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ガス惑星である木星の大気は、岩石惑星が持つ大気とは異なり、惑星本体と大気との間に明確な境界が存在しない。ただ、約1 atmになっている高度を木星の地表と定義した時、大気の厚さは約5千 kmに及ぶ。なお大気上層と宇宙との境界が明確でない点は他の大気を持つ太陽系の惑星と同様である。木星の大気は水素分子を主成分としている。ただし大気は全球に渡って均一ではなく、宇宙から見ると帯状の構造や渦が見られ、さらに、雷のような気象現象も観測されている。しかしながら、これらの成因などは21世紀初頭においても完全には解明できずにいる。
ほとんどが水素分子とヘリウムから構成され、大気における両者の比率は太陽とほぼ同じである。メタン、アンモニア、硫化水素、水等のその他の化学物質も少量存在する。水は大気の深くにあると考えられているが、直接測定される量は非常に少ない。酸素、窒素、硫黄、希ガスの量は、太陽より3倍程度多い。
木星には地殻がなく、大気は明確な境界なく徐々に液体状の木星の内部に遷移していく[1]。下限から上限に向けて、大気の層は、対流圏、成層圏、熱圏、外気圏に分けられる。それぞれの層は、温度勾配によって特徴付けられる[2]。最下層の対流圏は、複雑な雲のシステムを持ち、アンモニア、硫化水素アンモニウム、水の層で構成される[3]。木星の地表から見える上層のアンモニアの雲は、赤道に平行な数十の帯状であり、ジェットとして知られる赤道に平行な強い風によって区切られている。帯は色が異なり、暗い帯はベルト、明るい帯はゾーンと呼ばれる。ベルトよりも冷たいゾーンは上昇気流、ベルトは下降気流に相当する[4]。ゾーンの明るい色は、アンモニアの氷のためであると考えられているが、ベルトの暗い色の原因は分かっていない[4]。帯状構造とジェットの起源は良く分かっていないが、2つのモデルが提案されている。浅灘モデルでは、これらは、安定な惑星内部を覆う表面の現象であるとし、深層モデルでは、バンドやジェットは、水素分子から構成される木星の円筒状のマントルの深層循環が表面に表れているものであるとする[5]。
木星の大気は、低気圧や嵐、雷等の様々な活発な現象を見せる[6]。低気圧や高気圧による渦巻きは、赤色、白色、茶色等の大きな楕円形の斑点を形成する。そのうち最大のものは、大赤斑[7]とオーバルBA[8]で、どちらも赤色である。これら2つやその他の大きな斑点のほとんどは、高気圧である。より小さな高気圧は、白色になる傾向がある。このような渦巻きは、深さ数100kmを超えない比較的浅い構造であると考えられている。南半球に位置する大赤斑は、太陽系で既知の最も大きな渦巻きである。地球をいくつか飲み込むほどの大きさであり、少なくとも300年は存在し続けてきた。大赤斑の南にあるオーバルBAは、大赤斑の3分の1程度の赤い斑点で、2つの白いオーバルが融合して2000年に形成された[9]。
木星には、常に雷を伴う強力な嵐が吹いている。この嵐は大気中の水分の対流と、水の蒸発と凝縮の結果である。大気が強く上昇する場所では、明るく濃い雲が形成される。嵐は、主にベルトの領域で発生する。木星の雷は、地球のものよりも強力であるが、回数は少なく、平均的な雷の活動レベルは、地球と同程度である[10]。
木星の大気は、4つの層に分類され、高度が高くなるにつれて、対流圏、成層圏、熱圏、外気圏となる。地球の大気とは異なり、木星には中間圏はない[11]。木星には、固体の表面はなく、大気の最下層である対流圏は、惑星の液状の内部構造に滑らかに繋がっていく[1]。これは、温度や気圧が水素とヘリウムの臨界点よりも上であるためであり、気相と液相との間に明瞭な境界がないことを意味する。水素は、12バール前後では、超臨界流体の状態になる[1]。
大気の下限がはっきりしないため、気圧1バールの高さより90km程度下にあり気温が340Kである、気圧10バールの高度が一般的に対流圏の底として扱われている[2]。ただし科学においては、1バールの気圧が通常、高度0、つまり木星の「地表」として選ばれる[1]。地球と同様に、大気の最上層である外気圏の上限は曖昧である[12]。密度は徐々に低下し、「地表」から約5,000km上空で、惑星間空間に滑らかに繋がる[13] 。
木星の大気の垂直方向の温度変化は、地球の大気の温度変化と似ている。対流圏の温度は、高度とともに徐々に低下し、成層圏との境界である対流圏界面で最低となる[14]。木星では、対流圏界面は雲の観測される1バールの高さよりも約50km高く、気圧は約0.1バール、気温は110Kである[2][15]。成層圏では、高度約320km、気圧1マイクロバールの熱圏との境界までに気温は約200Kまで上昇する[2]。熱圏では、温度は上昇し続け、最終的には、高度1,000km、気圧1ナノバール程度の地点で、温度は1,000Kに達する[16]。
木星の対流圏には、複雑な雲のシステムが存在する[17]。上層の雲は、気圧が0.6から0.9バールの高度にあり、アンモニアの氷でできている[18]。このようなアンモニアの雲の下に、硫化水素アンモニウムや硫化アンモニウム(1-2気圧)、水(3-7気圧)でできたより濃い雲が存在すると考えられている[19][20]。凝縮するには温度が高すぎるため、メタンの雲は存在しない[17]。水の雲は最も密度の濃い層を形成し、大気の動きに最も強い影響を与えている。これは、アンモニアや硫化水素と比べて、水の高い蒸発熱と豊富さによる(酸素は、窒素や硫黄と比べてより豊富に存在している)[11]。対流圏(200-500ミリバール)や成層圏(10-100ミリバール)の様々なもやの層は、雲の層のさらに上にある[19][21]。後者は、凝縮した重い多環芳香族炭化水素やヒドラジンで構成されており、成層圏上層(1-100マイクロバール)で、太陽の紫外線の影響を受けたメタンから生成される[17]。成層圏におけるメタンの水素分子に対する存在量の比は、約10-4であり[13]、またエタンやアセチレン等のその他の軽い炭化水素の水素分子に対する存在量の比は、約10-6である[13]。
木星の熱圏は、気圧が1マイクロバールより低く、大気光、オーロラ、X線放射等が行われる領域である[22]。この層では、電子やイオンの密度が上昇し、電離層を形成する。モデルでは、400Kを超えないのに対し[13]、熱圏の温度は全体的に800Kから1,000Kと高い。これについては完全に説明が付いていないが[16]、太陽からの高エネルギーの放射(紫外線、X線)を吸収していること、木星の磁気圏の荷電粒子からの加熱、上向きの重力波の消失等が原因であると考えられている[23]。極付近と赤道付近の熱圏と外気圏は、X線を放出しており、これは1983年にHEAO-2によって初めて観測された[24]。木星の磁気圏からの高エネルギー粒子は、明るい楕円形のオーロラを形成し、極の周りを取り囲む。磁気嵐の間しか見えない地球のオーロラとは異なり、木星のオーロラは常に見られる[24]。木星の熱圏では、地球以外で初めてプロトン化水素分子が発見された[13]。このイオンは、波長3-5μmの中赤外線領域に強い放射を出し、これが熱圏の主な冷却機構となっている[22]。
元素 | 太陽 | 木星/太陽 |
He/H | 0.0975 | 0.807 ± 0.02 |
Ne/H | 1.23 × 10-4 | 0.10 ± 0.01 |
Ar/H | 3.62 × 10-6 | 2.5 ± 0.5 |
Kr/H | 1.61 × 10-9 | 2.7 ± 0.5 |
Xe/H | 1.68 × 10-10 | 2.6 ± 0.5 |
C/H | 3.62 × 10-4 | 2.9 ± 0.5 |
N/H | 1.12 × 10-4 | 3.6 ± 0.5 (8 bar)
3.2 ± 1.4 (9-12 bar) |
O/H | 8.51 × 10-4 | 0.033 ± 0.015 (12 bar)
0.19-0.58 (19 bar) |
P/H | 3.73 × 10-7 | 0.82 |
{S/H | 1.62 × 10-5 | 2.5 ± 0.15 |
比 | 太陽 | 木星 |
13C/12C | 0.011 | 0.0108 ± 0.0005 |
15N/14N | <2.8 × 10-3 | 2.3 ± 0.3 × 10-3
(0.08-2.8 bar) |
36Ar/38Ar | 5.77 ± 0.08 | 5.6 ± 0.25 |
20Ne/22Ne | 13.81 ± 0.08 | 13 ± 2 |
3He/4He | 1.5 ± 0.3 × 10-4 | 1.66 ± 0.05 × 10-4 |
D/H | 3.0 ± 0.17 × 10-5 | 2.25 ± 0.35 × 10-5 |
木星の大気の化学組成は、木星全体の組成と似ている[25]。ガリレオが1995年12月7日に木星の大気圏に突入した際に、大気プローブで直接観測を行っているため、木星の大気は、全ての木星型惑星の大気の中で最も良く理解されている[26]。木星の大気についてのその他の情報源には、地上の天文台[25]や赤外線宇宙天文台、カッシーニ等がある[27]。
木星の大気の2つの主な構成成分は、水素分子とヘリウムである[25]。ヘリウムの存在量は、水素分子と比べて分子数で0.157 ± 0.0036、質量で0.234 ± 0.005であり、原初太陽系の存在比よりも若干小さい[25]。この理由は完全には理解されていないが、ヘリウムの一部が木星の核に凝縮したと考えられている[18]。この凝縮は、ヘリウムの雨の形であったと考えられている。水素が10,000km以上の深さで金属水素の状態に変わると、ヘリウムはそこから分離して小滴を形成し、金属水素よりも濃縮されて核に沈み込む。ネオンはヘリウム小滴に容易に溶け込み、一緒に核に移行するため、木星大気にネオンが存在しないことも説明可能である[28]。
木星の大気には、水、メタン、硫化水素、アンモニア、ホスフィン等の様々な単純な化合物が含まれる[25]。対流圏深く(10バール以下)の存在量は、木星の大気には炭素、窒素、硫黄、そして恐らく酸素[b]の存在量が、太陽と比べて2倍から4倍豊富であることを示唆している[c][25]。アルゴン、クリプトン、キセノン等の希ガスも太陽より多いと考えられるが、ネオンは少ない[25]。アルシンやゲルマン等の化合物の存在は、痕跡量である[25]。木星の大気の上層には、メタンから形成されるエタン、アセチレン、ジアセチレン等の単純な炭化水素が少量含まれる。上層大気中の二酸化炭素、一酸化炭素、水の存在は、シューメーカー・レヴィ第9彗星のような衝突した彗星によってもたらされたと考えられている。冷たい対流圏界面がコールドトラップとして働くため、この水は、対流圏から上昇してきたものではあり得ない[25] 。
地上の天文台や探査機による観測により、木星の大気の同位体存在比についてより詳しいことが分かった。2003年7月時点で、重水素の存在比について受け入れられた値は、2.25 ± 0.35 × 10-5であり[25]、恐らく太陽系を生み出した原始惑星状星雲の存在比を表していると考えられている[29]。窒素の同位体の存在比は窒素15/窒素14が2.3 × 10-3で、地球の大気(3.5 × 10-3)よりも3分の1程度小さい[25]。太陽系の形成と進化のこれまでの理論では、地球型惑星の窒素の同位体存在比を太陽系原初のものとして考えていたため、後者の発見は特に重要である[29]。
観測される木星の表面は、赤道に平行ないくつかの帯で分けられているように見える。帯には、明るい色のゾーンと比較的暗い色のベルトの2つの種類がある[4]。幅の広い赤道ゾーン(EZ)は、おおよそ南緯7°から北緯7°まで広がっている。EZの上下には、南北赤道ベルト(NEB,SEB)が、それぞれ南緯18°、北緯18°まで広がっている。さらに赤道から離れると、南北熱帯ゾーン(NtrZ,StrZ)がある[4]。ベルトとゾーンの交互のパターンは、緯度約50°の極地方まで続く[30]。ベルトとゾーンの基本的な構造は、恐らく極に向かって広がったものであり、少なくとも80°まで達したと考えられる[4]。
ゾーンとベルトの見かけの違いは、雲の不透明度の差に依っている。アンモニアの濃度はゾーンで高く、アンモニアの氷の濃い雲が高層に形成されて、明るい色に見える[14]。一方、ベルトの雲は薄く、低い層にある[14]。対流圏高層の温度は、ゾーンで冷たく、ベルトで暖かい[4]。木星のゾーンとベルトの色をこれほど鮮やかにしている化合物については、よく分かっていないが、硫黄、リン、炭素からなる複雑な化合物が含まれると考えられている[4]。
木星のバンドは、ジェットと呼ばれるゾーンを吹く風によって区切られる。東向き(逆行)のジェットはゾーンからベルトに遷移する過程で見られ、西向き(順行)のジェットはベルトからゾーンに遷移する過程で見られる[4]。その速さは、赤道から極の方向に、ベルトでは遅くなり、ゾーンでは速くなる。そのため、ベルトのウインド・シアはサイクロン、ゾーンでは高気圧となる[20]。EZはこの規則の例外であり、強い東向きのジェットの速度は、ちょうど赤道上で極小となる。ジェットの速度は、100m/s以上にも達する[4]。この速度は、0.7から1バールに位置するアンモニアの雲の速度に相当する。逆行のジェットは、通常順行のジェットよりも強力である[4]。ジェットの垂直の広がりは分かっていない。雲の上では、2から3スケールハイト低下し[a]、雲の下では風は少し強くなって、少なくとも22バールまで下がると一定になる。これは、ガリレオ探査機が運用されていた最大の深さである[15]。
木星の帯状構造の起源は完全に分かっていないが、地球のハドレー循環と同じ原理かもしれない。最も単純な解釈は、ゾーンでは上昇気流、ベルトでは下降気流が発生していると見ることである[31]。大気にアンモニアが多く含まれると上昇し、膨張して冷え、高層に高密度の雲を形成する。ベルトでは大気は下降し、断熱過程で暖められ、白いアンモニアの雲は蒸発し、下層の暗い雲が露呈する。バンドの位置や幅、ジェットの位置や速度はかなり安定しており、1980年から2000年にかけてほんのわずかしか変化していない。変化の一例は北緯23°の北熱帯ゾーンと北温帯ベルトの境界の最も強い東向きのジェットの速度が低下したことである[5][31]。しかし、帯の色相や彩度は時間を経るごとに変化している。
木星の大気を分割するベルトとゾーンのそれぞれは、固有の名前と性質を持っている。極地域の下から始まり、おおよそ40°から48°まで広がっている。この青味がかった灰色の領域は、通常特徴がない[30]。
北北温帯地域は、周辺減光、短縮遠近、光の拡散等のために、極地域と比べて詳細がはっきり見えない。とは言っても、北北温帯ベルト(NNTB)は、時々「消える」ことがあるが、最も北のはっきり区別できるベルトである。擾乱は通常小規模ですぐに終わる。北北温帯ゾーン(NNTZ)は、恐らくよりはっきりしているが、静穏である。この地域の他の小規模なベルトやゾーンも時々観測されることがある[32]。
北温帯地域は、地球から容易に観測できる緯度にあり、そのため素晴らしい観測記録が得られている[33]。また、最も強い逆行のジェットがあり、北温帯ベルト(NTB)の南の境界となっている[33]。NTBは、だいたい10年に1度消失し(ボイジャーが接近した時がそうだった)、北温帯ゾーン(NTZ)が北熱帯ゾーン(NTropZ)と融合したように見える[33]。その他の時は、NTZは狭いベルトによって、北と南に分けられている[33]。
北熱帯地域は、NTropZと北赤道ベルト(NEB)から構成されている。NTropZは色相が安定しており、NEBの南のジェットの活動に合わせてわずかに変わるだけである。NTZと同様に、時々狭いバンドNTropBによって分けられることがある。また稀に、NTropZの中に小赤斑が現れることがある。名前が示すとおり、これは北半球で大赤斑に相当するものである。ただし大赤斑とは異なり、対で現れることが多く、常に短命で平均1年程度しか続かない。パイオニア10号の接近の際には、これが現れていた[34]。
NEBは、木星で最も活動的なベルトの1つである。高気圧の白い楕円とサイクロンの「バルジ」があり、前者はいつも後者より北にある。NTropZのように、これらの特徴の多くは比較的短命である。また、南赤道ベルト(SEB)と同様に、NEBは時々劇的に消失し、「復活する」。これらの変化のタイムスケールは、約25年である[35]。
赤道地域(EZ)は、最も安定な地域の1つである。EZの北端には壮大な噴煙がある。NEBから南西方向に尾を引いており、フェストーンとして知られる暗く暖かい大気で囲まれている[36]。EZの南端は通常不活発であるが、19世紀末から20世紀初頭の観測は、このパターンが今日と比べて逆であったことを示している。EZの色相は、青白色から黄土色、銅色までかなり変化し、また赤道バンド(EB)によって分割されることがある[37]。EZの特徴的な構造は、他の緯度と比較しておよそ390km/hの速度で移動している[38][39]。
南熱帯地域には、南赤道ベルト(SEB)と南熱帯ゾーンが含まれる。惑星で最も活動的な地域であり、最も強い逆行のジェットが吹いている。SEBは通常最も広く最も暗いベルトであるが、ゾーン(SEBZ)で分割されることもあり、3年から15年ごとに消滅、復活を繰り返している。ベルトの消失後、数週間から数ヶ月で白いスポットが形成され、暗茶色の物質を噴き出し、それは木星の風によって広がり、新しいベルトとなる。このベルトの最新のものは、2010年5月に消滅した[40]。SEBのその他の特徴は、大赤斑から続く低気圧による擾乱の長い列である。NTropZと同様に、STropZは最も目立つゾーンの1つであり、大赤斑を含むだけではなく、南熱帯擾乱(STropD)によって分割されることがある。南熱帯擾乱は非常に長持ちし、最も有名なものは、1901年から1939年まで続いた[41]。
南温帯地域または南温帯ベルト(STB)は、もう一つの暗く目立つベルトであり、2000年3月まではNTB以上であった。最も有名な特徴は、長命の白いオーバルBC、DE、FAを持つことであり、これらは融合してオーバルBA(レッドジュニア)となった。オーバルは実際は南温帯ゾーンの一部であるが、STBの中まで及んできた[4]。STBは、恐らくオーバルと大赤斑の複雑な相互作用のために、時々消滅することがある。オーバルが生まれた南温帯ゾーン(STZ)の見かけは、かなり変化する[42]。
木星には、一時的なものや地球から観測しにくい多くの特徴的な構造がある。南南温帯地域は、NNTRよりも識別が難しく、その詳細は捕らえにくく、大きな望遠鏡や探査機でなければ観測できない[43]。多くのゾーンやベルトは遷移的なもので、常に見えるものではない。この中には、赤道バンド(EB)[44]、北赤道ベルトゾーン(NEBZ)、南赤道ベルトゾーン(SEBZ)[45]等がある。またベルトは、突然の擾乱で一時的に分裂することがある。擾乱が通常は1つのベルトやゾーンを分割すると、例えばNEB(N)やNEB(S)のように、それらを区別して表すために、(N)または(S)の符号が加えられる[46]。
木星の大気の循環は、地球の大気の循環とはかなり異なっている。木星の内部は液体であり、固体の表面を持たない。そのため、惑星の外層全体で対流が起こる。2008年現在で、木星の大気のダイナミクスに関する包括理論は未だできていない。そのような理論は、以下の事実を説明できることが必要である:木星の赤道を中心に対称で狭く安定なバンドやジェットの存在、赤道の強い順行ジェット、ゾーンとベルトの差異、大赤斑のような巨大な渦の起源と持続[47]。
木星の大気のダイナミクスに関する理論は、浅灘モデルと深層モデルの大きく2つに分類される。前者は、観測される循環は、安定した内部を覆う惑星の薄い外層に限定されると考えるもので、後者は、観測される大気の流れは、惑星の深層の根源的な循環が表層に表れたものに過ぎないと考えるものである[48]。どちらの理論も長所と短所があり、多くの惑星科学者は、真の理論は両モデルの要素を含むものであると考えている[49]。
木星の大気のダイナミクスを説明しようとする最初の試みは、1960年代に遡る[48][50]。それは、当時から発展していた地球の気象学に部分的に基づくものであった。この浅灘モデルでは、ジェットは小規模の乱流によって発生し、その後は水の雲より上層の水蒸気の対流によって維持されると推定する[51][52]。水蒸気の対流は、水の蒸発と凝結に関連する現象で、地球の気象の主な原因の1つでもある[53]。このモデルでのジェットの発生は、いわゆる逆カスケードと呼ばれる、小さな乱流が融合して大きくなるという、二次元的な乱流のよく知られた性質に関係する[51]。惑星の有限な大きさは、このカスケードによりある特定の大きさ以上の構造は生まれないことを意味する。木星ではこの大きさは、リネススケールと呼ばれ、ロスビー波の生成と関連する。この過程は、次のようになる。最大の乱流構造がある大きさに達すると、エネルギーが大きな構造の代わりにロスビー波に流れ始め、逆カスケードが停止する[54]。球状で高速自転する惑星では、ロスビー波の分散関係は異方的で、赤道と平行な方向のリネススケールは、それに垂直な方向よりも大きい[54]。上述の過程の最終的な結果は、赤道に平行な大規模で細長い構造の生成である。それらの経度方向の広がりは、実際のジェットの幅と合致する[51]。そのため、浅灘モデルでは、渦はジェットに飲み込まれ、融合して消失する。
このようなモデルでは、幅の狭いジェットがいくつも存在することを説明できるが[51]、深刻な問題も抱える。このモデルの目に付く欠点は、順行の赤道ジェットについてである。稀な例外はあるが、浅灘モデルは、観測とは矛盾する強い逆光ジェットを予測する。さらに、実際のジェットは不安定で、時間を経ると消失することもある[51]。浅灘モデルは、観測される大気の流れがどのようにして安定基準を破るのかを説明できない[55]。さらに複雑な多層の浅灘モデルでは、循環はさらに安定になるが、多くの問題は残ったままである[56]。ガリレオは、木星の風は水の氷の下、気圧5から7バールのところでも吹いていることを観測したが、これは木星の大気の循環が実はかなり深いことを示唆しているのかもしれない[15]。
深層モデルは、1976年にBusseによって初めて提唱された[57][58]。彼のモデルは、流体力学におけるテイラー=プラウドマン理論に基づいている。高速自転する理想的な順圧流体では、流れは回転軸に平行な一連の円筒として組織される。理論の条件は、恐らく木星内部の流体と合致している。そのため、恐らく木星の水素マントルは多数の円筒に分かれており、それぞれの円筒内で独立した循環が行われている[59]。円筒の外側と内側の境界の緯度は、表面のジェットと対応し、円筒自体はゾーン及びベルトと対応する。
深層モデルを用いれば、赤道上で観測される強い順行ジェットの存在が容易に説明できる[59]。しかし、このモデルにも大きな問題点がある。このモデルでは、幅の広いごく少数のジェットしか生み出されず、2008年現在では、現実にあった三次元のシミュレーションが不可能である。これは、深層循環を正当化するためのモデルの単純化が木星内の流体ダイナミクスの重要な面を捕らえ切れていないことを意味する[59]。2004年に発表されたあるモデルでは、木星のバンドとジェットの構造を再現することに成功した[49]。このモデルでは、水素分子のマントルを他のモデルよりも薄く、木星半径の外側のわずか10%と仮定した。木星内部の標準モデルでは、マントルは外側の20%から30%を占めると仮定される[60]。深層循環の駆動はもう1つの問題である。実際に、深層流は、浅い部分の力(例えば水蒸気の対流)と、木星内部の熱を外に運ぶ惑星規模の対流のどちらにも由来しうる[51]。このどちらの機構がより重要であるかは明らかになっていない。
1966年から知られていたことであるが[61]、木星は、太陽から受けるよりも多くの熱を放射している。木星から放出される熱と太陽から受ける熱の比は、1.67 ± 0.09と推定されている。木星の内部の熱流束は5.44 ± 0.43 W/m2であるのに対し、合計の放射熱は335 ± 26ペタワットである。後者の値は、太陽から放射される熱の約10億分の1に相当する。この過剰な熱は、主に木星の形成の初期段階の熱であるが、一部はヘリウムの核への降下による熱である可能性がある[62]。
内部の熱は、木星の大気のダイナミクスに重要な役割を果たしている可能性がある。木星の傾斜度は約3°と小さく、極は赤道よりも太陽から受ける放射が少ないが、対流圏の気温は赤道から極までかなり均一である。この説明の1つは、木星の内部の対流がサーモスタットのように働き、赤道地域よりも極地域で多くの熱を放出しているとするものである。熱は、地球では大気の循環により赤道から極まで運ばれるが、木星では深層対流によって熱力学的平衡に達する。木星内部の対流は、主に内部の熱により駆動されると考えられている[63]。
木星の大気には、数百の渦が存在し、地球の大気と同様に低気圧と高気圧の2種類に分けることができる[6]。低気圧は惑星の自転と同方向(北半球では反時計回り)に回転し、高気圧は反対方向に回転する。地球の大気との主な違いは、木星の大気では、低気圧と比べて高気圧が圧倒的に多く、直径2,000kmを超える渦の90%以上が高気圧だということである[64]。渦の寿命は、その大きさに依り、数日間から数百年間まで様々である。例えば、直径1,000kmから6,000kmの高気圧の平均的な寿命は、1年から3年である[65]。木星の赤道地域(緯度10°以内)では、渦が観測されたことはない[9]。木星は高速で自転しているため、木星の高気圧の中心の気圧は高く、低気圧では低い[36]。
木星の高気圧は、常に、赤道から極の方向に風の速度が増加するゾーン内で見られる[65]。通常は明るく、白い楕円に見える[6]。経度方向に動きうるが、ゾーンからは抜け出せないため、緯度はほぼ一定である[9]。高気圧周辺の風の速度は、約100m/sである[8]。同じゾーンに発生した複数の高気圧は、近づくとしばしば融合する[66]。しかし、木星は、他とは区別される2つの高気圧を持つ。それは、大赤斑[7]とオーバルBA[8]であり、後者は2000年に形成されたばかりである。白いオーバルとは異なり、この2つは、恐らく深層から赤い物質を掘り出しているために赤く見える[7]。木星では、高気圧は通常、対流嵐等の小さな構造を融合して形成されるが[65]、大きなオーバルは、ジェットの不安定性の結果としても形成される。後者は1938年から1940年に、南温帯ゾーンが不安定になった結果として白いオーバルが形成されたのが観測され、後にこれが融合してオーバルBAを形成した[8][65]。
高気圧とは対照的に、木星の低気圧は小さく、暗く、不規則な構造であることが多い。より暗く規則的な形のものは、バルジとして知られる[64]。小規模な低気圧に加え、木星にはいくつかの巨大で不規則なフィラメント状の低気圧と同様の回転をする構造もある[6]。その1つが、南赤道ベルト内の大赤斑の西(波紋領域)に位置し[67]、これらは低気圧地域(CR)と呼ばれる。低気圧は常にベルト内に存在し、互いに接近すると、高気圧と同様に融合する[65]。
渦の深層構造については完全に明らかになっていない。これらは500kmを超える厚さになると不安定になるため、比較的薄いと考えられている。大きな高気圧は、観測可能な雲からわずか数10km上空にまでしか広がっていないことが知られている。渦は深層の対流プリュームであるとする初期の説は、2008年現在、惑星科学者の大半には受け入れられていない[9]。
大赤斑は、南緯22°の地点にある永続性の高気圧嵐である。2012年現在で、地上での観測から、発生してから最低でも182年、恐らくは347年になる[68][69]。この嵐は地球上の望遠鏡でも観測できるほど大きく、ハインリッヒ・シュワーベによって1831年に初めて記述されたが、恐らくはもっと早く、1665年から1713年の間にジョヴァンニ・カッシーニによって観測されている。1878年にCarr Walter Pritchettが開始して以来、継続的に観測、描写されている[70]。
大赤斑は、約6地球日(14木星日)の周期で反時計回りに回転している[71]。直径は東西方向に24-40,000km、南北方向に12-14,000kmであり、地球が2、3個入る大きさである。2004年初め、大赤斑の経度方向の幅は、1世紀前の40,000kmと比べて約半分になった。現在の減少速度からすると、2040年までには円に近くなるはずだが、近隣のジェットによる歪み効果のため、円になることはないと考えられている[72]。大赤斑がいつまで続くかや、大赤斑の形の変化が通常の変動の結果であるのかは分かっていない[73]。
カリフォルニア大学バークレー校で1996年から2006年まで行われた観測によると、この間に大赤斑の直径は、その長軸に沿って約15%小さくなった。研究チームの一員であったXylar Asay-Davisはこの研究を総括し、大赤斑は消失しないと述べた[74]。
赤外線データによって、大赤斑は周りの雲よりも冷たく、高い高度にあることが示唆された[75]。大赤斑の雲頂は、周りの雲よりも約8km上にあると考えられている。さらに、大気の追跡により、大赤斑の反時計回りの回転は1966年まで遡り、ボイジャーのフライバイの際の映像より確認された[76]。大赤斑は、空間的には、南端を東向きの穏やかなジェット、北端を西向きの非常に強力なジェットに囲まれている[77]。周りのジェットの速度は約432km/hにもなるものの、内部にはほとんど流れはない[78]。大赤斑の回転周期は、恐らく大きさの減少に伴って、時間を経る毎に減少している[79]。2010年、これまでにない解像度で遠赤外線写真が撮影され、中央の最も赤い領域は周囲よりも3から4K暖かいことが発見された。暖かい気団は、気圧200から500ミリバールの範囲の対流圏上層に位置する。この暖かい中心領域は、恐らくは空気の弱い沈降のため、ゆっくりと時計回りに回転している[80]。
大赤斑の緯度は、観測記録が残っている期間を通じて安定しており、約1°しか変化していない。しかし、経度は常に変化している[81][82]。木星は均一に自転していないため、天文学者は経度を定めるため、3つの異なる系を定義した。系IIは、緯度10°を超える部分で使われ、9h 55m 42sの大赤斑の平均回転速度を元にしたものである[83][84]。これに関わらず、大赤斑は19世紀初頭から、少なくとも惑星を10周している。この速度は年によって大きく異なり、南赤道ベルトの明るさ及び南熱帯擾乱の有無と関連している[85]。
大赤斑の赤色の起源については、正確に分かっていない。実験室内での実験によって指示される理論によると、この色は複雑な有機分子、赤リン、その他の硫黄化合物によるものであると説明される。大赤斑の色相は、れんが色から淡いサーモン色までかなり変化する。最も赤い中心領域は、周りよりも若干暖かく、これは大赤斑の色が環境因子に影響されることの初めての証拠となった[80]。大赤斑は、可視光領域で見えなくなることもあり、南赤道ベルト(SEB)に空いた隙間、赤斑孔となる。大赤斑の可視性はSEBの色相と関連しているように見え、ベルトが明るい白色の時は大赤斑は暗くなり、ベルトが暗い時は大赤斑は明るくなる傾向がある。大赤斑の明暗が変化する周期は不規則であり、1997年までの50年間で、1961年から1966年、1968年から1975年、1989年から1990年、1992年から1993年の期間に最も暗くなった[86]。
大赤斑と似たものに、2000年にカッシーニによって木星の北極付近に観測された大暗斑がある[87]。また海王星の大気の中にも大暗斑と呼ばれる構造がある。後者は1989年にボイジャー2号によって撮影され、嵐というよりは大気の穴であると考えられている。1994年には存在しなくなったが、似たような小さな穴がより北側に表れた[88]。
オーバルBAは、木星の南半球に現れた大赤斑と同様のより小さな赤い嵐に与えられた公式の名称である。レッドジュニアや中赤斑等とも呼ばれることもある。南温帯ベルトに存在するオーバルBAは、2000年に3つの小さな白い嵐が衝突し、勢力が強まって形成された[89]。
後に融合してオーバルBAとなる3つの白い嵐の形成は、南温帯ゾーンが暗い領域によって3つの長い部分に引き裂かれた1939年まで遡ることができる。木星観測者のElmer J. Reeseは、暗い領域をAB、CD、EFと名付けた。この裂け目は拡張し、STZの残りの部分を収縮させて、白いオーバルFA、BC、DEが形成された。オーバルBCとDEは1998年に融合してオーバルBEとなり[90]、その後、2000年3月にオーバルBEとFAが融合してオーバルBAが形成された[89]。
オーバルBAは、2005年8月頃からゆっくりと赤くなり始めた[91]。2006年2月24日、フィリピンのアマチュア天文学者のChristopher Goが色の変化を発見し、大赤斑と同じくらいになったと記録した[91]。これを受け、NASAの作家Tony Phillipsはこれを「レッドジュニア」と呼ぶことを提案した[92]。
2006年4月、年内にオーバルBAが大赤斑に収斂されると信じる天文学者のチームがハッブル宇宙望遠鏡を用いてこの嵐を観測した[93]。嵐は2年毎にすれ違っていたが、2002年と2004年のすれ違いでは興味深い出来事は起こらなかった。ゴダード宇宙飛行センターのAmy Simon-Millerは、2006年7月4日に2つの嵐が再接近すると予測した[93]。7月20日、2つの嵐がすれ違う様子がジェミニ天文台で撮影されたが、融合は起こらなかった[94]。
オーバルBAの色がなぜ赤色に変わったのかは分かっていない。2008年のバスク大学のSantiago Perez-Hoyosの研究によると、最も確からしい機構は、着色化合物が、オーバルBAの上層で太陽からの高エネルギー光子と相互作用した結果だとされる[95]。風が深層からある種の気体を吹き飛ばすほど強まり、それが日光に晒されると色が変わると考える者もいる[96]。
オーバルBAは、2007年にハッブル宇宙望遠鏡によって行われた観測によると、徐々に強くなっている。風速は大赤斑に匹敵し、その他の嵐よりも遙かに速い618km/hに達した[97][98]。2008年7月時点で、その大きさは地球程度の直径となり、大赤斑の約半分となった[95]。
オーバルBAと似たものには、大赤斑に破壊された[96]小赤斑がある(NASAはこれに「ベビー・レッド・スポット」という渾名を付けた[99])。元々はハッブル宇宙望遠鏡によって撮影された白いスポットだったものが2008年5月に赤くなり、カリフォルニア大学バークレー校のImke de Paterらにより観測が行われた[100]。小赤斑は2008年6月末から7月初めに大赤斑と衝突し、小片になって飲み込まれた。残っていた赤色の残骸も7月中旬には再び大赤斑と衝突して消え、2008年8月までには完全に無くなった[99]。この衝突の間、オーバルBAも近くにあったが、小赤斑の破壊には関わっていないように見えた[99]。
木星の北極には渦が見られる。詳細は解明されていない。
木星上の嵐は、地球の雷雨と似ている。ベルトの低気圧、特に強い西向きのジェットの中に地域に時々現れる大きさ約1,000kmの塊状の雲として見える[10]。渦とは異なって嵐は短命な現象であり、最も強いものは数ヶ月続くが、平均は3日から4日で消滅する[10]。対流圏における水蒸気の対流が主な原因で発生すると考えられている。嵐は実際は縦長の円柱状の対流(プリューム)で、湿った空気を対流圏の深層から上層に運び、凝結して雲を形成させる。典型的な木星の嵐の垂直方向の高さは約100kmであり、気圧5から7バールの高さから、水の雲の層の底である気圧0.2から0.5バールの高さまで広がる[101]。
木星の嵐は、常に雷を伴う。ガリレオとカッシーニによる木星の夜半球の画像は、ベルトや西向きジェットの中で、特に北緯51°、南緯56°、南緯14°の地点で恒常的に雷が発生していることを明らかとした[102]。木星では、雷は地球より平均で何倍か強力である。しかし、頻度は少なく、面積当たりで放出されるエネルギーは地球と同程度である[102]。極地方では雷は少ないが、木星は極での雷が観測された地球以外で最初の惑星となった[103] 。
15年から17年ごとに、木星では特に大規模な嵐が発生する。これは、150m/sにも達する最も強い西向きジェットの吹く北緯23°の地点で発生する。直近でこのような嵐が発生したのは、2007年3月から6月にかけてである[101]。2つの嵐が北半球の55°のベルトの異なった経度の地点に現れた。これらはベルトを多いに乱し、嵐によって巻き上げられた暗い物質が雲と混ざってベルトの色を変えた。嵐はジェットそのものよりも若干速い170m/sもの速度で移動し、大気深層での強い風の存在を示唆した[101]。
バンドやゾーンの通常のパターンは一次的に乱されることがある。顕著な1例は、南熱帯ゾーンの長期間に及ぶ暗化であり、「南熱帯擾乱(STD)」と呼ばれる。記録に残る最も長く続いたSTDは、1901年から1939年まで続いたもので、1901年2月28日にパーシー・モールズワースが初めて観測した。この時には、通常は明るい南熱帯ゾーンの一部が暗くなった。この時以降、南熱帯ゾーンの同様の擾乱が何度か記録されている[104]。
木星の大気の最も謎の多い特徴の1つがホットスポットである。ホットスポットの中では、雲が比較的少なく、熱が吸収を受けずに深層から逃げ出すことができる。約5μmの波長で撮影した赤外線画像では、明るいスポットとして見える[36]。ベルトに多く発生するが、赤道ゾーンの北端には、一列に繋がった顕著なホットスポットがある。ガリレオは、この赤道ゾーンのホットスポットの1つに降下した。各々の赤道ゾーンのホットスポットは、すぐ西側にある明るい雲のプリュームと関係があり、大きさは10,000kmにもなる[4]。ホットスポットは通常丸い形をしているが、渦とは似ていない[36]。
ホットスポットの起源はよく分かっていない。下降する空気が断熱状態で加熱乾燥する下降気流でも、惑星規模の波が表れたものでも、どちらでもあり得る。後者の仮説は、赤道上のスポットの周期的なパターンについて説明できる[4][36]。
小さな望遠鏡を用いる初期の天文学者は、木星の大気の見かけの変化を記録した[21]。彼らが使った、ベルト、ゾーン、スポット(斑)、プリューム、バージ、フェストーン、嵐等の用語は、現在でも使用されている[105]。渦、垂直運動、雲高等の用語は、20世紀になってから使われ始めた[21]。
地上の望遠鏡よりも高い解像度で初めて木星の大気を観測したのは、パイオニア10号とパイオニア11号であった。木星の大気に関する最初の真に詳細な画像は、ボイジャー計画によってもたらされた[21]。2機の探査機が、様々なスペクトルで5kmの解像度の詳細な写真を撮影し、また動きながらの「接近映像」も作製することができた[21]。ガリレオは、木星の大気をそれほど観測した訳ではないが、より高い解像度で、より幅広いスペクトルでの観測を行うことができた[21]。
今日では、ハッブル宇宙望遠鏡のような望遠鏡のおかげで、天文学者は継続的な木星の大気の記録を手に入れることができる。これらの記録は、木星の大気は時々、大規模な擾乱によって乱されることがあるが、全体としてはかなり安定していることを示した[21]。木星の大気の垂直運動は、地上からの観測による痕跡ガスの同定で、かなり特定された[21]。シューメーカー・レヴィ第9彗星の衝突後の分光学的研究で、雲頂の下の化学組成について概観することができた。アンモニア、硫化水素等とともに二原子硫黄や二硫化炭素の存在も記録され、これは木星上からの初めての検出であった。また、二原子硫黄については、天体からの二例目の検出であった。一方、二酸化硫黄等の酸素含有分子は検出されず、天文学者を驚かせた[106]。
木星に突入したガリレオは、気圧22バールの高度までの風、温度、組成、雲、放射レベル等を測定した[21]。
大赤斑を最初に観測したのは、1664年5月にこれを記述したロバート・フックであると言われるが、フックのスポットは別のベルトのスポットであった可能性がある。より確からしいのは、翌年のジョヴァンニ・カッシーニによる「永続的なスポット」との記述である[107]。可視性の変動により、カッシーニのスポットは1665年から1713年まで観測された[108]。
1700年頃、ドナート・クレーティによって描かれ、バチカンに展示された絵画が、木星のスポットに関する小さな謎となっている[109][110]。これは、様々なイタリアの風景の背景として拡大された天体が描かれた一連の作品の一つで、その全ての作品の監修を天文学者のユースタキオ・マンフレディが務めた。クレーティの絵画は、これまで知られている中で、大赤斑を初めて赤色に描いているが、19世紀末になるまで、木星上の構造が公式に赤色とされたことはなかった[110]。
現在の大赤斑は、1830年以降に初めて観測されたものであり、1879年に顕著になってから詳細に研究されるようになった。17世紀の発見から、1830年までの118年間の長いギャップの間、元々のスポットが消えて新たに形成されたのか、一時的に見えにくくなったのか、観測記録が単に欠けているだけなのかは不明である[86]。より古いスポットは現在のものに比べ、観測の歴史が短く、ゆっくり動いているが、その理由は分かっていない[109]。
1979年2月25日、ボイジャー1号が、木星から920万kmの地点から大赤斑の最初の詳細な画像を地球に伝送した。直径160kmまでの雲の詳細を見ることができた。大赤斑の西(左)に見える色彩豊かで波打った雲のパターンは、スポットの波紋領域で、ここでは非常に複雑な雲の動きが観測される[111]。
後にオーバルBAとなった白いオーバルは1939年に発見された。形成直後に経度のほとんど90°を覆ったが、最初の10年間で急速に収縮し、1965年以降はその長さは10°以下で安定した[112]。STZの一部を組織するようになったが、その後北に動き、南温帯ベルトの隙間を「掘って」、完全に飲み込まれた[113]。実際に、大赤斑と同様に、その流れは南北の境界の2つの逆方向のジェットに囲まれた[112]。
オーバルの経度方向の動きは、軌道上の木星の位置(遠日点で速くなる)及び大赤斑との距離(50°以内だと速くなる)の2つの要因に影響されているように見える[114]。白いオーバルの漂流速度は、全体的な傾向として遅くなっており、1940年から1990年の間に約半分になった[115]。
ボイジャーのフライバイの間に、このオーバルは東から西に約9,000km、北から南に約5,000km広がり、(この時点で、大赤斑の回転周期が6日間だったのに対して)5日間の周期で回転していた[116]。
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