弾性率(だんせいりつ、英語: elastic modulus)は、変形のしにくさを表す物性値であり、弾性変形における応力とひずみの間の比例定数の総称である。弾性係数あるいは弾性定数とも呼ばれる[1]。
1807年にトマス・ヤングによって導入された[2]。
2階のテンソル量である応力σとひずみεに対して、弾性率Dは4階のテンソル量で表すことができる[4]。
- [5]
弾性率はテンソルであるため、物質客観性の原理により座標変換においてσ=Dεの関係を保たねばならない。座標系O-x1x2x3からO-x '1x '2x '3へ変換するとき、弾性率テンソルの成分は
と変換される[6]。ここでlipは、xi軸とx'p軸の方向余弦である。
弾性率テンソルは81(= 34)個の成分を持つが、応力テンソルσとひずみテンソルεは対称性、すなわち
によりそれぞれ独立な6成分を持つので、弾性率テンソルDも
の性質を持ち、独立な成分は36(= 62)個となる。さらに単位体積あたりの弾性ひずみエネルギー
を用いて弾性率が
と表せることから
が成り立つため、最終的に弾性率テンソルDの独立な成分は21(= 6×(6+1)/2)個となる[6]。
一般に、等方性物質(無定形ポリマー、非晶性・無配向ポリマーなど)では3種の弾性率(引張弾性率、剪断弾性率、体積弾性率)の関係について次式が成り立つ[3]。
ここで、とは、縦方向のひずみと横方向のひずみとの比(ポアソン比)である。結晶性ポリマー、繊維、フィルム、繊維充填複合材料、一般の射出成形物などは等方性物質ではない。高分子鎖、充填繊維、結晶相などに配向を持ち、その程度は内部と表面で異なる。これ異方性物質は、独立した2つ以上の弾性率を持つ[7]。
材料が等方均質弾性材料とすると、弾性率テンソルD の独立な成分は2個まで絞られ[4]、次式のように書ける[8]。
ここでδはクロネッカーのデルタである。
この場合、ヤング率E 、ポアソン比ν、体積弾性率K 、剛性率G 、ラメの第一定数λの5つの弾性率はそれぞれ、2つを用いて残りの3つを表すことができる。その関係を下に示す。ここで、α = (E2 + 9λ2 + 2E λ)1/2 とする。
さらに見る , ...
等方均質弾性体における各弾性率間の変換式 |
| (ヤング率) | (ポアソン比) | (体積弾性率) | (剛性率) | (ラメの第一定数) |
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粘弾性体に対しては、弾性率は複素数で表される。複素弾性率の実部は貯蔵弾性率、虚部は損失弾性率と呼ばれる。
L. E. Nielsen:小野木重治 訳 (1980). 高分子と複合材料の力学的性質. 化学同人. pp. 26