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読者の注意をそらすためわざと提示される偽の手がかり、推理小説などの手法のひとつ ウィキペディアから
燻製ニシンの虚偽(くんせいニシンのきょぎ)、またはレッド・ヘリング(英語: red herring)は、重要な事柄から受け手(聴き手、読み手、観客)の注意を逸らそうとする修辞上、文学上の技法を指す慣用表現[1]。
18世紀から19世紀に掛けてジャーナリストとして活動したウィリアム・コベットが書いた記事に由来し[2]、後に情報の受け手に偽の事柄に注意を向けさせ真の事柄を悟られないようにする手法を表す慣用表現として使われるようになった。例えば、ミステリ作品において、犯人の正体を探っていく過程では、無実の登場人物に疑いが向かうように偽りの強調をしたり、ミスディレクション(誤った手がかり)を与えたり、「意味深長な」言葉を並べるなど、様々な騙しの仕掛けを用いて、著者は読者の注意を意図的に誘導する。読者の疑いは、誤った方向に導かれ、少なくとも当面の間、真犯人は正体を知られないままでいる。また、ストーリーの途中まで主人公以外の人物をそのように見せる「偽主人公」も、燻製ニシンの虚偽の例である。
red herringの直訳は「赤いニシン」であるが、これは、そのような名の魚種があるわけではなく、濃い味付けのキッパーを意味している。キッパーとはイギリスの料理で、主としてニシンを塩漬けや燻製のいずれか、または両方の加工をした料理のことである。この加工によって、魚には独特の鼻につく臭いがつき、濃い塩水を使うことで魚の身が赤くなる[3][注 1]。
英語における慣用表現としての red herring の意味は、近年に至るまで猟犬の訓練手法に由来する表現であると考えられていた[3]。いくつかの異なる説があるが、その1つは、鼻を突く臭いを放つ燻製ニシンを引きずって子犬にその臭いを追うように仕込む、というものである[4]。その後、犬がキツネやアナグマのかすかな臭いを追えるように仕込まれていくと、訓練士は、今度は(その強い臭いで動物の臭いを紛れさせるために)燻製ニシンを動物の痕跡と交差する方向に引きずり、犬を惑わす[5]。犬は最終的には、強い臭いに惑わされることなく、元々追っている動物の臭いを追跡できるようになる。これとは別の説では、脱獄した囚人が、追跡する犬に臭いの強い魚を投げて気を逸らせようとしたことによるとされる[6]。
実際にはこのような手法が犬の訓練に用いられることはないし、燻製ニシンが逃亡者に役立つこともない[7]。この慣用表現はジャーナリストのウィリアム・コベットが、自身が創設した週刊新聞 Weekly Political Register 紙に、1807年2月14日に発表した記事に由来するものと思われる[3]。(ナポレオン率いるフランス軍が苦戦の末、辛勝したアイラウの戦いについて)ナポレオンの敗北を誤報したイギリスの新聞を批判する記事の中でコベットは「かつてウサギを追う犬の気を逸らそうと、燻製ニシンを使ってみたことがある」という話を持ち出した上で、「政治的な燻製ニシンの効果は、ほんの一瞬のものでしかない。土曜には、その臭いも石のようにさめきってしまった」と記している[3]。
イギリスの語源研究家マイケル・キニオンは、「この話は(コベットによって)1833年にも繰り返し使われ、それは『赤いニシン』の比喩的含意を読者に意識させるのに十分であったが、不幸なことに、それが実際の狩猟者がやっていることに由来するのだという誤解も生んでしまった」と述べている[3]。
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