体系である。
逸脱論理
逸脱論理は、古典論理の基本的な直感の一部を却下する論理体系である。このため、逸脱論理は古典論理を補うものではなく、それを取って代えるものと考えられている。逸脱論理の各論理体系は、却下する古典論理の直感や、同じ問題に対して提示する別解の点でそれぞれ異なる。
直観主義論理 は、古典論理を簡素化した論理体系である。古典論理と同じ記号を用いるが、一部の推論規則を除外する。例えば、二重否定の除去 の法則では、「文が偽である」が偽の場合、その文は真であるとされる。つまり、
¬
¬
A
{\displaystyle \lnot \lnot A}
から
A
{\displaystyle A}
が帰結する。この推論は、古典論理では妥当であるが、直感主義論理では妥当でない。また、あらゆる文について、その文が真であるか、その文の否定が真である (
A
∨
¬
A
{\displaystyle A\lor \lnot A}
の形式を取るすべての命題が真である) と主張する排中律 も、直感主義論理に存在しない古典主義の直感の一つである。この古典論理からの逸脱は、真理が証明を用いた検証により得られるという見解に基づく。逸脱論理は、「ある対象の存在を証明するには、それを実際に見つけたり構成したりしなければならない」とする構成主義数学 の分野で特に重要である。
多値論理 は、すべての命題が真か偽のいずれかであるととする二値性の原理 (英語版 ) を却下する点で、古典論理と異なる。ヤン・ウカシェヴィチ とスティーヴン・コール・クリーネ は、文の真理値が不定であることを示す第3の真理値を導入した3値論理 を提唱した。3値論理は、言語学の分野で応用される。ファジィ論理 は、0から1までの実数 で示される無限の「真理の程度」を持つ多値論理である。
矛盾許容論理 は、矛盾を扱う論理体系である。矛盾許容論理は、爆発律 (英語版 ) を避けるよう定義される。したがって、矛盾からあらゆるものが帰結しない。矛盾許容論理は、真なる矛盾が存在するとする真矛盾主義 と関わりがある。グレアム・プリースト は、真矛盾主義の現代の重要な擁護者であり、同様の見解はゲオルク・ヴィルヘルム・フリードリヒ・ヘーゲル にも見ることができる。
論理学はさまざまな分野で研究されている。多くの場合、論理学の研究では、論理学の形式的な方法論の論理学以外の分野 (倫理学、計算機科学など) への応用を研究する[128] 。また、論理学自体が別の分野での研究の対象となる場合もある。例えば、論理学者が用いる基本的な概念に関する哲学的な仮定の検討や、数学的構造を用いた論理学の解釈・分析、形式論理体系の抽象的な特徴の比較などがある[129] 。
論理学の哲学と哲学的論理学
論理学の哲学は、論理学の範囲・性質を研究する哲学の分野である[59] 。論理学の基本的な概念の定義や、これらの概念に関する形而上学的な仮定など、論理学で暗に受け入れられる多くの仮定を研究する。また、論理体系の分類や、その存在論 的な問題も研究する。哲学的論理学は、論理学の哲学の一分野である。論理学の方法論の形而上学、倫理学、認識論などの分野の問題への応用を研究する。この応用では、主に拡充論理や逸脱論理の論理体系が用いられる[132] 。
メタ論理学
メタ論理学は、形式論理体系の特性を研究する分野である。例えば、新しい形式体系が考案された際に、その論理体系が証明可能な論理式を研究する。また、各論理式の証明を発見するためのアルゴリズム を考案できるかや、その論理体系で証明可能なあらゆる論理式が恒真式であるかも研究する。また、論理体系を他の論理体系と比較し、その論理体系に固有の特性も研究する。メタ論理学における重要な問題は、構文論と意味論の関係である。形式論理体系の構文規則は、証明を立て、前提から結論を演繹する方法を定義する。形式論理体系の意味論は、真である文と偽である文を定義する。論証の前提が真で結論が偽であることは不可能であるため、形式論理体系の意味論は、論証の妥当性も決定する。構文論と意味論の関係は、あらゆる妥当な論証が証明可能であるかや、あらゆる証明可能な論証が妥当であるかなどの問題と関連する。また、メタ論理学では、論理体系の完全性、健全性、一貫性を検討し、論理体系の決定可能性 や表現力 (英語版 ) を研究する。メタ論理学者は、通常、メタ論理学の証明を立てる際に抽象的な数学的推論を用いる。これにより、正確で一般性がある結論に到達することが可能となる。
計算論理学
→詳細は「
計算論理学 (英語版 ) 」および「
計算機科学における論理学 (英語版 ) 」を参照
論理積 (AND) は、ブール論理における基本的な操作の一つである。論理積は、2個のトランジスタ を用いるなど、複数の方法で電子的に実装できる。
計算論理学は、コンピュータを用いた数学の推論および論理的形式性の実装を研究する論理学および計算機科学 の分野である。この分野には、例えば、推論規則を用いて人間の仲介なしに前提から結論への証明を構築する自動定理証明 器などが含まれる。論理プログラミング 言語は、論理式を用いて事実を表現し、これらの事実から推論を行うよう設計されたものである。例えば、Prolog は、述語論理に基づく論理プログラミング言語である[141] 。また、計算機科学では、論理学の概念をコンピューティングにおける問題に応用する。クロード・シャノン の業績は、この分野で影響が大きい。シャノンは、ブール論理 を用いてコンピュータ回路を分析・実装する方法を考案した。これは、論理ゲート (1個以上の入力と1個の出力を持つ電子回路) で実現される。命題の真理値は、電圧の大きさで表される。これにより、論理関数は、対応する電圧を回路の入力にかけ、出力の電圧を測定して関数の値を得ることでシミュレートすることができる。
形式意味論
→詳細は「
形式意味論 (自然言語) (英語版 ) 」を参照
形式意味論は、論理学、言語学 、言語哲学 の分野である。意味論は、言語の意味の研究である。形式意味論は、記号論理学および数学の形式的な方法を用いて、自然言語 表現の意味の正確な理論を確立する。形式意味論では、通常、意味を真理条件 (英語版 ) に関連して理解しようとする。つまり、文が真または偽である状況を研究する。形式意味論の中核をなす仮定は、複合表現の意味がその各部分の意味および組み合わせによって決定されるとする合成性の原理 (英語版 ) である。この原理では、例えば動詞表現「歩きながら歌う」の意味は、その各部分「歩きながら」および「歌う」によって決定される。形式意味論の理論の多くは、モデル理論を用いる。つまり、集合論を用いてモデルを構築し、そのモデルの要素に関連して表現の意味を解釈する。例えば、名辞「歩く」は、歩行という属性を持つモデル内のすべての要素の集合として解釈される。リチャード・モンタギュー 、バーバラ・パルティー (英語版 ) は、英語における研究により、この分野で初期の影響力がある論理学者である。
論理学の認識論
論理学の認識論は、論証が妥当であることの知識や、命題が論理的に真であることの知識がどのように得られるかを研究する。これには、モーダスポネンスが妥当な推論規則であることの正当化や、矛盾が偽であることの正当化に関する問題が含まれる。歴史的に優勢であった見解は、この論理的知識の形態は、アプリオリ な知識に分類されるというものである。つまり、知性には純粋な概念の関係を検討する特別な能力が備わっており、この能力が論理的真理の理解にもつながっているという見解である。同様の見解に、論理学の規則を言語慣用 (英語版 ) の観点から理解しようとするものがある。この見解では、論理学の法則は定義上真であり、 自明である (単に論理語彙の意味を表現しているだけである) とされる。
ヒラリー・パトナム 、ペネロプ・マディー (英語版 ) を含む哲学者は、論理学がアプリオリな知識であることを否定し、論理的真理が経験 的な世界に依存すると主張する。合わせて、論理学の法則は、世界の構造的特徴から見出される普遍的な規則性を記述したものであるとも主張されることがある。この見解では、論理学の法則は、基礎科学 における一般性のある法則を研究することで得られるとされる。例えば、量子力学 で得られた知見は、論理式
A
∧
(
B
∨
C
)
{\displaystyle A\land (B\lor C)}
と
(
A
∧
B
)
∨
(
A
∧
C
)
{\displaystyle (A\land B)\lor (A\land C)}
が同値であるという古典論理の分配律 を否定していると主張される。この主張は、量子論理 が正しい論理体系であり、古典論理の代わりとするべきであるというテーゼに用いることができる。
論理学は、古代にそれぞれの文化で独立して確立された。論理学の初期における重要な貢献は、『オルガノン 』および『分析論前書 』で名辞論理 (英語版 ) を構築したアリストテレス によるものである。アリストテレスは、仮言三段論法 および時相論理を導入した。また、帰納論理学や、名辞 、predicable、三段論法、命題などの新たな論理学の概念も導入した。アリストテレス論理学は、古代ギリシャ・ローマ時代および中世において、ヨーロッパ・中東で高く評価され、19世紀前半まで西洋で広く用いられた。アリストテレス論理学は、その後の論理学の発展に取って代えられたが、その知見は現代の論理体系にも含まれている。
ただし、命令論理 のような一部の論理体系については、この限りでない場合がある。
conductive argument は、理由が結論を決定的に支持するほど十分に強いと主張せずに、結論を支持すべき理由を提示する論証である。
文献目録
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