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プラスミノーゲンアクチベーターインヒビター2(英: plasminogen activator inhibitor 2、PAI-2)、SERPINB2または胎盤性PAI(placental PAI)は、セルピンスーパーファミリーに属するセリンプロテアーゼインヒビターであり、t-PAやウロキナーゼを不活化する血液凝固因子である。PAI-2は大部分の細胞、特に単球/マクロファージに存在している。PAI-2はグリコシル化された約60 kDaの細胞外型、そして約43 kDaの細胞内型の2つの形態で存在する。
SERPINB2 | |||||||||||||||||||||||||
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識別子 | |||||||||||||||||||||||||
記号 | SERPINB2, HsT1201, PAI, PAI-2, PAI2, PLANH2, serpin family B member 2 | ||||||||||||||||||||||||
外部ID | OMIM: 173390 MGI: 97609 HomoloGene: 20571 GeneCards: SERPINB2 | ||||||||||||||||||||||||
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オルソログ | |||||||||||||||||||||||||
種 | ヒト | マウス | |||||||||||||||||||||||
Entrez | |||||||||||||||||||||||||
Ensembl | |||||||||||||||||||||||||
UniProt | |||||||||||||||||||||||||
RefSeq (mRNA) | |||||||||||||||||||||||||
RefSeq (タンパク質) | |||||||||||||||||||||||||
場所 (UCSC) | Chr 18: 63.87 – 63.9 Mb | Chr 18: 107.44 – 107.46 Mb | |||||||||||||||||||||||
PubMed検索 | [3] | [4] | |||||||||||||||||||||||
ウィキデータ | |||||||||||||||||||||||||
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PAI-2は胎盤から分泌されるため、妊娠中にのみ検出可能なレベルで血中に存在し、また妊娠中の血栓傾向の増大に部分的に寄与している可能性がある。PAI-2のタンパク質内部に存在するシグナルペプチドは効率が低いため、発現したPAI-2の大部分は分泌されず細胞内にとどまる。
PAI-2はさまざまな細胞内・細胞外タンパク質に結合することが報告されている。PAI-2の生理的機能がウロキナーゼなどの細胞外プロテアーゼの阻害であるのかどうか、そしてPAI-2に細胞内での活性が存在するかどうかに関しては議論がある。PAI-2の生理的機能の少なくとも1つは、獲得免疫の調節と関係したものである可能性がある[5]。
他のセルピンと同様、PAI-2には3つのβシート(A、B、C)と9本のαヘリックス(hA–hI)が存在する[6][7]。hCとhDを連結する33アミノ酸を欠失したPAI-2変異体の構造が解かれている。このCDループは特に柔軟性が高く安定化が困難であり、分子内でのジスルフィド結合時に最大で54 Åも移動することが知られている[8]。他の特筆すべきモチーフとしては、379–383番に位置するRCL(reactive center loop)、N末端の疎水性シグナル配列などがある。
PAI-1とPAI-2は阻害標的が類似しているにもかかわらず、系統学的には遠い関係にある。PAI-2はオボアルブミン関連セルピンファミリーのメンバーであり、ニワトリのオボアルブミンと遺伝学的に類似している。PAI-2は哺乳類におけるオボアルブミンに近縁のホモログである[9]。オボアルブミンとPAI-2はどちらも非切断型の分泌シグナルペプチドによって分泌されるが、PAI-2の分泌はオボアルブミンと比較してかなり非効率である[10]。
PAI-2は単量体型、多量体型(不活性状態)、そしてpolymerigenic formと呼ばれる中間体の3つの状態で存在する。多量化はいわゆる"loop-sheet"機構によって行われ、ある分子のRCLが隣接する分子のβシートAへ逐次挿入される。この過程はPAI-2がpolymerigenic formの状態のときに選択的に生じる。Polymerigenic formはCys79(CDループに位置する)とCys161の間のジスルフィド結合によって安定化されている[11]。単量体型のPAI-2ではCDループはかなり離れた位置にあり、Cys161と十分に近接してジスルフィド結合を形成するためには54 Åの距離を移動する必要がある。しかしながらCDループは極めて柔軟性が高いため、単量体型とpolymerigenic formは完全に相互変換可能であり、タンパク質の酸化還元環境の変化によってどちらの状態が好まれるかが変化する[8]。PAI-2の多量体化は、胎盤細胞の細胞質基質など、生理的条件下で自発的に生じる[12]。細胞質基質ではPAI-2は単量体型である傾向にあるが、分泌と関連したオルガネラ(細胞質基質よりも酸化的傾向がある)ではPAI-2の多量体化はより生じやすい[11]。こうした理由により、PAI-2は環境の酸化還元電位を検知して応答している可能性があると考えられている[8]。
PAI-2は自殺阻害機構を利用する。この機構はセルピンでは一般的であり、t-PAやウロキナーゼを不可逆的に不活性化する[6]。まず、標的となるセリンプロテアーゼがPAI-2にドッキングし、RCLのArg380とThr381の間の切断を触媒する。この時点では、2つの結果が生じる可能性がある。プロテアーゼが解離し、不活性なPAI-2が生じる。または、プロテアーゼはPAI-2と永続的な共有結合複合体を形成し、酵素活性を失う。この複合体ではプロテアーゼは大きく変形している。
細胞外の(グリコシル化された)PAI-2は線維素溶解を調節する機能を果たすが、この阻害がPAI-2の主要な機能であるのかどうかは明確ではない。PAI-2は主に細胞内に存在し、その分泌シグナルペプチドは比較的効率が低い。このシグナル配列の変異によって分泌効率は大きく高まることから、この効率の低さはおそらく進化的デザインによるものである[10]。PAI-2は通常は成人の血漿には検出されず、妊娠中、骨髄単球性白血病といったケースや、歯肉溝滲出液中にのみ検出される。さらに、PAI-2による阻害はPAI-1と比較してオーダーが異なるほど遅い(二次反応速度定数に基づく)[13]。一方で、PAI-2の細胞内での詳細な役割に関する結論が得られているわけでもない。
PAI-2は妊娠中や免疫応答時にアップレギュレーションされる。妊娠時にはPAI-2は特に脱落膜や羊水中に存在し、そこで膜を分解から保護し、胎児や子宮の組織のリモデリングを補助している[14]。PAI-2は線維素溶解の調節過程においてPAI-1を補助し、また血栓症のリスクを高めるPAI-1の過剰発現を防いでいる可能性がある[14][15]。妊娠期間に血漿中のPAI-2濃度はほぼ検出不可能なレベルから250 ng/mLにまで上昇する(その大部分がグリコシル化型でである)[13]。
免疫細胞の中では、PAI-2を産生しているのは主にマクロファージであり、B細胞やT細胞が多くを産生することはない[16]。PAI-2は炎症応答や感染に関与しており、IgG2やII型インターフェロンを分泌するT細胞のダウンレギュレーションに関与している可能性がある[16]。
PAI-2をコードするSERPINB2遺伝子は18番染色体にBCL2や他のセルピン遺伝子と近接して位置しているため、アポトーシスにおける役割の研究が行われている。しかしながら、決定的なエビデンスは今のところ得られていない[13][17]。近年の研究では、PAI-2がp53の直接下流の標的で活性化因子であり、p21を直接的に安定化している可能性が示唆されている。さらに、老化線維芽細胞ではPAI-2の発現が上昇していることから、若い線維芽細胞の成長停止に関与している可能性がある[18]。
PAI-2は腫瘍促進効果と抑制効果の双方を有する可能性があるため、がんの成長や転移における役割は複雑である。特筆すべきこととして、関連する組織ではなく腫瘍細胞自体によるPAI-2の高発現ががん細胞の成長に影響を及ぼす[19]。がん細胞はマイクロパーティクルと呼ばれる小胞を介してPAI-2の放出を促進している可能性がある[19]。
PAI-2は、腫瘍に対して致死的影響を発揮する場合のある、プラスミン誘発性の細胞死からがん細胞を保護する。この保護効果は転移性脳腫瘍で特に顕著である。転移性脳腫瘍ではPAI-2やニューロセルピンが高レベルで発現している傾向があり、その成長はPAI-2のノックアウトによって部分的に阻害される[20]。PAI-2は腫瘍細胞で高発現しているため、メラノーマ細胞の血行性転移による拡散の追跡や研究にも利用されている[21]。
PAI-2の発現は脳への転移を促進する場合があるが、他のケースではPAI-2の高発現が肺やその他の器官への転移を有意に低下させる[19][22]。そのため、転移におけるPAI-2の影響はがんの種類や体内の部位に依存している可能性がある。
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