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『なれのはて』は、加藤シゲアキによる長編小説。2023年10月25日に講談社より書き下ろしで刊行[1]。
著者初の時代小説であり、また初めて戦争や差別、横暴するジャーナリズムなどの社会問題をテーマに扱った作品である。
舞台は、東京、秋田、新潟、そして時代も令和から、戦前戦後の昭和、そして大正までに及ぶ。戦争の悲劇、暴走する正義、差別、科学技術の功罪、芸術の可能性、家族の愛など様々な内容を扱い、白黒で分けられない「正しさ」を主題としている[2]。人間の業と向き合い、そして力強く生き抜こうとする人々の姿を1枚の不思議な絵の謎を通じて描き、エンターテイメント小説として昇華させた書き下ろし巨編である。
自身6作目の長編小説(短編集を含めると7作目)。構想と執筆に約3年をかけ、プロットは2万字、原稿用紙で最大800枚に及んだ[注 1]。
物語のきっかけとなるのは、日本最後の空襲といわれる秋田・土崎空襲である。
2023年10月18日、発売前重版(2刷)[3]。発売以来、各書店での売上ランキング1位を席巻。週間2.3万部を売上げ[4]、「オリコン週間BOOKランキング」(オリコン調べ2023/11/6付:集計期間2023/10/23~10/29)で自身初となる1位を達成した[5]。
同年11月10日の4刷をもって発売から2週間での発行部数10万部を突破[6]。
小説現代10月号(2023年9月22日発売)に本作の特集が組まれ、著者のロングインタビュー、土崎空襲の現地取材の模様とともに、先行して本文が全文掲載された[1][4]。
オフィシャルプロモーションムービー(アニメーション)が制作され、PERIMETRONのOSRINが手がけた[7]。
ある事件をきっかけに報道局からイベント事業部に異動することになったテレビ局員・守谷京斗(もりや・きょうと)は、異動先で出会った吾妻李久美(あづま・りくみ)から、祖母に譲り受けた作者不明の不思議な絵を使って「たった一枚の展覧会」を企画したいと相談を受ける。しかし、絵の裏には「ISAMU INOMATA」と署名があるだけで画家の素性は一切わからない。二人が謎の画家の正体を探り始めると、秋田のある一族に辿り着く。現在の当主は絵の存在を知ると、破格な値段で買い取ると言い出した。なぜ誰も知らない画家の絵にそこまでの額を提示するのか。その謎を明らかにしていくなかで、守谷はもう一度ジャーナリズムの世界にいる自分を見つめ直す。正義とは何か。報道は何のために必要なのか。やがて辿り着いたのは、一枚の絵に蠢いていた隠された歴史であり、多くの人の命運を分けた悲劇であり、そしてやるせない時代に翻弄されながらも確かに生きた人間の熱情だった[1][9]。
2024年の年明けから、作家として物語の持つ力で災害復興支援をなにかできないかと考えていた加藤シゲアキが『なれのはて』の第170回直木賞落選の夜、加藤が彼を労いに集った作家の今村翔吾、小川哲を誘う形で、能登半島地震復興支援企画「あえのがたり」を発起した[注 8][16][17]。
「小説現代(講談社)」のweb版に小説家が小説を寄稿して連載、本として刊行するときは全国で買えるようにし、作家の印税と出版社の利益の部分を全額寄付する。現在の被災者には本が手元に届かないかもしれないのでwebで連載をし、また後日、小説として刊行すれば後の被災地でも“電気の要らないエンタメ”として利点を発揮し、人々の心に寄り添うことを見据えている[17]。さらに、この企画の最大の利点であり狙いは「本」という残り続ける形を通して長期的支援をすることで、日本のチャリティーの短所でもある一過性を克服すること、および本として後世にまで記録や記憶を残し、ずっと後からでも思いを馳せることができるようにすること、忘却に抗うことである[16]。
「あえのがたり」の語源は、奥能登地域の農家で、稲作を守る“田の神様”を祀り、感謝をささげる儀礼を示す「あえのこと」から。「あえ=おもてなし」、「こと=祭り」を表し、被災地の方を物語でおもてなししようという意図で「あえのがたり」と名付けられた[16]。
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