急速発症性性別違和
周囲からの影響により性別違和が引き起こされるという主張 / ウィキペディア フリーな encyclopedia
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医学用語である「性別違和」とは異なります。 |
この項目は急速発症性性別違和(きゅうそくはっしょうせいせいべついわ、Rapid-onset gender dysphoria、略称ROGD)とそれに関する論争について記述する。
性別違和の亜型として提唱され、仲間からの影響や社会的伝染によって引き起こされると言われている急速発症性性別違和(ROGD)という概念については論争がある[1][2]。
ROGDは有効な診断名として主要な専門家団体によって認められておらず、信頼できる科学的証拠の欠如、研究手法の重大な問題、既存の性別違和へのヘルスケアに汚名を着せて害をもたらす可能性から、専門家や学術機関によってこの用語の使用は推奨されていない[3][4][5][6]。
マウントサイナイ医科大学アイカーン校の非常勤助教授であったリサ・リットマンは、2016年に3つの反トランスのウェブサイトで、自分たちの10代の子供が突然性別違和を示し、他の友人たちがそうであるように自身がトランスジェンダーであると認識し始めたと考える親を対象にしたオンライン調査を行い、ROGDの概念を作り出した[1][7][8]。リットマンは、性別違和の急激な発症は、他の精神疾患に対する「社会的なコーピングメカニズム」である可能性があるとした[9]。
2018年8月、リットマン(当時はブラウン大学公衆衛生大学院の診療助教授)はPLOS Oneに記述研究を発表した[9]。この研究の手法と結論に対する批判が一部の臨床医、研究者、トランスジェンダー活動家から出され、発表から2週間後、PLOS Oneは論文の出版後レビューを開始すると発表し[10][11]、同日、ブラウン大学はこの研究を宣伝するプレスリリースを撤回した[10]。この論文をめぐり、研究の方法論や仮説の妥当性[11][12][13]、学問の自由[10]に関する懸念について、大きな議論がまきおこった。
2019年3月、同誌は査読を終了し、リットマンの修正・訂正版を再掲載した[14]。2022年、リットマンは、研究で行ったROGDの概念を支持しつつも「すべての性別違和の症例に適用されるわけではない」、「移行によって誰も得をしないということを意味するわけではない」と付け加えた[15]。
2021年、アメリカ心理学会と数十の専門家・学術団体を含む連合は、信頼できる科学的根拠がないことを理由に、ROGDと「類似の概念」を診断や臨床の場で使用しないよう求める声明を発表した。声明はまた、親や臨床医を対象としたROGDにまつわる誤情報の拡散や、米国でトランスジェンダーの青少年の権利を制限する法律を正当化するためにこの概念が使用されていることを批判した[6]。