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『自閉症の僕が跳びはねる理由』(じへいしょうのぼくがとびはねるりゆう)は、カナ―型重度自閉症の13歳の少年である東田直樹を著者とする伝記、エッセイ、ノンフィクションである。2007年に日本で最初に出版され、同じ自閉症の息子を持つヨシダ・ケイコと夫である作家デイヴィッド・ミッチェルによる英訳「The Reason I Jump」が2013年に出版された[1]。以後、世界30カ国以上で出版され、2022年までに120万部を超える世界的ベストセラーとなっている[2]。
著者である東田は、4歳の頃から科学的に否定されているファシリテイテッド・コミュニケーション(Facilitated Communication: FC)によるトレーニングを重ね、文字を書いて意思を伝える力を身につけたことが知られており[3][4][5][6]、そのオーサーシップについて疑問が提起されている[7][8][9][10]。
当書は、ニューヨークタイムズのベストセラー[11]と、英国のハードカバーノンフィクションのサンデータイムズのベストセラーになっている[12]。ジェリー・ロスウェル(Jerry Rothwell)が監督となり、『僕が跳びはねる理由』が公開されている[13]。
小児神経心理学者ファインと児童精神科医神尾は学術ジャーナル『Journal of Developmental & Behavioral Pediatrics』に『僕が跳びはねる理由』へのコメンタリーを発表した[7]。この本を読んだ自閉症児の保護者が、13歳の自閉症児が独力でこの本を執筆したと信じ自身の子供も同様の言語表出が可能になると期待してしまう危険性を指摘し、東田のオーサーシップに対して以下の詳細にわたる疑義を呈した。
東田のオーサーシップを疑う十分な理由がある。著者の声は13歳のそれとは思えないし、ましてや自閉症で言語能力に乏しい青年のそれとは思えない。たとえば、もしみんなが自閉症だったら…といった想像力や、人類以前の原始時代への回帰願望といった抽象的な概念の展開。なぜまともな会話ができないのかという問いへ答えとして、皆と同じことを思っているのに、言いたいことが喋れずに、表現する方法が見つからずに、かわりに関係ない言葉が口から溢れ出てくるのだと説明する。2009年5月に東京大学で行われた講演でも、東田は皆と同じように心の中には言葉が湧き上がっているのに、壊れたロボットのような身体から誰かが救い出してくれれば…と同様の主張だった。こういった高度な思考や知識が、13歳の子供、特に東田のような重度の自閉症を持つ子供によって独自に生み出されたとするものには、疑問を投げかけなければならない。
本書や講演では、自閉症者の内面は定型発達者と同様であり、感覚過敏や発話の困難さがコミュニケーションを阻害しているという前提に立っている。そのような障害は閉じ込め症候群やアフェミアで見られる。しかし、東田の発話には内容は限定的ながら発音と流暢さにほとんど障害が見られず、言語-運動の乖離が生じている可能性は低い。
東田は2009年の東京大学における講演で自身のコミュニケーション方法をファシリテイテッド・コミュニケーション(FC)であると述べた。FCは徹底的に研究されており、ファシリテーターが答えを知らない場合、正確な回答が得られないことが実証されている。この本の執筆と時期を同じくする動画では、東田の横に母親が座っており、母親が東田の身体に触れている様子が確認できる。したがって独立して行っているかに見える東田のタイピングは、母親からのキューイングによるものか、前もって暗記した文章を入力している可能性がある。2014年に東田が公の場に出て質問に答えていたとき、彼は「なぜ私に聞くのですか、誰にでも答えがあるでしょう、あなたはお子さんにその質問をすべきですね」などと回答し、いかなる質問にも汎用性のある答えを暗記していたようだった。また、東田はしばしばノンバーバルであると報道されているが、それは事実と異なり、公の場に出たときや動画で明らかなように、東田は喋れる。東田は、自閉症に特徴的な、繰り返しのエコラリアを伴って喋る。DVDの一場面において、東田はきれいに花を描いたり、きれいに英単語を綴っていたことから、彼の運動制御能力が優れているのは明らかであり、主張しているような内面と身体の動きの乖離などはない。また、優れた微細運動制御能力を持ち、お気に入りの絵や言葉や何度も書くのは、自閉症の子どもたちに典型的な特徴である。
この本は「典型的な」自閉症児として他の自閉症者を代弁する立場を取っているために、自閉症児の保護者が非現実的な期待を抱いたり、罪悪感をもつ恐れがある。エビデンスに基づく教育法を拒否する事態も懸念される。
仮にこの本が実際に東田の単独執筆によるものだとすれば、中度から重度の自閉症における言語、認知機能、コミュニケーションに関する40年にわたって慎重に蓄積されてきた知見のほぼ全てが間違いであったことを意味する。カール・セーガンが述べたように、並外れた主張には並外れた証拠が必要だ。本件の場合、その証明は容易であり、東田本人のみが知り得る情報で、かつファシリテーターが知り得ない情報を使ってオーサーシップの検証を行うことで判定できるはずである。
子供の真の機能レベルに向き合うことが、支援を計画する上での基礎となる。重度の自閉症は単なる運動障害や表出性言語障害ではない。
リリエンフェルド、トッド & シェインは学術ジャーナル『Evidence-Based Communication Assessment and Intervention』に発表した論考において、東田のコミュニケーション方法はFCであり、自立したコミュニケーションができるようになったかの検証はされていないと指摘している[8]。
シモンズ、ボイントン & ランドマンは、学術ジャーナル『Human Rights Quarterly』に発表した論考において、東田のコミュニケーション方法はFCであろうとし、以下のように述べた[14]。
東田が出演するビデオでは、コミュニケーションを取る際に、常に身体に触れられたり、音声を出している時にファシリテーターがそれを解釈している場面が多く見られる。コミュニケーション機器を独立して使いこなしている様子は見受けられず、コミュニケーションにおいてどれほど自立しているのか疑問が生じる。13歳にして非常に複雑な思考や感情を表現しているとされた東田は、実際には『ニューヨーク・タイムズ』のベストセラーや、20歳までに著したとされる他の14冊の本のいずれも執筆していなかった可能性が高い。『僕が跳びはねる理由』は、自閉症の少年の内面を明かすものではなく、自閉症の少年の内面が「こうであろう」とする彼の親の見解に過ぎないだろう。このような種の著作物における主張やオーサーシップの真偽は、FCの使用、人権、エビデンスに基づく介入といった件との関連において、重大な問題を孕んでいる。
アイクスティ、ファイン & ラーソンは、『Journal of Child Psychology and Psychiatry』誌において自閉症がコミュニケーションの困難さ以外に障害はないとする誤った説を流付する情報源のひとつとして『僕が跳びはねる理由』を挙げ、非現実的な期待や効果のない介入法により自閉症児が教育機会を失する危険性について論じている[15]。
口頭での会話が困難だったために内的世界を表現できなかった東田が、「筆談」というコミュニケーション方法を習得したことをきっかけに、自閉症の本質や自閉症者の内的世界について質問形式で解説する。
東田は自閉症者への理解を深めることを目的に本書を執筆。自閉症者の一部がコミュニケーションに困難を抱えるのは、思考や感情を言葉として表現する際に時間的なずれが生じるためだと説明する。それまで自分の内的世界を表現する術を持たなかった東田だが、「筆談援助」という手法との出会いによって言語表現ができるようになった。
自閉症者の身体的コントロールや感覚の特徴について解説。特に身体のコントロールが困難であることから生じる様々な行動の背景を説明する。
東田は自分が身体の中に閉じ込められている感覚をもつと語る。多くの困難を抱えながらも、自閉症は自分のアイデンティティと密接に結びついているため、自閉症のままでいたいと感じるようになったと述べている。跳びはねる行動には、硬直した身体をほぐす機能があり、飛び跳ねていると気持ちがよくて鳥に変身して空を飛んでいきたくなるのだと説明する。
自閉症者に見られる一見独特な行動について、予測不可能な世界をコントロールしたいという願望から生じていると説明する。
自閉症者に外出衝動や道に迷う傾向がある理由として、目に入った物事や現象を追いかけたくなる非合理的な衝動があると指摘する。逃げ出す行為には、世界に対する違和感とそこから解放されたいという気持ちがあるとも説明する。自閉症者もそうでない人々と同様の感情があるが、身体に閉じ込められ表現できないため絶望しパニックに至ると説明する。
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