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工業分野で酸度(さんど、英: acidity[1])とは、対象に含まれる酸の濃度のことである[2]。同様にアルカリの濃度はアルカリ度 (alkalinity) [1]ということがある。
水溶液の酸性の強さ(pH)とは別の概念である。酸性の強さとは水素イオンの濃度のことで、酸の一部が水中で解離した結果である。それに対して酸度はその水溶液中にある酸という化学物質自体の濃度であって、その酸が今どのくらい解離しているか否かは関係ない。
また、酸物質の種類ごとの「酸の強さ」(「硫酸は強酸である」等)の指標である酸性度定数(酸解離定数)とも別物である。しかし、人によっては酸度(酸の濃度)のことを「酸性度」と言うこともあり[2]、いっぽう「酸性度」や「酸度」がpHを指す場合もある[3][4]。
さらに、化学分野では「酸度」という用語は別の定義があり、「酸の濃度」という意味はない[4]。
ひとくちに「酸度」(酸の濃度)と言っても、その対象範囲と単位が分野毎、国ごと、さらには品目ごとに異なる。同じ対象物でも、異なる規格で測定した値同士は比較できない。特に「換算」という慣習により、さらに比較しにくくなっている。
中和滴定法で測定される酸度の値を滴定酸度(てきていさんど、 (titratable acidity) [5]、TA。なお、総酸度もTAと略されることがある)という。特定成分だけの酸度を測定するためには追加の作業が必要である。
溶液中にはいろいろな酸物質が混じっていることがある。その溶液中のすべての種類の酸全体を総酸、その酸度を総酸度[6](そうさんど、 (total acidity) [5]、TA。なお、滴定酸度もTAと略されることがある)という。特定の○○酸成分だけの酸度は「(溶液中の)○○酸の酸度」というふうにいう。
酸は、種類によって同一量の水素イオンを出せる酸の質量が異なる。したがって異なる種類の酸同士の化学的性質は質量では比較できないし、各々の質量を合計したのでは化学的には意味がない。そこで、ある水溶液に含まれている各種の酸を一個の「酸度」値にまとめるのに換算が必要になるが、いくつかの方法がある。例:
つまり、同じ測定物でもAとSの数値は約17倍違い、SとTは約1.3倍違う。別々の物質として換算された値同士は比較できない。単位や換算物質が省略された数値も比較できない。
酸度 | 参考(換算先の酸) | ||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|
呼称 | 値 | 単位 | 値 | 単位 | 組成式 | 分子量・式量 | 酸の価数 |
試料10mLを中和するのに要した0.1 mol/L水酸化ナトリウム水溶液の量 | 1.0 | mL | 1.0 | mL | |||
試料10mLを中和するのに要した水酸化ナトリウムの量 | 0.1 | mmol | 0.1 | mmol | |||
酸度(水酸化ナトリウムモル濃度に換算) | 1.0 | mmol/100mL | 10.0 | mmol/L | |||
酸度(塩酸の質量に換算) | 0.036 | g/100mL | 0.36 | g/L | 36.46[8] | 1 | |
酸度(硫酸の質量に換算) | 0.049 | g/100mL | 0.49 | g/L | 98.08[8] | 2 | |
酸度(ギ酸の質量に換算) | 0.046 | g/100mL | 0.46 | g/L | 46.03[8] | 1 | |
酸度(酢酸の質量に換算) | 0.060 | g/100mL | 0.60 | g/L | 60.05[8] | 1 | |
酸度(乳酸の質量に換算) | 0.090 | g/100mL | 0.90 | g/L | 90.08[9] | 1 | |
酸度(コハク酸の質量に換算) | 0.059 | g/100mL | 0.59 | g/L | 118.09[10] | 2 | |
酸度(リンゴ酸の質量に換算) | 0.067 | g/100mL | 0.67 | g/L | 134.09[11] | 2 | |
酸度(酒石酸の質量に換算) | 0.075 | g/100mL | 0.75 | g/L | 150.09[8] | 2 | |
酸度(クエン酸(無水物)の質量に換算) | 0.064 | g/100mL | 0.64 | g/L | 192.12[8] | 3 | |
酸度(炭酸カルシウムの質量に換算) | 0.050 | g/100mL | 0.50 | g/L | 100.09[8] | 2 |
さらに、「%」「w/v%」という単位記号で表記されていることがある。「w/v%」は g/100mLの俗称[12]。「w/w%」あるいは「質量パーセント」とあれば単位としては適切だが、算出するためには水溶液の密度を把握して体積から質量へ換算する必要がある。単に「%」だけでは、何を現しているのかわからない。
酸は食品にさまざまな影響を与えるため、pHや酸度が計測される。
酸度の測定器は酸度計、揮発性酸度の測定器は揮発性酸度測定装置と呼ばれる。
日本農林規格(JAS)でいう「醸造酢」の酸度は酢酸重量換算(%)で表記され、JAS規格準拠をうたうためには酸度4.0%以上と規制している(品目により規制値は異なる。上限値規制はない)[JAS 2]。「合成酢」にはJAS規格はない[JAS 3]。食品表示基準(2020年現在[update])に酸度の表示義務がある[15]。
牛乳等では、酸度の上昇は腐敗が進行していることの目安となる[13]。『乳及び乳製品の成分規格等に関する省令』(2019時点)で滴定酸度の測定方法および乳酸換算重量濃度(g/100g)への換算法を規定。たとえば牛乳(製品)は乳酸重量パーセント濃度換算で0.18%以下と規制している(細かい条件によって規制値は異なる)[16]。
果物の甘さを示す指標として糖度があるが、糖度が高くても酸度も高ければそれほど甘くは感じない。そのため、果物の甘さを数値で示す際には糖度と酸度を併記する方法が好まれる[要出典]。
日本農林規格(JAS)(2023年現在[update])には青果物の規格(酸度測定方法や表示単位含む)はない[JAS 3]。
果物は一般に品種によって換算する酸の種類は異なる。たとえばリンゴについて、日本産4品種の遊離酸酸度のリンゴ酸重量換算値で0.16~0.66%という測定例がある[17]。
日本農林規格の『果実飲料』(2023年現在[update])では、品目によって酸度規定有無も換算する酸の種類も異なる。例えば
リンゴジュースだけは「りんごストレートピュアジュース」という別規格もあり、酸度の規格はリンゴ酸重量換算0.25%以上、揮発性酸度規定は無し[JAS 4]となっており、「リンゴジュース(ストレート)」規格とは酸の種類も表記単位も全く異なる。
日本では『国税庁所定分析法』[18]で酸度の測定方法が規定されている。どの品目でも試料10mLを0.1mol/L水酸化ナトリウムで中和滴定してその数値を酸度(mmol/100mL)とみなすのはほぼ共通だが、質量換算値は別々の品目同士で比較できない。質量換算する酸の種類が品目ごとに異なるためである。酸度を表示する義務はない。もし表示する場合に、どちらの単位(mmol/100mLか、換算酸g/100mLか)とすべきかは指定されていない。
『国税庁所定分析法』(2020年現在[update])清酒の項では、総酸の酸度(単位説明欠如。水酸化ナトリウム mmol/100mL相当)と、コハク酸換算法 A*0.059 (g/100mL)が併記されている[19]。ほかに酢酸、亜硫酸の酸度あるいは濃度の測定方法が規定されている[19]:14。商品包装の表示にある酸度の値で、単位も測定方法も記載されていないものは比較不可能である。業界団体による酸度表示の意味説明もない[20]。国税庁による『全国市販酒類調査結果(平成30年度調査分)』[21]は清酒の酸度の銘柄平均値を1.14 - 1.44(区分による)と報告しているが、単位が記載されていない。日本酒ではないが、韓国製清酒「清河 (酒)」は酸度4.0との報告がある [22]ものの、単位が不明。
清酒の味の指標としては、酸度と他の計測値を組み合わせて一定の計算式から算出される「甘辛度」[21]:22と「濃淡度」[21]:23というのもある。
ワイン中の酸は、味のほかに保存寿命や色にも影響するため、酸度は重要な指標である[7]:2。
「酸度」や"acidity"の定義は各国で異なる。「総酸」等の用語の範囲(亜硫酸は含むのか否か等)も共通とは限らない。米国の一例では、滴定酸度を酒石酸質量換算(g/100mL)を"%"表記(換算法不記載)し[7]:4、同じ酸度値であっても酸の種類によって酸味は違うとする一方、テーブルワインでは0.55 - 0.85%程度が最適との文献も紹介している[7]:4。
ワイン用語での「揮発性酸」とはギ酸、酢酸、酪酸のような脂肪酸のことで、味にも影響するが、むしろ腐敗の指標とされている[23]。不快臭の一因とされることもある[24]。
日本の『国税庁所定分析法』(2020年現在[update])果実酒の項では、総酸の酸度(水酸化ナトリウムmmol/100mL相当)と、その酒石酸質量換算法 A*0.075 (g/100mL)を規定[25]。いっぽう揮発酸(ここでは水蒸気蒸留で留液に入っている酸のこと)の揮発酸度は、水酸化ナトリウムmmol/100mL相当と、その酢酸質量換算法 A*0.060 (g/100mL)が併記されている[25]:35。結局果実酒の酸度は4種類あることになる。ほかに個別の酸として酢酸[25]:30、ソルビン酸[25]:31、亜硫酸[25]:32の濃度の測定方法が規定されている。国税庁による『全国市販酒類調査結果(平成30年度調査分)』[21]では果実酒(ぶどう酒とは限らない)の酸度銘柄平均値を7.70 - 8.26(区分による)と報告しているが、単位が記載されておらず、酒石酸質量換算g/100mL表記の他の測定例[23]と比べて数値が一桁以上も大きい。
学術分野では、『国税庁所定分析法』と同様に総酸:酒石酸質量換算(g/100mL)の場合[23]や総酸:酒石酸質量換算(g/L)の場合[24]があり、同じ対象物でも数値が10倍異なる。揮発酸も同様に換算単位が複数種類ありえる。
水質の項目として酸度(酸の濃度)およびアルカリ度(アルカリの濃度)がある。
酸度の高い水は金属を腐食する[26]:311。ここでの酸度は、無機酸、有機酸とも含めた滴定酸度である[26]。水酸化ナトリウムによる滴定酸度を炭酸カルシウム mg/Lに換算する[26]:311[1]。
JIS『工業用水試験方法』(JIS_K0101)[27]、および『工場排水試験方法』(JIS_K0102)[28]は「酸度」という用語は使っていないが「アルカリ消費量」の試験方法を規定している。無機酸、有機酸とも含めた滴定中和によって測定し、終点pHを数段階規定している。また、総酸度と遊離酸のみの酸度の二種類を用意している。表記単位は、水酸化ナトリウムmmol/L、および炭酸カルシウムmg/L換算、の2種類である。
なお、アルカリの濃度を示す「酸消費量」(塩酸で滴定)でも、質量換算は炭酸カルシウムmg/L換算としている[27][28]。
土壌管理では「酸度」は水素イオン濃度(の指標 pH)、酸の濃度は「滴定酸度」、というふうに用語を使い分ける場合がある。また、土壌管理特有の酸度(酸の濃度)として交換酸度y1(置換酸度、大工原酸度[29])および加水酸度(加水分解酸度[29])という概念がある[30]。交換酸度y1は試料乾風土100gに1mo/L塩化カリウム水溶液250mL加えて振り放置した後の上澄みの半分(125mL)だけを、0.1ml/L水酸化ナトリウム水溶液で中和滴定したときの水酸化ナトリウム水溶液mL数である[31]。「全酸度S」はy1および同試料液の残りから繰り返し抽出試験したy2~ynから算出する[31]。
体液の「酸度」という用語はおもに、濃度ではなく酸性の強さ(pH)を意味する[32]。体液中の電解質の濃度はミリ当量濃度(mEq/L)で示される[33]。腎生理学では、「滴定酸」はアンモニウムイオンを除外した酸で、一日あたりの排泄量(mEq[34]やmmol[35])で表記されるが、濃度を測る場合の単位はmEq/L[36]である。
胃酸の酸性の強さはpHであらわすが、胃酸の分泌量を把握するために酸度も指標として使われる[37]。ミリ当量濃度(mEq/L)表記(ここでは水酸化ナトリウムのモル濃度mmol/Lと同値)が一般的である[37]。
飲料による酸蝕症では、飲料のpHのみならず滴定酸度とも相関がある[38]。単位の例: 飲料10mLの中和に要する4 mol/L水酸化ナトリウム水溶液の体積(μL)[39]。
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