サンタマリア山 (サンタマリアさん、スペイン語 : Volcán Santa María、キチェ語 : Gagxanul[1] )は、グアテマラ共和国 南西部にある標高 3772メートルの成層火山 である。
サンタマリア山 3DCG動画
グアテマラ共和国南西部、ケツァルテナンゴ県 ケツァルテナンゴ市 の南西約10kmに位置する標高3772メートルの成層火山で[2] 、中央アメリカ火山弧 (英語版 ) 、シエラ・マドレ・デ・チアパス山脈 (英語版 、スペイン語版 ) に属する[4] 。
岩石は主にデイサイト ・安山岩 ・玄武岩質安山岩 (英語版 ) からなり、他に玄武岩 ・ピクライト質玄武岩 (英語版 ) 、火山砕屑岩 類で構成されている。
有史以来、噴火の記録が無く[注 1] 、成層火山として円錐 形の綺麗な山容で全体が森林に覆われていたが[8] 、1902年のプリニー式の大噴火 に際し、南西斜面の一部が吹き飛び爆裂火口 (東西1km、南北700-800m、深さ250m)が形成された。
1922年になると、1902年噴火時の爆裂火口に溶岩ドーム (側火山 ・サンティアギート山)が形成され、以後、溶岩ドーム膨張、爆発的噴火 、溶岩流 、火砕流 、火山泥流 といった活動が継続しており[10] 、世界で最も活発に活動している火山の一つとされる。
防災の観点から、国際火山学及び地球内部化学協会 により防災十年火山 に指定され、将来の被害軽減についてのより詳細な研究の対象となっている[12] 。
当山を含む中央アメリカ火山弧の山々は、ココスプレート がカリブプレート の下へ沈み込む ことにより形づくられた。
約10万3千年前に噴火が始まり、10万3千年-7万2千年前、7万2千年前、6万年-4万6千年前、3万5千年-2万5千年前の4次の噴火期を経て、円錐形の成層火山の山体(体積8km3 、玄武岩・玄武岩質安山岩)が形成された。
その後、1902年に噴火するまでの約2万5千年は休息期にあった。
1902年には、5月にスフリエール山 (セントビンセント・グレナディーン )、プレー山 (フランス 海外県マルティニーク )、イサルコ山 (英語版 、スペイン語版 ) (エルサルバドル )、7月にマサヤ山 (英語版 、スペイン語版 ) (ニカラグア )と、中央アメリカ ・カリブ海地域 の火山の噴火が相次いだ。また、地震に関しても、1902年1月にメキシコ ・チルパンシンゴ (当山の北西900km)、当山付近(南西13km。以後、月45回ほどと地震回数が急増し10月の噴火まで続いた)、4月に西グアテマラ断層中央部、9月に当山付近(北西210km)と、周辺地域での大きな地震が相次いで発生していた。以上の様な噴火の前兆と捉え得る事象が発生していたが[16] 、有史以来、当山は噴火の記録が無かったため、噴火の可能性が想起されることなく、1902年10月の噴火を迎えるに至った。
噴火の経過は次の通りである。
10月24日午後、南西側の山腹で水蒸気とみられる噴気 。
10月24日午後5時、周辺で大きな地鳴り 、当山上空に雷雲[18] 。
10月24日夕刻、ケツァルテナンゴ市にうっすらと降灰[18] 。
10月24日午後6時15分、西方14kmにあるヘルベティア農場にて細粒火山灰の降灰。
10月24日午後7時、周辺がほのかに明るくなり、山腹付近では稲光り が見られ、また轟音が響く[18] 。
10月24日午後8時、火山上空に大きな雲、稲光り。
10月25日午前1時、プリニー式噴火が発生、当山南方一帯に大きな岩片が飛散、噴火の爆発音はコスタリカ (南西850km)、メキシコ・オアハカ 、ベリーズ でも観測。
10月25日午前3時、ケツァルテナンゴ市に豆粒サイズの火山礫 が降礫、ヘルベティア農場へ軽石 (大きさ15-25cm、重さ0.5-0.75ポンド 程度で、当初は冷たい軽石が時間とともに熱い軽石へと推移。後にはこぶし大の岩石も混ざる)が多数降下[18] 。
10月25日午前3時、地震活動が最高潮、以後、同日午前7時半、11時にも再度活発化。
10月25日午前6時、メキシコ・モトシントラ (英語版 、スペイン語版 ) (北西104km)で降灰。
10月25日午前11時、激しさを増してきた噴火はこの頃に最高潮、日中にもかかわらず辺りは暗いまま[18] 。
コバン (北東160km)にて硫黄 臭、10月25日正午まで空振 。
10月25日昼、噴煙柱 は洋上の船からの六分儀 による観測で高度27-29km[注 2]
10月25日日没までに(噴火開始から18-20時間経過)、噴火が一旦収束。
10月26日早朝に再噴火、水蒸気爆発 の他に、マグマ水蒸気爆発 によるどす黒い噴煙が発生し、周辺に泥状の火山灰が降灰。
10月29日、噴火が収束に向かい、晴れ始める。
この噴火により、約5.5km3 の噴出物が生じ[注 3] 、カール・ザッパー (ドイツ語版 ) の調査・試算によると降灰範囲は120万km2 以上、1mm以上の堆積があった範囲は27万3千km2 、同1m以上の範囲は400km2 とされる。死者は6000人におよび[2] [注 4] 、周辺一帯のコーヒー農園に火山灰や砂が2mほど積るなど、甚大な被害が生じた[8] 。
火山爆発指数 (VEI)6の規模で、インドネシア で起きた1815年のタンボラ山噴火 (VEI 7)・1883年のクラカタウの噴火 (VEI 6)、アメリカ で起きた1912年のノバルプタ の噴火(VEI 6)、フィリピン で起きた1991年のピナトゥボ山 噴火(VEI 6)とともに、19世紀以降に起きた世界的巨大噴火の一つとされる[24] 。
その後、1922年までの20年間は、間欠泉 の噴出や若干の火山灰放出といった程度で、火山活動は落ち着いていた。
1922年になると、1902年噴火時の爆裂火口に側火山・サンティアギート山(溶岩ドーム)が形成された。
サンティアギート山(溶岩ドーム)の活動は、1922年当初(1958年頃まで)は「内生的成長(新たな溶岩が内部に蓄積し溶岩ドームを膨張させる)」、1929年頃からは「外生的成長(溶岩が表面に溢れ堆積する)」へ推移し、活動火口はカリエンテ火口(主な活動期間1922 - 1939年、1972年 - )に始まり、以後、ラミタッド火口(同1939 - 1949年)、エルモンジュ火口(同1949 - 1958年)、エルブルホ火口(同1958 - 1986年)、1972年以降は再びカリエンテ火口での活動が見られるようになった。溶岩ドーム形成当初の噴出溶岩の組成は、1902年のサンタマリア山噴火時の同様のデイサイトであったが、活動の経過とともに二酸化ケイ素 の含有割合が低下し、2000年頃には同組成は安山岩に変化した。
溶岩の噴出[注 5] は、噴出速度の速い時期と遅い時期を繰り返しながら、1922年以降絶えず続いており、溶岩流は長いもので4kmに及ぶ。噴火は比較的小規模なものは毎日数回発生し、大規模な爆発的噴火 も1999年現在までで十数回発生している[10] 。また噴火や溶岩流の流下に伴う火砕流の発生、火山砕屑物 が雨水と共に流れ下る火山泥流 のほか、地すべりや山肌崩落もしばしば生じている。
1929年のカリエンテ溶岩ドームの崩壊・爆発では、火砕流が下方11kmに渡って襲い、エル・パルマー (スペイン語版 ) 周辺地域で推定5000人が犠牲となった。また、1983年には火山泥流が流域のエル・パルマーを襲い、街の壊滅・放棄に至るといった甚大な被害が発生した。
サンティアギート山の標高は2021年現在で約2500mに達し、山体体積は推定1.5km3 (2008年試算)、山体崩壊や降雨による侵食・流出分を加えると、噴出マグマ総量は推定2km3 以上とされている。
注釈
前回噴火から少なくとも500年以上経過しているとされる。
別の船からの観測(測定方法は不詳)で高度48kmとの報告もある。
等層厚線図からの試算で8.3km3 、少なくとも8.5km3 、推定10km3 とする資料もある。
推定死者8750人、同8700人以上とする資料もある。
Scott, Jeannie A.J. (2013年2月24日). The Santiaguito volcanic dome complex, Guatemala (PDF) (Report) (英語). University of Oxford . 2021年9月27日閲覧 。
“Santa Maria ” (英語). Global Volcanism Program . Smithsonian Institution (2021年8月24日更新ver.4.10.2). 2021年10月1日 閲覧。
今村遼平、田畑茂清「グアテマラ共和国・サンタマリア火山の噴火にともなう土砂災害について(概報) 」『砂防学会誌』第36巻第3号、砂防学会 、1983年12月25日、33-39頁、doi :10.11475/sabo1973.36.3_33 、ISSN 0286-8385 、NAID 130004295183 、2021年10月8日 閲覧 。
Aragón, Magda (2013-10-01). “"Cuando el día se volvió noche" La erupción del volcán santa maría de 1902” (スペイン語) (PDF). Estudios Digital (Instituto de Investigaciones Históricas, Antropológicas y Arqueológicas de la Universidad de San Carlos de Guatemala) (1): 1-32. ISSN 2409-0468 . http://iihaa.usac.edu.gt/sitioweb/wp-content/uploads/2016/08/MArag%C3%B3n-ED1.pdf 2021年9月26日 閲覧。 .
Williams, Stanley N.; Self, Stephen (1983-04). “The October 1902 plinian eruption of Santa Maria volcano, Guatemala” (英語). Journal of Volcanology and Geothermal Research (Netherlands : Elsevier ) 16 (1-2): 33-56. doi :10.1016/0377-0273(83)90083-5 . ISSN 0377-0273 .
Singer, Brad S.; Smith, Katy E.; Jicha, Brian R.; Beard, Brian L.; Johnson, Clark M.; Rogers, Nick W. (2011). “Tracking open-system differentiation during growth of Santa María Volcano, Guatemala” (英語) (pdf). Journal of Petrology 52 (12): 2335–2363. Bibcode : 2011JPet...52.2335S . doi :10.1093/petrology/egr047 . https://academic.oup.com/petrology/article-pdf/52/12/2335/16671989/egr047.pdf .
Anderson, Tempest (1908-05). “The Volcanoes of Guatemala” (英語). The Geographical Journal (The Royal Geographical Society ) 31 (5): 473-485. doi :10.2307/1777493 . https://doi.org/10.2307/1777493 2021年9月25日 閲覧。 .
Rhodes, Emma; Kennedy, Ben M.; Lavallée, Yan; Hornby, Adrian; Edwards, Matt; Chigna, Gustavo (2018-04-23). “Textural Insights Into the Evolving Lava Dome Cycles at Santiaguito Lava Dome, Guatemala” (英語) (PDF). Frontiers in Earth Science 6:30 : 1-18. Bibcode : 2018FrEaS...6...30R . doi :10.3389/feart.2018.00030 . ISSN 2296-6463 . http://uu.diva-portal.org/smash/get/diva2:1201529/FULLTEXT01 2021年9月28日 閲覧。 .
Harris, Andrew; Rose, William I; Flynn, Luke (2003-03). “Temporal trends in Lava Dome Extrusion at Santiaguito 1922–2000” (英語). Bulletin of Volcanology (Springer Verlag ) 65 (2): 77-89. doi :10.1007/s00445-002-0243-0 .