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齧歯目キヌゲネズミ科の動物 ウィキペディアから
ハムスター(独: Hamster)は、キヌゲネズミ科キヌゲネズミ亜科に属する齧歯類の総称。夜行性で雑食性である。肩まで広がる大きな頬袋を持つのが特徴。明治期の百科事典や博物学教本に腮鼠という漢字表記が見られる[1][2]。狭義にはもっぱらゴールデンハムスター(別名シリアンハムスター)をさす[3]が、かつてはクロハラハムスターを指す言葉であった[4]。ハムスターには様々な種類がある。
本来、「ハムスター」の指す動物はヨーロッパに分布するクロハラハムスターであり、ラテン語でハムスターを示す「cricetus」も属・種と共にクロハラハムスター(Cricetus cricetus)に使用されている。(なお、ゴールデンハムスターの属名「Mesocricetus」は「中ぐらいのハムスター」の意味[5])
古高ドイツ語には、hamustraという単語があり(元々1000年頃にコクゾウムシの意味で使われていた古い単語であったが)、1607年にはハムスター(クロハラハムスター)という意味で使われており[6]、ヨーロッパに広く生息していたクロハラハムスターの語源となった。しかし、実験動物用としてドイツにゴールデンハムスター(独: Syrische Goldhamster)が伝来して増え、ゴールデンハムスターがHamsterの代名詞にとって変わった。
なお、語源である古高ドイツ語のhamustraにはもともと「強欲で大食い」というニュアンスがあり、一説として、その語源は古ロシア語のhoměstrǔあるいは、ペルシア語のhamaēstar(「圧迫者」)に由来していると説明されている[6][7]。ドイツ語の「買いだめする、溜めこむ」という動詞ハムスターン(独: hamstern)は、hamsterの貯食の習性から相手を揶揄する言葉として派生した。
地中生活に適応するため、体はずんぐりとしており、四肢も尻尾も短く進化している[8]。ドワーフハムスターでも尻尾は毛皮の下に隠れてしまいほとんど目立たない。ただし、チャイニーズハムスターにはハムスター類で最も長い尾(2.8-3.1cm)があり物をつかむような機能をもつ[8]。
左右にもともと口腔が陥没してできた頬袋(cheek pouch)と呼ばれる袋(盲嚢)をもつ[8]。頬袋には伸縮性がありエサを収容しておくためのものである。
ゴールデンハムスターやドワーフハムスターには臭腺がある[8]。
歯式は2 (1003/1003) の16本で、犬歯は退化し、2本の切歯(門歯)が一生伸び続ける[9]。エナメル質が作られるときに銅などを取り込むため切歯の色は黄色である[8]。
体重は、ジャンガリアンハムスターは30-50g、ゴールデンハムスターで80-150g。ハムスターの中で最も大型になる種はクロハラハムスターで、その体重は250g-600gに達する。寿命はジャンガリアンハムスターで2年、大型種のクロハラハムスターでも2年半ほどだが、ゴールデンハムスターに最大8年間生きた記録がある[10]。
野生ではヨーロッパからアジアの乾燥地帯に分布。夜行性で地中に掘ったトンネル内を餌を探すために一晩に10km - 20kmを移動しながら生活している[8]。野生のハムスターは、1日のほとんどを巣穴の中で過ごし、捕食者を避け明け方と夕暮れの短い時間のみに餌を探しに出掛ける。ハムスターは穴掘りの能力に優れており、複数の入口に、寝床、食料の貯蔵庫などの様々な部屋が繋っている巣穴を掘ることができる。野生のゴールデンハムスターは数が少なく絶滅が危惧されている。
頬袋に餌を収納し、一杯になるとその袋は2倍から3倍にもふくれ上がることがある。ここに溜めた食料を、自分の巣穴で吐き出して貯蔵する習性(貯食行動)がある。食性は穀食を中心とした草食性に近い雑食性で、野生状態では、木の実、穀物、野菜、果物、また昆虫やミールワームなども食べる。大型種のクロハラハムスターなどは小さいネズミ類や小鳥を食べることもある[10]。飼育時に適したエサについては下記参照。ハムスターは時に自分の糞を食べることがある(食糞)。これは、一度では消化しきれなかった養分をもう一度吸収するためであり、異常行動ではない。
口に含んだ食べ物を保存する性質上、その食べ物はアルコール発酵する。そのため、ハムスターは高いアルコール耐性を持ち酩酊しない。また、水かアルコールかを選ばせる実験では、アルコールを好む行動をとった[11]。
ハムスターの視力はあまり良くなく、また色盲である。そのため、外界の状況の把握は聴力と嗅覚に頼っている。臭腺の臭いを周りに散布することでなわばりを主張するとされており、特に自身の臭いに非常に敏感である。また、高周波を聴くことができるといわれており、超音波で互いにコミュニケーションしているとも考えられている[12]。
気温が下がった場合は種によって対応が異なり、西ヨーロッパからシベリア・イラクに生息のクロハラハムスターは冬眠はせず、活動が非常に鈍るのみだが、シリアに生息するゴールデンハムスターは冬眠する[10](ただし最長でも5日 - 6日で目覚めて餌をとる)、ジャンガリアンハムスターは疑似冬眠と呼ばれる状態になり、夜明け前から夕方ごろの日中代謝が低下し夜間になると戻る[8]。飼育下のハムスターだと冬眠や疑似冬眠からうまく目覚めることができず、そのまま死んでしまうことがある[9]。
性格はゴールデンハムスターなどでは体の大きいメスのほうがオスよりも気が強く、特に繁殖期などは飼育に注意を要する[8]。
ゴールデンハムスターは縄張り意識が強く、一般的には1匹で生活する。縄張りを侵すと殺し合いのケンカをすることもある。一方、ドワーフハムスターと呼ばれる小さめのハムスターは、同種で、気が合えば2匹以上一緒に生活することもありうる。
草原や川岸に生息する野生種のクロハラハムスターは、泳ぐ能力があり、頬袋に空気を貯めて浮き袋にする習性がある[9]。この習性は、元々砂漠地帯に生息していたゴールデンハムスターにも存在し、雨季の洪水などで水に落ちると、頬袋を膨らませて短時間ながら泳ぐことが確かめられている[13]。
ハムスターが繁殖可能になる年齢は、種類によって異なるが一般的には月齢で1か月から3か月で交配可能となる。メスのハムスターの交配可能な期間はおよそ3年であるが、オスはもっと長いこともある。規則的な発情期を持つ。4月から10月に、2週間から1か月の妊娠期間の後、10匹前後の子を生む。ゴールデンハムスターは齧歯類の中でも特に性周期が安定しており、メスは4日の周期で発情を繰り返す。発情したメスは、背中側のお尻周辺を触ったり、甘噛みされると、尾を上げ交尾姿勢を取る。
また、種の違うもの(ゴールデンハムスター×ジャンガリアンハムスター、ジャンガリアンハムスター×キャンベルハムスターなど)の交雑は、基本的に不可能であり、妊娠したとしても母体・子供に危険が及ぶ確率が高いが、ジャンガリアンハムスターとキャンベルハムスターを交雑させたものは一般のペットショップにも出回っていることがある。
ハムスターの仲間を含むキヌゲネズミの仲間はもっとも古いネズミ類(リス・ヤマアラシの仲間を除く齧歯類の意)の一群で、第三紀漸新世に北半球で進化し、その後アジア・アフリカ・南アメリカにも分布を広げたが、ずっと後に北半球で進化した狭義のネズミの仲間に押されて旧大陸では基本的に南部の生物で、北方ではポケット状に隔離された地域にだけ見られる(日本にも野生分布しない)一方、狭義のネズミの仲間の侵入が遅かった新大陸では分布が広い。
ハムスターの仲間は西ヨーロッパからシベリア(クロハラハムスター)など北部にも分布するが、特徴の頬袋の存在は上述のような古い型の哺乳類であることを示している[16]。
ハムスターの中でもよく知られているのが、ゴールデンハムスター(シリアンハムスター)である。ペットとして飼われているゴールデンハムスターは1930年にシリアで捕獲された1匹の雌とその12匹の仔の子孫がイギリスで繁殖され、世界中に広まったものである。その後、野生種は発見されていないため、現存するゴールデンハムスターは皆彼らの子孫である。1931年にロンドン動物園でハムスターが展示・一般販売され、それ以後ハムスターがペットとして飼われるようになった[9]。日本ではこうした飼育された個体が1950年に実験動物として移入されたものが起源である[10]。
その後、体格が小さいドワーフタイプのハムスターがペットショップ等で扱われて一般化され、一例にジャンガリアンハムスターが輸入されたのは、昭和40年代で、ペットとして出回り始めたのは、1993年頃とされている[9]。
ハムスターは飼いやすいため、ペットとしてよく飼われているが、本来はストレスを受けやすく人間とのコミュニケーションは負担になる。観賞用の生き物である。人に慣れることはあるが、懐くことは少ない。飼育数は親子・兄弟であってもケンカにより共食いをし、死亡することがあるため単独飼育が基本であるが、種類によっては複数飼育が可能である場合もある。野性味が強く警戒心、縄張り意識が強いため、不用意に手を差し伸べたりすると本気で噛み付き攻撃的になるため、外傷を負うことがある。子供が扱いやすいイメージがあるが、幼児が誤ってケージに指を入れると噛まれて出血する恐れもあるため注意は必要。
ケージ内は狭く運動不足になりがちとなるためハムスターの大きさにあった回し車などを与える[8]。ただし、チャイニーズハムスターはほとんど回し車を使うことをしない[8]。 ハムスターボールという、プラスチック製の球体にハムスターを入れて走らせる器具が以前から売られているが、ハムスターは閉じ込められた恐怖で走ると言われており、また、ハムスターボールが壁に衝突するなどの事故が多いことから、現在では推奨されていない。
切歯は伸び続けるため、飼育下では、小枝や板などの齧り木や市販の専用グッズなどで歯の過長を防ぐ必要がある[8]。また、高齢の個体や栄養状態の悪い環境では爪が過長する傾向がある[8]。爪切りは血管を避けて爪の先端を処理する[8]。
主に春と秋に換毛があり時期と期間に個体差があるが、複数飼育していると次々に換毛が発生することがある[8]。ハムスターは自らグルーミングを行うが、特に長毛個体に対してはブラッシングを行って毛球症や腸閉塞を防ぐ[8]。
急激な温度変化や乾燥には弱い。低温の環境下にみられる擬似冬眠状態のままにしておくと死亡するリスクがある。
主食は獣医師が推薦するような専用ペレット、または市販のハトの餌(トウモロコシ・ヒエ・粟・麦など低脂肪で腐りにくい穀物のミックス)を与え、副食は少量ずつ水を切ったもの(ニンジン、大根の葉、ブロッコリーなどの野菜や、農薬などに汚染されていないタンポポ、クローバー、レンゲなどの野草)をペレットと同量程度与えれば良いとされている。また、ハムスターは下痢をし始めると脱水症状により致命的な状況になりやすく、肥満させないような食事を与えると良い[17][18][19]。
ピーナッツやヒマワリの種子は脂肪分が多いため、肥満を誘発しないよう、おやつとして少量に制限することが推奨されている[17][18][20]。動物性たんぱく質を含むおやつとして、ゆで卵の黄身、白身、低塩チーズ、ヨーグルト、ペット用の煮干し、ミールワームをごく少量与えると良いが、専用ペレットを与えていれば必須ではないとされている[18][20]。
なお、ハムスターには餌を隠したり頬袋に溜め込む習性があるため、実際のエサの摂取量を測定することは困難である[8]。
ハムスターに食中毒を起こさせる主な化学物質としては、アリルプロピルジスルファイド(ネギ、タマネギ、ニラ、ニンニクの類に含まれる溶血を引き起こす物質)、テオブロミンおよびカフェイン(チョコレート、紅茶、コーヒーなどに含まれる嘔吐・下痢・昏睡を引き起こす物質)、ソラニン(ジャガイモの芽や皮に含まれ、催奇性、嘔吐・下痢などを引き起こすステロイドアルカロイド)、ペルシン(アボカドなどに含まれる中毒物質。嘔吐・下痢・呼吸困難・肺水腫を引き起こす危険のある物質)、アルコール飲料などがある[21]。
卵については、生卵の白身だけ与えるとビオチン欠乏症を発症するが、白身を加熱して黄身と一緒に与えれば同症にならないとされる[21]。
ハムスターにとってゆで卵の黄身は毒性がなく、蛋白源として適量与えてもかまわないとされている(ただし、ゆで卵は腐りやすい餌であるという指摘もなされている)[20][18][22]。
2017年には、餌にトウモロコシの比率が高まるとナイアシンが不足し、攻撃性が高まって共食いなどを行うようになるという研究結果が、ストラスブルグ大学の学者らによって明らかになっている[23]。
ハムスター(特にドワーフハムスターなど)には水を口にしない個体が見られることがある[8]。ペレットを主食として飼育する場合には飲水が不可欠である[8]。水分不足になると食事量が減ったり尿路結石などの原因となる[8]。
ハムスターに噛まれるなどの要因で、人間がアナフィラキシーショック(急性アレルギー反応)を引きおこすことが知られている。 2004年9月に日本人の男性がハムスターに噛まれたことによりアナフィラキシーが発生、さらに持病であった気管支喘息を誘発し死亡した例がある。
そのため、気管支喘息や皮膚炎などアレルギー性疾患を起こしたことがある人は、そのことに留意し、病院でハムスターアレルギーであるかを検査してもらうなどの対策が必要とされる。
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