Loading AI tools
ウィキペディアから
景観破壊(けいかんはかい)とは、木原啓吉(朝日新聞編集委員)によると、風景や外観などの景観の美しさや調和が破壊される等により、環境の質が損なわれること[1][出典無効]。
景観の定義そのものが様々な利益や要素を含み、広汎で不明確な概念である。景観破壊という概念にも定まった定義がない。景観の破壊、すなわち景観利益の侵害を巡り、複数の訴訟や問題が起こっている[2]。
ヨーロッパでは19世紀から都市労働者が野外空間を利用する形で大衆観光が発達した[3]。大衆観光は都市から近い公園や海岸さらに山間地が対象になり、1960年代には国境を越えて地中海やアルプスがリゾート地となった[4]。しかし、大衆観光を受け入れるための開発は従来の自然環境や歴史的な街並みを破壊し人工的な景観を作り出すことも少なくはなかった[5]。
1990年代になり農村地域や自然地域の魅力が見直されるようになった[5]。観光行動の傾向では、外国旅行の増加とともに国内地域や故郷が再認識されるようになった[5]。特に人間と自然の相互作用による文化景観、ワイン生産地域など特徴的な景観や地域文化をもつ農産地域への関心が高まっている[5]。旅行動機に自然体験を挙げる人が増えるとともに、観光地のイメージ形成やマーケティング戦略において自然環境・自然景観が重視されるようになった[5]。
ドイツでは景観の保護について国立公園、生物圏保存地域、自然公園の3種類の広域自然保護地区が指定されており、これらの地域にはさらに小規模の景観保護地区や自然保護地区を含んでいる[6]。1999年にシュヴァルツヴァルトに設置された黒い森南部自然公園の場合、自然の特徴や動植物の多様性の保護だけでなく、自然に近い方法での林業の推進や広大な牧草地や伝統的な街並みなど文化景観の活用なども目的としている[7]。
1976年、経済協力開発機構(OECD)による『日本における環境政策』において、「日本政府は数多くの国外防除の戦闘を勝ち取ったが、環境の質を高めるための戦争ではまだ勝利を収めていない。……本当の原因は、環境の質の悪化にある。環境の質、あるいはよくアメニティと呼ばれるものは、静けさ、美しさ、プライバシー、社会的関係、その他「生活の質」の測定することのできない諸要素に関係している」と指摘された。木原啓吉は、この指摘をきっかけとして、日本の環境政策が、「量」から「質」、あるいは「ハード」から「ソフト」へ転換したと評し[1]、景観破壊は、環境の「質」や「ソフト」に属する問題であるとしている[8][出典無効]。
国土交通省が2003年に発表した美しい国づくり政策大綱によると、第一に、「国土づくり、まちづくりにおいて、経済性や効率性、機能性を 重視したため美しさへの配慮を欠いた雑然とした景観、無個性・画一的 な景観等が各地で見られる」こと、第二に「公共的空間でのごみ投棄など国民のモラルを問われる事例も見られる」ことが、景観の否定的側面であるとされた。また、「美しさへの配慮を欠いていたという点では、公共事業をはじめ公共の営みも例外ではなかったと認識すべき」としており、以降、公共機関においても美しさへ配慮し、景観保全の政策が活発となった[9]。
2004年6月18日に景観緑三法 景観法(都市、農山漁村等における良好な景観の形成を促進するための法律)らが制定され、同年12月17日より試行される。これにより、美観地区は廃止され景観地区が新設された。以降、景観をめぐる訴訟において、これらの法的根拠をもとに争われ、景観利益が権利と認められる判例が出ることとなった。
景観破壊の阻止や景観保護の目的を達成するために、土地や建物の財産権に制限がかかるケースがしばしば発生する。そのため、住民や財産権者間で意見の対立が起こり、訴訟問題に発展することもある。一般に、景観破壊、景観阻害等による訴訟は、開発・建築行為の差止めもしくは景観破壊に対する損害賠償を求める民事訴訟、または、景観保護の行政法規を根拠に建築・開発許可の差止めもしくは許可内容の是正などを求める行政訴訟の、2パターンの争いが見られる。裁判所判断の中核は、法的救済が必要な景観破壊の存在の有無、法的に保護されている「景観利益」侵害の有無が焦点とされる[2]。
景観保護と公共の利益が争われ景観保護への配慮が求められた先駆けとなる判例として、日光杉並木を伐採し道路の拡幅を行う計画に対し、杉並木の伐採は文化遺産と景観の破壊であるとして開発許可の取り消しを求めた日光太郎杉事件がある[10]。1969年4月の宇都宮地裁の判決では、行政側の景観、歴史、文化的価値への軽視を指摘し、その許可を取り消した。事件はその後東京高裁に控訴されたが、1973年7月に出された判決は、伐採後の復元困難性の観点も加え原判決を維持した[10]。
1992年に、京都ホテルの改築は景観破壊だとし、歴史的文化環境権(景観権)を求める原告らが民事訴訟と行政訴訟を起こすが、歴史的文化環境権(景観権)が否認され違法性を否定された。2001年には、鎌倉のまちなみをめぐる景観破壊が争われ、原告の主張が退けられるも、景観を享受する利益が個人的利益ではなく、公共の利益であることが認められる。2004年に景観法が施行されると、環境権や景観権を根拠とした訴訟が増加していく。2001年に勃発した国立マンション訴訟においては、地裁で住民側が勝訴した影響により、2003年の白壁マンション訴訟において住民側の景観利益侵害が認められる判決が出る。しかし、国立マンション訴訟は最高裁まで争わた結果、景観利益侵害の違法性は認められなかった。その後、2008年には、船岡山マンション訴訟事件において、景観利益の有無はともかく、建築関係規定は住民個々の景観権を保護していないと判断される事例も出る。2009年には、環境権が近隣住宅にまで及ぶと解釈し、漫画家楳図かずおの自宅が景観破壊であるとして近隣の原告2名が訴訟するなどの争いがあったが、景観利益は否認されかつ受忍限度内と判断される。また、同年に争われた、鞆の浦世界遺産訴訟においては、長年の事業実施に向けた合意の成立があったにもかかわらず、景観の歴史的・文化的価値が認められ、住民の景観利益が認定された[2][8]。
以下、景観破壊であるかどうかが争われた訴訟を記す[2]。
景観形成や街地内の老朽化、建物の更新や不燃化促進等を図るための諸制度を誘導型制度という。
景観分野などにおいては、都市計画法の美観地区や街並み誘導型地区計画、景観法における景観計画や景観条例がその代表的なものとしてしられる。
良好な景観の形成を目的として景観基本計画が定められた場合、それを具体的に実施するために定めたもの。通常は対象地区内の建築物、道路や橋、鉄道や工作物、看板や標識、サインなどの形態や色彩を規制、誘導するための指針になる[12]
旧建設省によって1983年に制定された補助事業。モデル地区では基本計画を策定し、これに基づき都市計画事業(公園.街路)、道路事業、河川事業等、景観形成にかかわる各事業の事業計画の策定と事業の調整および重点的な実施を行う
「景観アセスメント」ともいう。環境アセスメント(環境影響評価)と同様に、景観を変化させる事業等を行う場合、事前に調査、予測、評価をして、その影響の大きさと可否を判断する。
自治体が各種の公共事業として建築物、土木施設を計画し建設実施する場合、景観面での提案やアドバイスを受けるために委嘱する専門家。専門家としては、建築家、都市デザイナー、ランドスケープアーキテクト、グラフィックデザイナー.カラープランナーなどがあたることが多い。主な事例に角舘政英(千代田区景観アドバイザー、品川区まちづくり専門家、世田谷区まちづくり専門家など)、只野康夫(堺市都市景観アドバイザー)、内原智史(福島県の景観アドバイザー, 十綱橋ライトアップ指導など)、林美香子(北海道開発局景観アドバイザー)、田邉学(千代田区景観アドバイザー、港区景観アドバイザー、杉並区景観審議会専門部会委員など)のケースがある。
造園用語辞典(東京農業大学造園科学科 (編集)彰国社 2011年)で進士五十八は、 景観まちづくり推進策の特徴が、規制より参加・誘導型でなければうまくいかない点にあるとし、人命を左右するといった絶対的な機能を有しない景観政策を進める場合には法令で定めた緑化基準や建築基準を超えて都市美のための工夫をしたような行為に対して、審査の上で景観賞を出すことが有効となるとし、全国各地で都市景観賞、都市美賞、美しい景観賞などがあることを示している。 一例として、大阪都市景観建築賞、盛岡市都市景観賞などがある。
景観法の制定前から、景観の保全と創造にかかわる景観条例を地方公共団体で定めている。上記の書で進士は、これには自治体が自治体行政の役割と責務、市民や企業が建設行為を行うときに地域の風致や美観、すなわち美しい景観を守り育てるためのルール、計画行政上の仕組み、市民参加の仕組み、仕掛け、表彰などに関する条項を盛り込んでおり、その対象景観として観光資源として重要な歴史的かつ自然的景観資源にかかわるものから市民の日常例活の環境を維持・発展させるための都市景観にかかわるもの、個性的な農村景観にかかわるものなどがあるとしている。 条例に基づいて、兵庫県は 県の景観条例に基づく指定制度で 景観形成地区 (兵庫県指定)と 景観形成重要建造物等 (兵庫県指定) 、そのほか 大阪市都市景観資源(大阪市都市景観条例による)、 東京都選定歴史的建造物(東京都景観条例による)、 小樽市指定歴史的建造物(「小樽の歴史と自然を生かしたまちづくり景観条例」による) などを制定し景観政策を進めている。
景観法では景観重要建造物の指定制度が設けられた。2009年までに実際にしている自治体は18あった[13]。景観計画の指定方針でも指定する物件がある場合には指定方針を定めることとなっている。一例として名古屋市は名古屋市都市景観重要建築物等や登録地域建造物資産、認定地域建造物資産などを制定し、鎌倉市は鎌倉市指定景観重要建築物(鎌倉市都市景観条例)を定めている。
景観法の制定と合わせて文化財保護法が改正され、文化的景観が文化財に加わった。文化的景観は上記保護法で「地域における人々の生活または生業および当該地域の風土により形成された景観地」と定義される。また景観法の景観計画で対象(区域)と特性を位置付けることになっている。市町村は、この文化的景観の中から「文化的景観保存計画」を策定し、「重要文化的景観」の選定の申出を行い、選定基準に基づき、文化庁が選定する。選定された重要文化的景観の保護において、建築物や開発などの規制は景観計画や自治体の条例に委ねられている。また、歴史まちづくり法(地域における歴史的風致の維持および向上に関する法律、2008年制定)において歴史的風致という新しい地域の景観価値が生まれた。これらはいずれも、文化財行政とまちづくり行政が協働するしくみであり、地域の歴史や風土と、人の営みによって生み出される景観に着目し、景観と地域づくりをつなぐものである。
美しい棚田や水郷風景のような農山漁村の風景には、地域に固有の地形や風土と、そこで営まれる生産活動との関係がわかりやすく現れている。しかし、この風景を保全するためには生業が維持される必要があり、棚田オーナー制度や地域商品のブランド化など、生業継続への支援が進められている。また、子どもたちや地域の人々に風景の成り立ちを知ってもらう学習、観光や都市農村交流など、多様な地域の取り組みと連携している。一方、金沢や宇治のような都市型の文化的景観では風土と生業の関係が見えにくく加賀の伝統産業や宇治の茶産業は時代とともにその技術や都市における役割が変化する。城下町の町割を維持していても、都市が生き続ける中で建物は変化する。文化的景観は、都市空間や生産現場の変化を許容しつつ、その景観を成り立たせている文化の保護を求める。それが何なのか、地域つくりの中で考えることになっている。
歴史的風致とは、「地域固有の歴史・伝統を反映した人々の活動とその活動が行われる歴史上価値の高い建築物および周辺市街地とが一体となって形成してきた良好な市街地の環境」と歴史まちづくり法で定義される。祭りや年中行事、芸能、生業、伝統産業、さまざまな職などの人の営みと、歴史的価値の高い建築物が構成する物的空間が一体となった市街地環境が歴史的風致であり、そこに現れる独特のたたずまいや風情に価値を見出すものである。
歴史まちづくり法は、市町村が「歴史的風致維持向上計画」を作成し、認定を受けることで、歴史的資源を活用して広がりのある地域づくりを進めるしくみである。歴史的風致維持向上計画では、自然環境・土地利用・社会的環境、都市の成り立ちや建造物の歴史などを整理して地域の歴史的風致を設定し、その維持向上のための方針をつくる。計画には、重点区域の位置・区域を指定するとともに、文化財の保存・活用、歴史的風致維持向上施設、歴史的風致形成建造物および計画期間について示す。
計画の実施推進に重点を置き、複数の部局にかかわる計画を進めるために、行政内の計画推進体制を明確にすることが求められる。歴史的風致維持向上協議会の設置や、計画に取り組む主体としてNPO法人・公益法人を歴史的風致維持向上支援法人に指定することができる。重点区域の整備促進には、歴史的環境形成総合支援事業が創設され、金沢では用水の再生整備が行われた。ほかに、まちづくり交付金や街なみ環境整備事業などが活用できるようになっていたが、2011年度にこうした事業が社会資本整備総合交付金に統合された。それぞれの市町村が、地域の歴史を人々の営みと地域環境に見出し、資源を守るだけではなく、その環境を整備・活用することから地域づくりを進めていくところに特徴がある。
Seamless Wikipedia browsing. On steroids.
Every time you click a link to Wikipedia, Wiktionary or Wikiquote in your browser's search results, it will show the modern Wikiwand interface.
Wikiwand extension is a five stars, simple, with minimum permission required to keep your browsing private, safe and transparent.