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損害を与えた者が被害者にその損害を補填すること ウィキペディアから
損害賠償(そんがいばいしょう)とは、他人に損害を与えた者が被害者に対しその損害を填補し、損害がなかったのと同じ状態にすることである[1]。
損害賠償は大きく債務不履行に基づく損害賠償と不法行為に基づく損害賠償の二つに分けられる。日本法では債務不履行に基づく損害賠償については民法415条以下、不法行為に基づく損害賠償については民法709条以下に定められている。
損害には財産的損害と精神的損害があり、精神的損害に対する賠償は慰謝料(いしゃりょう、慰藉料)とも称される[2]。
事故によって農業や水産業などが受けた風評被害について、政府の審査会で損害賠償の対象について議論に浮上する事例がある[3]。
債務不履行とは、債務者が契約などに基づく債務を自ら履行(弁済)しないことをいう。債務不履行の場合には、法律上の効果として、強制履行や契約の解除などの問題とともに損害賠償の問題が生じる。
履行の遅滞によって生じた損害の賠償を遅延賠償という[2]。これに対して本来の給付に代わる損害の賠償を填補賠償という[4]。
債務の不履行が契約その他の債務の発生原因および取引上の社会通念に照らして債務者の責めに帰することができない事由によるものであるときは、損害賠償を請求できない(民法415条1項ただし書)。帰責性の要件は従来判例法理により認められていた不文の要件であったが、2017年の改正民法はこれを明文化した(2020年4月1日施行)。ただし、その帰責事由の内容については個別の判断による[5]。なお、金銭債務については419条3項により債務者は帰責事由の不存在を抗弁とすることができない[2](後述)。
損害賠償の範囲は通常損害および特別損害である。
損害賠償の範囲については相当因果関係理論で説明されてきたものの、特別損害の予見の主体や予見の基準時など解釈問題がある[6]。相当因果関係理論に対しては、ドイツ民法のように因果関係以外に賠償範囲を画する規定がない場合には機能するが、日本の民法416条は制限基準自体を規定しており相当因果関係は格別の意味を持たないとの批判もある[7]。
履行の遅滞によって生じた特別損害の予見可能性の判断の時期は、履行期を基準にする見解(判例)と契約時を基準にする見解がある[7]。なお、金銭債務の場合は特則がある(民法404条・419条)[7]。
本来の給付に代わる填補賠償の場合は目的物の価格が算定の基礎となる[8]。判例は履行不能時の目的物の価格をもとに通常損害を算定し、履行不能時以降の価格変動を一定の範囲で特別損害とする[8]。これにつき遅延賠償の場合と同じく契約時を基準に統一的な基準で解釈を行う見解もある[9]。
債務の不履行又はこれによる損害の発生若しくは拡大に関して債権者に過失があったときは、裁判所は、これを考慮して、損害賠償の責任及びその額を定める(418条)。これを過失相殺という。
2017年の改正民法で「債務の不履行に関して」から「債務の不履行又はこれによる損害の発生若しくは拡大に関して」に改められた(2020年4月1日施行)[10]。
不法行為に基づく損害賠償の場合にも同様の制度があるが、債務不履行に基づく過失相殺の場合には債権者に過失があれば必ず過失相殺するものとなっている。過失相殺は債務者が主張しなくても裁判所は職権で考慮できる[11]。ただし、債権者に過失があった事実については債務者が立証しなければならない(最判昭和43年12月24日民集22巻13号3454頁)[11]。
債務不履行に基づく損害賠償において、債権者に保険金など債務不履行を原因として得ることとなった利益がある場合には、これを考慮して賠償額を定めることになる。これを損益相殺という。
金銭債務の債務不履行における損害賠償については特則がある。
当事者は債務不履行となった場合の損害賠償額について事前に合意しておくことができる(420条1項)。これを損害賠償額(賠償額の予定)という。賠償額の予定は損害についての立証責任の煩雑さを考慮して事前に賠償額を定めておくものである。
2017年の改正前民法の420条1項には「この場合において、裁判所は、その額を増減することができない。」と定めた後段があった[12]。しかし、予定賠償額が過大であれば公序良俗に反する暴利行為で無効であるとする判例があることから2017年の改正民法で後段は削除された(2020年4月1日施行)[12]。なお、判例は損害賠償額の予定の特約があっても、過失相殺の規定が適用され、裁判所は、その過失を斟酌することができるとする(最判平成6年4月21日)。
賠償額の予定は履行請求権や契約の解除権の行使を妨げるものではない(民法420条2項)。なお、当事者間で違約金が定められている場合には賠償額の予定と推定される(民法420条3項)。
当事者が金銭でないものを損害賠償に充てることを予定した場合にも賠償額の予定の規定が準用される(民法421条)。
債権者が損害賠償として債権の目的である物や権利の価額の全部について支払を受けたときは、債務者はその物や権利について当然に債権者に代位する(422条)。 これを損害賠償による代位(賠償者代位)という。
債務者が、その債務の履行が不能となったのと同一の原因により債務の目的物の代償である権利又は利益を取得したときは、債権者は、その受けた損害の額の限度において、債務者に対し、その権利の移転又はその利益の償還を請求することができる(民法422条の2)。
代償請求権については規定がなかったが、判例で認められており、2017年の改正民法で民法422条の2が新設された(2020年4月1日施行)[13]。
不法行為が成立した場合、原則として、故意または過失によって他人の権利または法律上保護される利益を侵害することにより生じた損害について賠償する責任を負う(民法709条以下)。
不法行為に基づく損害賠償の範囲については民法416条が類推適用される(通説)。
不法行為に基づく損害賠償についても債務不履行の場合と同様に原則として金銭によって賠償額が定められる(金銭賠償の原則、722条1項・民法417条)。
なお、名誉毀損については原状回復のために適当な処分をとることも民法で認められている(民法723条)。また、不法行為の種類によっては特別法で差止請求権が認められている場合もある。
交通事故などで当事者双方に過失のある事故の場合には過失割合が問題となる[14]。交通事故の過失割合については交通事故の過失割合を参照。
不法行為に基づく損害賠償額の算定においては裁判所は被害者の過失を考慮して損害賠償額を定める(722条)。これを過失相殺といい、債務不履行に基づく損害賠償の場合にも同様の制度があるが、不法行為に基づく過失相殺の場合には必要的なものとされておらず責任を免除することも認められない。
算定困難な逸失利益(例えば、未成年者の交通事故死に対する将来得ベかりし利益)であったとしても、裁判所は、あらゆる証拠資料に基づき、経験則と裁判官の良識を十分に活用して、できるかぎり蓋然性のある額を算出するよう努めることと判示している[15]。
不法行為による損害賠償請求権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。
役員等(取締役、会計参与、監査役、執行役または会計監査人)は、その任務を怠ったときは、株式会社に対し、これによって生じた損害を賠償する責任を負う(会社法423条)。
役員等がその職務を行うについて悪意または重大な過失があったときは、当該役員等は、これによって第三者に生じた損害を賠償する責任を負う(会社法429条)。 この責任は一般の不法行為責任ではなく、消滅時効は会社法167条により10年と考えられている。
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