Loading AI tools
ウィキペディアから
動機づけ(どうきづけ、motivation/mòʊṭəvéɪʃən〈米国英語〉、m`əʊṭəvéɪʃən〈英国英語〉、モチベーション)とは、ある行動を引き起こし(行動の始発機能)、その行動を維持させ(行動の強化機能)、結果として一定の方向に導く(行動の評価機能)心理的過程のことである。[1]
動機づけは人間を含めた動物の行動の原因であり、行動の方向性を定める要因と行動の程度を定める要因に分類できる。動物が行動を起こしている場合、その動物には何らかの動機づけが作用していることが考えられる。またその動物の行動の程度が高いかどうかによってその動機づけの強さの違いが考えられる。
1940年代の心理学においては動因低減説が主流であり、例えば人は喉が渇けば、その動因を低減させるために誘因である水を飲み、それによって動因が低下するとその行動が強化されると考えられていました。これは、人間は不都合な状態が生じない限りは行動を起こさないことを示していると理解されていた。[1][2]
何かを「したい」「したくない」や、「こうなってほ しい」「こうなってほしくない」などの気持ちを欲求という。1943年にアブラハム・ハロルド・マズローは、欲求の分類について、自己実現論(マズローの欲求5段階説)を提唱した。この理論では、ピラミッド型の三角形を5分類し、下から生理的欲求・安全欲求・社会的欲求・承認欲求・自己実現欲求であるとした。[3][4]
また、この5つの欲求は欠乏欲求と成長欲求に分類される。欠乏欲求とは、足りない物を満たそうとする欲求であり、生理的欲求・安全欲求・社会的欲求・承認欲求の4つである。成長欲求とは、自身を成長させるための欲求であり、永続的なものである。1つ満たされると次の欲求が出てくる。自己実現欲求がこれにあたる。[3][4]
マズローの自己実現理論(欲求5段階説)における成長欲求は、動因低減説では説明できない欲求(事象)である。また、この他にも感覚遮断実験(Heron)[5]やアカゲザルの実験(Harlow)[6]など、動因低減説では説明できない事象や欲求が存在することが近年の研究で明らかになった。[1]
動因低減説では説明できない事象や欲求が存在することが明らかになったことから、新たに提唱された、動機づけの分類法がエドワード・L・デシとリチャード・M・ライアンの内発的動機づけと外発的動機づけの分類である。(詳細は後述)[1]
(詳細は「自己実現理論(SDT)」を参照。)
自己決定理論(SDT)とは、内発的動機づけと外発的動機づけの分類から発展した理論である。この理論は、人間の動機づけについてのマクロ理論で、内発的動機づけへと至るまでの道筋を探求する理論である。自己決定理論のベースとなるものは「内発的動機づけと外発的動機づけの連続性」と「3つの基本欲求」である。[7]
この理論では、内発的動機づけへと至るまでの道筋を自律性の観点から分類した。[7]
※外発的動機づけの自律性を高めても、内発的動機づけとはならない。(外発的動機づけ:手段 ・ 内発的動機づけ:目的)[1]
また、自己決定理論の根幹を支える3つの基本欲求は「有能感」「関係性」「自律性」である。[7][10]
有能感の欲求とは、「自分には能力があると感じたい」という欲求である。これは、自分には能力があり、社会の役に立っていると感じられたいためである。[10]
関係性の欲求とは、「他者と精神的な関係を築きたい」という欲求である。これは、他者と尊重し合う精神的な関係を築きたいためである。[10]
自律性の欲求とは、「自分の行動は自分で決めていると感じたい」という欲求である。自分の行動は自分自身が自発的に行なっているものであり、他者から強制されているのではないと感じられたいためである。[10]
3つの欲求の中でも自律性が最も重要視されており、「行動を自ら決定した」とより強く感じられると心理的な満足感が高まる。報酬や罰則が与えられて外発的動機づけが行なわれると、その与え手にコントロールされているように感じるために自律性が低下し、自発的に行動しづらくなる。[10]
現代では、動機づけを大きく分類すると、生理的動機づけと社会的動機づけに分類できるとされている。また、社会的動機づけは達成動機付け・内発的動機づけ・外発的動機づけの3種類に分類できる。
達成動機づけとは、評価を伴う達成状況において高いレベルで目標を達成しようとする形態の動機づけを言う。ジョン・アデアは何が人に動機を与えるかを理解することは、その人たちの関心を引き労力を集中させるために必要不可欠であると論じている。行動へとつながる意思は動機によって支配され、この動機とは人の内にある心理的要求や欲求であり、それは意識的か半意識的か無意識的かを問わない。動機はメインの動機の周りを他の動機が取り囲んだ形の混合体である場合もあると論じている。[12]
マレーはこの達成動機づけを達成要求の観点から考え、人間は独力を以って高水準の目標を達成しようとする欲求があり、これによって行動が規定されると仮定し、達成動機には成功願望と失敗恐怖の二つの欲求から構成されると論じた。またアトキンソンは成功願望と失敗恐怖の二つの達成要求だけのパーソナリティの安定的側面だけでなく、流動的な周囲状況の期待感や価値観が重要だと考え、成功と失敗の価値及び成功と失敗の期待も強く影響すると論じた。
また達成行動には行動の結果の原因をどのように考えるのかにも強く影響する。結果の原因としては能力、努力、問題の困難性、偶然性の四要素を考えることが一般的であり、達成動機が高い人は内的要因である能力や努力に原因が帰属すると考える傾向が強い一方で達成動機が弱い人は外的要因である問題の困難性や偶然性に原因が帰属すると考える傾向が強い。
内発的動機づけとは好奇心や関心によってもたらされる動機づけであり、賞罰に依存しない行動である。これは特に子供は知的好奇心が極めて高いために幼児期によく見られる動機づけである。たとえばある子供がTVゲームに熱中しているとき、その子供は賞罰による動機付けによってではなく、ただ単にゲームが楽しいからという内発的な動機によりそれに熱中するのである。くわえて知的好奇心だけでなく、自分で課題を設定してそれを達成しようとするような状況においては自分が中心となって自発的に思考し、問題を解決するという自律性、また解決によってもたらされる有能感が得られ、動機づけとなり得る。
一般的に内発的動機づけに基づいた行動、例えば学習は極めて効率的な学習を行い、しかも継続的に行うことができる。これを育てるためには挑戦的、選択的な状況を想定して問題解決をさせることが内発的動機づけを発展させるものと考えられる。内発的動機づけには感性動機づけ、好奇動機づけ、操作(活動性)動機づけ、認知動機づけなどがある。[1][13]
外発的動機づけとは義務、賞罰、強制などによってもたらされる動機づけである。内発的な動機づけに基づいた行動は行動そのものが目的であるが、外発的動機づけに基づいた行動は何らかの目的を達成するためのものである。たとえばテストで高得点を取るためにする勉強や、昇給を目指して仕事を頑張る場合などがそれにあたる。強制された外発的動機づけが最も自発性が低い典型的な外発的動機づけであるが、自己の価値観や人生目標と一致している場合は自律性が高まった外発的動機づけと考えられる。外発的動機づけは内発的動機づけと両立しうるものであり、また自律性の高い外発的動機づけは内発的動機づけとほぼ同様の行動が見られる。[1]
ある欲求に対して、人が何に動機づけられることによってやる気や行動力が高まるのかを研究した理論を動機づけ理論(モチベーション理論)という。[14]
(詳細は「ハーズバーグの二要因理論」を参照。)
動機づけ理論の一つに「ハーズバーグの二要因理論」がある。この理論はフレデリック・ハーズバーグが提唱した理論であり、仮説をベースに考えられた理論が多い中、アメリカ・ピッツバーグで約200人を対象にして行われた実証実験である。この実験では、被験者に対して「仕事上、どんなことに対して幸福または満足を得たか」「仕事上、どんなことに対して不幸や不満を得たか」という二つの質問を行うという極めて簡潔な実験であった。この実験では、「仕事の内容からもたらされる満足感」と「仕事の環境からもたらされる不満」のふたっの要因がモチベーションを決定づけると主張した。この理論により、仕事のモチベーションに仕事の内容に関する「動機づけ要因」と不満をもたらす「衛星要因」の二つがつながる。[14][15]
(詳細は「XY理論」を参照。)
ダグラス・マクレガーが提唱した「マクレガーのX理論・Y理論」も主要な動機づけ理論である。この理論は、自己実現理論(マズローの欲求5段階説)を経営組織の観点から進化させたといわれている理論であり、自己実現理論を基本として、経営組織の観点から、人のネガティブな部分を「X」、ポジティブな部分を「Y」と名付け、管理者は、XとYをれぞれに該当する人材へ適した対応を行うことが大切だと提唱した。[14][15]
(詳細は「期待理論」を参照。)
現代のモチベーション研究の代表的な理論の一つとしてあげられる「期待理論」は、基礎をビクター・H・ブルーム、精緻化をレイマン・ポーターとエドワード・ローラー三世、広めたのがステファン・ロビンスである。ロビンスが広めた期待理論の考え方では、「人の行動は、その行動が定められた報酬に繋がるという期待と、達成させる成果が本人にとってどれだけ魅力的であるかによって決定される」というものがある。これは、「努力」×「成果」×「魅力」の3つの変数の掛け算で左右するとさており、この3つの変数が単独に左右するのではなく、3つが掛け合わさることで高いモチベーション効果を可能にすると述べている。[14][15]
(詳細は「目標設定理論」を参照。)
「目標設定理論」とは、エドウィン・ロックとデイリー・レイサムが提唱した理論であり、定めた目標の内容によってモチベーションが大きく左右されることを提唱した。目標設定理論では、単純に目標を設定するだけではモチベーションの向上効果はなく、自己効力感をいかに高めるかに対して目標設定する内容になっている。この目標設定には、目標の困難度・目標の具体性・目標の需要・フィードバックの4つ要件が定義されている。この4つの要件は、目標を達成することができるか・どれくらいの期間で達成できるか・目標に対して積極的に関われるか・モチベーションを持続することができるかなどが明確である。[14][15]
(詳細は「科学的管理法」を参照。)
職場環境におけるモチベーション理論の始まりとされているのが、アメリカのフレデリック・テイラーが1911年に発表した「科学的管理法」からといわれている。課業管理を行うことで、タスクが明確し、従業員の各業務に要する時間研究や効率的な動きを調べる動作研究を行う。これらの研究を基に、各業務における作業内容や手順をマニュアル・標準化することで業務の「見える化」を行う。他にも、出来高によって報酬を決定する差別出来高報酬や、職種ごとに専門職を設け責任者とする職能別組織もこの科学的管理法が由来している。[14]
他にも、マクレランドの欲求理論、メイヨーのホーソン実験、アージリスの未成熟・成熟理論、コンピテンシー理論など、様々な動機づけ理論が存在する。[14][15]
Seamless Wikipedia browsing. On steroids.
Every time you click a link to Wikipedia, Wiktionary or Wikiquote in your browser's search results, it will show the modern Wikiwand interface.
Wikiwand extension is a five stars, simple, with minimum permission required to keep your browsing private, safe and transparent.