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抗てんかん薬(こうてんかんやく、anticonvulsant、antiseizure drugs)は、癲癇および痙攣に使用する薬品である。おしなべてハイリスク薬である[1][2]。治療域と有毒域が近いため治療薬物モニタリングが必要になる薬が含まれる[3]。
ベンゾジアゼピン系抗癲癇薬は発作型に関わらず有効なことがある。ただしミオクローヌス発作など一部を除いて耐性の形成ができやすい。また重症筋無力症、急性狭隅角緑内障には禁忌である。長期使用により耐性と依存性が形成される。[4][5][6][7]
主な抗癲癇薬のイオンチャネルへの作用としてはNaチャネル抑制、T型Caチャネル抑制、非T型Caチャネル抑制、GABA類似作用、グルタミン酸の抑制に大別される。
物質名 | 商品名 | Naチャネル抑制 | T型Caチャネル抑制 | 非T型Caチャネル抑制 | GABA類似作用 | グルタミン酸の抑制 |
---|---|---|---|---|---|---|
フェニトイン(PHT) | アレビアチン | +++ | ― | + | + | ― |
フェノバルビタール(PB) | フェノバール | ++ | ― | + | ++ | ++ |
カルバマゼピン(CBZ) | テグレトール | +++ | ― | + | + | + |
バルプロ酸(VPA) | デパケン | ++ | + | + | ++ | + |
エトスクシミド(ESM) | エピレオプチマル | ― | +++ | ― | ― | ― |
ベンゾジアゼピン系 | リボトリール | + | ― | + | +++ | - |
ゾニサミド(ZNS) | エクセグラン | + | ++ | + | ― | ++ |
ガバペンチン(GBP) | ガバペン | - | - | ++ | ++ | - |
トピラマート(TPM) | トピナ | ++ | - | + | ++ | ++ |
ラモトリギン(LTG) | ラミクタール | +++ | ― | ― | ― | + |
日本において2006年以降に承認されたガバペンチン、トピラマート、ラモトリギン、レベチラセタムなどを新規抗癲癇薬という。これらの作用機序はシナプス小胞の放出減少以外、旧来の抗癲癇薬の作用機序を組み合わせたものにすぎない。しかし相互作用、一部の副作用は軽減されている。2016年4月AMPA受容体拮抗薬であるペランパネルが製造承認された[11]。ペランパネルは、癲癇発作が神経伝達物質グルタミン酸に誘導されることから創製された、既存の薬剤とは異なる新しい作用機序を有した薬剤である[11]。
癲癇における抗癲癇薬の主な使い分けを以下にまとめる。
国際抗癲癇連盟(ILAE,1981)では癲癇重積状態(SE)とは「発作がある程度の長さ以上続くか、または、短い発作でも反復し、その間の意識回復がないもの」と定義している。ある程度の長さに関しては30分と解釈される場合が多いが早期治療のため10分程度で重積とみなし治療を開始することが多い。重積状態での標準的な治療はジアゼパム、ミダゾラム、フェノバルビタール、フェニトインが用いられる。第一選択はジアゼパム10mgの静注であるが5mgずつ20mgまで投与されることが多い(5mg/分)。欠神発作の重積状態、ミオクロニー発作以外ではフェニトインが第二選択として用いられる。SEが30分以上持続すると脳に不可逆的な変化が起こるとされており、30分以上経過した場合は気管内挿管および全身麻酔薬を用いて発作を止めることがある。プロポフォールなどがよく用いられる。
発作型 | 第一選択 | 第二選択 |
---|---|---|
単純部分発作 | カルバマゼピン、ゾニサミド、フェニトイン | バルプロ酸、クロナゼパム、トピラマート、ガバペンチン、フェノバルビタールなど |
複雑部分発作 | カルバマゼピン、ゾニサミド、フェニトイン | バルプロ酸、クロナゼパム、トピラマート、ガバペンチン、フェノバルビタールなど |
二次性全般化 | カルバマゼピン、ゾニサミド、フェニトイン | バルプロ酸、クロナゼパム、トピラマート、ガバペンチン、フェノバルビタールなど |
部分発作の第一選択として推奨されるのはカルバマゼピンである。フェニトイン、ゾニサミド次いでバルプロ酸が考慮される。新規抗癲癇薬ではラモトリギン、次いでカルバマゼピンと同様にレベチラセタム、次いでトピラマートが推奨されている。
発作型 | 第一選択 | 第二選択 |
---|---|---|
欠神発作 | バルプロ酸、エトスクシミド | クロナゼパム、クロバザム、ゾニサミド |
ミオクロニー発作 | パルプロ酸、クロナゼパム | ニトラゼパム、クロバザム、ゾニサミド、エトスクシミド |
強直発作 | なし | ゾニサミド、バルプロ酸、フェニトイン、クロナゼパム |
強直間代発作 | パルプロ酸 | フェニトイン、カルバマゼピン、フェノバルビタール、ゾニサミド、アセタゾラミド、クロナゼパム |
全般発作抑制効果はバルプロ酸に優位性があるとされている。欠神発作にはエトスクシミド、ミオクロニー発作にはクロナゼパム、強直間代発作にはフェノバルビタールも考慮される。クロバザム、フェニトインも候補になる。症候性全般癲癇ではクロナゼパム、ゾニサミドが考慮される。新規抗癲癇薬では強直間代発作ではバルプロ酸に次いでラモトリギン、トピラマート、次いでレベチラセタムが推奨されている。欠神発作ではエトスクシミドに次いで、ラモトリギン、ミオクロニー発作ではバルプロ酸に次いでレベチラセタムが推奨されている。カルバマゼピンやガバペンチンではミオクロニー発作や欠神発作が増悪するため特発性全般癲癇では使用しないことが多い。他の抗癲癇薬では効果が不十分な場合にアセタゾラミドが付加される場合がある。 (Acctazolamide)は1958年に使用が開始され脳の中枢神経組織内に存在する炭酸脱水酸素を抑制し、脳のCO2濃度を局在的に増大させることにより、脳の異常な興奮を抑制し精神神経の諸症状を緩解する。
GABA作動性薬剤(バルビツール酸系、ベンゾジアゼピン系、バルプロ酸、ゾニサミド、ガバペンチン、トピラマート)は抗不安作用や躁状態抑制効果があり、グルタミン酸系抑制効果のある薬剤(ゾニサミド、ラモトリギンやレベチラセタム)は抗抑うつ作用や不安誘発作用があると考えられている。発作に関連した一過性の行動障害(発作周辺精神症状)は適切な発作抑制後、情緒安定化作用のあるバルプロ酸、カルバマゼピン、ラモトリギンの使用が考慮される。行動障害が発作と関連しない場合は精神障害の一般的な治療に準じる。そのほか、抗癲癇薬によって誘発される精神病反応の報告もある。
多くの抗癲癇薬は肝代謝であるが新規抗癲癇薬には腎代謝のものが含まれている。肝代謝がバルプロ酸、フェニトイン、カルバマゼピン、フェノバルビタール、ベンゾジアゼピン系であり、肝腎代謝がトピラマート、ラモトリギン、腎代謝がガバペンチン、レベチラセタムである。注意すべき副作用としては、フェニトイン、カルバマゼピンの心伝導系異常の悪化、カルバマゼピン、バルプロ酸での低ナトリウム血症の悪化、フェニトイン、カルバマゼピンでの免疫系疾患の影響、フェノバルビタール、ゾニサミド、カルバマゼピンの認知機能への悪化、バルプロ酸のパーキンソン症候群などがある。
フェニトインと制酸剤、ガバペンチンと酸化マグネシウムの使用は吸収阻害をおこし血中濃度を低下させる。また癲癇閾値を低下させる薬剤としては抗うつ薬、抗精神病薬、気管支拡張薬、抗菌薬、局所麻酔薬、鎮痛薬、抗ヒスタミン薬、筋弛緩薬、抗腫瘍薬などが知られている。
日本癲癇学会では成人てんかんの薬物治療終結のガイドラインを公開している。小児では予後良好な癲癇症候群が存在するため発作寛解2年以上経過した場合は減量後、治療終結が可能な場合がある。しかし減量法に関しては標準的なものは存在しない。思春期発症の癲癇、症候性癲癇、脳波異常の存在は再発再燃の危険性が高いとされている。成人癲癇では減量開始時に2種類以上の薬物を服用、強直間代発作の既往、ミオクロニー発作の既往、神経学的異常などが再発のリスクを高めるとされている。 発作寛解期間の長短のみで断薬の是非を判断してはならず、断薬すれば再発リスクは高まる。再発の可能性が最も高いのは減量中と断薬後1年間である。治療終結の決定は諸要件(特に危険因子の有無と質)を総合的に勘案し、患者ならびに患者家族の意向に尊重して個別に判断するべきである。
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